24-11.V字編隊による試験飛行を終えて(前編)
<前回のあらすじ>
まさか、幻影と思っていた銀竜なのに、手を薙ぎ払って地面を抉った竜爪のイメージが、実際に地面を消し飛ばすなどとは思わなかった。賢者さんが竜の吐息を吹いてみろ、とか言い出さなくて良かった。僕が知ってるのは福慈様のソレだからね。
福慈様が放つ閃光の竜の吐息は、真恐竜王が放つ内閣総辞職ビームみたいな感じ。空に向けて放ったとしても凄いことになってたかもしれない。(アキ視点)
※映画「シン・ゴジラ」は2016年放映なのでアキも観ているのです。
若雄竜三柱が戻ってくる間、ちょっと話をしておくつもりが、何故か幻影で出した銀竜に非難が殺到して、師匠と賢者さんに披露した挙句、扱う時は第二演習場で、出す際には通常の天空竜相当で扱うこと、などと厳命を下されることになってしまった。
うーん。
僕としてはもっと気楽に、そう、背伸びをしたくなった時によっと出すくらいの気楽さで出したいとこなんだけど、残念、ケイティさんからもそれは諦めてください、と諭されることになってしまった。
師匠と賢者さんは細かい打ち合わせをしておきたい、と二人してスタッフ席の後ろの方へと移ってしまい内緒話中だ。何とも楽しそう。
まぁ、師匠と賢者さんの悪巧みしているような楽し気な顔を見た感じ、僕の幻影術式はかなり稀な特徴を含んでいるようで、それが召喚術式や召喚体に関する研究にかなり役立ちそうといった話もしていたし、世界間を繋ぐ数少ない術式である心話、召喚術式、それに伝話!
そう、伝話だ!
「お爺ちゃん、伝話だけど、心話と同様、妖精界にいる本体のお爺ちゃんからこちらにいる竜達に経路を通じて声が届くってことは世界間を繋げる技ってことだよね」
僕の言葉にお爺ちゃんも、うむ、と頷いた。
「確かにそうなるじゃろう。そもそも離れたところにいる仲間に声を届ける技といった程度じゃったんだが、世界を超えると言われると誇らしいのぉ」
などと、満更でもないといった顔をしてる。
「どれも経路を使うという意味では基本となる原理は共通なんだろうね。それに僕が出した幻影の銀竜が竜族の竜爪の真似事ができた事を考えると、実は竜爪や依代の君の消滅術式って威力過剰なのかもしれない」
「物質界は魔力が希薄じゃからのぉ。妖精界のように何もかも濃厚な魔力に満ちていれば、他所からの干渉に抗う力もあるじゃろうが、こちらではそうした抵抗なしに簡単に世界を改変できるのやもしれん。賢者が喜びそうな話じゃ」
「だよねー」
なんて話をしていたら、ケイティさんが口に指を当ててそこまで、と止めてきた。
「アキ様、翁、その考察はここまでとしてください。それからこの場にいる皆様も他言無用でお願いします。この話題は研究組の扱う極秘案件相当です」
ケイティさんが杖を一振り、風を操ったようで、僕とは別の形で、視界内に見える全ての人に声を送り届けたようだ。縁堤の上に立っている森エルフの皆さんも手を振って了承の意を伝えてきた。
んー。
「ケイティさん、森エルフの皆さんってこの距離でも声って普通に聞き取ったりするんです?」
かなり離れているし、それほど大きな声で話している訳でもないんだけど。
「勿論、素で聞こえる訳ではありません。ただ、彼らに付き従う精霊が声を拾い届けている可能性はあります。本人とは完全に並行自立で振る舞いますからね。本人が意識せずとも、精霊が必要と思う声を届けているかもしれません」
ふむ。
第三者には見ることのできない森エルフに尽き従う精霊さん。ケイティさんから話を聞く感じだと空想上の友達の類に思えるんだけど、自立していて精霊術を行使するなど、実在感半端ないんだよね。とはいえ本人に誓約術式を施すと精霊もそれをちゃんと遵守してくれるという聞き分けの良さがまた面白い。
「精霊さん便利ですよね。あー、でも他人と親しくしてると嫉妬するとか言うし、結構面倒臭いか」
「森エルフが皆、無口で独りでいることを好むなどと言われているのも、付き従う精霊の影響も私は多分にあると思っています。彼らは独りでいるように見えて、独りではないのです」
なるほど。
ん、お爺ちゃんがふわりと前に出てきた。
「ところでアキ、銀竜を出している時のアキは普段とちと違うように思うんじゃが」
んー。
「あくまでもアレは演技であって、僕が思う、銀竜という存在らしい振舞いをしているだけだから、竜種からすれば、きっと過剰に特徴を強調した役者みたいに感じられるんじゃないかな」
「アキが思う竜らしさというと、模範とするのは雌竜達かのぉ?」
「まぁ、そうだね。これまでに交流があった雌竜の皆さんの示す方向性、ソレに僕らしいアレンジを加えたってとこ」
なんて話をしながら、ランチを食べているうちに、スタッフさん達から、警戒網に若雄竜三柱の編隊飛行を捉えた旨の報告が届いた。
おや。
思ったより福慈様とのお話は短く終わったんだねぇ。さて、ならお迎えしよう。
◇
若雄竜三柱が上空で一糸乱れぬV字編隊を維持したままゆるりと一周してみせると、何と三柱揃って綺麗に土埃一つ立てず同時に着陸するという魅せる降り方をしてくれた。
おー。
目一杯拍手をして、あー、ちょっと工夫して叩いた手の音に感激した思いを乗せて響かせると、ん、いい感じだ。三柱もちょっと驚いてくれた。
『皆様、初めてのV字編隊飛行の長躯お疲れさまでした。揃った振舞いはとても格好良かったですよ』
僕にもわかるくらい、魔力が目減りしているからね。やっぱり竜族にとって福慈様の縄張りまでの距離、ロングヒルからだと往復約五百キロくらいだけど、それなりの遠出だったのは間違いない。とはいえ、んー、白岩様と一緒に飛んだ連邦行きの時と比べても魔力の減りは似たレベルじゃないかな。ソレって凄いことだよね、きっと。
<アキも先ほどの拍手に思いを乗せた小技は小気味良かった。アキの振舞いを見ていると、思いを乗せる技はもっと自由であって良いと認識が改まるぞ>
炎竜さんからも褒めて貰えて嬉しい。
三柱の魔力に触れてみると、ふむふむ、ほんと均一になるよう交代して飛んでいたようだね。目減りした分がだいたい同じだもの。
『かなりの手応えを感じられたのではないでしょうか?』
そう話を振ると鋼竜さんが疲れと満足感を足したような良い表情を浮かべた。
<長い距離を大勢で飛び、消耗をできるだけ抑えるのであれば確かに有用な飛び方だろう。ただ、普段、誰かのすぐ後ろを飛ぶなどということはなく、誰かにすぐ後ろを飛ばれることもない我らからすると、随分と心を擦り減らす飛び方だったのも確かだ>
あー。
伝わってきた感覚からすると、竜同士は本来、ずっと距離を広くとるものであって、誰かと飛ぶならば並んで飛ぶ。それであれば多少、飛び方がブレても衝突の危険性はないからだ。
それに比べてV字編隊飛行は、常に先頭の竜の翼端が生み出す渦に自身を乗せることで浮力を稼ぐ技法だ。だから距離は竜族の感覚からすれば、本来あり得ないほど近距離を飛んでいて、しかも、常にぴったり寄り添うように位置しているのだから、精神的に擦り減るのも当然だろう。
何せ、後方で翼端渦に乗れる距離とはすなわち、後方の死角であり必中の間合いなのだから。
『皆さんが互いに信頼し合ってるからこそ成し得る飛び方ということですね。それで、他の竜達の興味は惹く事ができました?』
<飛んでいるコースを多くの竜が認識できる高度にしたのと、普通ならあり得ない間合いで整然と飛ぶ我らはとても目立ったようだ。代わる代わる、それは何の遊びだ、と皆に聞かれたとも>
氷竜さんが珍しく少し誇らし気に応えてくれた。
それから、誰と何を話したとか、長い距離を飛んでいる割に魔力の減りが少ない事に気付いた竜も多く、それなりに興味を惹けたこと、それから、ソレが「死の大地」の浄化という空前絶後となるであろう一大作戦において、大勢の竜達が参加する際に必要になる技法だということにまで踏み込んで興味を示した竜もちらほらいたと言う。特に若い竜達は、単に大勢で出かけていくのではないと感じたようで、揶揄うような真似をする者はいなかったという。
ほぉ、ほぉ。
これはなかなか、幸先の良いスタートだ。
それにお爺ちゃんが驚かせてプレゼン成功となった伝話についても興味津々、相手に向けて放つ思念波と違って、相手に顔を向けずともとてもクリアに声が届くことに彼らはその優位性を理解してくれた。それと、V字編隊飛行で位置を交代する際にも、伝話があれば便利だろうと強く感じたそうだ。
うん、うん。これもまた良し。
すかさず、伝話の技については参謀本部の近衛さんが同じ技の使い手であり、三柱への専任として担当する旨を話して、双方挨拶も済ませたりと、これもまた和気藹々と良い雰囲気に。
日程を決めての長距離省エネ飛行レースについては、様々な天候、風向き、高度など気が済むまで検証を終えてから万全の準備を終えて挑みたいと意気込みも語ってくれた。こちらについても、目上の方々に技を伝える際のノウハウについては参謀本部の皆さんが専門であることを伝え、力ではなく技を持って相手の心を納得させる方法について、色々と相談して上手くやっていきましょう、と話すと、三柱もそれはありがたい、とやはりこれも参謀本部と今後、相談していく旨を了承してくれた。
おー、なんか凄くさくさく決まっていいね。
それと研究所のスタッフさん達がこういう技の検証についてはその道の専門家集団であり、何をどう検証していくのが良いかアドバイスできる旨も伝え、実際に、風向きや高度、時間帯や天候などについて組み合わせ表を示して、試すパターンを吟味することで組み合わせ爆発を防いで少ない試行回数で検証を効率よく進める術などもフォローできますよ、というとこれも三柱は大いに喜んでくれた。
どうも、自分達だけで手探りであれこれ試していくとなると、なんか面倒臭そうという印象を抱いてたそうだ。まぁ、そうだよね。紙と鉛筆もなしに、パラメータだけでも片手で足りないくらいあるのに、それのどれを試したのか、何を確認すれば検証したと言えるのか、なんてことを記憶力だけを頼りに試していくのでは気が遠くなりそうだもの。
……そんな感じに、V字編隊飛行の検証や、それに伴う参謀本部や研究所メンバーとの繋がり、伝話の技を伝える件などはもうちょっと何か揉めるかと思ってたけれど、そんなこともなくサクサクと決まって行って、ちょっと拍子抜けしたくらいだった。
ただ。
そうしてじっくりあれこれ話し終えた後で、炎竜さんがところで、と切り出した話は予定外の申し出だった。
『皆さんと心話、ですか?』
<そうだ。さして時間は取らせぬ。ただ、我らとそれぞれ心話をして欲しい>
ふむ。
『それは勿論、構いませんけれど、えっと、何か内緒話ですか?』
ただ、内緒話だとしたら三柱全員と行うというのは、ちょっと理由が思いつかない。
<上手く言葉にできない、ちと込み入った件だ>
触れている魔力から伝わってきた感じからすると、うーん、福慈様絡みであり、竜族という種族全体の話でもあり、竜神の巫女としての僕の話でもあり、それでいて私的で、内緒話。あと、これは福慈様からの指示でははなく、彼らが自主的に考えた事っぽい。
ただ、真摯に向き合わないといけない案件だってのは理解できた。
『では、本人が入って行う魔法陣を使って心話を行うことにしましょう』
スタッフさん達にお願いして、心話魔法陣に場所を移して三柱とサクサク心話をしていくことになった。
ん。
あー、やっぱり僕との心話には、三柱とも少し精神的な抵抗があるようだね。苦手意識を持ってるようだ。うーん、なんでだろう? まぁ、それでも心話が必要だ、と彼らが判断したのだから、その決断は尊重して向き合うことにしよう。
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幻影術式の銀竜、どうも色々と稀有な特徴を備えているようです。まぁ、これは古典魔術の特徴でもあるんですけどね。ソフィアがその辺り、研究組を集めた検証の際にはあれこれ説明してくれるでしょう。現代魔術は魔法陣を用いて精緻かつ無駄を廃した思想で構成されているのに対して、古典魔術は望んだイメージを思い描いて発動、というごった煮状態、多彩な術式の複合といった有様なのです。ある意味、無駄がとても多いんですが、その分、柔軟かつ望んだ結果を実現できるってわけですね。なお、一般的な魔導師がアキみたいな雑な使い方をすると、魔力が足りなくて魔術が成功しないです。
さて、2024年もこのパートで最後の更新となりました。2025年も引き続き、週2回の投稿ペースで更新していきますので、のんびりお付き合いください。では皆様、良いお年を。
旧:次回の更新は2025年1月1日(水)の21:10です。
新:次回の更新は2025年1月2日(木)の21:10です。




