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25-27.竜社会と伏竜と地の種族の文化(後編)

<前回のあらすじ>

精神的な割り切り、うまくできていると自負していたんですけど、まさかやり過ぎて、それゆえに自然さを失っていたとは指摘されるまで気付きませんでした。これはちょい工夫しないといけませんね。(アキ視点)

さて、とりあえず懸念事項については調整が終わったし、後は後ろで控えてくださっている皆さんから何か意見ばあれば、それを伺ってみて、と言ったところかな?


 ん?


ケイティさんに軽く聞いてみたけど、現時点で敢えて話に参加したいような方はいない、と。なるほど。


となると、これで話は終わりでもいいんだけど、せっかく伏竜さんがこうして来てくれているのだし、後で話しておけば良かった、みたいなことは避けたい。何を話そうか。


 あ。


『そうだ、伏竜様。今、魔力を抑えている訳ですけど、隠蔽を解除してみてくれません? 素の状態の伏竜様をちょっと視てみたいのです』


<構わないが、なぜだ?>


 ふむ。


『存在するのに魔力を多く必要とする幻想種の場合、自らの意によって世の(ことわり)を自分に利するように引き寄せているとも言えるかと思いまして。そうなると、今の心身ともに充実されている伏竜様は、いろいろと不満をお持ちだった頃に比べると、見違えたようなような様子になったりしないかと考えたのです』


<そこまで変わるとも思えないが>


そうは言いつつも、伏竜さんはずっと抑えて擬態していた魔力を開放して、素の姿を見せてくれた。


 おぉ!


灰色がかった鈍い金属光沢を帯びた鱗なのだけど、擬態しているときの色褪せた(ロービジな)印象が失せて、なんだろう、高級感すら感じる落ち着いた光沢を帯びた雰囲気に変わってる! あとあと、無駄な力みがなく落ち着いた印象で、雲取様の自信に満ちた溢れるような勢いのある力強さと違って、秘めた力は十分なれど無風状態の湖面のような静かな印象すら受けてかなり成竜と言ってもかなり方向性が違う。


 成竜。


うん、僕は自然とそう認識した。明らかに若雄竜三柱達とは格の違いが見える。白岩様のように円熟味の域に達した最も強き状態に達した成竜ほどの完成度ではないけど、その分、伸びしろがあると感じられる。十分な力強さを秘めながらも伸びしろがまだある、そんな若者らしい熱量ってとこか。


『えっとですね、伏竜様。その姿は一緒に修行をしている白岩様や桜竜様、それに銀竜以外にはまだ見せてないのですよね?』


<うむ。まだ魔力を抑えていない状態を見せたことがあるのはその三頭だけだ>


 ん。


『では、これはお願いですけど、銀竜との誓いの儀が終わるまでは開放状態は控えてください。あぁ、福慈様は説得するので仕方ないですけど、今挙げた四柱以外、特に雌竜に対しては見せるのは厳禁です』


<理由を聞こう>


 あー、もうこの無自覚な「元」冷や飯ぐらいの部屋住み三男坊め。


『僕の竜に対する目利きからして、今の伏竜様は明らかに成竜の域に達しています。まだ体の成長が十全とは言い難いのに、心が満たされただけでここまで化けるとは、予想を遥かに超えていたと言えましょう。シンプルに言えば、争いの元になるだけで話が拗れます。銀竜もいらぬストレスを受けて良いことになりません』


言葉に載せて、ロングヒルにやってきたことがある竜達に対する印象、格付けを示して、黒姫様、白岩様は別格としても、既に、七柱の雌竜達より上、雲取様に近い位置、若雄竜三柱よりは明確に上であるという印象をしっかりきっちり伝え、十分にご立派な成竜にしか見えない、という評価を伝えた。


<……解放した状態で白岩様や桜竜と修行をしていてもそこまで評されたことはないぞ?>


『それは、銀竜と出会い誓いの儀を執り行う約束をする前の話でしょう? だからそこそこ程度と評されたんですよ。でも、今の伏竜様はもう心の在り方が以前とは全く別、銀竜のために心を決めたのですから』


 これが本当の意味での若竜なら、未成年っぽい純粋さと浮かれっぷりで暴走してるだけとなるのだけど。


伏竜様は年齢的にはとうに成竜となっていておかしくないけど、縄張りの空がないので燻り続けていて、体格的にもどうしても同世代より劣ることですっかり心も上を見るのを諦めていた、そんな居候をして燻ってる竜だった。


でも、銀竜への思いは、自らすら思いもよらぬ恋への落ち方であったとしても、竜族内の自身のポジションや、銀竜の特殊な在り方を踏まえて、どうすれば、他の雄竜達に奪われることなく、銀竜と添い遂げるか、それを熟考した上で決めたわけだ。軽いノリで決めたのとは違い、竜族の風習を守りつつ有無を言わさず、我を押し通そうと覚悟を決めた。ならば、見違えるのも当然と言えるだろう。


<それほど違って見えるか。それは不味い。忠告に感謝する。そうか、それは不味いな>


触れている魔力から感じられるのは、今まで全く相手にされない、いてもいないのと同じような路傍の石のように扱ってきた雌竜達が、自分達の眼鏡に適うようになったからと寄ってくるだろう状況を思い描き、心底、辟易している意識を思い浮かべた様子だった。


 うわぁ。


もうすっごく雌竜不審に陥っているというか、銀竜がいる今、寄ってこられても迷惑なだけ、と全く彼女らが意識を変えることに価値を見出してないのが伝わってきて、なんかこう、少しだけ涙が出てくる思いだった。


あぁ、うん、ほんと大変な下積み時代を歩んできたんだなぁ、と。


『それと白岩様、桜竜様と銀竜も会わせましょう、どうせなら味方に引き入れた方が良いし、姉として白竜様が導くことを約束してくれてますけど、桜竜様なら、銀竜にとって良い友達になれると思うのですよね』


そう提案すると、なんか、すっごく目を丸くされた。カワイイ。


あと、もういいだろうと、擬態状態に戻った。なるほど、あまりにずっと着続けていたせいで、それを脱いでるとなんか半裸で出歩いているような気分になる、みたいなノリだと。


<桜竜と銀竜はそういう関係になるかね?>


 ん。


『銀竜からすれば、桜竜様が普通の範囲から少し逸脱してても、そういう竜なのね、くらいにしか思わないでしょうし、そういった違いよりも、自分にどういう意識を向けてくるか、あと、伏竜様との関係がどうか以外は気にしないでしょう。そういった竜らしくないさっぱりした振る舞いは、桜竜様にはきっとウケます』


これは直感だけど、そう外したものでもないと思う。銀竜からすると、一般的な竜といった認識を持てるほど、見知った竜がいないし、桜竜さんの激しい魔力の圧とて、銀竜からすれば、なんか派手くらいな認識だろう。


僕が初めて雲取様と対面した時は、僕でも感じられる強大な魔力に結構、気圧される感じがあったけど、銀竜は他の竜と会っても、全然そういう気おくれする様子が無かったからね。そういう意味ではほんと基準が竜族なんだろう。


<では、都合が合えばそうしよう。他の竜との交流が乏しいのは良いことではないからな>


 うん、うん。


銀竜がそういったところが乏しいのがわかっていて、自らのつがいとすることは譲る気はゼロだとしても、他の竜との交流によって心を育むことを願えるのだから、やはり面倒見がよく性根はまっすぐなところがあるのだろう。ここが心がねじ曲がった奴だと、囲い込んでもう外に出したくないとか言い出しかねないものなぁ。


あぁ、竜族だからそもそも、囲って外に出さないという発想は持たないのか。縄張りもオープンスペースだし、どこかに籠るという発想がそもそも種族的にないんだ。


 ん。


でもまぁ、庇護下に入れるという意味で面倒見がいい雲取様は、その分、執着心があるというか、囲うような意識があるものなぁ。七柱もの雌竜に言い寄られて、まだ当分、つがいを選ぶつもりはなくとも、きっと、それなら雌竜達が他の雄竜に目移りしたりすれば、それはきっとあまりよく思わないってとこだろうからね。手元に置いて手放したくない、というのは長所と表裏一体の副作用だ。





そんな感じで雑談をしていたら、お爺ちゃんの横に召喚陣が出現して、ぽんっと賢者さんが現れた。


 おや?


「賢者さん、こんにちは。随分お急ぎでいらしたようですけど、どうされました?」


様子からして、まぁ、悪い感じではない。というか、表情からしてウッキウキだ。


「伏竜殿が心の隙間に術式を入れて自らの魔力を自然に制したいと聞いて、仕事を片付けて駆け付けたのだ。我々の技術を応用すると他種族ではどうなるのか知見を深める意味でも大変有意義な試みと言えるだろう。あぁ、その話を始めても構わないか?」


 一応、話をしていたところに割り込んできたという自覚はあるようだけど、その問いは許可を求めている姿勢じゃなく、はいと言え、はい、とって感じだよね。なんとも自分の欲望第一で心地よい。


「はい。ちょうど話もあらかた片付いたところでしたし、伏竜様さえ良ければ、引き続き、賢者様とご歓談ください」


<では賢者殿、よろしく頼む。アキは聞いていかないのかね?>


 ん。


「多少興味はありますけど、僕の場合はもう心に、銀竜を住まわせていて、さらに術式を押し込むのは止めた方がよさそうですからね。知ってしまうと試してみたくなるので、この場は退散します」


 うん。


多分、銀竜が今後、他の誰かの心にお引越しってことにもまずならないから、心の隙間に術式を入れる話が僕自身に絡むことはなくなったと言えるだろう。あぁ、でも、リア姉なら入れる余裕はある訳か。まぁ、それはリア姉にお任せだ。


そういって挨拶を済ませると、その場を引き上げることにした。賢者さんも軽く杖を振って見送ってくれたけど、完全に意識は伏竜さんに向いてて、僕との話は終わったこと扱いにしてる。自分の欲望に忠実だねぇ。


「先ほど話題が出たから、賢者に伝えておいたんじゃが、思ったより食いついてきおったわい」


お爺ちゃんが呆れているけど、仕事を片付けたとか言ってたけど、多分、お弟子さん達にうまく押し付けて、自分の手を離れたからそれは終わったこととして、飛んできちゃったんだろうねぇ。


「本当に問題ならシャーリスさんが止めるよね?」


「無論、必要があればそうするじゃろう」


 うん。


そこはきっちり線引きされている方だからね。なら、今は問題なし、と。


話が終わったし、なら、これで後は別邸に帰るだけかなぁ、とか思ったけど、そんなはずはなく。ケイティさんに促されてスタッフの控室の方をみると、話があるからちょい面貸せや、といった雰囲気で手招きしている代表の皆さんの様子が見えた。なんだろうね、別に問題になりそうな話はなかったように思うのだけど。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、そんなわけで、男子三日会わずんば刮目してみよ、と言ったところで、伏竜さんですが化けました。アキの考えた仮説、幻想種は存在に魔力を多く必要とするが、それを用いて世界の(ことわり)を自分に有利になるよう曲げる存在、という話からすると、心の持ちよう如何で実力は結構変動するとも言えるだろうといったとこでしたが、それが証明されたとも言えるでしょう。


銀竜と白岩様、桜竜との繋がりも持たせることができたし、これでアキとしては保護者的にやれることは全部やったかな、といったとこです。黒姫様との繋がりはまぁ余裕があれば、といった感じですかね。黒姫様の方が、世界樹と交流したことで結構、心が疲れている様子だったので。


というわけで一見よさげな状況ですが、地の種族からすれば、まぁ、いろいろと看過できない話がゴロゴロ出てきました。お・は・な・し、しようと代表たちが言い出すのも当然なのでした。


次回の更新も変則的ですが、2025年10月05日(日)の21:10です。すみません、所用が寿司詰めで時間が確保できそうにないのです。

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