24-16.白竜お姉様(後編)
<前回のあらすじ>
白竜さんに視て貰いましたけど、僕の銀竜は単なる幻影ではないし、召喚体とも違い、竜のようだったとのことでびっくりしました。とにかく究極の品質を、と考えて常に創るたびに更なる最高を、とは頑張ってましたけどね。まさかそういう評価になるとは。(アキ視点)
なかなか衝撃的な話をされてしまった。僕が出している幻影術式の銀竜は白竜さん曰く、トウセイさんの大鬼に近い在り方だと言う。
言われてみれば、確かに僕の銀竜は常に決まった形で出していて、僕の竜としての身体記憶と密接に結びついていて、思い描いた幻影を出しましたというのとは、違う感じもする。
『白竜様は、定番の幻影術式を出すようなことはされないですよね?』
<しないわ>
ん。
「ねぇ、お爺ちゃん。妖精さん達は空を飛ぶ時に、鳥に擬態するために、鳥の幻影を自身に重ねるように出すよね? あれってその都度変える感じじゃなく、だいたい決まった鳥の幻影を出すんでしょう?」
「うむ。そうじゃな。季節によって出す鳥は違うが、定番は決まっておる」
その季節に合わない鳥、夏毛と冬毛の違いなどがあるので、それなりに出す幻影には気を使っているんじゃ、と補足してくれた。あぁ、なるほど。確かに軍用迷彩と同じで、その地域に合った迷彩じゃないと、逆に悪目立ちしてしまうことになって意味がなくなるものね。
『白竜様、竜種の鱗はパラパラと抜け落ちて生え変わる感じ程度で、鳥のような季節による色彩の変化はないんですよね?』
<ないわ。ただ、本人の意識一つで色調は変わって見えるから、色は変わらないと言うのも正しくはない>
ほぉ。
『例えば、元気で生き生きとしていると金属光沢を帯びてキラキラして、落ち込んでいたり退いた感じだとくすんだ色合いになるとか?』
<そういうこと>
言葉に、伏竜さんのような光沢のない灰色系の鱗の色合い、あれは本人の意識の影響が大きいのかと思い、そのイメージを乗せてみたら、あっけなく肯定された。あぁ、白竜さんからみても、わざわざ目立たないようなくすんだ灰色の鱗を纏っている伏竜さんは、なんか変な竜という枠扱いのようだ。
まぁ、恋する乙女フィルタからすれば、雲取様か、それ以外ってなってるという話もあるんだけどね。
で、こちらにくる竜達は伏竜様を除くと、少し機械的なイメージすら感じる金属光沢の輝きに満ちた鱗であることからして、心身共に充実していて自信に溢れている個体ばかりを僕達は目にしていることを意味する、と。
やっぱり、振舞いや考え方とかもかなりしっかりされている方々が揃っているとは思っていたけど、心技体、どこから見ても竜族から見て、他種族に対して前面に出るに相応しい個体が選抜されていた、ってことだろう。伏竜さんはその中でのほんとの例外だ。竜族基準で言うと前に出るような竜ではない。だけど、心と技に勝り、意欲があるならば、地の種族相手ならば体は多少劣っても問題ないだろう、ってな具合だ。
まぁ、そうなんだけど、圧倒的強者故の余裕すら感じられる判断だ。
さて。
「それでお爺ちゃん。ある程度のバリエーションはあるようだけど、僕みたいに定番の幻影を出している妖精族にとって、幻影の鳥というのは僕の銀竜とはまた意味合いが違ってくるのかな。それとも似通ってる部分もありそう?」
僕の問い、お爺ちゃんは少し考えこんでから、思いを語ってくれた。
「儂らが出す鳥の幻影は、その羽ばたきといった振舞いも含めて術式任せで描いておるからのぉ。アキのように自身の中の記憶として、鳥としての身体記憶などというものは持っておらん。それに出す幻影の鳥も、自身の姿に重ねて覆い隠すように出すのが常じゃ。アキの銀竜のように別個体として出現させるものとはかなり違うとみて良いじゃろう」
なるほど。
<定番の幻影を用いることと、アキが銀竜を幻影で喚ぶのは違うわ>
『喚ぶ?』
<召喚術式を模した演出までわざわざ出しているのは、仮初の幻影を創り出したのではなく、銀竜という存在を喚んだ、とする方がアキにとって納得できるから。そうよね>
あー、うん。
『確かに、幻影の竜を創り上げるというよりは、こちらにやってきてもらう、という方が僕の中ではしっくりくるんですよね、不思議と』
<だからトウセイの大鬼に近いと言った。勿論、違いはある。それについては今後、研究組の皆で考えていくべき>
ほぉ。
『世界の間を繋ぐ術式という意味では、召喚術式は特殊ですよね。ただ、物質界でも、竜族を召喚術式で喚ぶことはできるので、召喚相手と召喚体の繋がり自体の観測はできると思うのですけど、それでも銀竜には他の価値があると思われます?』
<思う。竜の召喚という一例しかないより、比較要素があった方がいい。それにアキの銀竜は幻影というには実体を持ち過ぎていて、それでも大鬼のように自身の身体を別に構築していて、それを別空間に保管しておくようなものでもない。大鬼の変身と召喚術式の中間に位置する、そんな興味深い実例だと賢者とソフィアが小躍りしていたとも聞いた>
だよねー。
『二人とも周りが止めなければ、すぐにでも全員集めて研究するぞ、って雰囲気でしたから。まぁ、研究者ってそうじゃないといけないですよね。激しい熱量と何よりもソレを優先して、全てをそこに傾注していくような態度こそが研究者には相応しい』
<そう?>
「そういうもんじゃ。ただ、あまりに熱中し過ぎて寝食すら忘れてしまうとこがあるから、それは周りが止めねばならん。儂らや竜もかなり無理が利くというだけで、やはり寝不足や空腹は体に悪いからのぉ」
お爺ちゃんの言葉に、白竜さんも実感はわかないものの、熱中している時の研究組の姿勢を考えると、確かにずっと続けていたら体に悪そうとは考えてくれた。ふぅ。福慈様のような老竜だと殆どの時間を寝て過ごしているようだし、睡眠が大切という概念が竜種と共感できるというのは僥倖と言えると思う。
きっと、概念によってそうあれと願われて存在する「マコトくん」や依代の君にとっては、寝食なんてのは風味要素だからね。アレがチームに混ざる時は要注意だ。地の種族っぽく振る舞うようヴィオさんやダニエルさんにがっつり誘導して貰わないと、それこそブレーキが壊れた機関車みたいに走り続けることができてしまう。それに付き合う研究組は喜びながら死屍累々となるのが目に見えている。
さて。
『それで今日の確認はこれで済んだ感じですか? まだこれはやっておきたいとかあります?』
<ある。アキ、銀竜と心話を行いたいから用意をして>
え?
『僕とではなく、銀竜と、ですか?』
<そう。アキが銀竜を出現させて振る舞わせている時と同じ意識としてそれで心話をして。銀竜は竜としての経験が無さ過ぎる。けれど、私達の中で暮らす訳にはいかない。だから、心話で私の記憶、経験に触れることで不足を補いたい>
んー。
触れた感じだと、銀竜は部屋から出たこともない病弱で深窓の令嬢とでもいったイメージのようだ。しかも経験ゼロのまま、幼子のように疑いなく振る舞う様子はとても放っておけるような物ではない、と。よちよち歩きしてる幼子に思わず手が出てしまうくらいの意識っぽい。で、竜種の一般的な暮らし、活動に関するような記憶、知識が殆どないから、あぁ、これは何とかしないと、と酷く庇護欲が刺激された……ってとこのようだ。
もう、お姉ちゃん風びゅーびゅー、台風並みの突風状態だものね。
っ。
無言の思念波で、なんか酷いツッコミを受けた。早くしろ、との催促だ。
まぁ、師匠からは銀竜の幻影術式についてアレンジするな、厳禁だとは言われたけど、心話をするなとは言われてないからまぁ、大丈夫かな。
『では、本人が入る心話魔法陣の方に移って試してみましょう。物は試し。とはいえ、白竜様の言うような事ができるか自信はないですけど』
<できる。頑張って>
げ。
思念波からは、私の義妹に手取り足取り教えてあげるんだから手伝いなさい、って雰囲気バリバリだ。こういう姉に対しての回答は、仰せのままに、としておくのが弟の処世術ってもの。日本でも姉というのは頼りになる大切な人ではあるけれど、暴君的なとこもあったからねー。
<早くなさい>
『あ、はいっ』
スタッフさんにも魔法陣の中にロッキングチェアを持ち込んで貰って。長丁場、と言ってもまぁ、三十分とかだろうけどかかるだろうからね。
お。
「白竜様、アキ様、心話の後ですが、研究組を集めて話し合いの場を設ける事としても宜しいでしょうか?」
ケイティさんからの申し出に、白竜さんも少し思案したけど了承してくれた。つまり、心話をがっつりやるけど、疲れて寝るほどにはしない、ということだね。それなら、まぁ、何とかなるかな。
それにしても、こんなに注文が多い心話なんて初めてだ。ケイティさんに魔法陣を起動する前にちょっと待ってもらい、意識を切り替えていく。銀竜の召喚はしていないけれど、召喚をした時のように竜の身体を持つ側に意識を倒していって……。合図を送って心話魔法陣を起動して貰った。
いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。
ちょっとした話をしているだけな感じですけど、アキの心話は僅か三十分程度でも、丸一日話をしたより遥かに高密度な交流を行えてしまうので、実はこの心話がアキの銀竜の方向性を決める決定打になります。白竜の感情込み過去追体験みたいなのを超濃縮セットで銀竜に放り込むことになるので。
なので、はい、師匠からアキが怒られることは確定なのです。
次回の更新は2025年1月19日(日)の21:10です。