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24-25.福慈様の召喚(中編)

<前回のあらすじ>

反面鏡(リバーサルミラー)はなんか、予想外の効果を出してしまいました。覚醒した感があって驚きましたね。伏竜さんの魔力の変化。本人が擬態特性持ちでほんと幸いでした。あれだけ違えば、飛んでる姿をみたら、誰でも違いに気付くレベルですもの。恰好いいと感じましたけどね。(アキ視点)

心話で紅竜さん、白竜さんに声をかけ、依代の君にはケイティさんが連絡を入れることで、僕が第二演習場に到着する頃には皆が先に到着している有様だった。


『皆さん、お早いですね。ご協力ありがとうございます。福慈様も変に気負うようなところがないので大丈夫でしょう』


そう言いつつ、言葉に、心話で触れた際の福慈様の感情、印象なども乗せて、雰囲気もしっかり共感して貰った。


<備えている私達の方が緊張しているというのに>


<ほんと、アキはもっと緊張感を持つべき>


あー、なんか二柱から、思念波で危険なことなのだから危機意識を持て、と注意を促された。器用に僕にだけ収束した思念波で、足元にいるトラ吉さんや、横を飛んでるお爺ちゃんには余波が流れる程度で影響は軽微ってとこか。まったく本気なんだろうけど、十分に準備と検証を終えているからこその余裕といったとこかな。


「ボクも来たから、アキはいつも通り気の抜けた態度でいていいぞ。その方が福慈殿も緊張せずに済むだろ」


依代の君はと言えば、肌寒い季節になってきた事もあって、長袖長ズボンの小学生モード全開な服装をしてる。小学生男子は冬でも半ズボンとかヴィオさん、ダニエルさんが言い出さなくて良かった。こちらの冬は熱源がない分、日本あちらより寒いからね。去年の冬も部屋着で外に出るなんて論外だったし。


「それでは、皆様、位置取りと魔法陣の関係、小型召喚される福慈様の位置について最終確認していきます。こちらをご覧ください」


ケイティさんが魔導杖を振るうと、人間サイズの大きな矢印が宙に浮かんで、下に描かれたサークルなどを指し示すようになった。ケイティさんは、小型召喚体が現れる魔法陣と、僕が起動を行う召喚陣、その斜め後方にそれぞれ、大きな円が二つ描かれていて、そこは紅竜さん、白竜さんの待機位置で、僕の立つ召喚陣の前に描かれた小さな円は依代の君の待機位置という具合だ。


事前に話は通してあるので、ほんと今回の確認は最終といったところだ。それでも、説明を受ける皆は誰一人浮ついた雰囲気はしてない。何せ、下手すれば瞬間発動の熱線術式をぶっぱなされるかもしれない、という召喚なのだから。それも福慈様本人は無意識のうちに発動されるから、無拍子、瞬間発動、発動と同時に着弾、必殺の威力というのだから列挙してみると何とも酷い話だった。幸いなのは小型召喚の福慈様と僕の間に邪魔はなく、他に狙われる相手もいないだろう状況をセッティングできたということ。


だからこそ、予め射線を遮るように、紅竜さん、白竜さんがそれぞれ単独でも十分過ぎる強度を持つ障壁を圧縮展開して、僕の身を二枚重ねで守ることができるのだ。障壁は半透明なので、福慈様と僕の間の視線を完全に遮ることはない。なので福慈様は障壁越しではあるけど、僕を認識できる。


 後は。


認識した上で、一族郎党皆殺しにしても飽き足らぬほどの積もった怨みが、街エルフだというその一点で、僕にも向けられてくるか、という一点に掛かってる。


 さてさて。


放たれてしまうのか、寸でのところで留まるのか。後は福慈様次第だ。





いつもの本人、当面は竜族限定となる方が入って行う召喚陣だけど、今回はそこに別邸から福慈様の所縁ゆかりの品、つまり鱗を持ってきて設置している。

召喚術式の起動は魔法陣任せなので楽なもの。特に気負うことはないけど、普段と違うのは、目の前に依代の君が、足元にトラ吉さんが、肩の隣にはお爺ちゃんが、そして後方には、紅竜、白竜の二柱がどーんと控えていてなかなかの人口密度だということ。嬉しいことだけどね。皆がこうして僕を守るために手を貸してくれている。


『では、陣を起動します。お二人は念の為、今から障壁の展開をお願いします』


<任せよ>


紅竜さんの返事と共に僕と召喚される福慈様の射線を塞ぐ形で圧縮された障壁が二重に展開された。白竜さんのも先日見たのより密度が増しているから、福慈様と行った検証実験で、普通の障壁だとちと強度に不安があり、より強化したバージョンに変更したってとこだろう。事前検証は大事だ。


「さぁ、早く喚べ。焦らすな」


依代の君はと言えば、目の前におやつを置かれて、待てと言われた子供のようだ。あぁ、なんでこいつはこんななのか。見た目だけなら皆にそうあれと望まれた通りの黒髪ロングな美幼女なのに。まぁ男の子なんだけどさ。これくらい小さい子だと女の子と見た目変わらないからね。本人は少年っぽい服装を好んでいるし、立ち振る舞いも男の子っぽくしてるんだけど、なんか女の子が精一杯男の子の真似をしてるようにしか見えないんだよね。うん、まぁ見た目だけならカワイイ。


 では。


スタッフさんに合図を送り、召喚陣を起動。いつも通り、すぐ所縁ゆかりの品の相手、つまり今回は福慈様との心が触れ合うのが感じられた。


<福慈様、準備が整いました。では招きに応じてください>


<あぁ楽しみだね。他の者が大きく感じるなんて、一体どれだけぶりの体験だろう>


福慈様は、そう語ると、そっと僕の招きに応じてくれた。


 そして。


召喚陣の先に、小型召喚された福慈様がその姿を現した。小型召喚されていて元の六分の一サイズの筈なのに、大型車サイズ、これまでに行った小型召喚の若竜に比べると二回りほど大きい体格だ。そして印象的なのが鱗の色合い。鈍く黒みがかった赤、そう、まるで流れ出た血のような色で、そして金属光沢は放っているものの、それは若竜達のそれや、黒姫様、白岩様達のものと比べると、かなり抑えられたものとなっていた。これが竜族の老いなのだろう。体格はご立派だけど、全盛期に比べるとずっと衰えてしまっているのだろうね。いつも寝てばかりで、心も凄く低調なんだと思う。それが鱗の光沢にも表れている。


僕の召喚だから、魔力属性は完全無色透明であり、その魔力を感知することはできない。


召喚された福慈様は寝ていた姿勢からゆるりと身を起こして、今の自分より大きな紅竜さんや白竜さんに視線を向けてちょっと楽しそうな表情を見せた。そして、視線をこちらに向けると、おっと、いきなり竜眼を使ってるね。ちょっと手を振ってアピールしておこう。


 初顔合わせですね、福慈様♪


笑顔で手を振ると、なんか酷く奇妙なモノを見た、と言わんばかりに目が少し見開かれた。あぁ、でも、少し視線を落として僕の目の前、依代の君に視線を向けて、更に驚いた表情をすることにもなった。


 あぁ、なんだろうね、このガキんちょ。


あまり刺激するような真似はするな、といい、わかったと言ってたのに、腰に手を当てて偉そうに真向から見上げて楽し気だ。彼の後ろ姿しか見えてないけど、きっと満面の笑みを浮かべているに違いない。あぁ、素晴らしい、葛藤しそれでも前に進もうとする存在、その全てが愛おしい、とか言ってるんだものなぁ。


 ん。


最悪の事態はひとまず回避に成功したと言えそうだ。これだけ長く眺めていて、意識せず嫌悪感から熱線術式が放たれる、ということが起きてないのだから。


そうして、福慈様が眺めていると、ふわりとお爺ちゃんが前に出た。


「福慈殿、そうして眺めているということはもう懸念していた問題は起きずに済んだとみて良いじゃろう? こうして会えた事を祝して、我らが女王陛下がぜひ会いたいと話しておる。招いてもよいじゃろうか?」


などと言いつつ、他の竜がコレ以上近付くな、と警告した距離までふわふわと飛んで行って、かわいく奥ゆかしい妖精さんポーズを決めてみせた。


 お。


なんかウケたっぽい。お爺ちゃんのその態度と語り掛けが最後の一押しになったのか、福慈様が纏っていた緊張感が失せたのがわかった。あぁ、もう大丈夫だ。


<あぁ、気持ちを切り替える儀式を終えるまで待っておくれ。すぐ終わる>


そう告げると、福慈様がゆるりと頭を空の方へと向けて足を踏みしめるのが見えた。……あれは確か、攻撃姿勢だったような。


 そして。


僕が問いかける間もなく、一気に膨れ上がった魔力に福慈様の角の先端が揺らぐのが見えた瞬間、天空竜の必殺技、竜の吐息(ドラゴンブレス)が空目掛けて離れることとなった。それは僕が心話で触れて垣間見た過去の技のような細く鋭いビーム兵器のようなソレではなく、広く遠くまで広がっていく、正に炎の吐息(ブレス)といったところで、ロングヒルの空を覆い尽くすように広く薄く放たれたソレは、ロングヒルの上空に存在していた雲を全て消し飛ばすことになった。


 あぁ。


なんて綺麗な青空なんだろ。……そう、現実逃避したくなるくらいとても美しく澄み切った青空で。そして、経路(パス)越しに感じられる福慈様の心も、青空の如く、澱んだ心を全て消し飛ばしたように晴れやかなものとなっていた。気持ちの切替えと言った通り、これまでに心話で触れて来たどの時より触れていて心地よい穏やかさだ。


 ただ、さ。


その気持ちの切替えに、竜の吐息(ドラゴンブレス)を放つ必要、本当にあったのか、あったとしてもせめて、撃つけど害する気はない、とアピールとかして欲しかったなぁ。


ちらりと、紅竜さん、白竜さんを見ると、二柱はといえば、特に問題視してる雰囲気はなし。福慈様だから仕方ない、ってとこか。なんだかんだと皆さん、福慈様に甘いのは、幼少の頃から面倒を見てくれているお婆ちゃんだから、ってとこなんだろうね。


 はぁ。


見れば、お爺ちゃんは儀式は終わったんじゃろ、とか言いながら、積層魔法陣を起動して、サクッとシャーリス様と賢者さんを喚び出していた。老竜を見るのは初めてだからと興味津々、同行してきたんだろうねぇ。まぁ、緊張感が薄れるのは良いことだけど、なんか一気に日常感が戻ってきた。


<福慈様、話を聞く姿勢に>


白竜さんの指摘を受けて、あぁ、と福慈様も尻尾の上に首を乗せて、すぐ争えないですよ、と襲う気ありません、という姿勢になってくれた。それを見届けてから、僕の前に展開されていた二重の障壁も解除される。


 ふぅ。


「己に打ち勝つ見事な振舞いであった。見事!」


目の前のガキんちょが、なんとも偉そうに論評してるけど、見世物じゃないってのにね。後でヴィオさん、ダニエルさんに説教して貰おう。確定だ。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


というわけで、傍目から見ていると、小型召喚された福慈様がアキ達を眺めて、なんか緊張感が解けて、なのにその直後、放射状に広域に広がる、というアキの記憶にないタイプの炎の竜の吐息(ドラゴンブレス)をぶっ放して、ロングヒル上空にあった雲を全て消し去るという流れとなりました。


時間にして僅か三十秒程度。ただ、終わり良ければ全て良し、の典型例ですね。最悪の事態もあり得たのですから。まぁ、その際には二重の障壁と、依代の君のなんか神様アタックできっと封殺してましたけど。それが起きなかったので、最良の結果と言えるでしょう。福慈様的には。ただ、きっとロングヒル王家からすれば、もう勘弁して欲しいと涙目になる案件でした。空が紅蓮の炎に焼かれ、全ての雲が消し飛ばされた訳ですからね。空が夕焼けより赤い色に染まる様などそうそう見れるものでもありません。


次回の更新は2025年2月19日(水)の21:10です。

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