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25-10.エコレース騒乱(前編)

<前回のあらすじ>

久しぶりに暴漢に襲われた際の対処訓練をやったら、ボロボロでした。お爺ちゃんともども涙目状態。やっぱり何もしないでいると腕は鈍ってしまいますね。あと伏竜さんが小型召喚体になって、列島横断エコレースの想定コースを飛ぶことになりました。経路(パス)が繋がったのがリア姉だったので後は引き継いだけれど、伏竜さん、精神防御、というか精神擬態すら極めているようでなかなかの強者っぽいです。(アキ視点)

なんとも頭の痛くなるコース取りをしてくれたわけだけど、立体地図とコースを見ててふと疑問が湧いてきた。


「ねぇ、リア姉。伏竜さんからの連絡は時折やってくる感じだったんだよね? 連絡を受けた地点の時刻をちょっとプロットしてみてくれない?」


「それなら記録があるから、ちょっと書いてみようか」


連絡があった時刻と、想定された連絡地点をプロットして貰うと、おかしなことに気付いた。


「これさ、距離からすると随分とゆっくり飛んでいる感じだよね。もしかして迷ったのかも」


僕の指摘にリア姉が驚いた。


「アキ、いくらなんでも天空竜が迷子になるなんてありえない。おおかた調査を兼ねてゆっくり飛ばれていただけじゃないか?」


 ふむ。


そういう見方もできなくはない。


「んー、そういう見方もできなくないけどほら、ここ。連邦領首都から、東遷事業の想定している付け替え後の河口位置から、河川の流れを付け替える起点までの所要時間。距離に比べるとやたらと長い。これ、伏竜さんに確認しておいたほうがいいと思う」


「アキは何を危惧してるんだい?」


 おや。危機意識薄いなぁ。


「今回のレースに参加するのは、遠出にあまり慣れていない若竜達ばかり。そして、東遷事業の付け替えルートなんて、現時点では大した目印もないし、地形的に珍しい何かがあるわけでもない。それに竜族の常として、地の種族の都市や施設の位置なんて、興味を持っている個体はほとんどいないんだから。僕が不味いと思っているのは、コース案内の何か仕掛けを用意して、事前に心話で弧状列島全域のイメージと、今回の想定コースにおいて何かコース取りに目印となりそうな何かをピックアップして、参加する若竜達に伝えておく必要があるんじゃないか、ってとこ。迷子になってあちこちふらふらされるのは、地の種族だって困るでしょ?」


僕の指摘に、リア姉もそりゃそうだけど、と一応頷いてくれた。


「本当に迷子なんてことになれば、まぁ困るね。天空竜との会話ができる竜神子達を配置するにしても、竜神子達が見つけやすい目印となるわけじゃないから、空の上からみて、わかりやすい仕掛けを用意しないといけないとも思う。ただ、雲の上から地上を見下ろせるのに、迷子になんてなるかい?」


 ふむ。


「リア姉、竜達の社会をちょっと思い出してみて。彼らは縄張りを個で構えて、基本的にそこからあまり遠出はしない。それに若竜達は縄張りが持てないから、成竜の住まう縄張りに居候をさせて貰っているという肩身の狭い立場だ。そうなると、構えている巣だって魔力泉としての能力は落ちる。伏竜さんみたいにソレが原因の一つとなって同世代の竜より体格が小柄になるほど影響が出てるんだ。となると、若竜達って、雲取様みたいに他の部族のいる地域まで広く足を伸ばして、あちこちに顔を出すなんて個体は実はレアケースだと思うんだ」


ちょっとした例えとして、村から出たことがない若者にいきなり、列島縦断レースをさせるようなものじゃないか、と話すと、何が問題なのかようやくイメージできてきたようだ。


 あぁ、でも。


「アキ、それでも、多少迷うとしても、少し高空に昇って俯瞰すれば、大まかな位置は出せるだろう? 太陽との位置関係と飛行方向から、おおよその方位も割り出せる。それに彼らの体内コンパスだって私たちのソレよりは渡り鳥くらいには正確じゃないか?」


 ん。


「まぁ、そうならいいんだけど。リア姉、忘れてるようだけど、彼らの文化に地図ってないからね? 自分の経験と記憶、それと体内コンパスだけが頼りで、自身の有する魔力だけで、途中、一戦やらかすくらいの余力を想定した上で、巣から移動して、また巣に戻ってくる、それが彼らの一般的な飛行スタイルなんだ。あれだね、空軍戦力で言うところの戦闘行動半径みたいなものだよ。片道飛行でスタート地点とゴール地点が違う旅客機の運用と違って、飛んだらスタート地点に戻ってくるって奴」


ベリルさんがホワイトボードを持ち出してくれたので、軽く絵を書いて説明する。航空機の航続距離にはいくつか種類があって、例えば、空自が誇るF2支援戦闘機だと、航続距離は2,900キロと長いけれど、戦闘行動半径は830キロとだいぶ短くなる。竜族の場合、いきなりふらりと遠い地に訪れて、一晩の宿を所望したい、とかいって、巣を借りるのはまず無理だもの。


だから、スタートとゴールは自身の巣であって、そこから飛んで離れても何か行動、例えば狩りをするとかしても、重い獲物を抱えて飛ぶ負担も考慮すると、自身の縄張りの範囲くらいしか飛ばないってことだね。しかも、意味もなく飛ぶこともない。浪費できるほど魔力が溢れているような竜とか、或いはとても飛ぶのが上手いとか、飛ぶのが趣味だとか、何か理由がなければ、竜は空を実は飛ばないんだ。


空軍の戦闘機とかと同じで、ほとんどの時間、飛行場の駐機場や掩体壕、整備工場の中にいる感じ。空を飛んでる時間なんて僅かなんだ。


ここは、ひたすら長距離を飛び続ける旅客機との大きな違いだね。旅客機のほうは駐機してる間は何も稼いでくれないのだから、できるだけお客さんを乗せて効率よく飛び続けるようローテーションを組む必要がある。飛んでないのは何か、飛べない、或いは次に飛ぶために必要な何かをしているからだ。


何て感じに、航空機の運用について、ざっと話していったんだけど、あー、うん。思った通り、リア姉だけでなく、ケイティさんやお爺ちゃん、それに同席してくれている他のメンバーも反応が鈍かった。


「アキ様、そのように残念そうな顔をされても、仕方のないことなのです。こちらにいるアキ様以外の全ての地の種族は、空から地を眺めたことなど無いのですから。空は天空竜の領域。我らが踏み入れしところではないのです」


 ふむ。


「街エルフでも一部の有志が、小型飛行船の試作、飛行をしているとか聞きましたけど」


「それは本当に例外とお考え下さい。纏めると、天空竜の中でも、雲取様のように遠出をされる竜、或いは魔力が有り余っていて魔力を捨てるために荒く飛ばれる桜竜様のような方々は例外であり、地図も持たず、遠出もしない若竜達は、例えると、村から出たことがなく、広域の地図も見たことがないような若者相当ではないか、と。そういうことですね?」


ケイティさんが総括してくれた。うん、その通り。


「そうなるかなぁ、と。確かに雌竜の皆さんが整然と小鬼帝国の首都に向けて飛行されていたりもするので、僕が危惧するほど酷くはないかもしれないですけど。ほら、前々から言われているじゃないですか。ロングヒルに来ている竜は、竜族の中でもかなり上澄みじゃないかって。そこが気になるんですよね。今回の列島縦断エコレースって、ロングヒルに来ている馴染みの竜達以外の参加が殆どじゃないですか」


なのでちょっと心配だなぁ、と話すと、皆さんだいぶヤバさが見えてきたようだ。


ちょっと迷ったので、ふらりと降り立って、あぁ、少し道を尋ねたいのだが、と話しかけてくる。ソレが天空竜でなければ、単なる村人と旅人の会話で済むのだけど、降りてくるのはあの天空竜、生ける天災、竜神様だ。


 あー。


ちょっと軽く考えていたかもしれない。ちょいフォローしてみよう。


「えっとですね、若竜達も道を尋ねるのなら、近場の他の成竜の縄張りに降りて話をすると思うんですよ。地の種族の都市に降り立って話を聞くという選択は取らないんじゃないかと」


僕のアイデアもリア姉に否定されることになった。


「アキ、話ができる竜神子がいる、そして地の種族のところにいけば地図がある。現在位置もわかりやすい。なら、若竜は道を尋ねるために都市のほうに降りても不思議じゃないよ」


しかも、縄張り内に地の種族を住まわせて庇護下におくような方は雲取様くらいとレアだから、地の種族との交流慣れをしていない若竜達ばかり。


 うーん、不味い気がしてきた。


おっと、ふわりとお爺ちゃんが前に出てきた。


「アキ、とりあえず、心話で伏竜殿と確認を取ってみてはどうじゃ? アキは連絡を入れてきた時間からして、道に迷った可能性を考えたが、案外、杞憂かもしれんじゃろ」


 うん。


「そうだね、まずはそこからやってみよう。自身が担当する東遷事業の対象地域を念入りに眺めて飛んでいただけって可能性もあるからね」


 うん、うん。


そうに違いない、そうだと思いたい、そうだといいなぁ、多分、そうじゃないけど。


そして、伏竜さんに心話で確認したところ、悪い予感というのは良く当たるもので。……案の定、目印となるものが何もないので、地図は見て把握していたつもりだったけど、盛大に迷ったという事実が判明した。


いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、そういうわけで、列島横断エコレースですが、実は何気に地雷原であることが見えてきました。いやぁ、先導役をつけるとか、伴走者を用意するとか、コース案内を用意するとか、何らかのナビの仕組みを用意するとかしないと不味いですね、それもかなり。


次回の更新は2025年4月23日(水)の21:10です。

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