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24-19.銀竜の在り方(後編)

<前回のあらすじ>

森エルフのイズレンディアさんから精霊使いとしての認識、知見をあれこれ披露して貰うことができました。なかなかに面倒臭いというか、手間がかかる感じですね。最初から銀竜の人格が完成してるんじゃなく、育てていく感じというのは、言われてみれば納得です。完成品のソフトウェアをインストールするようなわけにはいかないですからね。(アキ視点)

師匠は魔術の専門家であり、心話も一応修得しているとはいえ、心話術師のような専門家ではないし、そもそも心話術師の専門家という人達が殆どいないんだよね。

心話は相手との相性にかなり左右される個人技といったところなので、魔力属性との兼ね合いもあって、実践がとても難しいんだとか。

僕やリア姉は完全無色透明という特性もあって、誰に対しても相性問題が発生しないから、そういう苦労がよくわからない。


おかげで、師と呼べるような方をお招きすることができてないというのが実情だった。


 さて。


「それでイズレンディアさん。銀竜の幻影術式に手を加えるとして、何か注意点はありますか?」


「五感を付与する場合、実際の竜の協力を得て、本当の竜との差異を修正するよう速やかに促した方がいいと思う。おかしなズレがあるまま固定されて、後から訂正するくらいなら、最初から丁寧にズレがないよう合わせた方がいい」


<それは私が協力しよう>


 ん。


白竜さんが申し出てくれたなら問題なさそうだ。


師匠はと言えば、僕達のやり取りをジッと見ていたけれど、深い溜息をついてから僕に視線を向けた。


「アキ、いいかい。ここにいる面々は皆、その道の第一人者と言えるような綺羅星だが、その幻竜使いと呼べるような術は誰も知らず、アキの創る幻竜は明らかに普通の幻術とは違う。だから、術式を発動している最中に何が起きるのか、何か問題があるのか注意を払うのはアキ自身でなくてはならない。私達は外から見て危うそうなら止めるが、アキの心の中なんてのは、ここにいる誰にもフォローはできないんだからね」


ちらりとイズレンディアさんを見るとその通りと頷かれた。


「精霊使いもアドバイスはできる。それに主の心の在りようについて問題があれば、そこを改めるよう指導もできる。だが、最終的に必要なのは主自身が己の心を律する必要があるのだ。不安定な主では、精霊もまたその影響を受けて育ち方が歪んでしまう。だから在り方が安定するまでは、注意を払うんだ」


なるほど。ほんと、最初が肝心、大変だ。





習うより慣れよ、という話であり、適切に観察して、丁寧に育てていくことが肝心のようだ。なんだか、急に病弱な子猫でも拾ってきたかのような話になってきたね。僕の場合、一日の多くを意識を失っているけれど、その間どうするんだろうか、と思ったけれど、森エルフの場合、主が寝ている間、精霊が起きているか寝ているのかは、それぞれで、決まったパターンはないようだ。精霊憑きの場合だと、主と入れ替わるように精霊の意識が表に出てくるというから、ほんと多重人格者のような在りようなんだろうね。その場合、外から観察しても違いが見て取れるそうだ。主と精霊憑きの場合、魔力属性にも違いが出てくるというから、ほんとそれぞれが異なる成長をしていく個性なんだろうね。


では、実際、幻影術式をアレンジしてみよう。と言っても、発動の手順は変わらない。長杖を構えて集中して、イメージを思い描いて点火して一気に世界を塗り替えていく。


そうして、皆が見ている前で、銀竜が出現した。


観察してみるけど、ゆるりと身を起こした銀竜は、ちょっと目を見開いて、手をにぎにぎしてみたり、地を踏み締めたり、尻尾を動かしてみたりとそれぞれを動かしながら、新たに得た感覚に意識を集中しているようだ。翼を広げて、長い首を起用に曲げて、その広がり具合を確認したりと何とも丁寧な仕草だ。


 お。


白竜さんがゆるりと身を起こすと、真似るようにと告げて、やはり手足を動かしたり、首を動かしたり、尻尾を動かしたり、翼を広げたりし始めた。銀竜もそれを見て、同じように体を動かし、そして白竜さんから広がる魔力、そこかた伝わってくる感覚、意識に全てを集中しているようだった。


なんだろうね、この心温まる光景。新入りの子猫に対して、色々と教え込んでいく先住猫みたいな感じで何ともほっこりした気分になってくる。


そんな二柱の心温まるやりとりも五分、十分と続いていくうちに白竜さんが終わりを告げた。竜眼で視ていると、一度に多く進めるより、少しずつ慣らしていくのが良いと判断したとのこと。銀竜さんもお医者様に言われた患者のように殊勝な態度でそれに従うと、一礼して自ら送還の演出エフェクトを出して消えていった。


 おー。


なんだろうね、この自動処理な感じ。だいたいお任せで、今回は僕がそうあるべきと配慮したんじゃなく、銀竜が自分でそれを選んで行った感じだ。


 ふぅ。


白竜さんも竜同士の所作が終わったので、いつものように尻尾の上に首を置いて静かに話をする姿勢に戻った。


<アキ。銀竜が今回の覚えたことを己の血肉としてしっかり修得するのには時間が必要と思う。銀竜を喚ぶのは、銀竜がソレに応える時に合わせるように>


 ふむ。


「それは僕が心の中に問い掛けて、肯定的な反応がないと思えたら喚ぶのは控える感じですか?」


<イズレンディア殿、どうだろう?>


「そうするのが適切だ。構い過ぎてはいけない。放置し過ぎてはいけない。いつでも自分の要求が通ると思わせてはいけない。でもいつも無視していて関係を悪化させてもいけない。丁度良い接し方をアキは自ら見出していくのだ」


 うわぁ。


何とも手間がかかる話だ。誰かに任せる訳にもいかないというのがなかなか厄介かもしれない。


 あー。でも。


『白竜様、こうした体を動かすのとは別に、時折、銀竜との心話をして貰っても良いですか?』


<私もそう頻繁にロングヒルに来ることはないから、心話で対話をしていけばいい>


うん、うん。了承も得られたから、これで良し。


『あー、ただ、お疲れになってまで対応してあげる必要はないですからね? 相手の心に気付かう配慮ができるよう躾けてもください』


<そうする>


ん、白竜さんもさっきの心話で、銀竜にそういった配慮するだけの経験、感覚が乏しいことも理解してくれたようだ。うん、これでまぁ大丈夫かな。





スタッフさん達が一応、魔導具で計測とかもしていてくれたようだけど、竜を通常サイズで召喚した場合よりもかなり大気に満ちている魔力への影響は少ないそうで、これは召喚した際の負担について僕の体感とも一致する。銀竜の場合、召喚に比べるとかなり必要な魔力は少ないようで殆ど負担も感じない。


その観測データの違いには、研究組も興味津々、竜の召喚についてはこれまでにも散々観測してデータを得ているので、両者の間にある明確な差が何を意味するのかなんてことについて、続々とホワイトボードが運び込まれ、幻影の大型表示用の魔導具も持ち込まれ、とにわかに場が活気づいてきた。


 で。


僕はと言えば、議論をあれこれ聞くのは古典魔術に悪影響があるからと第二演習場を追い出されることになった。


 なんだろうねぇ、この扱い。


皆して楽しそうなのに、用事は済んだとばかりに追い出されるのは、なんか釈然としない。大人達の話合いから追い出された子供のような気分だ。


一応、去り際にイズレンディアさんが精霊使いの心構えを教えてくれた。


「最初のうちは、寝ている子猫の様子を伺うように、そっと意識を向けて、こちらへの反応が乏しいようならば、それ以上の干渉を控えることだ。寝ているのを邪魔して無理に起こしても良いことはない。それと同じだ」


 おー。


流石、現役の精霊使いさん、アドバイスが的確だ。


「はい、最初のうちはそれくらい繊細に、ですね」


後は慣れていくしかない、無理のないように、と気遣いも見せてくれた。取り敢えず出だしは好調といったとこかな。


帰りの馬車の中でのケイティさんの様子がなかなか面白かった。


「ケイティさん、どうしました?」


「いえ、森エルフの精霊使いですけど、己の精霊と向き合い始めると、素っ気なくなって、皆から離れて独りでいることが増えたりと、心を病んでいるのではないかとすら感じていたのですが、そうでは無かったのか、とちょっと驚きました」


 ふむ。


「ちなみに、精霊使いの実状を垣間見て、どんな感想を持たれました?」


「大変だなぁ、と。私は己の精霊を見つけることがなくて良かったと本心からそう思います。魔導師の在り方と相容れません」


そもそも私、猫は苦手なんですよ、と笑う仕草が何ともかわいくて、眼福だった。年上のお姉さんが見せるふとしたこういう振舞いが良いんだよね。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


そんな訳で、アキと銀竜の共同生活がスタートしました。ケイティが自身が精霊使いでなくて良かったと言ってるように、常に誰かと共にあるというのは、自身を徹底して律して極めていく魔導師とは相性が悪いとこはあるでしょうね。精霊使いにして魔導師という森エルフがいないのもそういう理由があるのでしょう。


次回の更新は2025年1月29日(水)の21:10です。

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