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25-28.伏竜覚醒の余波(前編)

<前回のあらすじ>

銀竜と桜竜さんの繋がりを付けられれば、竜族社会における銀竜の立場は問題ないでしょう。どうせ銀竜の性格なら、独力でも何とかしちゃうでしょうけど、どうせなら穏便に事を収めたいですからね。桜竜さんがいれば、無駄な争いも結構減ると思うんですよ。(アキ視点)

伏竜さんは、賢者さんが心の隙間に術式を入れるという妖精族の技を伝授する方に専念することになったのと、僕はもう心の中に銀竜を住まわせていて余力がないから、その話を聞いても活用しようがないってことで、その話は聞かないことにしたから、僕と伏竜さんの今日の共同作業はおしまいだ。


 おや。


「リア姉も、心の隙間に術式を入れる件の話し合いに参加するの?」


そう。リア姉はこの後、三大勢力代表との打ち合わせの方に出るのかなと思ってたんだけど、伏竜&賢者組の方に参加するとのこと。


「アキと違って私は心の隙間があるからね。私達は魔術を常に最高位階、最高出力でしか使えないけれど、心の隙間に入れた術式ならそこを制御できるかもしれない。翁の話では、術式はある程度入れ替えもできるようだから、いろいろ試してみるのも悪くないと思ってるよ」


 ほぉほぉ。


「それは良いね。是非、いろいろ試してみて。特に心話関連で術式の補助を入れられるとミア姉との連絡も取りやすくなるかもしれないから」


「何ができるか、そこの見極めからだからね。伏竜様とのんびり試していくよ」


 あー、うん。


「あまり前のめりになり過ぎないようにしてね。ブレーキ役がいないんだから」


周囲から止められるまで召喚されて異世界で魔法三昧と暴走していた賢者さんに、その意で世界の(ことわり)すら捻じ曲げる高位存在たる天空竜、生涯のつがいとして銀竜をぜひ娶りたいと意欲が振り切れている伏竜さん、というペアだもの。せめてリア姉くらいブレーキ役にならないとどこまで暴走するかわかったもんじゃない。


そう伝えると、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「街エルフらしく、明日のある全力までしか頑張らないから」


まぁ、それなら安心だね。同じペースで十年でも百年でも働ける範囲での全力。街エルフらしい尺度だ。





リア姉と入れ替わる形で、第二演習場の控室の方へと移動する。あぁ、そういえば、僕がこちらに来るのは初めてだったね。あちこちに侵入禁止の封鎖線が引かれていて、僕やリア姉が歩いていい範囲が明示されてる。何せ、そこら中にある魔道具は、僕が触れると壊れちゃうからね。


案内された一角には、鬼族の巨躯でも座れる大きなテーブルが配されていて、そこに既にレイゼン様がどんと座っていた。他の皆さんも子供用の高椅子っぽく見えるソレに座っている。ユリウス様、ニコラスさんが同席、少し離れたとこに用意された同じ高さのテーブルに離れて座っているのがヤスケ様、ジョウ大使、師匠という街エルフの三名だね。


 ふむ。


あくまでも僕と三大勢力代表の打ち合わせ、という体であって、街エルフ組は何かあった時のフォロー役として話は聞くけれど積極的には参加しないというスタンスか。なるほど。


では、僕の席によじ登って、と。


「お待たせしました。皆さんの感じからして、近々でどうというお話ではないようですね?」


何か先ほどまでの会話でやらかしたのなら、この三人なら、僕にわかりやすい表情や態度でそれを示してくれるだろうから。それがなく落ち着いているということは、話し合っておかないといけない内容ではありつつも、急ぎの案件ではないということだ。


僕の言葉にユリウス様が頷いた。


「伏竜様との話し合いは有意義なモノだったと認めよう。先日のような竜の嘆きが再び起こるようなことも当面は考えずとも良さそうだ」


うん、うん、そうでしょう、そうでしょう。


「竜族における世代間の意識の違いや乱れについて垣間見えたのも僥倖だったと言うべきか」


ニコラスさんは慎重なモノ言いだね。まぁ、そもそも個で完結している竜族なのだから、全体としての意見が統一されていると言うの方がレアケースだと思うんだよね。そこは群れることが基本の地の種族からすると、なかなかピンとこないところかも。


そして、レイゼン様が少し武人としての顔を覗かせながら、ニヤリと笑みを浮かべる。


「指先に至るまで氣を巡らせて、武を高めることは我ら鬼族の技の基本だが。伏竜様の在り方を見ると、意を持って世の(ことわり)を捻じ曲げるような存在がソレを行うことの威を改めて実感させられたぜ。アキは、アレをどう見たんだ? 話していたように成竜相当だと感じただけか?」


おっと、見透かすような目線を向けられてしまった。というか、話せ、と。まぁ、うん。そうだよね。


「水面で反射させて視ることしかできなかった竜族に、①クリアな全身像を示した表面反射鏡(スパッタリングミラー)の歪みのない姿は、竜が自身のイメージを数段階明確にする利点を生みましたよね。それから、②左右の反転をせず自身の姿を視ることができる反転鏡(リバーサルミラー)による全身像によっても、竜が他人から見える己を明確にイメージすることでやはりその在り方を劇的に変える効果がありました。そして、今回。男子、三日会わざれば刮目して見よとは言いますけれど、③心の持ちようによって、竜族もまた化けることが立証されました。玉磨かざれば光なしとはよく言ったものです。まさか伏竜さんがあそこまで輝くとは誰一人予想してなかったでしょう」


④魔力を浸透させた米粉パンなどの飲食物を提供することで、万年栄養不足、魔力不足だった伏竜さんの体質改善をし始めていることや、⑤白岩様と共に鬼の武を(ことわり)を身に着けることで、心身の運用の質を変化させるというのもありましたけど、実はあらかた揃ってみると、そちらの効果はオマケだった気がします、と話を纏めると、僕の言葉にレイゼン様は深い溜息をついた。


おっと、ヤスケ様が口を挟んできた。


「その五つを挙げるのであれば、竜の巨体の全身を歪みなく色の変化もなく反転させてみせた、砦のように巨大な鏡を出すという例外をやらかしたという点を忘れてはならん。アキ、お前がやらかした曇りなく歪みの無い竜族用巨大鏡などという代物は、マコト文書で言うところの場違いな出土品(オーパーツ)という奴だ。本来なら竜達がソレを今、手にすることはなかった。……が、もう手に入れてしまった」


凄く不本意そうで、不満たらたらって感じだ。それでもまぁ、そこで発言を区切ってくれた。既に代表の皆さんにその旨は伝えている話だからね。ただ、それでも言明しておかなくてはならないと判断されたわけだ。


ヤスケ様の説明を聞き、レイゼン様はソレだ、と頷いた。


「一連の働きかけで最強と自他ともに認めて来た天空竜の強さは、限界と思われていた天井を軽く突き破って、天にも届かん勢いへとなったわけだ。アキはそれをどう考えているんだ?」


レイゼン様のどう、という問いはなかなか深い意味を含んでいるなぁ。


「「死の大地」攻略と言う意味では、味方の戦力が大きく引き上げられる可能性が見えたわけですから、大いに歓迎すべき状況でしょう。我々、天空竜と地の種族との実力差は決定的であって、その差が何倍か広がったとしても、それこそ今更で、それを問題視する事に意味がありません。また、食生活の改善による伏竜さんの発育不良改善以外は、彼らの必要とする魔力が増えたわけでもなく世界に与える影響も軽微。それと、彼らの自意識を大きく変える、竜自身の全身を映し出す表面反射鏡(スパッタリングミラー)や、反転鏡(リバーサルミラー)については僕が創造できるだけですから、そこで誰にソレを利用させるのかという点でコントロールも可能でしょう。ですので総括すれば、ほぼ元手なしで多くのリターンを得ることができ、遥かな未来、大陸に住まう竜達との衝突を考えれば、地力を高める多くの術を発見できた状況は、言祝ぐべき未来への変化と告げてよいでしょう」


あぁ、銀竜が幻術を応用して、とても少ない魔力で竜爪と同じ、空間切断技を実行してみせたことも、竜の技を更に洗練させる良い切っ掛けとなったでしょう、と補足したら、レイゼン様は何とも苦虫を嚙み潰したような顔をすることになった。


 はて。


竜神の巫女として、全土の統一を果たした弧状列島がいずれ立ち向かわなくてはならない大問題について、手軽かつ短期間に劇的に味方の戦力を跳ね上げる、それこそ、二倍、三倍と引き上げてくれる超技連鎖となれば、言祝ぐ状況でしょう、と断言したわけだけど、三人が示した反応はと言えば、少し諦観にも似た表情を浮かべると言う事だった。


 うーん。


竜の数を増やすでもなく、彼らの食欲が増えるでもなく、負担なく戦力倍増。もっと喜んでも良い状況と思うんだけどなぁ。そんな意識で彼らに視線を向けたのだけど、ちらりと映った師匠の表情はと言えば、僕ならそう言うんだろうねぇ、という呆れ半分とも言える皮肉めいたものだった。あー、うん、師匠、自分の仕事じゃないから、と割り切って半分くらい観客モードになってる。まぁ、師匠の立場ならそうなんだろうね。なんか思惑があれこれ絡んで面倒臭いなぁ。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、改めて整理してみると、四半期程度の期間しか経過してないのに、一連の道具、技術などによるブースト効果を貰った伏竜は、単純比較でも以前に比べてその力は倍増くらいにはなってる事でしょう。更に銀竜とつがいになるために竜族社会を変えることも厭わないという決意が、彼を化けさせました。普通、本作においてもバフ効果を多少重ねても戦闘力は倍増、三倍増とかしないものなんですが。次パートで考察しますけど、竜族社会、激変していくでしょうね。アキも語ったように、激変の鍵となる巨大鏡を出せるのは今のところアキだけです。ですから、アキがこの竜ならと認める存在でないと巨大鏡を使えないわけです。竜が外に出すのを自重しているようなヤンチャな竜達はきっとその恩恵は得られないでしょう。となると差は歴然。アキと伏竜はあぁ、これで手っ取り早く再構築できると喜ぶとこでしょうけれど。


次回の更新も変則的ですが、2025年11月02日(日)の21:10です。すみません、所用が寿司詰めで時間が確保できそうにないのです。あと10日間経過しても全然良くならない風邪が酷く、声が枯れて出ないような酷い有様が続いててちと執筆意欲の維持が厳しい状況というのもあります。ここまで酷い状況は始めてです。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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