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24-24.福慈様の召喚(前編)

<前回のあらすじ>

反転鏡(リバーサルミラー)を出してあげたら、伏竜さんの纏う魔力の雰囲気が変わったのには驚きました。以前が曇りガラス越しなら、変化後はガラスなしで直で見ているくらいにクリアさが段違いに。さすがにそのままでは不味いということで、擬態して貰うことになりました。いやはや、自身を偽るなんて、きっと伏竜さん以外だとボロが出たでしょうね。(アキ視点)

それから、二日後。福慈様を召喚する日がやってきた。まぁ、とは言っても、僕が起きている時間帯に福慈様が起きているとは限らないので、三日間ほど幅は設けてある。朝に確認をして、実行して問題が無いようなら、その時点で、心話で紅竜さん、白竜さん、それから依代の君に連絡を入れて第二演習場に集合して貰い、僕も第二演習場に移動する段取りだ。多少の時間はかかるとはいえ、竜の飛行速度からすれば、別邸で連絡を入れて、僕が馬車で第二演習場に移動する頃には、二竜は到着していても不思議じゃない。なので、そんな塩梅で問題なしとされた。


 さて。


シャンタールさんに用意して貰ったクラシカルワンピースは、秋冬用の厚手のロング丈で、胸元の白いフリルと蒼地のクロスタイで首元を飾り、内側に白地のワンピース、それに青地の長袖ワンピを重ね着したようなデザインで、後ろ姿は青地のロングワンピで腰には後ろで縛った飾りリボン付き、前は首元から足先までセンターが白地のワンピ、そこに肩から蒼い生地のワンピといった具合で、蒼と白のコントラストが映える御洒落さんだ。


遠目から見ても分かりやすい色合いのデザインとしてみた、とのこと。まぁ、竜からすれば人なんてどれもマッチ棒みたいなものだから、それが蒼、白、蒼と色分けされた服装をしてれば見分けはしやすいだろう。Aラインの見た目も、ぱっと見、女性とわかるから、竜目線だと識別もしやすい筈。


しっかり、シャンタールさんにも手伝って貰って、足元は黒いブーツでシンプルに。銀色の長い髪、赤い瞳も相まって、自分で言うのもなんだけど、黙ってればかなりの美少女っぷりだ。さすが元がミア姉なだけあって綺麗なんだけど、うん、この一年、僕が中の人をやってきたせいか、すっかり人相も変わった感がある。こちらにやってきたばかりの頃はまだ馴染んでなかったのか、すまし顔をしてればミア姉だよ、と言っても初見なら誤魔化せそうだったけど、今は、ミア姉の妹です、としか見えないもんなぁ。何が違うんだろう? 立ち振る舞い、身のこなし、細かい目線とか、常に絵になる凛とした雰囲気をしてたからその辺りかな。


 んー。


ちなみに、普段の身支度用の三面鏡だと、全身を完全に映すのにはちとカバー範囲が不足するので、自分用に創造術式で人間サイズの三面鏡と、反転鏡(リバーサルミラー)を用意した。どちらも伏竜さん用に創ったのと同じ、自然な色合いで映してくれる高透過(ピュアクリア)ミラーなのは言うまでもない。全身をつま先から頭の先まで完全に映せてなおかつ三面鏡などというと、まぁ、ご家庭用じゃあり得ないからね。それと反転鏡(リバーサルミラー)は、福慈様から視る僕という視点を完全に伝えきるために、左右反転でない、他人からみた僕の姿を正確にイメージできるように、と考えてのことだ。


あぁ、この反転鏡(リバーサルミラー)を見ると、ヨーゲルさんの内に秘めたドロドロした感情を宿した目が脳裏を過って居たたまれない気分になってしまう。あの後、現物は伏竜さんが消してくれていたので、改めてヨーゲルさん立ち合いの元、第二演習場に若竜の全身を完全に映せる巨大鏡をどーん、とまた創造することになったんだ。うん、触れるくらい近くまで寄って見上げてみると、いやぁ、でかい、でかい。しかも曇り一つない何とも透明感溢れる怖いくらい綺麗に映る鏡だ。自分の姿が映ってないで眺めたら普通の景色と言われたらそうですね、と思うくらいに綺麗。


そんな訳で、散々、褒められた挙句、支える構造になっているとはいえ、その構造の余りの薄さ故に、普通に鏡でこのサイズで作ったら歪んでしまうのは避けられないと言われた。そもそも、これだけのサイズなのに、上から下まで同じ薄さで均一、巨大平面となれば、歪みがでない訳がないと。確かに日本あちらでも直径八メートルのすばる望遠鏡の巨大凹面鏡は自重で歪んでしまうため、膨大な数のアクチュエータが鏡を支えていて、予定曲面からのズレをセンサーで検知してコンピュータ制御で歪んだ分を押したり引いたりして補正することで、理想曲面を維持し続けるという代物なんだよね。


僕の創造した巨大鏡はこんなものかなぁ、と創った厚みは建物の外壁をイメージして十センチ程度にしてたんだけど、後でマコト文書を調べて貰ったら、すばる望遠鏡の巨大主鏡ですら厚さ二十センチとのことで、なんと半分しかない薄さだった。うん、それじゃ歪んじゃうね。しかも鏡面で歪んだらそりゃ像が変形して一発でおかしいとバレる。でも、創造術式で出現した鏡は僕のイメージした通り、完全に歪みのない平面が実現されていて、何とも理想的だ、とヨーゲルさんにもお墨付きを貰ってしまった。


勿論、その後は、鏡の製造技法から言っても、これほどの大きなの一枚鏡を創るなんてのは、専用の設備でも用意しなければ到底無理で、更に創ったとして、それを設置するためのクレーンなども全部特注品でないと駄目、さらに自重で歪まないように、膨大な量の支柱で裏から上手く支えないといけない、といったように、その技術的難度をひたすら説明されることになった。最後は誠心誠意、謝って許して貰ったけど、作れるなら自分達だってこれを作ってみたいものだ、と言われた時の何とも悔しそうな表情には、ほんと申し訳ない気持ちになった。


そんな訳で、この鏡はビター風味な記憶を思い起こさせる品となった。


床から、天井付近まできっちり枠なしの一枚鏡、曇り止め加工みたいな意識してなかったけど、一切の曇りなし、歪みなし。おかげで、ワンピを着た僕の姿もよく映ってとてもイメージしやすくなった。肩のあたりに飛んでいるお爺ちゃん、足元に控えてくれているトラ吉さん、というセットでのイメージも本番を想定してしっかり頭に叩き込んでおく。


 そう。


今回、お爺ちゃんとトラ吉さんも立ち会ってくれることになったんだよね。特にトラ吉さんはそこにいて当然、といった態度で、頑として譲らなかった。大変嬉しい心遣いだ。


ちゃんと、背中側から見た姿も様々な角度で映して、その立体的な立ち姿を目を閉じても思い描けるようにしていく。


お爺ちゃんがふわりと前に出てきた。


「さて、アキ。ちゃんと我らの姿は記憶できたかのぉ。最後の確認じゃ」


ケイティさんに長杖を渡されて、行ったのは幻影術式。そう、しっかりと思い描いた今の装いの自分自身とお爺ちゃん、トラ吉さんを再現できるか実演してみたんだ。


 おー。


こうして幻影が出現して、鏡に映る僕自身と見比べると、なかなかにそっくりさんで結構、上手くできたと思う。トラ吉さんも少し驚いた感じながらも自分自身の幻影の周りを歩いて、匂いを嗅いだりしてた。ケイティさんも、これなら問題ありません、と太鼓判を押してくれた。


 ふぅ。


これで、福慈様との心話を行う準備は完了。いやぁ、なかなか今回は手間がかかる。とはいえ、面倒臭がって手を抜いてはいけない。僕が万全の体制を整えて、誠心誠意、後悔のないように配慮し尽くすからこそ、福慈様も精神的な拒否感を薄める事が期待できるというものだ。ここで雑な仕事をする意味はない。


いつものように所縁ゆかりの品を使った心話魔法陣を起動して、と。


<福慈様、起きてますか?>


触れた心は、ふむ、すこしまどろんでいた感じだけど、僕の心が触れた事でさっと意識がクリアになったようだ。あー、間違いなくかなり気負ってる。平静さを装ってるけど、そうでなければならない、と自らを強く律している感じだ。思った以上に僕のことを大切に思ってくれていたようでちょっと嬉しい。それほどの意識がなければ、本番を前に緊張する、なんてことも無かったろうからね。


<あぁ、目が覚めたとも。そちらの準備は良いのかい?>


<はい。この後、紅竜様、白竜様、それと依代の君に連絡を入れて第二演習場に集まって貰うので、小型召喚は一時間ほど後とお考え下さい。小型召喚なので、目線の高さがだいぶ低くなります。白竜様の小型召喚体と僕が並んだイメージもお渡ししますので、実際、どれくらいになるか、意識しておかれると、召喚された際の驚きも緩和されるでしょう。では、今日の僕の装いをお伝えしますね>


そう言って、ワンピ姿でしっかり身支度を整えて、外でお仕事をする竜神の巫女モードな様子をちゃんと伝えていった。福慈様にイメージを渡してみた印象としては、人の服の細かいデザインなんてのには全然興味が無かったそうで、色合いや光沢、それに服全体のシルエットや蒼と白のコントラストが映えるとこなど、色々と一押しな部分を示しながら説明していくと、その内容にいちいち驚いてくれた。


<服というのは手間がかかるものだね。外から眺めている分には服を着ている姿を全体としてしか意識してなかったから、その作りになんて意識が向いてなかったよ>


などと、興味津々、その生地の重ね具合や、青の外周りの生地は厚手、内側の白地の部分は薄手で柔らかさを表現していて、その織りなす印象の差にも、興味を示してくれた。そこまで気を使って作る、見せるための衣装なのだね、とちゃんと意図も理解してくれたりしてとっても嬉しい。


シャンタールさんの拘りっぷり、配慮がちゃんと届いた証だからね。良かった。一見、シンプルだけど、チープにならないよう、それに生地の厚みの差が生む内の白生地の柔らかさと、外の蒼い生地の厚手でしっかりとしたラインを作って全体として凛とした印象に仕立ててるとこなど、ほんと、拘りがあって嬉しい。おかげで、今日の僕はとっても美少女してるからね。うん、かわいい。


それと、水面に映した姿が左右反転して見えるのに対して、僕が伝えたイメージは、左右反転のない姿であり、実際に福慈様が目にするであろうそれとまったく違いが無いこと、それに念の為、幻影も出して、心話で伝えるイメージがちゃんと記憶された正しいものであることも事前確認したことを伝えると、これも何とも感心して貰えた。


召喚後に、目の前に立っているであろう街エルフの少女の姿を、召喚前からしっかりっているということは、やはり重要なようだ。特に僕の場合、魔力を視て馴染みのある色合いだ、とか感知できないってのもある。完全無色透明な属性だから、そういう、こちらの人にとっての普通な感覚がセットにならない点は重要だ。それが僕やリア姉であること、他人が化けるのは無理って利点でもあるのだけれど。


 ん。


そうして、正面からでなく、横から、後ろから、といったように様々な角度から全身像のイメージをちゃんと伝えられたのも、行き届いた配慮として感心して貰えた。水面に映すのでは角度が固定されてしまうせいで全身を余すところなく綺麗に映して、それも自在な角度でとはならないからね。その点でも、かなり好評価を貰うことができた。


そうして、福慈様に今日の僕の姿をしっかり伝え、後で召喚しますね、といって心話を終えることができた。事前の段取りも決めてあったから、当日ならまぁこれくらいで問題ない。


続いて紅竜さん、白竜さん、と心話を行い、依代の君にはケイティさんが杖を使って伝言を伝え、合流する段取りを終えることができた。


 ふぅ。


こうして、手配も終わり、第二演習場へ。さぁ、全員揃えば、小型召喚だ!

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


さて、始まりました、福慈様の小型召喚。まぁ、そうは言っても下準備して召喚するだけなんですけどね。問題は最悪の場合、瞬間発動の熱線術式をぶっ放される恐れがあるというだけで。


次回の更新は2025年2月16日(日)の21:10です。

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