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25-6.ロングヒル王家とエリーと銀竜と(後編)

<前回のあらすじ>

エリーとイズレンディアさんという珍しいペアの訪問を受けて、銀竜が僕の今後の活動にどう影響をするのか、ということについて、話し合うことになりました。エリーが心配していたように、俗世を離れてひっそり暮らすとかになったら確かに大問題だったので、その可能性は低そうとわかったのは良かったです。(アキ視点)

イズレンディアさんは、僕の銀竜が竜族としてその在り方を確定させることは、精霊のように主を第一としない在り方になるので注意が必要だと言う。


 んー。


天空竜が天空竜としての常識、性格を身に着けることの何が問題だというんだろう?



「僕は、銀竜がとても珍しい生まれ方をして、竜族の中で育つことができない中、白竜さんのような理解ある導き手を得て、ちゃんと竜として育ってくれることは嬉しいんですけど、えっと、どのあたりが問題なんでしょう?」


僕の言葉に、イズレンディアさんはとても眩しいものをみたかのように柔らかく微笑んでくれた。


「アキにとっては、銀竜は自身の手で温めて孵した幼竜のような扱いなのか。しっかり元気に育って欲しいと」


「はい。普通の竜のよう幼竜から育たず、いきなり若竜相当、ほとんど空の状態で生まれてしまいましたからね。白竜さんが心配して面倒をみようと考えてくれたのはほんと幸運でした」


ちゃんと育てよー、と年の離れた妹を見てるような気分でしょうか、と話すと、エリーもすっかり毒気を抜かれたような表情を浮かべた。


「もうすっかり保護者目線してるわね。そっか、アキにとって銀竜はそういう子なのね」


「依り代の君みたいに捻くれず、ちゃんとまっすぐ育ってくれたらいいなぁ、とか思ってますよ」


彼はほんと、小生意気なガキんちょって感じだもんなぁ。見た目はかわいらしいけど、アレは悪ガキ枠だよ。


そう話すと、二人とも声を出して笑いだした。


 えー。


「何か?」


「彼を指してそう称するのなんてアキくらいでしょうね」


「そうだとも。あの年の子にしては分別は十分ついているほうだぞ?」


幼子なんてのは見た目はかわいらしくても、小さな大人扱いしてはダメだ、とか笑いながらも諭されてしまった。


 むぅ。


確かに子供とは、小さな大人ではない、子供には子供の時代があるとは言うよね。何度言っても行動を改めないとか、予想不能なことをしでかして困らせてくるとか、まぁよく聞くのは確か。でも子供には子供の論理があり、成長段階に応じて適切に育てていくのが大切なんだよ、とかとか。


「まぁ、彼も銀竜と同じで、そうあれとされていきなりポンと今の状態で降臨しましたからね。依り代の君としての人生経験の乏しさを考えれば、いろいろ試行錯誤が入るのも当然でしょう」


一応、理解を示してみた。


「そうそう。面倒を見ているヴィオ殿やダニエルも当初は随分苦労してたと聞いているわ。それでも説明すればちゃんと理解をしてしてくれる分、そこらの子供よりは遥かに手がかからない、という一面はあったそうよ。人の常識から大きく外れたやらかしは多かったと聞くけれど」


エリーが面白おかしく、彼女たちの苦労を語ってくれた。うん、うん、確かに連樹の巫女であるヴィオさんは、ヴィオ姉と慕われて、「マコトくん」の神官であるヴィオさんとともに、依り代の君の保護者枠になってたんだよね。


鳥が見たいからと、高い木の上まで登って足を滑らせて落下、地面に激突してもケロリとしていて、二人から散々叱られたとか聞いた。世界樹の枝から作り出した依り代、それに降臨した神様だからこそなんともなかったわけだけど、それを心配して本気で叱ってくれた二人にはほんと感謝したい。


「アキの場合は、普段の過ごし方も精霊使いのソレとは違うから、確かに精霊のような振る舞いを銀竜がせずとも問題とはならないかもしれない」


 ふむ。


「精霊使いの普段の過ごし方というと?」


僕の問いに、イズレンディアさんは例えば、と自身の肩のあたりを指さした。


「例えば、今、私の肩では、私の精霊が座り込んで休んでいる。魔導師と違うのは、精霊はそれ自体が精霊術を行使してくれる存在とも言える」


 あ。


一瞬、イズレンディアさんが済まなそうな表情を目元に浮かべた。まるで魔術行使の代用品ともとれる物言い、そう取れなくもない言い方に精霊が文句を言ったってとこかな。


「えっと、精霊さんはイズレンディアさんとは完全に独立した意識をもって、独自の判断で動くことがあるということでしょうか。もちろん、イズレンディアさんの不利益にならないよう配慮をしてくれるところはあるとして」


そうフォローすると、その通りと言って、まぁ見ていてくれ、と言ってイズレンディアさんがケーキスタンドを見るよう促した。


 はて。


お、ケーキの一つがふわふわ浮いて、浮いてぇ? あれ、イズレンディアさんの口元まで運んでいって、彼が大きく口を開けるとそこに放り込んだ。


 あー。


少し予想したのと違った、といったように苦笑しながらケーキを食べ終えたイズレンディアさんは、紅茶を飲んで楽し気に笑った。


「見ての通り、私は杖を使ってはいないが、精霊術は発動したわけだ。その行使も精霊任せ。まぁ、ちと意図からズレることもあるがね」


などといって、ウィンクしてくれた。あぁ、神秘的な森エルフがそういう仕草をすると、なかなか恰好いい。


エリーを見ると、魔力感知が苦手で、竜クラスにならないと感知できない僕の代わりに何が起きたのか説明してくれた。さすが姉弟子様。感謝。


「確かに魔力がイズレンディア殿の右肩あたりに集束、圧縮されて魔術が発動してましたね。精霊術特有の発動法とは認識していましたがそういうことでしたか」


うん、うん。普通の魔導師なら杖、鬼や小鬼、竜なら角の先端に魔力を集束、魔術の起動に必要な位階にまで高めて発動、小鬼族や人族の場合集めるだけでは足りないので、そこに圧縮という工程まで入れてやっと発動することになる。あぁ、精霊術の場合も圧縮工程が必要なんだね。雑な言い方になったけど、鬼族は集束して発動、竜の場合だと発動に必要な位階に達しているので、集束すら必要がなく角の先端からいきなり魔術が発動となる。


「それだと、精霊さんがいる位置だから、精霊使いから離れた位置から魔術が発動する場合があるのは、精霊さんがいるとこが起点になるから」


これまでの合同での魔術行使で精霊使いさん達の術は何度か見ているけど、起点がまちまちだったものね。魔導師の場合の杖、他種族の角とは明確に違っていて不思議には感じてたんだ。


「その通り。そして、精霊使い自身が認識していなくても、精霊が認識して術を発動することもできる。そして精霊にとって精霊使いとは第一に考える存在だ。だから、そうでない在り方となる銀竜は、精霊とは違うと認識する必要があるというスタンスで話したのだが。そもそも銀竜はアキが幻影術式を発動しなければ現れることがない。その点、常に共にある精霊とは違うと理解すべきだった」


 なるほど。


まぁ、常に攻撃ヘリサイズの銀竜が見えないけど傍らにいますとか言われると、きっと日常生活に支障だらけだろうから、今の銀竜の幻影術式を使わない限り出てこないというのは、良い在り方だろう。


「妖精さんくらい小さなサイズなら、常時傍らにいてもかわいいとは思いますけどね。ただ、召喚術式のような小型召喚とは違い、幻影術式ならそのサイズで喚ぶことも可能でしょうけど、やめた方がいいですよね、きっと」


ちょっとだけよいかもと考えたけど、悪手だと直感が告げていた。


僕の疑問に、イズレンディアさんも深く頷いた。


「竜として在り方すら安定していない中、大きさを著しく変えるような真似がよい結果を生むとは到底思えない。それは試みるのも駄目だ。銀竜に健やかに育って欲しいと願うのなら、そういう異質な真似はしてはいけない」


 うん、うん。


「それで、アキ。銀竜の様子からして、あとどれくらいしたら、意識を外に向けそうなの?」


 ん。


先日と今日で、うーん、心を内に向けて、ちょっと違いがどうか観察してみるけど、うーん、違い、違い。


「数日程度では違いがない感じだから、案外、何か月とか何年ってくらい時間がかかるかも。まぁ、白竜さんも銀竜のペースに合わせるつもりで焦る気はないから、そこはのんびり行くよ」


そう答えると、エリーは深くため息をついた。


「あら、そんな感じなのね。なら取り越し苦労だったわね。そうそう、心の内に銀竜がいることがどういう影響を与えるかわからないのだから、違いがないということ自体も意味があるのかもしれないと考えて、毎日、様子を観てイズレンディア殿に報告するのだけは忘れないようにね」


「うん。何か問題があってもお医者様に診てもらうって訳にもいかないから、そこは気を付けるよ」


なんて感じに、当面はかなり気長に様子見となりそうだ、って状況確認もできたことで、だいぶ気楽になった。


そのあとは、精霊さんがどれくらい精霊使いから距離を離すことができるのか、それと銀竜の差異はありそうか、なさそうかなんて感じに、三人でいろいろと想像してアイデアを出し合うことになった。途中から女中人形のベリルさんも参加して、ホワイトボードに出た確認事項、アイデアをどんどん書き出してくれた。その中には、銀竜観察日記をつけるべき、なんてのもあったから、今後はソレも書いていくようにしよう。なんか微笑ましくて嬉しくなった。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、そんなわけで銀竜ですけど、結構、長期目線で育てていく感じになりそうです。そもそも長命種の子育てなんて街エルフだと義務教育ですら百六十年とかですからね。このあたり時間感覚は竜族も似たような話なので、白竜も実は全然急かすつもりはありません。それに銀竜は見た目、若竜相当ですから、幼竜ほど食事も頻繁にする必要もない、と見做しているでしょうから、せいぜい週一くらいで定期報告していれば、まめな報告をするなぁ、くらいに認識する事でしょう。


次回の更新は2025年4月6日(日)の21:10です。

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