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4-22.参拝(前編)

前話のあらすじ:アーチ橋から周囲を散策しつつ、次の目的地の湖について色々とお話しました。

山沿いの道をしばらく馬車で移動していると、ケイティさんが先のほうにある山の尾根を指さした。


「アキ様、そろそろハゼル湖に到着します。古い神社があるので、お詣りしていきましょう」


「神社というと、何か御神体を崇める感じですか?」


「はい。少し変わっていて、カルデラ湖全体と、外輪部から見える太陽を含めて、それらが全て御神体とされています」


「あれ? 漁をしているという話でしたよね?」


そういうところって、一般人の立ち入りを禁止にしたりすることが多かったはずだけど。


「そもそも山を覆う森自体が連樹なので、彼らに許可された一族だけが、神社の管理を含めて、ハゼル湖での漁を行えるのです」


 なるほど。それは合理的だ。ということは連樹側にも、定期的に湖の生き物を狩って欲しい理由があるんだろうね。


「一般の人も神社には行ってもいいんですか?」


「参道以外歩かない事、神社の敷地から出ない事さえ守れば、拒まれる訳ではありません」


「飛行について制限はありますか?」


地球のほうでもラジコン飛行機の飛ばせる範囲は制限されていたりするから、こちらもあるとは思うけど。


「……そうですね。翁が飛ぶ場合は、使い魔の規定が適用されます。飛ぶ事自体は問題ありませんが、何があっても自己責任です」


「……何かいるんですか?」


「野生の魔鳥が棲息していると聞いているので、警戒はしておいた方が無難でしょう」


 魔獣の鳥バージョンか。角が生えている鳥なんだろうけど、やっぱり衝撃波とか突風とか風系の魔術を使ってくるのかな。


「せいぜい、上から眺める程度に留めておくかの」


「珍しく慎重だね」


「妖精はいつでも慎重だとも。鳥の群れに襲われたら難儀するからのぉ。縄張りには注意するんじゃよ。特に猛禽類は危険じゃ。高空から一気に降下して襲ってくるからのぉ。不意を突かれれば、妖精とてただでは済まぬ」


「障害物のない自由な空、と人は思うけど、実際は利権だらけで窮屈そうだね」


現実世界の飛行空域設定と同様、色分けしたら空は飛んじゃいけないところだらけか。


「ここが妖精の国のように、制空権を確保している空域なら、話は別なんじゃが」


「小さいと苦労も多いね」


「季節が変わると、渡ってくる鳥達もいて、空の勢力図は刻々と変化していくから、気は抜けんのじゃよ。空は遮るものがないからのぉ。地上のように、地形で行き来を阻む事がないから、砦を作って敵を食い止めるような真似もできん」


「それじゃ、周辺警戒を怠らず、侵攻してくる相手に応じて、適切な数の妖精を迎撃に向かわせるような調整役が重要そうだね」


「うむ。敵と直接戦う妖精達よりも、空域の状況を把握して指示を行う指揮官の役割のほうが重要なのじゃ。妖精同士の密な連携にも伝話は欠かせないからのぉ」


「伝話?」


 ん、誰かと心を触れ合わせて意思疎通をする心話とはまた別の魔術か。どんなのだろ。


「特定の離れた相手と話をするための専用の魔術じゃよ。何百人と同時に話したら大変な事になるから、通信規則も多く、これを使いこなせなければ一人前とはみなされないのじゃ」


まるで早期警戒管制機(AWACS)だ。


「相手の高度とか速さとか種類とかを、迎撃担当に伝えたり、護衛担当にどちらを警戒すべきか伝えるとか?」


「うむ。補助用の魔導具も色々あるぞ。何せ数秒の差が戦況を一変させることすらあるからのぉ」


「……気のせいか、妖精界の空戦に限ると、地球あちらに匹敵する面倒臭さかも」


「ほぉ。――アキよ、あちらの空戦に限定して話してくれんか?」


 流石、お爺ちゃん。こういう時でも聞く範囲をきっちり限定してくるあたり、自分というものがよくわかってる。制限を設けないと果てなく聞き込みそうだもんね。……人のことはあまり言えないけど。


「対地、対艦攻撃支援とか、夜間戦闘とかはなし?」


「対地攻撃は興味があるが、海は儂等の活動範囲から外れるから、今回はパスじゃ。夜間戦闘も注意すべきポイントが変わるから、別の機会にしよう」


僕は、地球あちらでの対空戦闘について、地上のレーダーサイトと、空中管制機からの情報を元に敵軍の侵入経路、高度、速度、機種と推測される目的を割り出し、各地の基地に迎撃機の数と交戦ポイントを連絡するといった一連の流れを説明した。

お爺ちゃんが興味を持ったのは、敵味方識別装置(IFF)、有視界外(BVR)戦闘、それとヘッドマウントディスプレイだった。


「乱戦状態の時や、夜間戦闘時には敵味方識別装置(IFF)があると便利そうじゃ。それに相手の視界外から先制攻撃できるというのも、その必要がある魔獣の類相手には有効じゃろう。しかし、あちらでは、音より速く互いに飛んで戦うとは、何とも物騒じゃな」


「そのせいで交戦距離はどんどん遠くなっているからね。ところで、ヘッドマウントディスプレイは使えそう? 妖精サイズで作るのは大変そうだけど」


「乱戦時の問題点は、味方の魔術による同士討ちなんじゃよ。何せ外れた魔術は消えるまで飛んで行くからのぉ。誘導術式を加えても外れる時は外れるもんじゃし、一定距離を飛翔するか、あるいは一定時間で消えるよう工夫しても同じじゃ。ヘッドマウントディスプレイは、要は補助的な情報を目の前に投影するのじゃろう? 撃つ方向に味方がいるか分かるだけでもだいぶマシになるはずじゃ」


「それだと全天周囲スクリーンのほうが妖精さんなら合っているとかも」


「ほう、それはどんなもんじゃ?」


僕は人の周囲に球状のスクリーンを設置して表示することで、あたかもその場所に行ったかのような究極の臨場感を味わえる仕組みだ、と簡単に説明した。投影する映像は何でもいいから、敵味方を色分け表示してみたり、視界外の敵を表示してみたり、範囲ごと吹き飛ばすような魔術ならその範囲を分かりやすく表示する事で、認識し易くすることもできるだろうと補足した。


「ふむふむ。儂等サイズのヘルメットに表示機能を付けるのは難しいと感じてたが、空間に映像を投影するのは簡単じゃ。後は本人の位置と向きを認識して、映像を素早く表示し直す工夫は必要そうじゃが、何とかなるじゃろう」


……というか空間投影、簡単なんだ。妖精さんの技術は半端ないなぁ。ケイティさんはお爺ちゃんの話を聞いても理解が追いついてないっぽい。言葉は理解してるけど、その必要性、重要性まで想像が及ばない感じかな。

地上を走って、飛んで跳ねて、あと帆船同士の砲撃戦辺りまでしか存在しない世界なんだから、それも仕方ないね。

天空竜という空を支配する絶対的存在がいるせいで、三次元空間戦闘のような概念も生まれないと。でも、対空戦闘ならどうかな。


「ケイティさん、例えば天空竜相手に、射撃する武器の弾道や弾速度から逆算して、未来の天空竜の位置と、どれくらい偏差射撃をすれば当たるか教えてくれる魔導具があれば便利と思いませんか?」


「対空戦闘と言えば誘導術式を付与した飛行杖を放つのが定番ですが」


 こっちだと大砲が発展する前に、音速超えの発砲音の煩さにキレた天空竜達の大暴れもあって、亜音速弾までしか使われなくなったからね。そうなると高速飛行する敵を撃ち落すための高初速弾を必要とするような対空戦闘技術は発展せず、代わりにミサイルもどきに先に手が届いちゃったと。


「でも、飛行杖は砲撃ほど速くないでしょう? 銃弾の何倍も速く、一抱えほどもある貫通術式付与の砲弾が直撃すれば、天空竜だって、たまったものじゃないですよね。勘で見越し射撃するより命中率は格段に上がるはずです。後、高射砲なら毎秒一発くらいのペースで連射もできるし、高射砲大隊が入れば、天空竜達を追い払う事くらい容易でしょう」


超音速弾は天空竜との約定で禁止されているから、実際は簡単に配備とは行かないだろうけど。実際に天空竜が襲ってきたなら、騒音だのなんだの言ってるレベルの話じゃないからね。


「……魔術付与砲弾をそんなペースで当てられたら、防御力では定評のある地竜だとしても厳しいですよ。いくら彼等も障壁を展開できると言っても」


 人レベル相手なら十分な防御力と言っても、空を飛ぶ為に妥協せざるを得ない天空竜は、やっぱり大型砲弾の直撃に耐える強さはないか。魔術付与した弾とかじゃないと効かないとかはありそうだけど、効く弾でありさえすれば、ちゃんと怪我する程度には物理法則に従ってくれると。


……もっとも指定座標への空間跳躍すら可能とするインチキレベルの魔術が使えるって話だから、最初の対空砲撃は痛撃を与えるのに成功したとしても、手口を知られてしまえば、次からは高射砲大隊の陣地に空間跳躍して、竜の吐息(ドラゴンブレス)であっけなく消し炭にされることだろう。


「まぁ、生物ベースならそうですよねぇ。しかも巨体をカバーする防弾障壁なんてバンバン展開してたら魔力の減りも半端ないでしょう。絵で見た巨体を魔力枯渇状態でも維持できるのか興味がありますね。……と話がだいぶ横に逸れました。あそこに鳥居が見えますが、あそこが参道入り口でしょうか?」


僕達の移動している道の横に、山の上まで続く急角度の石段があって、そこに朱塗りの鳥居が立っていた。三人並んで下を歩ける程度で、ジャンプしても手は届かない、それくらいの小さなものだ。


両脇に木製の手摺がついていてくれて良かった。この急斜面は登るにせよ、降りるにせよ、手摺なしでは危険過ぎる。


「はい。馬車で辿り着けるのは鳥居の前までです。其処からは聖域となるので、徒歩での移動になります」


「聖域! 神様とか精霊とかがいるんですか?」


「神の住まう地域として、区別されているので、神に近しい場所と考えられていますが、これまでに神が降臨した地域は聖域とは限らず、実際のところはよくわかってません」


「馬車は待機ということは、ウォルコットさんとダニエルさんは鳥居の外で待機ですか?」


「司祭となると、他の神を崇める地域に行った場合、無用の衝突を避ける意味で、挨拶をするのが一般的です。そのため、今回はウォルコットと農民人形達には馬車の番として残って貰い、ダニエルを含めて、残りのメンバーは参拝します」


他人の領域シマに入るなら、挨拶するくらいの仁義は通せって感じかな。まぁ挨拶は大事だよね。


「わかりました。こちらの作法は知らないのですが、何か守るべき事はありますか?」


「こちらの神社では、自らの魔力を込めた珠を、神との縁を結ぶ物として納めることになっています。リア様からも、挨拶はしておくように言われており、リア様の分も含めて人数分の珠を用意してあります」


ケイティさんが、ポーチから透き通った珠を取り出して見せてくれた。ビー玉くらいの大きさで思ったより小さい。小さいんだけど、ガラスって感じじゃないなぁ……。


「これは水晶ですか?」


「はい。無色透明の水晶は、その者の魔力属性をそのまま貯めてくれるので、このような時によく使います」


「儂は召喚体じゃが納めるんじゃろうか?」


「それは神職に聞いてみましょう。リア様、アキ様の魔力はそもそも感知できない上に全くの同質。そしてアキ様の魔力で召喚を維持している翁も魔力属性は同じ。魔力属性に同じものなしという常識から外れた珠を三つも用意されることは想定外でしょう。一般の作法に倣ってよいものか判断できません」


「確かに、神職の方の判断に従った方が安心ですね」


なんか、日本あちらでの神社参拝よりだいぶハードルが高い感じだね。でも、神様が実際に身近にいる世界ならそれも当然か。


鳥居に近づいていくと、三人の神職っぽい服装をした人達が立っているのが見えてきた。

中央にいる人は巫女のような服装をしていて、木をモチーフにした紋様が描かれた千早を纏っていて清楚な感じに見えるけど、結構気が強そうなお姉さんって感じ。水色の長髪だけどとても自然でコスプレっぽさはない。

両脇に控えている人も神職なのか、袴の色が紺であることを除けば似たような服装だ。腰に刀を差している感じからして護衛役だろうか。


「お待ちしておりました。それで、貴女が無色透明のリア殿ではなく、その妹、アキ殿で良いか?」


馬車から降りた僕達に、巫女さんっぽい人が話しかけてきた。魔力が感じられない人物といえば、唯一無二とまで言われたリア姉は知る人ぞ知るって感じだろうけど、そんなリア姉と同じ魔力属性持ちがいると言われれば、念のため確認したいってとこかな。


「はい。僕がアキです。よろしくお願いします」


「失礼だが、魔力を確認させて貰っても良いだろうか」


 そう言いながらも、ノーと言わせない雰囲気ありありだ。ケイティさんに視線を向けてみると、頷いているので問題はないっぽい。というか、なんか目付きが怪しい。何か企んでる目だ。


「良いですけど、どう確認されるんですか?」


「手を触れ合わせるだけです」


 そう言って、お姉さんが握手をするように手を差し出してきたので、僕も手を出した。こちらからは握らない。何かあっても困るし。


 お姉さんは、あまり警戒していないのか、自信があるのか、僕の手をがっしり握り締めて、次の瞬間、火傷でもしたかのように、驚いて手を放して後方に飛びのいた。


 お付きの二人が腰の刀に手をかけたけど、その二人の首筋に護衛人形の人達がいつのまにか剣をつきつけて、動きを制していた。


「どうかされましたか? 注意事項はお伝えしてあったはずですが」


 ケイティさんが、さも予定外の出来事だ、と言った声色で話しかけているけど、表情がすっごく悪そう。

 あー、つまり、こうなることは予定通りだと。


 ……なんで先に言ってくれないのかなぁ。


 ちょっと蚊帳の外な感じがして、お爺ちゃんのほうを見たら、ぷいっと横を向いて音の出ない口笛なんか吹く真似をしてる。


 なるほど、お爺ちゃんも共犯と。

新年あけましておめでとうございます。

という訳で、今回はこちらの世界にきて初めての参拝をすることになりました。何せ実際に人と神様が近しい世界ですからね。こうした義理はちゃんと果たしておかないと色々面倒なのです。

次回更新は、2019年01月06日(日)21時05分頃です。

今年ものんびりお付き合いください。

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