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4-23.参拝(後編)

ルートに神社があるので、やはり挨拶くらいはしておこうと話しになりました。ただ、ちょっと本人の魔力を籠めた珠を奉納して参拝するだけなのに、何気に結構手間がかかります。

 巫女のお姉さんは、事前に警告を受けていたのに、魔力に自信があるのか、不用意に僕に触れて、予想を超える魔力に触れてびっくりした、ってとこかな。

 お付きの従者っぽい人達も首筋に剣を突き付けられて身動きが取れず、すっごく悔しそう。


 ……ケイティさん、何がしたかったんだろ?


 実力差を見せつけて、威圧したかったとか?

 うーん、そうだとしてもそうする意味がわからない。


「――双方、武器を収めよ。魔力を確認し、少し驚いただけだ。この者に害意はなく、間違いなく無色透明の属性持ちである事を確認できた」


巫女装束のお姉さんが、場を取り繕うように、男達に告げると、彼等もなんか不承不承といった感じだけど、刀から手を離し、それを見届けた護衛人形さん達も、すぐに剣を収めて元の位置に戻った。


「えっと、その、大丈夫ですか?」


「心配ご無用。想定と違い、戸惑っただけだ」


「本当に?」


僕に触れて、あんな派手なリアクションをした人は初めてだから、やせ我慢とかしてないか気になる。


「本当に。この通り、なんともない。そうだな……かき混ぜていない湯船のようなものだよ。上は暖かいが、そのつもりで入ったら、底の方は冷たかった、というような」


「なるほど、それは驚きますね」


ちょっと心配になって聞いてみたけど、問題ないみたいだ。僕の表情をみて、分かりやすく例えてくれるあたり、実は面倒見がいい人なのかも。


なんか調子が狂ってしまうといった戸惑いが感じられるけど、どういう事だろう?


ケイティさんも、予定を達成したのか、意地の悪い笑顔は引っ込めてる。


「――さて、連珠の巫女殿、参拝のため、魔力を籠めた珠を持参しました。まずはこの珠を見てください。この場にはいませんが、リア様が魔力を籠めた珠になります」


ケイティさんが先程と色の違うポーチから、透明な水晶の珠を取り出して、巫女さんの前に差し出した。


巫女さんは今度は慎重に対応することに決めたようで、小さく神に祈りの言葉を唱えてから、恐る恐る、珠に指を触れてすぐに手を離した。


「確かに無色透明の属性、これが話に聞くリア殿の魔力か」


「そして、誤解を招かぬよう、今から魔力を籠めますが、こちらがアキ様と翁の珠になります」


それぞれ、別の色のポーチから取り出した珠をやはり差し出し、巫女さんがやはりそれぞれに指を触れた。


「確かに魔力は籠められていませぬ」


「では、アキ様、翁。私が声を掛けたら珠を手に取り、戻すよう告げたらすぐに、こちらに返して下さい」


「長く触っていると何か不味いんですか?」


「珠には籠められる魔力の上限があります。アキ様の場合、五秒程度で魔力が満ちるので、それ以上籠めると珠が割れます」


それから僕とお爺ちゃんはケイティさんの合図に従ってキッチリ五秒だけ珠を持って、すぐに戻した。


「さて、連樹の巫女殿、この通り、今、新たに二つの珠に魔力を籠めました。ただ、どの珠も同じ魔力属性を持ち区別できません。奉納時の注意点などあれば教えてください」


巫女さんは僕とお爺ちゃんの珠に触れて、なんとも珍妙なものに触れたと言わんばかりの悩ましい表情を浮かべて少しだけ考え込んでいた。


「三つの珠は他の珠と触れぬよう、こちらの小箱に入れて奉納していただく。それとアキ殿は参道を通る際、中央を歩いていただきたい」


懐から取り出されたのは、珠の入る小さな白木の箱が三つ。事前にやり取りしてるなら先に出せばいいのに。

もしかして、自分自身で確認しないと気が済まない人なのかな。

っというか、それより、この急角度の石段を、端の手摺に掴まらないで登るの!? それってなんて罰ゲーム?


何か悪いことでもしたのかと、ケイティさんの方を伺うと、僕の反応に苦笑したケイティさんが答えを教えてくれた。


「アキ様、連樹の巫女殿は意地悪で言ったのではありませんよ。参道を覆うように結界が展開されているのですが、そこにアキ様が触れると壊れる可能性があるからです。参道の中央は神が歩く事を想定して、特別、丈夫に作られてあるので、そこを歩けば安心です」


「……そうなんですか。でもこの角度は不安で一杯です」


見上げるような急角度の石段。踏み外したら下まで真っ逆さまだ。


「後ろからトラ吉に見守らせます。バランスを崩してもトラ吉が助けますので安心してください」


「にゃー」


任せろ、とトラ吉さんが答えてくれた。


「ほんとに、ほんとにお願いだよ、トラ吉さん」


「んみゃー」


「巫女殿、儂は空を飛んでも問題ないのかの」


「……問題ありませぬ。ただ、魔鳥が襲ってきても、追い払うだけに留めていただきたい」


「うむ、心得た。安心せよ、妖精は無益な殺生はせんのじゃよ」


お爺ちゃんは杖を振り振り、そう明るく答えるけど、巫女さんは不安そうな表情だ。

それでも姿勢を正して、最後にダニエルさんのほうを向いた。


「貴女が『マコトくん』の司祭、ダニエル殿か」


魔導人形を前にしても、敬意を払い、態度を変えないのは良いことだね。


「ハイ。この度は参拝の許可を頂きありがとうございマス」


「我らが神は、調和を乱さぬモノは拒まぬ。教典を持たぬ我らと、教典のみを支えとするそなたらではあるが、礼には礼で応えよう。ゆるりと参拝されるがいい」


「ありがとうございマス」


鳥居をくぐる前からなんだか色々あって疲れたけど、気を取り直して参拝しよう。

……急角度の石段を見て、みるみる気力が減っていくけど仕方ないよね。





巫女さんに教えられて、赤鳥居の前でくぐる前に一礼、これは街エルフ式でよいとの事なので、胸に手を当てて僅かに会釈するに留める。


それで鳥居をくぐって石段を登り始めたんだけど、風の音が聞こえるだけで、とても静かで驚いた。


石段に手をついて登りたくなるけど、そこは見た目が微妙なので我慢。ちょっと下を見るとトラ吉さんが、こちらを見上げて、上を見て歩け、っ感じに頭を振るので、上に視線を戻す。


巫女さん達は慣れているのかスタスタと登っていくけど、時折、僕の方を見て心配そうな顔をしている。


「ほれ、アキ。そろそろ半分じゃ」


……まだ半分。


絶対、これ、一般人お断りみたいな作りだと思う。よく日本あちらの神社とかだと、急角度の男坂と、なだらかだけど歩く距離が伸びる女坂があるというけど、こっちにもそういうのがないか、聞けばよかった。





結局、だいぶ苦戦したけど、なんとか石段を登りきることができた。下りなんて考えたくもない。

石畳がまっすぐ伸びていて、途中に石造りの鳥居があり、そこでまた一礼。


石畳は森に囲まれた広場の先まで敷かれていて、その先は外輪山に囲まれた綺麗な円形の湖、ハゼル湖を一望できるそう。参拝者はそこで二拍一礼を行うとのこと。


最初の拍手は魔を払って場を清める意味があり、次の拍手は神に対してこれから思いを伝える為の合図、最後の一礼の際に神に対して思いを心の内で伝えること、との事。


奉納する珠は巫女さんに渡して、石畳の端に一人ずつ立って、二拍一礼を行うそうだ。

参拝客が少ないからできる手順だろうね。


明治神宮なんて、初詣客だけで三百万人とか言うし、神様も大変だと思う。





皆の参拝が終わり、僕の番が来た。

使い魔に準じると言う事で、お爺ちゃんと僕は一緒に拝む事に。


石畳の端に立って、外輪山に囲まれたハゼル湖を見てみると、急斜面にもしっかり木々が生えていて、擂鉢状の森の中に埋もれた湖って感じだ。空を映した湖面は澄んだ青い色をしていてとても綺麗。

人々がここを御神体と崇める気持ちもわかる気がする。

お爺ちゃんを見てみると、何か感じたのか畏敬の念を持って、神妙な顔付きをしている。


さて。


まずは魔を払い、場を清める柏手。


パンと軽い音が響く。


それほど強く叩いてないのに、これほど開けた場なのに、音が響くなんて不思議だね。


なんか、後ろの方が騒ついた気がしたけど、すぐ収まったから気にしない。


さて。


次は神様に対する合図。神様も四六時中耳を澄ましている訳にはいかないだろうからね。


パン。


柏手が響き、次は思いを伝えようと考えたところで、その変化は起きた。


周囲の光が集まり、光が去った場所は薄暗くなり、その分、光が集った場所は明るさを増していく。

魔力感知ができないから、見た目でしか推測できないけど、かなりの不思議現象が起きていると思う。


集った光は徐々に形を変えて人の形となり、向こう側の透けた女性の姿となった。

和服に似た古風な衣装に身を包んだ大人の女性で、樹木をモチーフにした髪飾りや、服の絵柄、そして何より新緑のような鮮やかな髪の色が印象的だ。

立体映像というには存在感があり過ぎるし、浮いてるし、向こうが透けているし、光ってるし、神様への合図で現れたし、きっとこの方がここで崇められている連樹の神様だ。


「――理を外れた者よ、隣り合う世より訪れた者よ、来訪を歓迎しよう」


温かい言葉が心に響く。心話だね。意志は感じられるんだけど、いまいちミア姉と違って思考にシャープさが足りない。


「はじめまして、連樹の神様。僕はアキ、こちらの妖精は翁です。こちらの国には魔術を学びにきました」


とりあえず挨拶と、理由を話した。神に対する願いは口にするだけで成立してしまうから要注意。口にしないように気をつけないと。


「覚えておこう、アキ、翁。学び終え、国に帰る時は、成果を聞かせておくれ」


「はい、その時は必ず」


「もっとも、学びの時は長くなろう」


遠い目をした女神様は、なにやら楽しそうに微笑んで、不吉な事を口にした。学ぶ時間が長くなるってそれは、習得が上手くいかず苦労するって事なのかな。だとしたら嫌だなぁ……


「それはなぜですか?」


「其方は野分のようなモノ。周りはさぞかし振り回されよう。土産話を楽しみにしておるぞ、アキ、そして翁」


そう告げると、連樹の神様は虚空に溶け込むように消えていった。





それからは大変だった。巫女さん達は、まさか自分達の代に、神様の降臨が起こるなんて、と興奮と混乱の坩堝って感じで、横の方にあった社務所みたいな建物からも慌てて大勢の人達が出てきて、かなりの騒ぎになった。


とは言うものの、起きた事はシンプルで会話も僅かだったので、それ以上伝えるようなこともなく、次の予定もあるからと、神職さん達の誘いを振り切って、参道を降りて、馬車に乗り込んだ。


降りる時は、スカートのせいで足元がよく見えなかったり、落ちるような角度の階段も一番下の赤鳥居や、その近くに停まっている馬車まで見えるせいで、足がすくんでしまい、かなり大変だった。ちょっと踏み外しかけて、お爺ちゃんに助けて貰ったりして、かなり怖かった。





 馬車に乗り込んで、椅子に深く座って、休んでいたらやっとドキドキも収まってきた。

 神様に会ったことより、下り階段で苦戦したことの印象のほうが強かったけど、そこは男のプライドに賭けて触れない。


「それにしても、まさか神様に会えるなんてびっくりしたね」


「うむ。あれがこちらの世界の神か。このような経験ができるとは夢にも思わなんだ。顕現にあれ程の魔力を必要とするのでは、長居ができんのも納得じゃ」


お爺ちゃんは訳知り顔で頷いてる。


「神託の可能性は想定していましたが、降臨されるとは予想外でした。アキ様、秘密にせよとは言いませんが、言う相手はよく考えて、できるだけ少人数に留めるよう御注意ください」


「……やっぱり騒ぎになるから?」


「社務所から出てきた神職達の騒ぎぶりを思い出してください。アレでも精神修行を終えた者達です。一般人が知れば騒ぎはあの比ではありません」


「それは困りますね。本当に秘密にしてくれそうな人だけに話すようにします」


「是非、そうしてください。ジョージが他言しないよう言い含めてはきたので、彼らから話が広がることはないでしょう。信者以外の者が参拝して顕現したなどと、そうそう吹聴したい内容でもないでしょうから」


ケイティさんも努めて落ち着いた話し方をしているけど、やっぱり興奮冷めやらぬ感じだ。よく知ってるスーパースターに会って興奮しまくりなファンとかに近い感じかな。


連樹の神様は、確かに、透けた姿なのに、そこにいる感覚、存在感はしっかり感じた。だけど、なんか焦点がボケたような、あやふやな印象も受けたんだよね。これは相談するとしても別の機会にしよう。


「……ところでケイティさん、巫女さんが触れてきて、ああなるのを予想してたのになんで止めなかったんですか?」


 僕だけ秘密にしてっ、と少し声に抗議の気持ちを込めてみるけど、ケイティさんの表情からすると、ちょっとした悪戯程度のことのつもりだったようだ。


「事前に訪問調整した際のやり取りで、魔導師でもちゃんと魔力耐性を引き上げる必要がある旨を伝えたんですが、ご丁寧な言い回しではあったものの、神の加護を賜っているので心配無用、などと言ってきたものですから」


 たかだか三百年程度の新興宗教の癖に図に乗り過ぎですよね、などと笑顔で同意を求めてきた。


「あー、えっと、繊細な問題っぽいのでノーコメントで。ちなみに加護って常時発動とかじゃないんですか?」


「こちらの神々はそっと後押ししてくれる存在なので、神に助力を願ったとして、それから数秒の間だけ加護が高まる、といった具合です。さっきの顕現で大きく魔力を減らしたことでしょうから、しばらくは連樹の神の御業も見る機会は減るでしょう」


 ――さすが長命種的感性だね。人の世で三百年なら十代くらいは経ているだろうけど、街エルフならせいぜい子供が成人式を終えて少し経験を積んだ、くらいの感覚なんだろう。……ケイティさんは人との接点も多くて理解しているほうなんだろうけど、それでこの対応だもんなぁ。ちょっと注意したほうが良さそうだ。





参拝自体は参道を登って拝んで降りてきただけなので一時間程で済んだ。ケイティさんにこの先の工程を聞いてみると、最後にワイン醸造場(ワイナリー)に寄って、あとはロングヒルの街に到着との事。


「いくつかワインを購入して、それと葡萄ジュースを頂きましょう」


「僕でも飲めるのは嬉しいです。このあたりは葡萄の栽培も盛んなんですか?」


「それなり、と言ったところでしょうか。ここのワイン醸造場(ワイナリー)は、人が経営しているんです。なかなかやる気のある若手ですが、やはり伝統ある森エルフ達のワインには当面追い付けないでしょう」


そう言うケイティさんは、それが当然といった口調だ。やはり森エルフとして過ごしてきた経験があるから、森エルフの実力の高さもよく知っているんだろう。


「ルートに選ばれるということは、街エルフに縁がある方ですか?」


「はい。今の当主は確か三代目だったかと」


「えっと、それなら歴史あるワイン醸造場(ワイナリー)って気がしますけど」


「え?」


「え?」


「だって三代続いてるんですよね?」


「はい。まだ三代目ですから、若手ですよね」


「……あぁ、街エルフ基準で若手と」


「森エルフが比較対象なのですから、街エルフ基準が妥当と思いますよ」


なるほど。確かにその道数百年、下手すると千年を超えるような超ベテランがゴロゴロいるんだから、経験年数で戦うのは無謀過ぎる。


「その若手さんは、魔導具を駆使するとか工夫しているんですか?」


「安価に量産できる小型の魔導具を大規模に導入しているのが特色です。データを細かく大量に集めて活用することで、森エルフの経験に追いつこうという面白い取り組みです」


「それはいい取り組みですね。長命種と同じことをしていたら、追いつけませんからね」


「はい。ただ、大量の魔導具を活用する関係で、採算割れが続いているのが気になるところです」


「半分は研究と捉えるしかないでしょう。……ちなみにミア姉、関係してます?」


「はい。面白いからやらせてみよう、と魔導具の導入を含めて資金を出し、株式の三分の一をお持ちです」


「やっぱり」


ミア姉の肝いりか。なら、地球あちらのような取り組みになるのもわかるね。……あ、でも、見学は無理か。

大量生産品の魔導具じゃ僕が触れたら壊れるだろうし。



ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

アキも男の子のプライドで、怖いのは我慢しましたが、周りは周りでかなりハラハラドキドキの状態だったことでしょう。結局、翁にフォローして貰ってますし。

さて、隣国への移動の旅も次のワイン醸造場ワイナリーに寄るのが最後です。

たかだか二泊三日の旅程なんですが、思いのほかイベントが多いですね。

次回の投稿は、一月九日(水)二十一時五分です。

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