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25-24.伏竜の落涙(後編)

<前回のあらすじ>

落ち着くまで伏竜さんに寄り添わせて貰ったりして、何とか落ち着いて仕切り直しとすることできました。色々あったけど、実害は無くて良かったと言えるほど余裕のある状況じゃなかったとわかって冷や汗ものです。(アキ視点)

御者として僕を第二演習場に送り届けてくれるウォルコットさんは、昨日の体験があった話を振ってみたけれど、特に大事には至りませんでしたのでご安心ください、と逆に僕のことを気付かう配慮を見せてくれた。肝の据わった大人ってこういう人の事を言うのだろうね。御者台には、護衛頭のジョージさんだけでなく、助手のダニエルさんも空間鞄の中ではなく、横に座る形に運用が変わっていたのは、いざという時即応できるように、とのこと。


既に外にいて、すぐ神術でダニエルさんが防ぐのと、外の様子がわからないまま空間鞄から喚ばれて、それから危機に対処するのでは、対処の時間も精度もまったく違ってきてしまうから、と話してくれた。そして、時間にして僅か数秒程度であったとしても、その差が痛打になりかねないとあっては、考えうる対処は全て打っておくというジョージさんの方針は正しいと納得するしかなかった。


三人座るとちょっと狭い感じになっちゃうんだけどね。ダニエルさんが小柄なのでまだぎりぎりなんとか座れているのだけど。


客室内にダニエルさんが乗るという折衷案は、客室の防御機構が外への知覚を阻害するとのことで却下となった。余計なモノが挟まらない方が迅速かつ正確に対処もできるそうだ。


そして、ダニエルさんのような神官クラスになると、思念波の先行波を捉えて、本体の波が来るまでに対処するという刹那の対処も可能になるというから驚きだね。神術が間に合わないとしても、魔導具を起動する余裕はあるのだとも。


そんなわけで、いつもとちょっと違う馬車での移動で、第二演習場に到着した。





代表の皆さん達やヤスケ様、それに父さん、母さんに、全権大使のジョウさんも含めて、お偉方チームは既に勢揃いって感じだ。


 おや。


「イズレンディアさんもいらしてたんですね。銀竜絡みで?」


そう話を振ると、彼は森エルフらしく静かに頷いた。


「昨日の今日で銀竜様が内から出てくるとも思えないが、何かあったとき、その場にいなくては何もできない。とはいえ、外部から他者の心の内に働きかけることは難しい。控えているから、何かあれば遠慮なく声をかけてくれ」


「はい、ありがとうございます。えっと、師匠も同席ありがとうございます」


彼の隣には、息苦しいったらありゃしない、となんか不満顔な師匠も来てくれていた。


「鉄火場の騒ぎがあるのに、その場にいなかったら、死ぬまで後悔するだろうからねぇ。寝覚めが悪くならないようにやってきたのさ。けれどね、問題がありそうだと何か感じた時点で先に声をかけるんだ。相手は魔術を瞬間発動させちまう竜神様というのを忘れるんじゃないよ」


竜族の瞬間発動魔術に割り込んで何か小細工をするなんて無理だと考えろ、と念を押された。


 ぐぅ。


そして、当然というべきか、ロングヒル王家の総合窓口、上位存在全般はとにかく対応します、な王女のエリーも師匠の後ろに控えてくれていた。


「アキ、伏竜様の心を乱すような真似は控えてちょうだい。こちらとしても福慈様の激高は体験済みだったものの、他人への共感という形で、大きく感情を乱されるようなことが竜種に起こるなどとは全く考えてなかった。だから、昨日のことは不問とする。だ、け、ど、今日はもうそうなる可能性があるとわかってるんだから、敢えて暴発させるような真似は絶対に控えて。いいわね!」


ビシッと釘を刺されることになった。


 ん。


「僕もまさか伏竜さんが共感を示してくれるとは全く思ってなかったからね。アレは驚いたよ。そうなる可能性があるとわかってるなら、危ない橋は渡らない。約束するよ」


だから安心してね、と話すと、エリーは一応、納得してくれた。


とはいえ、先に到着していたリア姉のほうに視線を向けて、いざという時にはリア様が術式で対抗してくださると言っているから安心ね、などという始末だった。


まったく、僕への信頼感は、秋風に吹かれて飛んでいく枯れ葉のように軽いようだった。






ヤスケ様も、悲嘆にくれる竜種など想像すらしたことがなかった、などと愚痴って、話が私的な部分に強く入ることもあるから、基本、伏竜さんとの会話には、ケイティさんとお爺ちゃん以外は同席せず、他の面々は控えのエリアに籠っていることにしたそうだ。


まぁ、なら私的な話ということで、僕と伏竜さんだけで話せばいいじゃないか、とならないのが悩ましいところだけどね。そもそも伏竜さんには、私事だから地の種族の者達に知られたくない、などという発想自体が存在しないだろう。人が内緒話をするのに、地を歩く蟻の群れを気にするかって話だ。


まぁ、何にせよ、今、第二演習場の控えのエリアは、ロングヒルどころか弧状列島全域でも最上位のVIPが集中している場所と言えるだろうね。ジョージさん達、セキュリティチームもどうせ伏竜さんは遠間にいる護衛人形の数が多少増えようと気にはしないとして、いつもより多めに空間鞄から出して対応させることにしたようだ。僕には魔力は感知できないけど、ケイティさん曰く、歩く宝物庫といったくらいに魔導具マシマシ状態での配備らしい。


いつもより魔導具が増えているのは、昨日の伏竜さんの感情を強く含んだ思念波が、事実上の精神系魔術相当ということで、通常の対物理の障壁系魔導具では対処ができないから、とのこと。


魔導人形の皆さんにすら、精神防御の護符を全員に配る念の入れようらしい。


そう聞くと、なかなか壮観な眺めってとこなんだろうね。ただ、まぁ僕には、装身具を多く身に着けているなぁ、としか感じられないのが残念なところだ。


そのあとは、三大勢力の代表、つまり、ユリウス様、レイゼン様、ニコラスさんの三人と、雑談がてら、僕から見た伏竜さんの性格、考え方なんてところについて、把握しておきたいと言われて、問われるままに、僕の感じたことをできるだけ、脚色せずに話していくことになった。


心話も、なかなか心を隠すのが上手くて、他の方々のように直接知るのではなく、片付けられて情報が無いとか、反応が乏しいことから逆に類推する、みたいな工夫が必要なことを話すと、これには皆さん、結構興味を抱いてくれた。心話に興味津々とは思わなかったので、ちょっといつもより饒舌に話したかもしれない。


 そして。


そんなことをしているうちに、約束の時間になり、空の彼方から伏竜さんが悠然と飛来してくる姿を眺めることとなった。




いつものように、場の空気を乱すことなくふわりと伏竜さんが地に降り立ち、尻尾の上に首を乗せて休んだ姿勢になってくれた。ふぅ。


低視認性の地味(ロービジ)な灰色の鱗の色合いも落ち着いてて何も変わらない。周囲に満ちている伏竜さんの魔力に触れた感じだと、だいぶ落ち着いて、いつもと変わらない感じ……でもないか。


『銀竜はまだ籠ってて出てこないですよ?とても落ち着いているので何日かはそのままでしょう』


僕を認識して向けて来た意識が、僕に向けたものもあるけど、銀竜の様子はどうだろう、と伺う感じが伝わってきたものなぁ。目安もなく待たされるのもストレスだろうからと、一応、様子を教えてあげたけど、数日と聞いて、そんな短いのか、とちょっと喜んだ意識を浮かべるとこが竜種らしいのと、まぁ、うん、カワイイとこあるよね。


<アキも今日はとても落ち着いているようで何よりだ>


それに、こうして、本心から僕の事を気遣ってくれるとこは、大人の落ち着きというか、視野の広さや深さを感じさせて好感が持てるんだよね。ここで、銀竜の同居人だから心身ともに健康でいてくれないと困る、とオマケ扱いするような意識が垣間見えたなら、その根性を捻じ曲げてぇ……っと、いけない、穏便に行くんだった。


 さてさて。


『昨日はだいぶ頼らせていただいて助かりました。本日のお題は、銀竜との誓いの儀をするためのハードルの確認、それから伏竜様が僕の伝えた気持ちに強く共感を抱かれた件と一般的な竜族のソレの違いについて認識を揃えていくこと、この二点としたいのですが宜しいですか?』


空を飛ぶ竜族に、ハードルとか言っても何のことやらなので、乗り越えるべき障害、先に進むためにはよじ登るなり、迂回するなり撤去するなり、どうにかしないとそのままでは進めない、そういう邪魔な問題のことだ、と意識を言葉に乗せて伝えると、ちゃんとこちらの意図を認識してくれた。


<前者は確かに、皆にそれを認めさせるにはいくつか対処せねばならないだろう。だが、後者は何が気になるのだ?>


 ふむ。


『僕のミア姉を失った気持ちに触れた際に、雲取様と白竜様は誰かに強く依存するという意識の持ち方は幼竜にはよく見られるものだ、として理解はしてくれたものの、共感は乏しかったんですよ。大人の竜であれば、そこまで他者に依存することはなく、個で完結しているものだから。でも、昨日の伏竜様は明らかにそうではなかった。今後、竜の皆さんと交流を深めていく中で、一般的な竜の感性と、伏竜様のそれの違い、或いは位置について認識を深めておくことは、無用な意識のズレを防ぐことにも繋がると考えたのです。共感を示してくれた伏竜様には僕はとても好感を持ちましたけれど、きっと竜種としては雲取様や白竜様のほうが一般的なのでしょう?』


そう話をすると、伏竜さんはどこか諦観めいた、虚ろな空洞のような眼差しを一瞬見せた後、少し言葉を選んで、自身の思いを教えてくれた。


<それは満ちた者と、足りぬ者の違いだ。私は後者でありその中で、唯一の救いを得たからこそ、アキの思いに共感を抱くことになったのだと思う。他の足りぬ者達は、喪失感を抱けるほどの何かを得た事すらない。だから、竜族の殆どは共感を示さないか、示せないのだ。……ふむ、そうか。改めて問われて言葉にしてみると、私の在り方が稀だと自覚できるものだ>


自分は失うことを恐れる大切で唯一の存在、つまり銀竜を得た、だからこそ、失うことの怖さを知ったのだと話してくれた。


 あぁ、もう。


コレは意識を改めないと駄目だね。竜種は家族も財産も地位も何もないから、これ以上ないほどシンプルに、つがいを求め、その思いを抱き、それを欲することに、余計な要素が何も入ってない。驚くほど純粋で、そして、本当に大切なことが何か、それを知っている方々なんだ。地の種族のように群れる必要がなく、複雑な社会を必要とせず、道具を必要としない天空竜。


だからこそ、本当に大切なことが何か、彼らは僕達よりもよく理解しているんだ。学ぶべきは僕達だった。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


仕切り直して、伏竜と銀竜の関係や今後、そして伏竜のような共感性を持つ竜がどれほどレアなのかなんてことを話し合って明らかにしていく流れとなりました。そして、アキも気付きましたけど、彼らは余計なものを何も必要としないからこそ、本当に必要なものが何か理解しているんですね。なので、簡素な社会構造の竜族への意識も、これまでとはちょっと変わることになりました。


次回の更新も変則的ですが、2025年8月16日(日)の21:10です。すみません、所用が寿司詰めで時間が確保できそうにないのです。

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