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25-9.列島横断エコレースの準備(後編)

<前回のあらすじ>

伏竜さんが小型召喚体で、列島横断エコレースの予定コースを飛んでくるということになり、長時間になることから、召喚の経路(パス)が繋がったリア姉に状況を説明して後を引き継ぎました。(アキ視点)

リア姉への引継ぎも済ませたので、その日は後は寝るまでの間何をするか、という話になり、久しぶりに護衛人形さん達と、護衛頭のジョージさんを含めた連携訓練の時間に割り当てることになった。


街エルフの本島にいた頃には、何があっても最低限身を守れるように、ということで最低限の連携訓練を終えてからこちらに来たんだけど、こちらに来てからも連日、やることがギューッと詰まってる事もあって、連携維持のための練習すら予想よりだいぶ低調という有様だったんだ。


とはいえ、時間もそう余裕があるわけではないので、同行しているジョージさんが異変に気付いて手に持っていた空間鞄から、護衛人形さん達を直接、周囲に展開、それに対して、リア姉麾下の魔導人形さん、ヒロシさん達が暴漢役ということで協力してくれることになった。


「ヒロシさん、お久しぶりです。今日は急ですけど宜しくお願いします」


「仕事ですから気にせずに。ソレでどのレベルの暴漢をやればヨイカ?」


早速、ジョージさんに質問が向けられた。あー、暴漢のレベルというのは素人が刃物を振り回すレベルから、果ては相手とともに自爆するような死兵レベルまでどれですか、という話。


ちなみに死兵レベルになると、そもそも見える近接距離まで近寄られた時点でかなりアウトなんだよね。何せ身に着けていた爆薬もろとも吹き飛んで、などという手口で、アフガニスタンや中東などで猛威を振るった外道戦術だ。怪しい市民がいないかチェックをする検問所ごとぜんぶ粉微塵に、なんてニュースをよく耳にしたものだった。


「文官程度の連中が手に持った凶器で突如、殺害を企ててくる設定でいこう」


 げ。


それ、そもそも相手と至近距離からスタートだ。


僕の意識が表情に出たのか、ヒロシさんが何とも呆れた目線を向けて来た。仕方ないよ、僕は普通の街エルフと違って、何でも満遍なくできる状態が達成できてから国外に出ることを許された正規ルートじゃなく、同盟国ロングヒルにある街エルフの大使館領は、街エルフの国の領土である、だから国外に行く条件を満たしていない僕でも滞在して良し、という抜け道だからね。


「それで紛れ役の用意はあるノカ?」


無いならウチから出す、と言ってくれてるけど、リア姉の魔導人形さん達、明らかに堅気じゃないって雰囲気バリバリだものなぁ。


「邸内にいた女中人形達に協力して貰うことにした」


そう指し示す先には、いつものクラシカルなメイド服を着た女中人形さん達が並んでいて一斉に頭を下げてくれた。何とも本格的。


「あぁ、では我々は指導役というコトカ」


「それで頼む」


げ、ヒロシさんが何故か、こんなこともあろうかと、といった具合で、大勢の魔導人形達を指揮するためのヘッドセットを取り出した。いやぁ、魔導人形同士のデータリンク使うのは反則なんじゃ。


「打合せを迅速に行うための道具にスギナイ。連携なんてしたら訓練にナラナイ」


 ぐぅ。


ヒロシさんの言う通り、完全連携をする魔導人形の皆さんは一種の群体として、全体にして個、個にして全体という死角を補いあって情報連携することで、事実上、周辺全てを俯瞰しつつ、全ての魔導人形がタイミングを合わせて即興で同時攻撃とかしてくるというえげつなさだ。


というわけで、情報連携機能を使ってどうも、速やかに内緒話は終わったようだ。


「では、アキ、訓練開始だ。周囲を給仕役が行き来している中、アキの身辺警護としては俺が空間鞄を持って控えているだけという最小構成だ。庭先のテーブルセットがあるから、そこでこれから話し合いをするという体で、女中達は遅れ気味の準備作業に追われている。では始めよう」


などと言って、準備もそこそこ、完全に台本できてますと言わんばかりに、いつものようにテーブルセットに、人族の相手を二人招くと言った感じで、テーブルセットが用意されていき、アイリーンさん、というかアイリーンさんまで駆り出してくるとは、なんだかなぁ。料理人として腕を磨いている女中三姉妹の一人、アイリーンさんの指示で、お茶会セットが用意されていく。というか、あれ、本物のお菓子やティーセットじゃない!?


 うわぁ。


お高いものなのに平然と本番さながらに使うのは、それだけ自信があるのか、急遽なので練習用が用意できなかったのか。


……などと思いながら、歩いていたらテーブルに食器を並べていた女中さんの手が素早く跳ね上がり、袖口に仕込まれていた小ぶりな暗器の柳葉飛刀が滑るように投げ放たれ、お爺ちゃんが自動発動した耐弾障壁がそれを防いだ。


 げげげ。


名前の通り柳の葉のように薄くて手の平にあらかた隠せるくらいの大きさしかない投擲専用の両刃の暗器で、薄くて幅広の先端に重心があり、持ち手は投げる事が前提で持って刃物として使うことを想定してない細くて簡易なもの。そして投げると幅数ミリしかない刀身は殆ど線にしかみえないことも実感できた。怖過ぎ。


「アキ、どうした、本島あちらでの訓練時には身を逸らすくらいはできていただろう? 今ので死亡×1だ。翁も弛んでるぞ。耐弾障壁が展開される前に投槍で撃ち落とすくらい前はやってたじゃないか}


ジョージさんに駄目だしされて、僕とお爺ちゃんは顔を見合わせることになった。あぁ、これは不味い。かなり意識が弛んでた。



それからも、手を変え、品を変え、散々襲われて、結局、僕の死亡回数は12回に及ぶことになった。





久しぶりに実地訓練をやったことで、随分と凹むことになったけれど、まぁ仕方ない。それにまだ初級編だものなぁ。こんなの平然と全部こなせる街エルフの義務教育が百六十年平均とか言ってるのも当然だと思う。座学だけなら圧縮も多少はできるだろうけど、実技まで何でもできます、とか言い出すんだから、そりゃ時間短縮なんてできる訳がない。


何て感じに、少しダウナーな気分からスタートした朝だったけど、食堂に行くと、ようやくきたか、とリア姉が出迎えてくれて、あー、何かあったわけね、と察することになった。


「やぁ、アキ。昨日は随分死んだんだって?」


「あー、うん。なんで即興で皆さん、極普通に暗器持ってるのさ、というくらい、暗器のお披露目会かって感じに色々と襲ってくれたね」


僕の言葉に、横に浮かんでいたお爺ちゃんもそうじゃ、と頷いた。


「そもそも、最初に話を聞いた際には素人の暴漢と言っておったが、感情の揺らぎゼロからアキの方を見もせず的確に暗器を放つなどというのは、手練れのする技じゃろう?」


 だよねー。


「翁が言うのもわからないでもないけど、五感を研ぎ澄ませていれば、後背から襲われても最小限の体裁きで回避しつつ、相手に反撃をするくらいは、街エルフなら誰でもできることだから。まぁ頑張って」


 ぐぅ。


久しぶりにでた、成人の街エルフ基準。全員、ソレができて初めて成人と看做されるというんだものなぁ。あぁ、ほんと憂鬱だ。僕、本当に成人できるんだろうか。


そう思ってたら、アイリーンさんがフォローしてくれた。


「誰でも最初はありマス。でも、習得に費やす時間が違うだけで皆さん、ちゃんと修得されマス」


「ですね。ちょっと長期で考えていきます」


街エルフの長期とかいうと、十年単位とか平気であるから怖過ぎるけどね。そう、誰でもちゃんと修得するという話だ。短い人はすぐ修得するし、そうでない人も年単位で修練をしていけば、いずれは身に着けるのだ、と。


まぁ、成人している街エルフの皆さんがその表情や身のこなしなど、いずれも洗練されていて綺麗な所作をしているのはそういうことだよね。何せ、全員、最低でも外交官レベル1の技能は修得されているというのだから。



 さて。


そんな感じで、落ち着くまで雑談をしたところで、リア姉もでは、と本題を切り出してきた。


「それじゃ本題に入ろうか。まぁ、この列島全図を見て。昨日、伏竜様が通った飛行ルートを赤太線で記しておいたから」


 ふむふむ。


そう言って、眺めてみると、うわぁ。誰さ、こんなルート考えた人。


「ロングヒルから北東に進んで連邦首都を回って列島東の大洋を南下、海から東遷事業予定ルートを通って内陸に戻り帝国首都を通ったら、福慈様の縄張りでご挨拶して、そこから一気に西へ。人類連合の名目上の首都テイルペーストを拝んだらそこから北東、ロングヒルに舞い戻ってゴール。誰です、こんなルート考えたの」


まさか、三大勢力の首都を全部拝みつつ、列島の全種族が手を取り合って行う前代未聞の巨大治水、河川の付替えとなる東遷事業のルートも飛ぶなんて。


僕の問いにリア姉がしれっ、と答えを教えてくれた。


「発案者は伏竜様ご自身とのことだ。長距離飛行になるけれど、それくらい長く飛ばないと遠目で見てわかるほど魔力差が生じないと話されてたよ」


 あー。


「で、経路(パス)から感じ取れた追加情報は?」


小型召喚を通じた経路(パス)、これを使って心話ほどではないけど、相手の心情はある程度伝わってくるからね。


「それが驚くほどフラットで、伏竜様が伝えたいと思われている情報以外は全然わからなかった」


 げ。


「それって敢えてそうしてた感じ? 情報を隠そうとか、内緒にしようとか、大っぴらにしたくないから、みたいな恥ずかしい意識があったとか」


一応粘ってみたけど、そういうのも無し。


「伏竜様は魔力ですら、四六時中、それほど意識せず擬態をしてるじゃないか。あれ、内心にも及んでると私は感じたよ。竜眼で視られても擬態を見破られない、つまり、伏竜様のソチラ方面の技は心技体いずれも極めていそうって事さ」


 うわぁ。


まさか、他の竜達に対して劣位であるからこそ、目が付けられないように目立たないようにと、鱗の色を色褪せた(ロービジな)灰色にしてるだけじゃなく、心の内まで律していたとは。延々と心話を拒んできてたのもそういうことがあったからかな?


 いやぁ、うん。


それじゃ、リア姉でなく僕でもちょい難しかったかもしれない。実際の本体から周囲に溢れてる魔力に触れてる感じ、ある程度推測できる程度には感知できてたんだけどなぁ。まぁ、それは僕のほうで今度確認しよう。


 で。


「それ、不味いよね?」


一応、聞いてみたけど、当然、と大きく頷かれることになった。


「昨日の時点で、速達で三大勢力の代表の方々には連絡を送っておいたよ。きっと、何日かしたら反応が返ってくるから、それまでに対策を練ろう」


 あー、うん。


やっぱりそうなるか。そりゃ、コース取りは竜族が好きにすればいいとは思ってたけど、他の竜達へのアピール優先で竜の縄張りの上を延々と飛ぶかと思ってたんだけど、予想が外れたか。これはなんか波乱の予感だ。わぁ、天空竜が次々に飛んできて楽しいね、格好いいね、と市民が喜んでくれればいいんだけど、きっと、まだ、そうはならないもの。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


というわけで、この冬は静かに各勢力、東遷事業に向けてあれこれ進めていきましょう、とか言ってた筈が、何十という天空竜達がばんばん各勢力首都に訪れて姿を見せびらかすこと事になってきました。アキのせいじゃないんですけどね。きっと、なんで今このタイミングに、と代表達はアキに詰め寄るでしょう。伏竜には詰め寄れませんから。


次回の更新は2025年4月20日(日)の21:10です。


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クラリタプロジェクトと称して、2025年04月13日(日)から100日チャレンジということで、エッセイの連日投稿をスタートしてます。構図で世界に新たな視点を与えるといった観点のエッセイシリーズです。会話AI「クラリタ」と私のコラボ作品群となります。ご興味がありましたら読んでみてくださいませ。

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