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25-17.コース下見の打ち合わせの筈が……(中編)

<前回のあらすじ>

伏竜さんに銀竜の可愛さをアピールしてみたのですけど、どうも伝え方をミスったようです。もう少し仲良くなったからにした方がよかったのかも。(アキ視点)


では、話を元に戻して、と言いたいところだけど、ふむ。伏竜さん、竜眼まで使って銀竜を見ているとこからして、これはしばらくは駄目だね。触れている魔力の感じからすると、浮ついた感じとかじゃないけど、うーん、よくわからないなぁ。


 あ。


確認が終わったのか、銀竜が反転鏡(リバーサルミラー)を竜爪で消したのを見て、伏竜さんが目を見開いた。


『えっと、僕のことは気にせず、行きたいのなら銀竜の元に行って構いませんよ』


気になることがあるなら、そっちを片付けてきてください、と思いを載せて、ほらほら、と促すと伏竜さんはバツの悪い顔をしながらも、ゆるりと身を起こすと、軽く浮き上がって滑るように銀竜の元へと滑空して降り立った。


さてさて、何がそれほど気になったんだろう?





銀竜も伏竜さんが飛んでくるなどというのは予想してなかったようで、作業の手を止めて向き合うことにしたようだ。


 ふむ。


思念波をかなり絞っているのか、何を話しているのか全然わからないなぁ。まぁ、落ち着いて話をしているようなので心配するようなことではなさそうだけど。


ケイティさんが椅子を勧めてくれたので、腰かけて一休み。


「アキ様、この距離であれば、天空竜の方々であれば、直接声掛けをするのが普通かと思うのですが、敢えて近づいて行った理由は何だと思われますか?」


 ん。


言われてみれば、確かに普通の竜同士の反応というにはちとおかしいか。親しき中にも礼儀あり、天空竜のパーソナルスペースはかなり広いからね。長い首に尻尾、それに大きく広がる翼もあるから、それらを考慮すると、第二演習場の広さがあっても、片手で数えられる程度の竜しか入れないくらいに考えた方が本来は自然なわけだ。


横目で銀竜と伏竜さんのやり取りを眺めつつ、敢えて近づいた理由について考えてみる。思念波が銀竜の仮初の幻影ボディに悪影響を与える可能性を考えて、小声で話せるよう近づいた、とか? んー、でも、見た感じ、多少の思念波を浴びた程度でどうにかなるほど脆い存在には全然見えない。となると、この推論は外れ。


では、小声で話をしたい、内緒話をしたいというのは? 多少はありそうだけど、竜族がそもそもそんなこと気にするか、という話がある。それよりは、何か動きを伴うようなやりとりが発生することを考慮して、遠くから声をかけるだけでは不自由なので、近場まで移動したという方がしっくりきそうだ。


「何か実際に動作をして見せるとか、動く事が絡むってことで、銀竜の近くに出向いたってところじゃないかと」


尻尾の上に頭を乗せて伏せたままじゃ、竜同士の会話では礼を欠くとか言ってたから、それもあるかもしれない。


 おや。


伏竜さんがふわりと浮かび上がって……全身が炎に包まれるのが見えた。竜の魔術、僕でも知覚できた通り、燃やしたのは伏竜さん自身だ。





一瞬で、僕の前にケイティさんが杖を構えて出てくれたけど、全身が炎に包まれたまま浮遊していた伏竜さんは、十秒ほどして炎を消すとゆるりと地面に降りた。


これだけ離れていても普通に感知できるのは竜族ならではの魔力の大きさがあればこそだけど、おかげで、とても落ち着いた意識でアレを行ったことが感知できたので、僕は慌てずに済んだ。


ちらりと横目でお爺ちゃんをみると、落ち着いた感じだね。


「ねぇ、お爺ちゃん。あぁいう天空竜って見たことある?」


「無いのぉ。というかあのように自身の身を燃やすことに何の意味があるのかさっぱりわからん」


 ふむ。


「見た感じ、何の影響もないようだね。というか使った炎の魔術、天空竜のソレにしては位階が低くなかった?」


依り代の君が使った神火のような位階の高さを全く感じなかったからね。見た目こそ派手だけど、アレは天空竜にとっては無害な炎だ。


「言われてみればそうかもしれんが、無害というには物騒な炎じゃった」


 なるほど。


まぁ、確かにそこらを燃やすには十分だろうからね。おや、ケイティさんが横目で伏竜さんを捉えつつも、緊張を解いて僕に目線を向けてきた。


「アキ様、一つ宜しいでしょうか。先ほどの全身を覆う炎の魔術、アレはアキ様からすると、低位に感じられたということですか?」


 ん。


「そうですね。感知できなくもない程度の弱い魔力でしたから、これまでに天空竜が放ってきた魔術と比較すれば低位かな、と」


遥か彼方の雲をぶち抜くように放たれた大出力の熱線術式とか、明らかに一瞬魔力が膨れあがる感じを伴っていたからね。それに比べれば、今回の全身炎の魔術は、気負いゼロで放ったくらいの明確な差があった。


ケイティさんは一応、僕の返事に納得はしてくれたけれど、言葉を選びながらもアレがどういう評価になるのか説明してくれる。


「天空竜の巨体の全身を包み込んであれだけ長く燃え続けた炎の魔術、アレは我々、地の種族の基準からすれば、高位の戦術級術式相当です。あの炎に焼かれて耐えられるのは特別強固に作られた城門くらいなものでしょう。並みの建物ではあの時間で焼け落ちてるレベルです」


 え?


「ケイティさん、火がついて燃えるのは避けられません、ではなく?」


「アレはそんな生易しい炎ではありません。魔術ですら燃やす高位の火炎です」


 うわ。


そのあたりの感覚は全然わからないので、ケイティさんが言うのならそうなのだろう。となると魔術で展開した障壁ですら燃やすってことか。概念同士が干渉しあって、障壁の術式が揺らいで崩れるのではなく、仮初の展開している障壁そのものを燃やしてしまう、と。


「神の名において燃えよ、と命じる依り代の君の神火みたいなノリですね」


彼の使う神火なら、対象が水だろうと燃やすだろうからね。ソレに近い、と。実はおっかない術式なのか。


 ん。


そんなことを話しているうちに、雰囲気からして、少し落ち着いたようなので、声をかけてみることにしよう。


『伏竜様、突然、全身が炎に包まれて、皆が驚いています。何をされていたのか教えてくれますか? 慌てるような話ではないのですよね?』


伏竜さんにだけ届くように意識を乗せて声を送ると、ぴくっと体を震わせてから、ゆるゆると伏竜さんが僕の方に頭を向けてきた。


 んー。


なんだろうねぇ、その警戒心ばりばりな感じ。天空竜様なのだから、もっと悠然と構えて欲しいなぁ。


<身を清めるための作法を実演して見せていたのだ>


『なぜ、今、実演して見せたのかお聞きしても?』


<自身に害のない魔術の使い方を説明していたのだ。アキ、私からも白竜には伝えるが、銀竜が魔術を使う際には当面、誰か他の竜を立ち会わせよ。あまりに危うい>


思念波からすると、さっきの竜爪、アレが不味かったっぽい。


『僕が創った反面鏡(リバーサルミラー)を破壊する際には竜爪を使われていたので問題ないと思ったのですが』


<創造術式で創り上げた代物と、幻術に近い存在を同列に扱うものではない。先ほどまで銀竜が出していた程度の代物であれば竜爪は過剰だ>


 あぁ、なるほど。


『ではそのあたりの加減については後でゆっくり教えてください。割り込んでしまいすみませんでした。僕の用事は以上です』


<うむ>


……ふぅ。届いた思念波から、僅かだけど僕との会話を早く切り上げたい感触が伝わってきたからね。意識的に載せたんじゃなく、意図せず載せてしまった感情だろう。つまり、銀竜との会話のほうを優先したいってことだね。なら、用事は済んだのだから、話は終わりとした方がいい。


実際、会話が終わりとなったからと、伏竜さんは非礼にならない程度にとっとと銀竜のほうに頭を向け直したからねぇ。竜同士で話をする際には、しっかり相手のほうに頭を向けるのが作法ってことだ。





 ふぅ。


「身を清めるとか言って全身を炎で焼くとか、竜族の文化もなかなか豪快ですね。まぁ、低位で実害がない魔術だから、自身の身を焼いたというよりは、人間でいえば軽く水浴びをしたとかそんなとこでしょう」


僕の言葉に、ケイティさんもお爺ちゃんも目を丸くしていた。


「文献でも読んだ覚えがないので、とても珍しい行動なのは確かです。或いは他者のいるところでやるような行為ではないのかもしれません」


「移動先でやるような行為ではないのかもしれん」


身支度みたいな話だとすれば、出発前に済ませるだろうからね。だから、地の種族は見たことがない、というのはあり得る話だ。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、というわけで、全身に炎を纏って、といっても攻撃形態とかじゃないようです。まぁ空を飛ぶ生物にとって衝突なんてのは避けたいことの断トツ一位でしょうからね。


次回の更新は2025年6月1日(日)の21:10です。

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