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25-18.コース下見の打ち合わせの筈が……(後編)

<前回のあらすじ>

自身に害のない低位魔術で全身火達磨にするなんて真似を伏竜さんがしてくれまして、いやぁ、結構驚きました。(アキ視点)

眺めていたら、ぽんぽんと銀竜が宝箱を創り出した。海賊のお宝が入っていそうで、創作界隈では宝に釣られて擬態していたミミックに食べられるのまでが定番となっている、まんまそれな宝箱だ。それをぽんぽんと目の前に何十と創り出すと、それに対して、人間サイズの投槍ジャベリンを創り出してばんばん射出して串刺しにして壊し始めた。


 あー。


伏竜さんが驚いているのが魔力を通じてでもわかるね。経路(パス)を通じて流れる魔力量は抑えられているから、アレは酷く現実味があるけれど、あくまでも創造された品というよりは幻術寄りなんだろう。


そして、経路(パス)を通じて魔力がつねに最大値に回復し続けるものだから、瞬間発動の竜族特有の魔術発動も相まって、秒単位でばんばんと仮初の品を作っては、それを仮初の術式で適切な力加減で壊していく訓練ができているわけだ。


まんま、僕と同じだね。普通なら保有魔力の関係もあって一日に数回できればよい魔術試行を、僕は濃密に何百倍速、感覚が薄れない間にいくらでも繰り返して習熟度をあげることができるから、結果として、使える魔術なら、どれでもマスター級の習熟度に至ってるわけだけど。


それを銀竜はまんま真似ることができる、と。


幻術の反転鏡(リバーサルミラー)を破壊するのに、竜爪が過剰だと言われたので、なら適切な力加減を今、この場で習得してしまおうってことなんだろう。


『その感じで加減はいくらでも試せるので、魔術に応じた力加減、教えてあげてください。魔術の位階操作は僕と同じで無理かもしれません』


<……わかった>


伏竜さんにだけ届くように思いを込めた言葉を届けると、伏竜さんも極細、僕だけに絞った思念波で返事を送ってくれた。いやぁ、かなり面食らってる感じだね。


位階操作が無理というのは、僕が魔術を使う場合、常に最大出力、最高位階になってしまい制御不能なんだよね。


 あー。


「ねぇ、お爺ちゃん。召喚されたお爺ちゃんたちは、普通に自在に魔術を使えているわけだから、銀竜も自在に魔術を使いこなせるかな?」


「魔力属性がアキと同じ完全無色透明になっておるからわかりにくいが、恐らくは可能じゃろうて。使っておる魔術は小技ばかりなのじゃろう?」


 小技、ね。


まぁ、妖精族からすれば、集団術式や、積層型立体魔法陣を使うような高位魔術でなければどれも小技扱いなのだろうけど。


経路(パス)から流れる魔力量からすると、かなり抑え気味に使ってる感じかな。最遠距離に向けてぶっ放した熱線術式とかに比べれば誤差みたいな軽さじゃないかな。だからあぁして連発もできている。いやぁ、器用だね」


作るときも結構雑に強度も変えて、山盛り積もるほどの宝箱を積み上げて、それを一つずつきっちり消滅しきる程度の強さに加減した人間サイズの投槍ジャベリンを創り出して人の全力より遥かに早い速度で射出、きっちり撃ち抜いて対消滅させている。


 お?


ゆるりと伏竜さんがこちらに顔を向けてきた。


<アキ、私を通常サイズの簡易召喚で喚んで貰えないか? 指導したいがこのペースに付き合っていては魔力が持たん>


 なるほど。


では、ということで、ケイティさんに常闇の術式で、丸まった伏竜さんを覆って貰い、早速、通常サイズの召喚、ただし簡易ということで、維持コストが控えめな形での召喚を行ってあげた。


<ふむ、これが召喚体か。実体との差異はあるが、これほどの再現性があるとは驚きだ>


うん、うん、そうだよね。というか、さすが竜族。召喚された状態の自身を眺めて、もう状態の把握まで済ませている。


<伏竜、手本を示して>


銀竜、マイペースだなぁ。伏竜さんも苦笑しながらも、ふわりと銀竜の元に飛んでいくと、何やら指導を始めてくれた。





常闇の術式で覆われた伏竜さんの本体、簡易召喚された本体サイズの伏竜さん、そして召喚より幻術寄りな実体を持つ銀竜。そして、ばんばんと秒単位で量産されていく仮初の品と、それを秒単位で対消滅させていく即発動な魔術の数々。


いやぁ、最初こそ遠慮がちだった伏竜さんも、経路(パス)経由で供給される魔術が使い放題と理解してからは、遠慮をやめて、ばんばん魔術を連発し始めた。あれ、雑に連発して見えて、実際にはそれぞれ位階も内容も違ってる魔術だというのだから、なんとも壮観な眺めだ。


「ケイティさん、こうして眺めていると竜族の魔術学習って面白いですね」


「アキ様、それは認識に誤りがあります。アレは、瞬間発動とはいえ、竜族とてあのようなペースで魔術を乱発などしないでしょう。指導を受ける幼竜の保有する魔力に限りがあるのですから、もっと一回ずつゆっくり示して、毎日負担にならない程度に試して学ばせていく息の長い活動となるはずです」


 ふむ。


「それが、瞬間発動できる種族と、魔力が外部供給で使い放題が合わさると、あんな感じで卓球の打ち合いでもするようなペースでの高速連打になると」


「そうですね。スタッフたちが記録をしていますが、アレは通常の竜族の文化でもありえない振る舞いでしょう。あの速度で高精度を保って魔術を使えること自体が驚きです」


高位魔導師のケイティさんが言うのなら、そうなのだろうね。


伏竜さんが召喚体にチェンジしてからは、伏竜さんが宝箱の幻影を作り、それを銀竜が投槍ジャベリンで消す、それも出された宝箱の難度に応じて適切な位階できっちり打ち消すように、といった具合の訓練にシフトしていた。


 訓練。


うーん、訓練というよりは遊びの一種だろうね。伏竜さんは単純な仕掛けではすぐ見破られるとわかると、欺瞞マシマシの術式にしたりとバリエーションを増やし始めた。ソレに対して銀竜が雑に高位位階の投槍ジャベリンで打ち消すと、過剰過ぎるとして指摘が入り、見極めるよう注意を促されるといった具合だ。


ペースこそ違えど、若竜と幼竜の間の練習を兼ねた遊びなのだろうね。こうして他の竜が出すお題に対して適切かつきっちりと余計な力を使わず対処して見せるのがアピールポイント。


 ん。


今回の召喚術式の繋がりは僕の方にきてるっぽい。


<良い機会なので、伏竜様も経験を思う存分積まれてください。指導する者の役得と考えてくださいませ>


<これほど潤沢に魔力を使える経験はそうはあるまい。活用させて貰うとしよう>


 ふむ。


有用であれば、それを使うことを厭わないというスタンス、伏竜さんの境遇なればこそだろうけど、良い心構えだ。地の種族相手に遠慮するなということをする竜族というのは想像がつかないけど、さりとて横暴にふるまう事は今のところないのだから、ほんと良い方々だ。


心話と違い、経路(パス)を用いた意思疎通はそこまで心を内向きにする必要はないようだ。銀竜とのやりとりを片手間でやりながら、僕との対話をしてたくらいだからね。


 メモメモ。


「アキ様、伏竜様にはなんと?」


おや、ケイティさんにはバレたか。


「せっかく魔力を潤沢に使える状況なのだから遠慮せず、使い倒してくださいね、と促してみました」


「あぁ、それで」


ケイティさん曰く、魔術の使い方に、魔力を抑えるような遠慮、配慮がだんだん薄れてきているように感じたそうで、だから何かしたのかと聞いてきたということらしい。そこで伏竜さんが単独で何かやらかした、と考えないあたり、ケイティさんの観察眼も凄いものだ。


 おや。


スタッフ席のほうに陣取ってる三大勢力の代表の皆さんや、リア姉が何が話したがってる感があるね。さて、どうしたものか。


 お?


そんな様子を眺めていたら、伏竜さんから思念波が届いた。


<アキ、銀竜が空を飛ぶ一連の行動について指導を受けたいと言っている。遠出になるが構わないかね?>


『はい。僕が寝てしまう時間帯になったらリア姉に引き継ぎますので、遠慮なさらずどうぞ。気付いたことなどについてはリア姉に後で伝えてください。銀竜は手探りで対応していくしかないところが多いので、観察した意見を貰えるだけでもありがたいです』


<では、そうしよう>


そんな僕達のやり取りを眺めていた銀竜から、経路(パス)を伝って言葉が届いた。伏竜さん抜きで話をしたいようだから連れ出してあげる、ってとこか。銀竜も考えなしに空を飛びたいと言い出したんじゃなく、こちらの様子を見て気を使ってくれたのか。


そうこうしているうちに、ふわりと二竜が浮かび上がると、銀竜が弾かれるように大空に向けて飛び放ち、さぁ、と促すような仕草もあり、伏竜さんがそれに続いて飛んでいくことになった。なんとも慌ただしい二竜だった。





空の彼方に伏竜、銀竜の二柱が去って行ったのを見届けると、スタッフ席から皆さんがぞろぞろとやってきた。同時にスタッフの皆さんが鬼族でも座れるテーブルセットを手早くセットしてくれる。他の種族は皆、子供席のようなよじ登って座る高椅子になる奴だ。


おや、席の周囲に防音結界である、風の輪舞曲ロンドの術式が展開された。まぁ、去って行ったのは召喚体で、伏竜さんの本体はすぐそこにいるからね。内緒話をするなら、これくらいの配慮は必要と判断したということなんだろう。


「いやぁ、怒涛の展開で驚いちゃいましたね。銀竜と伏竜さんがあれほど意気投合して、一緒に空を飛んでいくようなことになるとは予想外でした」


当初は、伏竜さんと列島横断エコレースの運営についてあれこれ相談して終わりという話のはずだったのに、蓋を開けてみれば、そんなことはおまけくらいにそっちのけになってて、いつのまにやら銀竜が伏竜さんを振り回してるような有様になってしまった。


「召喚体の竜があれほどあれほど魔術を多彩に使うとはな。これまでにロングヒルに来たどの竜とも違う」



ヤスケ様がぶすっとした物言いで、想定外だと渋い顔をしている。


 ん。


「そこは、銀竜の影響を受けたからでしょう。銀竜も僕の魔術練習を真似て、感触が残っている間に魔術を繰り返し発動させて感覚を掴む真似をしてましたし。そのペースで魔術を使い倒していけば、銀竜の魔術行使は他の竜に並ぶ域にすぐ到達できるでしょう」


「伏竜様もこれで短い時間ではあったが、見ているだけでも上達具合がわかるほど洗練されておったぞ。今後はいくら瞬間発動ができるからと言っても、魔術のあれほどの連発は避けるよう促していかねばならん」


 ふむ。


「銀竜の指導役となる伏竜さんの実力が上がることは良いことと思いますけれど、ヤスケ様はそのような急激な実力上昇は銀竜、伏竜の二柱で当面は留めるべきとのお考えなのですね」


「当然だろう。伏竜様は他の竜と比べても魔術行使は上手ではあった。だから、銀竜との間だけで限られた形で魔術を使う分には、竜族の間で、召喚体を魔術訓練に活用するという話が広がることは抑えられよう。不必要に練度を上げる意味はない。アキも秘密にせよとはいわんが、できるだけ話が広がらぬよう配慮するのだ」


「はい。聞かれたら答えるのは良いですよね?」


「それは仕方ない。無理に秘匿して邪推されても困るだけだ」


「では、そのように」


高い実力を持つ竜が増えれば、その分、次元門研究が進む気もするけど、既存魔術の練度を上げても、それが次元門構築に繋がるかというと微妙だものね。ここはヤスケ様の示した方針に従おう。まぁ、普通に考えてその手法で練度を高めたいなどと言い出す竜がいるかというと、思い当たる方がいないのも確かだし。あー、そうでもないか。


「ヤスケ様。その件ですけど、福慈様の練度上げはしてもいいですよね?」


「福慈だと?なんで、あ奴の練度などあげようという話になる!?」


本気で嫌ってるよね、ヤスケ様。嫌うだけの過去があるからだけど。あぁ、面倒くさい。


「福慈様って、桜竜様と同様、魔力が溢れる系の方である分、練度が低いと思うんですよ。身体魔術の制御とかも含めて、かなり練度不足じゃないかなぁ、と。そこが改善されれば、万年魔力不足の問題も多少は好転するかもしれないでしょう? 協力的な老竜の存在というのは貴重ですからね。恩は売っておいて損はないですよ」


魔力の浪費を少しでも抑えられれば、活動率の改善にも繋がると思うんだ。


「小型召喚体で喚んだ時に魔術を使わせるわけか」


「はい。福慈様を簡易とはいえ通常サイズで召喚するのは当面は避けたいですからね。なら小型召喚体の時に試してもらうというのが自然な流れでしょう。より高みへ、などという発想は竜族にはないので、問題を抱えている福慈様くらいにしか多分広がらないですよ」


だから、安心と告げるとヤスケ様は苛ついた思いを隠そうともせず、鼻を鳴らしてそっぽを向くのだった。あぁ、カワイイ。


「自身の体を燃やして見せたことといい、我々は隣人のことを何も知らぬと痛感させられたな」


ユリウス様の独白に、皆も静かに頷くことになった。


「低い位階の魔術を竜族は何もせずとも無効化するというのは知っていたが、身を綺麗にするのに低位魔術を使うとは驚いたぞ」


レイゼン様からしても、あまりに豪快な身支度には衝撃を受けたようだ。


「体の大きな鯨が水面に身を叩きつけて寄生虫対策をするとか、象が泥浴びをした後、木に体を擦り付けてるのと同じこととは思うんですけどね」


僕の言葉に、ニコラスさんもそれはそうなんだが、と苦笑しながらも同意してくれた。


「竜の身にはまったく意味がないが、竜以外に対しては効果絶大な魔術を使う。確かに理に適ってはいる」


ほんと、その通り。味方にノーダメージなら、味方を巻き込んだエリア破壊をしても問題なしってことになるから。


「それで、皆さんが話したい内容とは何でしょう?」


今話したような感想を伝え合うだけなら、伏竜さんに席を外して貰ってまで話す必要はないものね。


これには、リア姉が理由を話してくれた。


「私達はね、隣人を詳しくる、そのために銀竜様を活用したいと考えたんだよ」


 ほぉ。


というか、銀竜に様付けってのはどうしても抵抗があるなぁ。まぁ、他の人が様付けをするのは理に適ってはいるけれど、僕は当面は、銀竜呼びとしよう。僕の心に住まう同居人だからね。僕だけは身内扱いしても文句は言われない。


しかし、竜神子や竜神の巫女という他種族が会話を通じてるのではなく、同じ竜として竜族社会に入って内から理解を深めていく存在として、銀竜に働いて欲しい、と。それに銀竜は僕の記憶をある程度共有しているから、地の種族への理解なら、どの竜よりも深いから適任でもある、と。


……列島横断エコレースがおまけに見えてくるくらい、面倒臭い話になってきたけど、これ、必須だろうなぁ。空に飛んで行った銀竜は、僕から離れてもその存在を維持して消えるようなことがなかったから、その在り方は、召喚体に結構近いところがあるのだろう。とはいえ、竜族社会からすれば異質なことは間違いない。さて、さて、どう受け入れて貰うか。悩ましい。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


投稿が空いてしまい済みませんでした。銀竜ですけど、アキと同じように、いくらでも魔術を連発して練度を高めることができることが示されました。このペースで行けば、一ヶ月もすればどの竜よりも魔術の行使に長けた存在へと至るでしょう。勿論、本来の竜からすれば低位魔術限定って注釈付きですが。

そして、銀竜を通じて、竜族への理解を深めるという新たなアイデアが示されることになりました。本来なら、あり得ない、地の種族への深い理解を持ち、マコト文書の知にも精通している竜がいきなり出現した訳ですからね。ただし、当然ですが、これ、劇薬です。そのあたりについて次パートから考察していきましょう。


次回の更新は2025年6月11日(水)の21:10です。

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