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4-4.大型帆船ビクトリア号1

前話のあらすじ:展望台を後に、港町ショートウッドから少し離れた防空施設バンカーだという山に擬装された場所に向かいました。


2018年11月11日 タイトルを数字の連番に変更。

 馬車が待機していた内扉前の通路は、馬車が余裕で通れるだけの広さがあるけど、外に比べて薄暗い。

 そんな通路の薄暗さに目が慣れていたせいか、石壁のように分厚い内扉が開き始めて、隙間から漏れてきた光の強さに、外に出たのだと思った。それくらい、通路の先は光に満ちていた。


 馬車がゆっくりと進み始める頃には、目も慣れてきて、馬車の窓から見えるあまりに広大な光景に言葉がなくなった。


「お爺ちゃん、……これ、凄いね」


「そ、そうじゃのぉ」


 僕もお爺ちゃんも、そのまま無言で、窓の外を凝視していた。

 それだけ、色々と縮尺のおかしな光景が目の前に広がっていた。


 僕達が入ってきたのは、船を泊めて整備とかをするドックの後ろ側だと思う。

 まず、その横幅がサッカーグランドのそれと同じくらい広い! そして目の前の大穴、水を湛えていない乾ドックに盤木で固定されている帆船、それがまた大きい。横浜でみた日本丸に比べて、横幅が五割増しくらい、マストの高さは目測だけど二十階建てビル並みだと思う。


 乾ドックの底だけど、見てるとクラクラしてくる高低差だ。やっぱり五、六階建てビルから下を見た時くらいの深さに見える。


 そして奥行だけど、反対側の端にいる作業員の人達が米粒くらいの大きさに見える。十八両編成の電車のホームくらいの長さがありそう。作業員の人達があちこちにいるんだけど、あまりにドックの空間が広過ぎて、とても疎らに感じられる。


 両脇の壁は飾りもない金属壁だけど、一定の高さ毎に廊下が設置してあって、階段を延々と登っていけば上まで行けそうだけど、かなり辛そうだ。天井付近にはレールで前後に移動することができる大型クレーンが設置されている。


 で、天井。これが澄み切った青空のような色をしている。天井と言えたのは、空色のタイルを敷き詰めたように、色の変化が不連続で境目がわかるから。それでも照明器具っぽい魔導具をイメージしていただけにこれは予想外だ。それに外と勘違いしたくらいに、さんさんと降り注ぐ強い光は、陽光そのものとの違いが全然わからないほど自然で輝度もとっても高い。


「アキ様、降りますよ」


 ケイティさんに促されて、馬車から降りたけど、まるで巨人の国にきた小人さんの気分だ。

 落ち着いて見てみると、帆船は最後尾のマストが縦帆で、それより前のマストは横帆、マストの間に斜めに張られたロープに置かれているのは三角形の帆といった感じで、日本丸と同じバークタイプだね。

 ……あれ? 食堂に飾られていた絵の帆船と違って、メインマストの本数が一、二、三、四……五本ある! 通りで横幅がある訳だ。

 帆船なのに全長百五十メートル越え、いや、もっと長いかな、小国が作る規模の船じゃない。


「あれが帆船か! これほど巨大な船を建造し、使いこなすとはなんとも吃驚じゃ」


 お爺ちゃんが、儂が昔見た帆船は数人で操る小舟だったんじゃがのぉ、とか言ってる。

 それは三角帆一枚で、一人でも帆走できる漁師が使うような船だろうね。

 帆があれば帆船と言っても、大陸間を航行できる大型帆船と比べられるものじゃない。


 帆船だけど、マストと交差するように設置されている可動式の支柱ヤードには沢山の人達が並んで、帆を広げる作業をしてる。高所恐怖症じゃやってられない帆船乗り必須の仕事だ。――それにしても小柄な人が多い。


「アキ様、口が開いてますよ」


 ケイティさんに言われて、僕はずっと上を見上げて、ぽかんと口を開けたまま、眺めていたことに気付いた。

 ジョージさんとウォルコットさんが微笑ましいものを見たような笑みを浮かべている。


「あ、えっと、ご、ごめんなさい」


 慌てて口を閉じた。


「アキ様でも予想外でしたか?」


 ケイティさんは嬉しそうな表情で、感想を聞いてきた。


「それはもう。まずここが擬装とはいえ、山の中だというのが驚きです。これだけの広さの空間をこうして作り上げる建造技術もまた見事です。何より天井のあの明るさ。まるで太陽の光そのものですよね」


「これだけ広いと、灯りの術式で照らすのも効率が悪く、それに帆船の光学迷彩を確認するのに、どうしても色調や光量に問題が残るので、ここの天井は外の光を引き込んで、天井板から照らすようにしています」


 少し誇らしげに説明してくれた。外の光を集めて光ファイバーで室内に導いて照明に使う感じか。


「噂のドワーフの地下都市もこれくらい明るいのかのぉ」


「光を引き込む技術は、ドワーフ達から技術提供を受けたものなんですよ」


「さすが専門家ですね」


 なるほど。地下暮らしといっても火で灯してたら酸欠まっしぐらだし、太陽光を引き込めるならそれがベストだよね。 


「あっちで税関の連中が待ってる。そろそろ行こう」


 ジョージさんが苦笑しながら、離れた壁際に沢山の横机やパイプ椅子を並べてスタンバイしている職員さん達を指した。

 税関はこちら、という立て看板まである。そこにいる職員さん達は皆、反射加工されている腕章、ヘルメットに作業着、足元は安全靴と完全武装ってとこだけど、着慣れていない感じだ。


「お役目ご苦労様です。持ち出し品リストはこちらになります」


 ケイティさんが話を切り出すと、職員さん達はそこに空間鞄を置いて、中にいる魔導人形は全部出して、とテキパキと指示をし出した。


 馬車から取り出した空間鞄を足元に置いて、ケイティさん達が召喚すると、魔導人形の皆が床元に現れた魔法陣から出現した。

 女中人形の三人と、助手人形のダニエルさん、護衛人形の四人と、農民人形の六人だ。


 頭数が一気に増えたからか、あちこちにいた離れた位置の作業員の人達がなんか指差したりしてて注目を集めている。


「まず、私と子供一名、それに妖精と角猫の確認をお願いします。終わったら帆船を見てても構いませんか?」


「もちろんですとも。確認する品数も多いので、ゆっくり眺めて下さって構いません」


 ケイティさんの申し出も、職員さんは快諾してくれた。

 確かに順番待ちでここでずーっと立ってるだけ、というのは面白くないから、良い話だ。

 ……じっとしてられない子供対策って気もするけど仕方ない。


 許可して貰えるなら、今すぐ帆船を、このドックを隅々まで眺めに行きたいくらいなんだから。


「では、母アヤ、父マサトの娘、アキ様ですね。本人確認ということでお手数ですが、こちらの貨幣に触れてみてください」


 差し出されたのは小さなコイン。百円玉くらいの大きさだ。

 触ると壊れるだろうから躊躇していると、その確認だから気にしないでいいと言われ、そっと触れた。


 パチッと軽い音がしてやっぱり壊れた。残念、お小遣いは持たせて貰えない。


「確認ありがとうございました。明日は船旅ですから、今晩はしっかり休んで寝不足にならないようご注意ください」


 そう言って、僕の確認はお終い、横で待ってるように、と移動させられた。


「さて、アキ様の子守妖精、役職名『翁』ですね。やはり本人確認ということで、ちょっと手の上に乗ってください」


「ふむ、これでいいかのぉ」


 お爺ちゃんはふわりと職員さんの差し出した手の上に乗って、僅かに手が沈み込んだ。


「はい。確認終了です。では次、角猫のトラ吉……さん。首輪の確認をさせて貰っていいかい……?」


 職員さんは先ほどまでの様子と打って変わって、腰が引けた感じで、棒状の魔導具を手にもって、トラ吉さんに近付こうとしてる。

 というか、いつ着けたのか、トラ吉さんはシンプルな赤い首輪をつけていた。


 うーん、魔導具……?


「あれは、科学式の認証キーが入った首輪で、専用の魔導具でトラ吉の魔力属性情報とセットで、登録された魔獣か確認できるという品です」


「科学式ってことは僕が触れても大丈夫だと」


「はい。トラ吉と触れ合えなくては、何のために同行したのかわかりませんからね。あ、こら、トラ吉! 遊び心を出さない! さっさと確認を受けなさい!」


 ケイティさんが眉をぴくっと上げながら、面白いことを思いついたといった表情をしてたトラ吉さんに釘を刺した。

 あの顔は、目の前の職員さんの怖気具合をみて、揶揄うつもりだったんだろうね。

 ちっ、仕方ねーな、と言った感じにふてぶてしく、トラ吉さんはゆっくりと職員に近付いて、首輪を差し出された魔導具に近づけた。


「か、確認できました。どうぞ、ごゆっくり」


 職員さんはさっさとトラ吉さんから距離を取って、丁寧に、ご協力ありがとうございました、と頭を下げて他の人達の検査のため、というポーズを見せて逃げ出した。うん。あのぎこちない歩き方は、逃げ出したと称するのが妥当だ。


「ロングヒルでは、首輪をしていない魔獣は警備兵に駆除されても文句を言えません。首輪をつけることが必要なんです」


「にゃぅー」


 まったく面倒臭い、といいたげなトラ吉さんは首を振って、さぁ一緒に行ってやろう、と僕の横に並ぶ。


「ありがとうね、トラ吉さん」


 僕の言葉に、尻尾を振って答えてくれた。


「ジョージ、後は任せます」


「任せておけ。ところで、あそこのおっさんが、同行してくれるそうだぞ」


 ジョージさんが空間鞄からどさどさとコンパウンドボウガンやら、投槍ジャベリンやら、刀剣やらと武器を並べながら、顎を動かして、ほれ、アレだ、と雑に示した。


 珍しい態度だね、ジョージさんにしては。


 僕が目を丸くしていると、ジョージさんが苦笑して、ゆっくりしてると時間がなくなるぞ、と僕達を後押しした。



 それで、近付いてきた職員というか、作業員の人はとにかくでかかった。

 ぶっとい腕は僕の腰回りくらいありそうで、顔付きも野性味溢れる感じで、ニッと笑う様子はなんとも猛々しい。

 作業着越しにも筋肉の盛り上がりがわかるほどで、体つきはプロレスラーが近いと思う。

 ヘルメットも、安全靴も特注品のビッグサイズだ。

 見上げるような顔の位置に、首が痛くなりそうと思っていたら、その人はいきなり僕達の前で、ヤンキー座りをすると、ゆっくりと僕を、次にお爺ちゃんを、そして僕の前に陣取っているトラ吉さんを眺めて、最後にケイティさんを見ると、なんとも嬉しそうに目を細めた。


「そんな訳で、ほれ、これが腕章だ。全員付けろ。猫のお前さんはこっちのスカーフだ。見ての通り、ここは危険物が一杯だ。見学は許可するが、歩くコースは俺に従うように」


 そういって、反射加工されている腕章やスカーフを渡してくれた。

 お爺ちゃん用には、ちっちゃい人形サイズの反射加工されたベストまで用意してくれている。


 見た目に反して、気遣いが優しいおじさんのようだ。


「アキ様、離れると護りにくいので手を繋ぎましょう」


 そういって、ケイティさんが手を差し出してきた。


「おうおう、そうしておけ。ドックの底に転落したりしたら目も当てられんからな」


 がははっとおじさんは豪快に笑った。なんとも対応に困る。

 拒否権はないようなので手を乗せると、ケイティさんはなんと指を一本ずつ絡めて、いわゆる恋人繋ぎで握り締めてきた。


「ケ、ケイティさん!?」


「しっかり握っていないと、アキ様はふらふらとあちこちに行きそうですから」


 などと言って、がっちりロックされてしまった。

 うん、残念だけど色気を感じるより前に、連行されている気分だ。


「では、我らが誇る大型帆船ビクトリア号をご覧あれ。世界一の美人だからな」


 少し気取ったポーズで、手を振って僕達のエスコートを始める。

 おじさんが帆船に向けた視線は、苦楽を共にした妻を紹介する旦那、とでも言った感じで。


 でも、それがとっても様になっていた。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

投稿20分前にして、なんとか書き終えました。うーん、一時は20パートぐらい先行してたはずなのに、いつのまにやらストックゼロ。なんとか書き進めないと。

――という訳で、現れた作業員のおじさん。彼はエスコートするつもりのようですが、アキと翁のタッグがそう大人しく話を聞いている訳がありません(笑)

次回の投稿は、十一月四日(日)二十一時五分です。

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