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24-13.V字編隊による試験飛行を終えて(後編)

<前回のあらすじ>

炎竜さんとV字編隊飛行をした件とか、それを福慈様と話した事について、どんなことを思い、感じたのか心話で色々と聞くことができました。福慈様は厳しいけれど敬愛もされている、そんな感じですね。雲取様がお婆ちゃんのように接しているのはちょっと独特なのかもしれません。(アキ視点)

さて、ちょっと落ち着いたところで次は氷竜さんだ。やはり、ふわりと舞って心話魔法陣に降りる姿も様になっている。


『美しい所作ですね。練習されました?』


指向性を持たせて、氷竜さんにだけ伝わるように囁き声を届けると、ウィンクをして笑みを浮かべてくれた。


<今後は大勢に観られる事にもなるだろうから、振舞いにも気を付けた方が良いかという話になってな。好感が得られたようで何よりだ>


落ち着いた思念波だけど、触れてる魔力からは想定した通り気を付けて正解だった、と小躍りするような意識が伝わってきた。なるほど、氷竜さんは見た目、落ち着いた雰囲気の鱗の色合いだけど、心の内は結構熱い感じだね。何より若者っぽい、自身を喧伝したい、注目を浴びたいという素直な気持ちが伝わってきて清々しい。


 さて。


では、心話スタートだ。


簡単な挨拶から始めて、言葉に寄らない心の触れ合わせから色々と読んでいくのは炎竜さんの時と同じ。


 ふむふむ。


そもそも、こうして心を触れ合わせて好きに読んでくれていいよ、という時点で、両者の関係がとても良好でなくては心話は成立しないという事を思い起こさせてくれるね。うん、うん。炎竜さんから、得た情報を用いた接触は敢えて控えて、状況把握と出来事の流れ、それから三若雄竜が訪れた際の光景や福慈様の出迎え方、発言、それに思念波から感じられる想いと、それを受け取った氷竜さんの意識。


 なるほど、なるほど。


同じ事象でも、見る人が違えば、これほどまでに受け取り方が違うとはなかなか面白い。事実を客観的に、とか言っても、そもそもその事象を観察している人の主観が入るから客観視というのは難しいってことなんだろう。勿論、各自の得た情報、認識を擦り合わせて最大公約数的なところを抑えればそれが起きた事象、事実ってことになるのだろうけれど。


大枠としての認識に炎竜さんと氷竜さんの違いはない。


 ただ。


氷竜さんは、炎竜さんにはないところに着目していた。


<……ふむふむ。老竜の皆さんは一日の多くを寝て過ごされている関係で、自分の知らぬところで物事が進み、変化していく様に戸惑い、寂しさを覚えられているようだ、というのは興味深い話ですね>


<当事者として振る舞うことができず、結果と節目での判断の場にしか立ち会えない事を残念に思われているようだった>


 ん。


<僕も一日のうち起きていられる時間が三分の一にも満たない有様なので、福慈様の抱かれている思いは共感できるとこがありますね>


そう話すと、氷竜さんは、その事実を思い出して、疑問を口にした。


<アキもやはり自身の預かり知らぬところで物事が動いていくことに寂しさややるせなさを覚えるのか?>


 ふむ。


まぁ、意識が落ちてる時間帯は寝てるとかじゃなく、もう何があっても起きることがない感じで、寝てるというより意識が落ちてる感じなんだよね。それに文化的な違いも大きい。個で完結している竜にとって、自身が対応できない事態というのは非常にストレスが溜まる状況なのだろう。


<僕の場合、信頼できるスタッフの皆さん、サポートメンバーがいて活動を支えてくれますからね。それに研究組もそうですし調整組もそうですけど、決めた方針に従って各自がそれぞれで仕事をしていてくれて、全体として活動は常に続いてますから。僕が関与できる部分は元々僅かしかなくて、だからこそ、大枠としての体制作りであるとか、方針決めなどが重要になるんです。で、そこさえ決めてしまえば後はプロにお任せして果報は寝て待て、と。福慈様が抱かれている寂しさは、福慈様が寝ている間、福慈様の意向に沿って動く仲間や部下がいないから起こる種族的な特性と言えるのではないでしょうか>


勿論、もっと自身が起きていられればあれもやりたい、これもやりたいと思うところはあるけれど、所詮、僕が動いてもできることは一人分に過ぎない訳で。それより体制を作って大勢に動いて貰えば、その活動は百倍、千倍にもなる。そう思えば何が何でも自分で、という意識は自然と薄れていくものなんですよ、とフォローしてみた。信頼できる仲間がいて、自分より優れた専門家がいて協力してくれるなら、その方々に自由に振る舞って貰った方がよほど良い結果が出るとも。


<……仕事を各自で分担している地の種族だからこそ抱ける意識だろう。そうか、それが群れの強さか>


氷竜さんも仕事を分担すること、そして大勢の力を束ねることで、個ではできない大きな仕事を為すことができるということ、そこに思い至ってくれた。


 あ。


氷竜さんが露骨に距離を取ろうとしてる。いけないなぁ、そういう振舞いは。距離をしっかり詰めて、心を触れ合わせて、その気付きが素晴らしいことなんですよ、と諦めて、受け入れてくれるまでがっつり褒めてあげた。


気心の知れた炎竜、鋼竜という友がいて、協力して活動してそれに利があることを共に飛ぶことで見事に体現した、偉い、偉いぞー、ってね。





やはり、というべきか、氷竜さんも拒む気持ちはないのだけれど、これ以上やると嫌われそうかな、というストレスを感じたので、心話はそこまでとした。


 ふぅ。


堪能しました。炎竜さんとはまた違う形で、気付きを得ているのがまた良い。この分なら、鋼竜さんも期待できそうだ。


何やら鋼竜さんと無言の思念波で内緒話をしているけど、その態度もかなりぶっきら棒で、氷竜さんは言うべきことを言ったら炎竜さんの隣に飛んで行って丸くなって休んでしまった。


ケイティさんからふわふわタオルを受け取って、汗を拭って、今度は甘いスポーツドリンクを出してくれた。んー、ほのかな甘みが心地良い。


<上機嫌だな、アキ>


鋼竜さんが予想通りといった風に、少し愛でるような眼差しを向けてきた。


『はい。それぞれに異なる気付きがあり、世界の奥深さを実感しました』


同じ出来事でも、それぞれ感じ方が違うんですよね、と伝えると、これには深く賛同してくれた。


<他の者との感じ方の違いは私も良く知るところだ>


良かれと思ってやった事が裏目に出る事もある、と話してくれたけど、触れた魔力からは、僕達の最初の出会いで、大きくて強い竜らしく、地響きを立てるように荒々しく降りる方が格好いいと考えた鋼竜さんは、僕からそれは逆効果だ、と窘められた際の事を思い描いた事が伝わってきた。


うん、アレは小さくて弱い相手にする振る舞いとしては悪手だったよね。萎縮させる気なら意図通りとなるけど、その気はなかったのだから。


鋼竜さんの舞い降りる所作も様になっていたから、三柱が互いを見つつ、互いの振る舞いを観て評価して、手直しして、見栄えのいい、けれど露骨でない自然さを演出する事について研究を重ねていたんだろう。凄く微笑ましい光景だったに違いない。洗練されていて無駄がない美ってとこかな。それに無駄を排した振る舞いのお陰で、威圧感もかなり抑えられていて、印象がかなり違ってるからね。雌竜視点だとまた違った解釈になるのかも。今度聞いてみよう。


 さて。


では、最後、鋼竜さんとの心話開始だ。


大きな意味での違いは無くて。雑な印象を受けがちだけど、鋼竜さんの観察眼は結構鋭いとこがあるんだよね。その後の判断が大味なだけで。 


 おや。


前の二柱と違って、竜族に変化が訪れていることと、ソレに対して僕が要として完全に中立で、他の種族と差を設けず同列に扱ってる事に、んー、不満というか、怖れのような感情を抱いている様に思えた、ときましたか。


自他ともに最強の個と認める竜族なだけに、その圧倒的な武を重視していないともとれる意識を持たれるという経験がないが故の不安、不満、居心地の悪さみたいなのを感じているよう、か。


福慈様からすれば、群れとしての強さを発揮しにくい分、他勢力が手を取り合い、劇的な恩恵を得ていること、それと三界を結ぶ利を竜族全体としては得ていないという焦燥感か。


いやー、鋼竜さん、ほんと細かいとこまで気付いてる。


まぁ、それを受けての感想が、心身が衰えて気弱になっているのだろう、とかで止まってる辺りは、竜族らしいのだけれど。


 さて。


どうするかなぁ。まぁ、ここは伏竜さん預かりかな。僕から働きかけるのは順番を守る意味でも避けたほうがいい。この件は竜同士で片付けないと。


<鋼竜様、微細な心の戸惑いまで良く観察されてますね。とても偉いです>


<そうか? 結構分かりやすい振る舞いをされていたぞ?>


あー、ほんと鋼竜さんからすれば自明の理なんだね。ただ、他の竜とその手の話をすることが無いし、そこまで深入りして話すような機会もないから、それを活かすシーンが無かったんだ。


<いえいえ、力の差があり、強大な老竜という先入観があると案外見落とすのでしょう。例えば――>


福慈様は突き抜けて最強であるがゆえに、立ち振舞いを誤魔化したり、演じるような事がないから、読みやすい相手と言えるけれど、その分、圧が強いのでこちらが平静を保つのに難儀するとか、そういう話をあれこれ振ってみることにした。


心を触れ合わせている利点を活かして、記憶の中にある福慈様や他の竜の振る舞いを見せて、竜目線だと何処に着目すべきか、なんてレベルから、あれこれ意見交換することに。


まさか、他のどの竜より話が弾むとは思っても見なかった。いやぁ、びっくりだ。なので、観察眼は優れていると、やはり目一杯褒め倒すことになった。

いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


今回は残り二柱、氷竜、鋼竜との心話で、炎竜とは異なった視点、認識部分に注目して語り合ってみました。アキも今回初めて認識した訳ですけど、鋼竜の観察眼は何気に鋭いとこがあるとわかりました。まぁ、いくら観察眼が優れていても、それに対してどう考えるか、という部分が竜族らしく大雑把な感じなのと、活かす機会がなかった感じでした。そして、アキは鋼竜が竜だからこそ注目しているポイントなどについても、褒めて、感心して、興味を示して、かなり聞き取ることができました。これがまた、アキの銀竜の演技の質を大きく高めていくことになります。


次回の更新は2025年1月8日(水)の21:10です。

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