24-12.V字編隊による試験飛行を終えて(中編)
<前回のあらすじ>
幻影術式で出していた銀竜ですけど、古典術式ということもあって、実はいろんな術式の混合といった感じになっていたようです。賢者さんや師匠の口ぶりからすると、召喚術式や、世界の間を繋ぐ経路の性質への理解を深める事にも繋がりそうでとても楽しみ。あぁ、それと三若雄竜との話し合いもサクサク進んで、参謀本部との話し合いや相談、連携もいい感じで進みそう。あと、私的な意味で皆さんが心話をしたいんですって。珍しい申し出ですね。(アキ視点)
それにしても、複数の竜との心話を続けて行うのなんて、雌竜七柱がやってきた時しかなかったから凄く新鮮な気分だ。
本人が入る心話魔法陣をスタッフさんに用意して貰い、他二柱は普段の位置で待っていてもらう。
最初は炎竜さんだね。ふわりと舞って、心話魔法陣に降りる姿も様になっている。んー、後でちょっとカマをかけて、練習したのか聞いてみるのも面白そうだね。
<さて、炎竜様。それではちょっと言葉は抜きで心に触れさせて貰いますね>
<うむ>
言語化されない素の心に触れていくと、ふむふむ。三柱で福慈様の縄張りを訪れたところ、三柱が揃ってやってきたこともあって、福慈様はちゃんと起きて、お話もしてくれたという。どこから飛んで来たのかといった事も伝えたところ、距離の割に魔力の減りが少ないことに気付いて驚いてもくれたし、それがV字編隊飛行という、これまでの竜族にはない渡り鳥の技を真似たモノであることにも関心してくれたようだ。
ただ、福慈様だけど、炎竜さんは話をしていても、少し悩みを抱えているように思えたようだ。
<伏竜様が東遷事業に参加されることや、今回、皆さんが三柱で協力して行った超長距離飛行訓練は「死の大地」の浄化作戦を見据えたモノであるとか、白岩様や桜竜様が鬼の武を取り入れて新たな飛び方を模索されていることとか、各地の若竜達が竜神子達と交流を始めて他種族の文化に触れるようになってきたとか、リバーシの遊びも初期の熱狂は少し静まってきたけど地道に楽しんでるグループが出てきてるとか、うーん、竜族社会が変化していくことに対する漠然とした不安、或いは困惑、んー、それとも変化が早いことへの戸惑い? 確かに言葉にするのが難しいふわっとした感じですね>
<あのように迷いが感じられる福慈様は記憶にない>
なるほど。炎竜さんの幼少の頃からの記憶からしても、今の福慈様のような態度を示されたことはかつてない事だと。
ふむ。
<安定している竜族社会の文化に慣れているからこそ、僅か一年で色々と変わっていくことに対して、意識が追い付いていけないのかもしれません。これは皆さん、地の種族との交流や新しい物事に関わっていく若竜の皆さんが頭角を表せるチャンスでもあり、竜族社会が不安定化することを防ぐ道標ともなりうる話でしょう>
ここで、若い子ほど先入観がなく、新たなことにも貪欲に取り込んでいけるところがあるので、この一年の変化については、成竜よりも若竜の方が変化に追随していきやすいだろうこと、老竜の方々は逆にこれまでの経験にないことが増え過ぎて判断に迷われるところが出てくるだろうことを示してみた。
同じ出来事にも若竜は興味深い、面白いと感じ、老竜は馴染みがない、これまでの価値観に比べて良いと思えない、といったように、感じ方が変わってくるのでしょうとも。
そう話すと、そこは炎竜さんから訂正が入った。
<福慈様も、変化の早さに戸惑われている部分もあるが、否定的な思いは持たれていないようだ。ただ――>
<ただ?>
言い淀んだけれど、触れている心からは言及してよいか迷いが伝わってきた。だけど、言葉を続けてくれた。
<竜の社会が変わることへの寂しさ、いや、これまでの長い経験から大きく外れていくことへの不安のような意識を持たれているように思う>
ふむ。
炎竜さんも福慈様の思いをどう捉えて良いかかなり悩まれているようだ。
んー。
<それについて福慈様は何と?>
そう問うと、炎竜様は困った顔をされた。
<恐らくご自分でも抱かれている気持ちの整理ができていないのだろう。若竜の活動もそれによって得られる刺激も、停滞と退屈に満ちた我らの社会に新たな風を招くモノとして、悪しき方向へと吹かないよう配慮は必要とは考えられてはいても、拒むつもりはないそうだ>
なるほど。
自他ともに最強と認識している個である竜族だものね。その自分達の他種族に対する関係、立ち位置が揺らぐことはない。その基盤があるからこそ、微風が吹こうとも大木は揺らぐこともない、ってとこかな。
とはいえ、炎竜さんの観察眼、人生経験の浅さもあって、福慈様の思いに共感できる部分が少ない感じか。それに竜同士の交流もどちらかというとご近所さんと軽く挨拶をするという程度で、他の竜が何を思案しているのかなど、そもそもさして興味もないのだろう。福慈様の認識、視点を持つには、部族の長としての認識を持ち、或いはそうした意識を持てる方でないと厳しそうだ。
さて。
<それで、炎竜様は僕に何か望まれてます? それとも福慈様の抱えている複雑な思い、そうしたモノがあると僕が知り、今後の交流において心の片隅にそれを意識しておいて、って感じでしょうか?>
僕の言葉に、炎竜さんは少し思案してから胸の内を教えてくれた。
<今、どうかして欲しいというのでないな。今後、我らは「死の大地」の浄化に向けた活動で、これまでにない活動を続けていくことになるだろう。我らと福慈様など長の間で衝突や交渉も増えよう。その時に両者を良く知るアキがいるだけでも心強い>
ん。
<そこで竜族の誰かだと、長側、或いは若竜側に立つ感じになりやすいですものね。あと、部族全体を俯瞰できる方となると、長側の視点になりやすいかな。しかも、若竜側の認識や意識にさほど寄り添える訳でも無し>
<我らもそう考えたのだ。アキにはどちらの側に立つのでもなく、要として、両者が正しく互いを理解できるよう助力して貰えれば幸いだ>
ほぉ。
ほぉ、ほぉ。なんと、炎竜さんも若竜故の柔軟な思考なのか、個で完結している最強の存在でありながら、足りない部分は助力して貰おうという発想、情報の重要性、両者のどちらにも与しない僕という存在への理解の深さをお持ちだ。
いいね!
とってもいい。
ちょっと感激した気持ち、褒める気持ち、それに他者を頼りつつも、長達との互いの理解を深めるための助言を求めるという配慮。それらをぎゅーっと混ぜた想いをしっかり触れ合わせて、目一杯褒めてあげた。
◇
心話を終えると、炎竜さんはぐったりとした表情を浮かべながらも、満更悪い気はしないといった感じでふわりと浮かんで氷竜さんに場を譲った。
<……やはりそうなったか>
<あぁ。私は少し休む>
氷竜さんの問いかけからしても、どうもこの流れは予想してたようだ。僕の方はと言えば、若竜の新たな可能性の萌芽を愛でることができて、嬉しい気持ち一杯、やる気一杯だ。
お、ふわりとお爺ちゃんが前に出てきた。
「何やら、肌が艶々しておるのぉ。残り二柱も続けて心話をするなら、少し落ち着いた方が良かろう」
などと言って、ふわりと水の入ったコップを物体移動で差し出してくれた。
ふぅ。
コップの冷たさが心地よい。水を飲むと体が少し火照っていた事も自覚できた。あー、うん、炎竜さんの意識の変化はとてもとても良いものだったからね。目一杯褒め倒して、僕もかなり興奮してたのは確かだった。
そんな状態のまま、氷竜さんと心話を始めるのは、確かにちょっと公平さを欠く感じになるからね。お爺ちゃん、ナイスアシスト。
いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。
ちょっと短いですけど、キリがいいので今回はここまで。
炎竜との心話によって、どうも福慈様は内心、色々と込み入った悩み、不安、などを抱いているようですね。ただ、実はこれ、炎竜はそう思った、という話。次パートで氷竜や鋼竜とも話をしていくことで、それぞれが抱いた意識、着目点などが違う事などが見えてきます。
ちと最初から投稿日がズレましたが、週2回(水曜、日曜)に投稿していきますので、今年ものんびりお付き合いください。
次回の更新は2025年1月5日(日)の21:10です。




