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4-3.港町ショートウッド

前話のあらすじ:館を出発して、馬車で山を登って、港町ショートウッドへ。その途中、必ず通る展望台で一休み。ミアからの手紙を読みました。

 展望台での昼食を兼ねた休憩を終えて、山を下って港町ショートウッドに向けて馬車は走り出した。

 相変わらず、乗り心地は快適そのもので、道の傾斜や進行方向の変化があるから移動していると解るけど、そのあたりも馬車の歩く速度が一定ということもあり、ほとんど気にならず、止まっているのではないかと思うほど。

 もちろん、景色は動いていて、徐々に標高も降りてくると、水田の広がる風景もよく見えてきた。


 僕達が使っている馬車道は、港付近まで続く土手の上を通っていて、他の道と交わることがないように見える。

 走ってる馬車は僕達の一台だけではあるけど、高架式の高速道路って感じかな。


「町の近辺では馬車も使われているんですね」


 遠いところには、自転車に乗って移動してる人達や、荷物を積んだ一頭立ての小さな馬車が走る様子が見える。


「以前話したように、都市間を繋ぐ道は一人が歩ける程度の細い道が整備されている程度ですが、都市を中心に広がる田畑は、農作業を行うための道が整備されており、空間鞄に入りにくい形状のものを運ぶ時には馬車も使います」


 なるほど。確かに馬車は見かけたけど数は稀だし、移動している人の大半は自転車か、徒歩だ。


「朝晩は自転車に乗る農民さん達の移動で混雑する感じでしょうか?」


 道が整備されているといっても、それほど幅もないから、けっこう交通渋滞が発生しそうにも見える。


「農民人形達は、ほとんどが空間鞄に入って、仲間の一人が自転車でそれを運ぶ感じですから、それほどでもないですね」


「あぁ、なるほど」


 人なら、鮨詰貨車に押し込んで輸送などといったら酷い話だけど、魔導人形達にはそれが当てはまらないと。


「自転車に乗れる者は順番待ちになるほどの人気なんですよ。風を切って走るのは楽しいですからね」


「それはわかります」


 コースはさほど変わらなくても、僕も自転車に初めて乗れた時のことを思い出すと、乗れるだけで楽しいという気持ちはわかる。

 それにしても空間鞄、ほんと応用範囲が広いね。一人乗りで走っている自転車に見えて、実は何十人乗りだなんて。


「ケイティよ、空間鞄に入っている時の魔導人形はどんな感じなのじゃ。あまり動けそうにもないし暇な感じかのぉ?」


「聞いてみたところ、人が寝ているのに近いとのことでした。活動レベルを最低限にして休んでいるのだと」


「なるほどのぉ。それなら自転車の運転に人気がでるのも納得じゃ」


 水田は、父さんとの訓練で外出した時にみたのと同様、細い水路が網の目のように張り巡らされていて、しっかりと水を湛えている。

 風に揺れる穂は、緑の草原といった感じで、平和そのものって感じの風景だった。





 僕達の使っている土手道は、前方で二手に分かれていて一方は展望台から見た大きな門のある大きな森に擬装されている港町に続いているんだけど、僕達はそちらには行かず、もう一方、少し離れたところにある山の麓に向かっていた。


「町には向かわないんですか?」


「私達は、ショートウッド市内には入らず、帆船のあるドックに行き、まず馬車の積み込みと、税関のチェックを受けるんですよ」


 ケイティさんが、あそこに帆船の繋留、整備を行うドックのある防空施設バンカーがあるんですよ、と指差す。


「――防空施設バンカーですか?」


「町もそうですが、貴重な帆船を海に面した桟橋に泊めておくような無防備な真似はできませんから。前方の小高い山、あれはぜんぶ人工物で、あれの中に大型帆船がいくつも整備できる乾ドックや、その整備施設、整備を行う人達の宿泊施設などがあって、あの山だけでもう一つのショートウッドの町と言えるほどの規模なんです」


 前方の木々に覆われた山を見てみるけど、標高百メートルにちょい足りないくらい。裾野もそれに相応しい広さで、普通の山にしか見えない。ショートウッドの町のほうは一番高いところでもせいぜい二十メートルといったところで、よく見ると町の周辺部の傾斜が不自然に切り立ってる感じがして、高層施設が密集していてそれを木々で覆った感じがだいぶイメージできてきた。


「でも、ケイティさん、あんな高さが必要なんですか?」


「帆船のマストはとても高さがありますからね。カッターボートを並べるのとはわけが違います」


 食堂にかかっていた絵を思い出してください、船体の何倍もマストは高かったでしょう? と補足してくれた。

 確かに。防空施設バンカーと言われて、Uボート・ブンカーをイメージしてしまったせいで、平面的で全体がコンクリート作りで天井が八メートルもの分厚さがあって空爆に耐えられる広大な施設を頭に描いてしまったけど、帆船は船体の四倍、五倍といった高さのマストに帆を沢山広げる仕組みなんだから、高層マンションを覆うような巨大な構造が必要ってことだね。

それをいくつも併設して、全体を覆って、なだらかな山に擬装して……確かに前方の小山くらいのサイズになるのも納得だ。


「あと税関でしたっけ?」


「出国するので、持ち出す資料や道具、食料品なども全て検査を受けなくてはなりません。輸出を規制されている品も多いのです」


「例えば魔導具とか?」


「そうですね。今回の私達は引っ掛かる内容が多いので、時間が少し掛かります。馬車、馬車馬、魔導人形達、空間鞄、私やジョージの自衛装備、伝文通信用の暗号表、道中で食べるようにと持参している料理、妖精に魔獣、それに何より、街エルフの子供が出国するのですから」


 指折り数えて教えてくれるけど、税関に引っ掛かかりそうなモノだらけだ。時間がかかりそう。


「といっても、予め書類検査と、館での確認を終えているので、ドックでは現物確認をする程度です」


「子供ってことは僕ですよね? 何か聞かれたりするんですか?」


「いえ。アキ様に他人が成り済ますような真似はできないので、体調を聞かれる程度ですよ」


 なるほど。唯一無二の魔力属性だから、成り済ますといってもリア姉以外はありえないし、僕とリア姉だけなら区別は簡単だ。


「それと、ドックに隣接した訓練施設で、乗船前の必須訓練を受講しなくてはなりません」


「避難訓練とか、艦内構造の説明とかでしたっけ」


「そうなります。普通の生活をしていたら見ることもない救命艇にも乗ったりできますよ」


「いいですね、それ」


「この訓練は、実際に自分が使うことを想定して、しっかり学んでください」


「いざという時、数秒の迷いが生死を分かつ時もある」


 こちらで、母さんからも何度となく訓練で教えられたことだ。


「その通りです」


 そんな話をしていたら、前方、偽装された山の麓、馬車道の行き止まりに岩肌に擬装された門が見えてきた。なぜ門とわかったかというと、僕達の姿をみて、警備をしている人達が扉を開け始めてくれているからだ。


「まるで、話に聞くドワーフの地下都市のようでワクワクするのぉ」


 お爺ちゃんが言うように、まるでトンネルの入り口って感じだ。馬車一台が入れる程度の奥には、今度ははっきりと頑丈な金属製とわかる大きな扉が閉まっているのが見えた。


「扉は三重式になっていて、一番外側の擬装扉、中扉、内扉で区切られています」


「なぜですか? 防御のため?」


「中は広いとはいえ密閉空間なので、竜の吐息(ドラゴンブレス)を吹き込まれでもしたら全員蒸し焼きで一巻の終わりです。ですから分厚い扉で区切り、外から流れ込んできた爆風などが中に入り込む前に、通路の横や上に設けられたブローオフパネルが先に吹き飛ぶことで、爆風を逃がす設計になってます」


「大きいけど、まるで戦車みたいな作りですね」


 現代の戦車は砲弾が大きいこともあって、砲塔内に弾薬を格納するスペースが確保できないことが多い。そのため、砲塔の後方に弾薬庫を用意して、必要に応じてそこから弾薬を取り出して砲撃、という手順を踏む。

 なら、そんな目立つ位置にある弾薬庫に被弾したらどうなるかというと、弾薬庫上面の蓋、ブローオフパネルが予め脆く作ってあって、先に吹き飛ぶことで爆風を上方に逃がして被害が車内に及ばないよう工夫されている。

 ロシア製のT72戦車が、湾岸戦争の頃の動画で、被弾すると砲塔内の弾薬が誘爆して、砲塔を吹き飛ばして炎を上げていたけど、あれは装甲に囲まれた車内で、爆圧の逃げ道がないから限界まで溜まって一番軽い砲塔を上に吹き飛ばすことになっていたんだよね。

 もちろん、中の人は爆圧で挽肉になった上にローストされて消し炭だ。


「密閉した鍋で湯を沸騰させて爆発させた実験があり、蓋を乗せた普通の鍋が噴きこぼれるのと比較することで、密閉施設の危険性を確認したと言われています」


 ですから、圧力鍋も手入れが大切なんですよ、と補足してくれた。

 逃げ場所のない圧力、熱というのは怖い。そうだよね。

 多分、天空竜との死闘の歴史の中で、頑丈一辺倒な施設を作って酷い目に遭ったこととかもあるんだろうなぁ……。


 僕達は中扉を抜けて、内扉が開くのを待つ。

 この向こうは、帆船が停泊する乾ドック、超大型施設だ。


 僕は秘密基地に入り込むような気がしてきて、ドキドキしてきた。

 ぺしぺしと手を叩かれて、そちらを見るとトラ吉さんが、やんちゃな子供を眺めるような顔をしていた。


 僕が緊張して手を握りしめていたのに気付いて注意してくれたようだ。


「うん、注目されるんだから気を付けないとね」


 ちょっと深呼吸をして、手をゆっくり開いてリラックス、リラックス。


「いやー、楽しみじゃのぉ。早く開けてくれんかのぉ」


 すぐにでも飛び出していきそうなお爺ちゃんを捕まえて、はいはい、と相槌を打つ。

 だけど、僕もケイティさんに、そっと膝を抑えて落ち着くよう注意されて、慌てて椅子に深く座り直す。


 そんな僕達を見て、トラ吉さんの溜息が静かな車内に響き渡った。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

アキ達は出国するために、まずは帆船のあるドックに向かうことになりました。まぁ、アキの場合、一般市民の住む町に行ったりしたら、そこら中の魔導具が壊れて阿鼻叫喚なんてことになり兼ねないので仕方ありません。もちろん、それ以外にも理由がごろごろ。アキは結構見てるようで見落としが多いので、いずれ、そのあたりは第三者視点の短編で補足しようと思います。

次回の投稿は、十月三十一日(水)二十一時五分です。

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