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24-21.福慈様の決断、そして(中編)

<前回のあらすじ>

雲取様と伏竜さんによる福慈様の小型召喚に対する説得作業は無事成功しました。うん、まぁ心配はしてなかったんですけどね。予定していた吉報が届いたのはまぁ勿論良いことでした。これで小型召喚の日程調整に入れますから。まぁ、僕としては()()()()()()()、色々とこれまでにない振舞いをされているという福慈様をみて、伏竜さんが何を考えたのか、どう踏み込んだのか、そっちが気になるんですよね。さて上手くやってくれたのかな?(アキ視点)

他の竜と違って、本当に必要な時以外、僕と心話をしないと言ってる伏竜さんだから、ここは丁寧に言葉を交わしていくしかない。

とはいえ、地の種族と対話をしていく時に比べれると、表情の変化は僅かで少し読みにくいところはあるけれど、表情を偽るということはないし、魔力に触れていれば、大まかな感情やイメージなんかの断片的な情報も得られるから、トータルでは地の種族よりコミュニケーションを取りやすい存在だ。


勿論、天空竜の圧を柳に風とばかりに受け流せる事が前提だけれど。


<私が見たところ、福慈様にとっての最大の関心事はアキ、其方のことだ>


 ほぉ。


おや。若雄竜三柱のいずれとも違うとても面白い切り口だ。他の竜達もそれなりに福慈様の感情面、意識に踏み込んだ発言をしていたけど、伏竜さんのソレはその場にいない他者との関係に着目しているという点でとてもユニークだ。


……多分、竜社会において劣位にある事から、竜同士の単純な階級制(ヒエラルキー)だけじゃなく、竜同士の力関係、親しさ、意識なんてとこにも注意を向けざるをえない境遇にあって、それで磨かれた感性なのだろう。取り扱い注意案件だ。


『僕ですか。勿論、福慈様に強く意識していただけるのは大変光栄なことですけれど、その感心の持たれ方がどうなのか、それを伏竜様がどう感じられたか、そこが気になります』


 そう。


あくまでも、興味を持つというだけなら、竜神の巫女として、多勢力の要でもある僕のことを竜族の中でも最有力な部族、その長である福慈様が意識しないということはないだろうから、僕に注意をある程度向けておくというのは当然の事とも言える。


<各地の竜神子との交流は、まだ個人的な関係であり、親しくなるために対話を重ねていると言った状況だ。 だからその交流は好ましいものではあるが、あくまでも個人同士の関係に留まる。だが、アキの為すことは何事も竜族の部族を超えて竜族全体にまで及ぶ事が多い>


『皆さんには群れとしての意識を持って欲しいですからね。敢えて狙って動いてる訳ではないですけど、それが促せる話があるなら、より大きな影響が出るよう働きかけはします』


あくまでも、それを心に留め置いて、関連しそうなネタがあれば、少し後押しする感じですよ、と話すと、伏竜さんは苦笑した。


<そう、その姿勢だ。地の種族にとって、我ら竜族とのやり取りは常に何事よりも優先され重視される大事だ>


『それはそうですよ。皆さんは竜神とも称される程の方々なのですから』


その通りと頷きながらも、だが、と話が続く。


<アキからすれば、近しい隣人と言った扱いだろう?>


触れてる魔力からすると、個としての竜、部族としての竜、それに竜族全体、それらを指して、そう意識しているのだろう?と問われた感じか。なかなか複雑な問いをしてくる。


『そうですね。好ましい間柄にある、種の垣根を越えた親しい大きなお友達。僕の抱く皆さんへの認識はそう言ったところでしょう。種族としての竜については、多くの種族の一つ、個としては無敵に強いけれど、群れとしては殆ど動かない方々ってとこです』


個としては凄いのだけど、群れとしては活動がそもそも乏しい、だから群れとしての扱いは小さくなると補足してみた。伏竜さんの聞きたいことはそういうとこだろうから。


<そんなところだろう。そうした扱われ方も経験がなく、だからこそ福慈様は戸惑われておられるのだ。そのような扱いを受けた事など、もう記憶が薄れるほどの遠い過去の事なのだから>


 ふむふむ。


天下の大将軍でも、飼われてる猫からすれば、単なる仲良しのお友達。狩りが下手で動きが鈍い大きな飼い主で餌をくれる人。そうして、肩書を下ろして素で触れ合えて、しかもとことん自己中で、満足するとするりと逃げていく自由過ぎる振る舞いもまた良し。猫を愛するお偉方が多いのも頷けるとこだ。


 あー。


竜族の場合、無敵に強くて他を圧するからペットを飼うような話もないんだよね。それに服を着て着飾ることもないから、それを脱いで素の自分に戻ると言う体験すらない。


日本あちらの赤備えの武将の話みたいですね』


<どのような話なのだ?>


『えっと、まず武将というのは武器を持ち鎧を着ていて――』


ここで、素の徒手空拳の人が、槍を持ち、鎧を着て馬に跨って武将になる様を、長杖を出して貰って、実物大の幻影を出して説明していく。


竜には強さなんてどれも同じで弱いとしか思えないとこだから、素の人間は牙も爪もないので弱く、短刀なり棒なり持って武装してやっと野生動物と戦えるようになる、と強さの違いを示す。そして、鎧を着て、長い槍を持てば、何人もの相手も圧する強さになり、重くなった装備も馬に跨れば素早く移動ができて、槍を使えるので更に強くなるのだ、と。


そうした完全武装の重騎兵の中でも、戦場で目立つ赤い鎧を纏い、激しい訓練を経た精鋭達の事を赤備えといい、敵対する軍勢はその赤備えに畏怖の念を抱いていたってとこまで説明した。なにせ、戦場で赤い鎧は目立つ。そして、勇猛果敢に赤い鎧を着た集団がどの戦でも大暴れする。だから、敵兵達は赤い鎧を着た兵達は強者だらけで恐ろしい、と認識するようになっていったと補足した。


<目立つ鎧の色で強いと見做されるのか>


 ん。


竜族も心身が充実していて強い竜は、鱗が金属光沢を放って綺羅びやかな様相となるので、そうして自負するだけの強さがあると言うことを目立つ色彩で示すという概念にも一定の理解をしてくれた。あと、伏竜さんもよく見かける兵達は地味な色の鎧を着ているのしか見たことはなく、赤い鎧というのが目立つというのも理解を示してもくれた。


 いいね。


竜族は皆が煌びやかで多彩な色合いの鱗の色をしているから、赤が派手、という話が伝わるか少し気になったんだけど、紅葉の時期でもなければ自然において赤というのは珍しいとちゃんと理解してくれてた。


『それでですね。多くの戦場で武勇を馳せた赤備えの武将がいたんですけど、可愛がっていた甥が成人を迎えて――』


尊敬する叔父の武勇にあやかろうと、初陣に叔父の来ている赤備えの鎧を着たいと頼まれ、彼は愛用の赤い鎧を快く貸し与えた。それにより敵対する兵達は初陣の甥に対しても腰が引けていて、最初から逃げ腰で、甥は華々しく初陣を勝利で飾ることができた。


ところが同じ戦場で黒い普通の鎧を着た叔父に対しては、赤備えに蹴散らされた恨みを晴らさんと、敵兵が苛烈に遅いかかってきて、歴戦の兵である叔父は大変な苦戦を強いられることになったのだと。


『あちらの話なので、魔力は感知できず、互いに見た目だけで判断している世界と思ってください。地の種族なので竜眼もなし。なので歴戦の強者である叔父であろうと遠目には普通の武将と見た目は変わらないのです。そして赤備えではない彼を敵兵は恐れず挑みかかってきた』


そう話すと、少し考えてから、伏竜さんは考えを口にした。


<竜は服を着る必要がなく、実力は変わらずに見た目が変わる事はないが、我々で言えば輝く鱗を誇示する成竜と、同じ竜だがくすんだ色合いをした鱗をしていた場合では受ける印象は大きく変わる。その竜への畏怖や誉れは、鱗の輝きとともに消え失せた、といったところか>


 おー。


服を必要としない竜族だけど心身の調子によって鱗の色合い、輝きが変わるおかげで、見事に伝えたいことを察してくれた。いやぁ、良かった。ただ、ちょっと敏感な(センシティブな)話なので注意、注意。


『良い理解です。福慈様の戸惑いは、本来、竜族であればその身に培っていった畏怖や名声と言ったものが失われるということはそうそうなく、誰からもその強さと長としての立場である福慈様は、どのようなシーンであろうとも、強い長の福慈様だったんですね。ところが、今回の小型召喚の件では、僕が喚ぶのは福慈様ではあるけれど、強いとか長であるという部分は取っ払って、いつも魔力不足で巣で休んでばかりで精神的にも落ち込まれているお婆ちゃんの大きな竜に、ちょっと楽しい体験をして貰ってストレス軽減をして貰おう、と誘った訳です。素の福慈様というこれまでにはない扱いとなった。竜の文化では本来起こり得ない状況となった。だから戸惑われている。そんなとこでしょうか』


僕の説明に、なるほど、と伏竜さんは深く頷いた。


<そう聞くと確かに戸惑われても当然かもしれない。私は福慈様が自身の召喚に対する葛藤や戸惑い、それに悩みに対して、アキが既に準備が終わり片付いたことと認識する事への温度差に、少し年甲斐もなく不貞腐れたのかと邪推してしまった。あぁ、私がそのように邪推したことはぜひ内密にしてくてくれ。私もあの方に睨まれたくはない>


なんて感じに笑っているけど、ふむ。その観点はちょっと無かった。自分は沢山悩んでいて大事だと思うのに、大人達はちょっとした事であってはいお終い、と片付けて終わったことされた。その意識の差に子供はなんか納得できず、でも自分の抱いた思いを何と言葉にすればいいのかわからず不貞腐れた態度をとった、みたいな感じか。


 んー。


これはちょっと、召喚してみた時に魔力に触れてみてどっちなのか、或いは両方なのか、そこを精査するようにしよう。変に弄ると凄く機嫌を損ねたり、不満を持たれたりしそうだ。下手なところを踏まないように気を付けないと。


『勿論です。福慈様には変に勘繰られたりすることなく、シンプルに、気ままに魔力の減りを気にすることなく、大空を好きなように飛び回って貰って楽しんで欲しいですから。ご安心ください』


そうした配慮は得意ですから、と良心「だけ」を鮨詰めにして言葉に思いを乗せて、だから安心、大丈夫、と笑顔で伝えて見たら、伏竜さんは、溜息をつきながら、だから心配になるのだ、と思いを零した。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい。なかなかアキも地雷原でタップダンスを踊るようなとこがある話でしたね。それに、アキは伏竜からそうした話を受けても、あぁ、だから、福慈様を召喚したら会話には気を付けないと、とは言ってるだけで、福慈様との会話に切り込んでいかない、弄らないなどとは欠片も思ってないとこはバレバレです。だからこそ、伏竜も諦観の念を抱くんでしょうね。あぁ、やっぱりアキはアキなのだ、と。


次回の更新は2025年2月5日(水)の21:10です。

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