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24-9.幻影術式の銀竜(前編)

<前回のあらすじ>

三雄竜にあれこれ説明して、さぁ、なら軽く実地試験をやってみましょう、と福慈様のところまで飛んで貰うことにしました。それなりの距離があるので、V字編隊飛行の試験としてはちょうどよい距離でしょう。ある程度遠くないと、魔力消費がどの程度低減できるか実感が持てませんからね。(アキ視点)


タイトル変更しました。

旧:24-9.V字編隊の試験飛行を終えてみて(前編)

新:24-9.幻影術式の銀竜(前編)

ケイティさんがそろそろですよ、と声を掛けてきた。


「アキ様、そろそろ三柱が福慈様の縄張りに近付く頃合いかと」


 ん。


「では、ちょっと心話で話を聞いてみましょう」


スタッフさんに心話魔法陣の用意をして貰い、所縁ゆかりの品をセット。


<炎竜様、そろそろ福慈様の縄張りに到着する頃合いでしょうか。V字編隊飛行の調子はどうですか?>


そう切り出してみると、ふむ、あー、成否相反するみたいなごちゃつき具合か。


<アキか。済まないが今、先頭にいる氷竜に切り替えてくれ。心話をしつつ後ろを飛ぶのは辛い>


 ほぉ。


<はい、ではそのように。後で心話をしつつ飛ぶ事の面倒臭さとか教えてください>


<うむ>


 おやおや。


心を触れ合わせた感じだと、自転車を運転しながら音声チャットをするより酷く、手元のスマホを操作するくらいの難度ってとこか。前方不注意どころじゃないね。周囲への注意力散漫どころか、周囲への意識が消え失せるくらい危ない。


心話を早々に切り上げて、スタッフさん達にその旨を伝えて、今度は氷竜さんの所縁ゆかりの品に切り替えて、と。


<氷竜様、お忙しいところすみません。飛びながらの心話って大変なようですね。そろそろ福慈様の縄張りに到着かと思いますけど、V字編隊飛行を試した感じはどうですか?>


 ふむ。


こちらは先頭にいて、前に合わせて位置を微調整しながら飛ぶ必要が無い分まだマシ、と。でもずっと前方まで視野を確認して暫く問題が無いと確認して、意識を完全に僕の側に向ける感じだから、外部への認識を殆どカットしてるようだ。


<面倒だが確かに恩恵があることは確認できた。アキが言うように風向きや飛行速度による調整は様々なパターンに応じて行う必要があって、一朝一夕に会得できるものではないだろう。危ないから心話はこれで終わりだ。後はそちらに戻ってから話すとしよう>


 ん。


<はい。では、福慈様には体験を伝えて、協力する事の強さをアピールしてくださいね>


<任せておけ>


心強い返事も貰えて先ずは一安心。省エネ飛行自体は手応え十分で、竜が群れで協力して飛ぶことで超長距離飛行を可能とするという策は十分役立ちそうだ。


 んー。


ただ、飛行中の心話は駄目だね。心同士を触れ合わせる関係で、意識が全部内側に向いてしまい、五感を自ら遮断してしまう事になる。これまでに飛行中の竜と心話をする機会がなかったのは、戦闘機がその運用の九割九分の時間を地上で過ごしているのと同様、竜族もまた、飛行している時間はさほど長くないということの証左なんだろうね。今回はたまたま飛行中の時間をピンポイントに選んで心話を試みたから、そのレアケースにぶち当たったと。





心話を早々に切り上げて、参謀本部の皆さんやスタッフさん達に話した内容、感じたことを伝えると皆さん、頷いてくれた。


ふわりと近衛さんが前に出てきた。


「飛行中における伝話の優位性が証明されたと言えそうだ。伝話の場合は経路(パス)を伝って声を届ける。五感の中の聴覚にだけ働きかける技と看做すことができる。それならば意識は外に向いたままで、少しだけ届いた声に意識を向けることもできるだろう」


「相手が召喚体なら、召喚術式の繋がりを利用して声も届けられるんですけどね。今回のように竜本体相手だと伝話一択でしょう」


妖精族の場合、物質界(こちら)にやってくる場合、全員が召喚されてくるから、妖精さん達相手だと伝話が使えなくても、伝話っぽい事ができるんだけどね。あー、でも召喚術式での繋がりって相手と完全に太いパイプができてるような感じで、話に聞いている伝話のソレとはまた違うっぽいんだよね。シャーリスさんの伝話を使って届いた声も、召喚術式の繋がり経由とは違って、心に直接響いてくる感じだった。うーん、結果は同じように見えても、実現方法が実は違うんだろうね。難しい。


また、飛行中の心話の危険性と、これまでそうした事例がほぼ無かった理由として、竜族というと飛んでいるイメージが多いけれど、実はほとんどの時間を地上で過ごしている、という話をしたら、皆さん驚いていた。まぁ、無理もないか。僕は地球(あちら)の知識があるから、潤沢な訓練を行っている日本のF15戦闘機乗り(イーグルライダー)だって年飛行時間は数百時間ってとこだもの。時間にしたら年に十日間も飛んでない計算だ。戦闘機というと空を飛んでるイメージが強いけど殆どの時間は駐機してるってことだね。


ホレーショさんが手をあげた。


「渡り鳥は何ヶ月と空を飛び続けて遥かな南方の地と北方を行き来しているが、それほど長時間飛ぶのは鳥類でも稀という事か」


「そうでしょうね。近場で見かける鳥も殆どの時間は巣にいるか水辺に浮いてるってとこですから」


あちらの研究として、渡り鳥の場合、風を上手く利用することで殆ど羽ばたくことなく滑空することや、そのために翼を固定することには殆ど筋力を必要としないこと、また、脳を半分ずつ休ませる半球睡眠をしたり、数秒から数十秒程度の短い睡眠を行うことで必要な休息を確保するなんてこと、それから、渡りをする鳥は高アスペクト比の翼、翼が長く細いので滑空に向いていることをなんかを話した。

定住型の鳥の翼は低アスペクト比、つまり翼が短く丸い特徴があり、急激な方向転換や着地が容易になる特徴があるんだよね。


ケイティさんが手をあげた。


「竜族の場合、翼のアスペクト比は猛禽類のソレに近いように思えますが、鳥類と違って飛行時に羽ばたきがないのでその飛び方はかなり独特ですね。それに狩りをする際も急降下はするものの、仕留める際には熱線術式を使うのが常で、足は鳥の鉤爪のように相手を掴むような構造にもなってません」


うん、そうなんだよね。


物質界(こちら)の天空竜は翼があって空を飛ぶから鳥に似てるかというと随分違うんだよね。翼は羽ばたかない折り畳み式固定翼といった感じだし、足は着地用の膠着装置(ランディングギア)といった感じで、歩くのもそう得意ではなく、足で何かを掴むといった鉤爪のような事もできない。翼とは別に手があるというのも独特だよね。その手も首や尻尾が長大なのに比べると結構短い。とはいえ、ティラノサウルスみたいにちっちゃくもなくて、腕の作りや手の大きさだけでみると人に近い構造とも思う。


竜族の感覚があった頃の記憶が懐かしい。人はなんて首が短いんだ、どうして尻尾がないんだ、あぁ、翼が無い、足がやけに力強く歩きやすい、とかいやぁ、ほんとあの時は感覚のズレに酷い違和感を覚えたものだった。


 ふむ。


「ちょっと、三柱との対話の前の練習でもしてみますか。竜の身体操作的な部分なら僕も御見せできますから」


そう提案すると、察しの良いケイティさんが何かすぐ理解してくれた。


「銀竜ですね?」


「そう。近頃ちょっと出してないので、翼を広げる意味でもちょうどいいかなぁ、と」


参謀さん達も見たのは一回だけだったから、まぁ、いいかと頷いてくれた。


それで、ケイティさんに長杖を用意して貰って、少し離れたところに銀竜を出したんだけど。


 あぁ、いいね。


幻影の銀竜と僕の内にある竜としての身体記憶がしっかり馴染んで実に開放感がある。それに前回のように狭い連邦大使館の庭先に出したのではないおかげで、身体を小さく縮こまらせておく必要もない。


羽を大きく広げて見たり、首を自由に広々と動かしてみたり、尻尾を含めて体を伸ばしてみたり。うん、いいね、とっても。


どうせなら、とここに来ている竜族を真似て、優雅に翼を広げて少しふわりと重力を無視して浮いてみたり、とか。


 あれ?


なんか、皆さん、少し、いや、結構引いてる感じなんだけど。あれ?


『久しぶりに会うたのに、そのような態度は悲しいぞ?』


いつもより力を込めて寂しさと揶揄いの気持ちを乗せた声を皆に届かせつつ、その声にいい反応を示してくれたマサトミさんに対してゆるりと首を動かして、竜眼で眺めるような仕草をしつつ、少しだけ口を開けて頭を傾けてみた。


「い、いや、そのようなつもりは……」


『良い、良い。心を偽るだけ無駄というものよ。我らを前に示すべきは揺るがぬ心。其方らは心を奮い立たせればよい』


なんていいつつ、皆をゆっくりと眺めてから、他の竜達と同様、身体を伏せて尻尾を体に沿わせてからそこに首をゆっくり置いた。羽も畳んで、これでよく見る竜達のお話ポーズ完成だ。


『さて、では少しの間話すとしよう』


などと言ってみたのだけど、ふわりと目の前に出たお爺ちゃんに中断を余儀なくされることになった。


「アキ、そこまでじゃ。ちと演技に熱が入り過ぎておる。これでは活発な議論などできまい」


なんて言われて、はて、と皆さんを見てみると、あー、うん、確かに何故か、本当の竜と対峙しているかのように身を緊張させている人ばかりだ。残念、失敗、失敗。


『またの機会に会うとしよう。さらばじゃ』


他の召喚された際の竜と同様に軽く挨拶をしてから、召喚体が消えるような演出も加えて銀竜の幻影は消えていった。


 うん、うん。


我ながら上出来の演出だ、とニコニコしてたら、肩の力が抜けた皆さんからやり過ぎだ、と非難が殺到することになった。えー。

いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、今回はちょっと短いですけど切りがいいところまでということでここまで。


アキも自由に演技したように、竜の体からすれば狭過ぎる連邦大使館の庭先の時と違い、制限なく幻影の身体を動かすことができて、だいぶ楽しむことができました。生々しいと黒姫や白岩様からお墨付きを得たニューバージョンですからね。全身の挙動、巨大さも相まって、かなりの迫力となっていました。

あと、次パートで明らかにされますが、実はアキの幻影は幻影術においてもかなりヤバい域に達しています。達人域と言っても良いレベルであり、色々と怪しい付随現象が実は起きてました。アキはノリノリで演技をしてた事もあってそんな些細な部分には気付きませんでしたが。


次回の更新は2024年12月25日(水)の21:10です。

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