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24-8.竜達によるエコな飛行レース(後編)

<前回のあらすじ>

三雄竜(炎竜、氷竜、鋼竜)が集い、V字編隊飛行について説明を一通り聞き、福慈様のとこまで飛んで行き、その成果を見せてくるということになりました。なんでしょうね、彼らの腰の引けた態度。もっと福慈様相手だろうと、ぐいぐい前に出る押しの強さが備わって欲しいものです。(アキ視点)

若雄竜三柱が福慈様の縄張りへとV字編隊飛行で去って行ったので、スタッフ達と同じ控えにいた参謀本部メンバー達向けのテーブル席が用意され、彼らと先ほどの三柱との会話や、気付いた点、戻ってきた時に何を主題として話すか、なんてことを打ち合わせることにした。


 ん?


お爺ちゃんがちょっと待て、とジェスターで伝えてきた。目の前に、先日見たシャーリスさんが展開していたのと同じ魔法陣を出してる。


『編隊飛行をしている皆に妖精が遠い地にいる仲間に言葉を送る技、伝話について公開演技(デモンストレーション)をしておこうかのぉ。今、儂らは遠く離れていて、普通の手段では声は届かぬが、こうして経路(パス)を通じて相手の心に声を直接届ける事ができる。便利じゃろう? きっと、竜達の速さで、広い空を飛び回りながら連絡を取り合うのには必須な技となろう。興味があれば我らの技を教えても良い。竜の思念波、アキの意思を乗せた言葉、儂らの伝話、それに心話。それらの違いについて考えを巡らせるのも良いじゃろうて。では連絡は終わりじゃ。なお、そちらからの声はそちらから伝話を使わねば届かぬ』


 ふむ。


「お爺ちゃんも不特定多数への伝話はできたんだね。それで敢えて彼らが遠く離れてから行った理由は?」


「普通では届かぬ距離から声が心に響いた方が面白かろう?」


なーんて、悪戯成功って顔をしてる。まったく、いい性格をしてる。まぁ、お爺ちゃんもはっきりとは明かされてないけど、「今は」仕事から引退した好事家ディレッタントだとか言ってるし、いざとなるとシャーリスさんにも説教をしてたりするし、宰相さんなど含めて妖精族の重鎮さん達相手に、どう見ても、上から目線な発言をしてて、相手もそれを当然と受け入れているし、結構な地位にいたんだろうね。で、そういう地位にいるなら、シャーリスさんと同様、不特定多数相手に演説を聞かせるようなシーンは当然ゴロゴロしてた、と。


 なるほど。


そこで、ふと疑問が浮かんだ。


「ねぇ、お爺ちゃん。伝話って経路(パス)を経由して声を届ける技だったよね? となると、さっき、目の前に魔法陣を展開していたけど、実際には、妖精界にいるお爺ちゃんの本体と相手との経路(パス)で相手に届くってことになるよね」


「じゃろうなぁ。面倒臭い話じゃが」


「となると、展開してた魔法陣経由じゃないんだよね? 本体側で魔法陣を経由しないで何で使えるのか気になった」


 ね。


さっきの魔法陣がハンディスピーカーみたいなモノだとしたら、本体側が使わないで、召喚体側が掲げていても意味ないんじゃないかなぁ、と思える。


「それはじゃな。この魔法陣は内に向けて、つまり術者の心に働きかける術式だから意味があるんじゃよ。そもそも経路(パス)は存在同士の関係、縁、繋がりそのモノじゃからして、外に発した声を自身の内に戻すような真似はできんのじゃな。先ほどの魔法陣は識別した相手への声の大きさの調整を肩代わりしてくれる、ほれ、地球あちらで言うところのコンピュータのようなもんじゃよ」


 ほぉ。


「それはまた便利だね。お爺ちゃんは三雄竜それぞれへの経路(パス)の太さは特に気にせず、三人に対して伝話をざっくり行う。そしてそれぞれへ送る声の大きさは展開した魔法陣側が担ってくれるからお爺ちゃんは気にしないでいい、と」


「そういうことじゃ。そもそも、多数が飛び交う空域において管制官が多くの仲間に指示を飛ばす際に、相手に応じていちいち声の調整なんぞしてはおれんからのぉ。個人に届けるか、特定のチームを対象とするか、全員を対象とするか。そんな切替を先ほどの魔法陣が行うんじゃよ。ちなみに詳しいことを聞かれても仕組みは儂も知らんぞ。心の隙間に魔法陣を入れて貰って、儂は使っておるだけじゃからのぉ」


 なるほど。


賢者さんみたいな人なら、仕組みを理解した上でそういう面倒臭い外部オプションみたいな魔法陣も使えるけど、普通の妖精さんは魔導具を使うように、誰かが精緻に作り上げた魔法陣を使うだけ、ってことか。なるほどね、それは面白い。





そんな話をしているうちに、参謀の皆さん向けのテーブル席も用意が終わった。


「伝話だが、実際に教える作業は、うちの近衛が担当するよう仕向けてくれよ? そもそも翁はアキの子守妖精であって離れて行動はできんのだから」


シゲンさんから苦言を呈されることになった。むぅ。まぁ、実際、最初に近衛さんがやるよ、と話してから伝話をして貰っても良かったね。まぁ、過ぎたことは仕方ない。


「はーい。えっと、近衛さんも立場上、先ほどのようなあまり馴染みがない相手への伝話も行えるってことです?」


そう問うと、ふわりと前に出た近衛さんは、お爺ちゃんに対して尊敬の眼差しすら向けて答えた。


「できなくはないが、ソレはずっと先の応用技だ。最初は親密な相手との間で心を届けるよう訓練をする。その中で経路(パス)という存在に気付き、それを利用するという手順を踏まなければ、伝話は成功しない。だから、私も伝話が使えると示した後は、頻繁に三雄竜達と会話をして互いの認識を深めつつ、こちらから経路(パス)伝いに言葉を何度も送り届けて、経路(パス)って貰う事になるだろう」


 おー、なんか本格的だ。


っていうかさ。


「お爺ちゃん、今の話を聞くと、僕の時、凄く途中を端折って伝話のこと説明してたよね」


そう問うと、はて、なんのことやら、とお爺ちゃんは笑みを浮かべる。


「儂とアキの間であれば、十分親密な関係となっておったからのぉ。そうした手順はなくとも何とかなるじゃろうと思ったんじゃ。結果としてすぐできた」


「なんちゃって伝話、経路(パス)を使わない別の方法になってたけどね」


「うむ。儂も違いを聞いて吃驚したわ」


あー、なんて白々しい。結構面倒臭い技っぽいし、召喚術式で経路(パス)をずっと使ってるから、同じ経路(パス)を利用するような技を試すのは避けた、とかそんなとこだろうね。面倒臭がって、端折っただけ、という可能性もあるけれど。


人族の提督ホレーショさんが口を開いた。


「それで、「死の大地」の浄化作戦、それに搦めて、今回のV字編隊飛行による集団行動を行うという呼び水は上手く働きそうな手応えはあっただろうか?」


 ん。


「そうですね。彼らの飛行距離からすると、何百という竜が「死の大地」で作戦行動を行うために近場に集結すると、きっと魔力を補給するポイント、つまり巣の供給が間に合わないと思うんですよね。それは彼らも認識していて、だからこそ、もっと広い範囲から飛んでくる必要がある。となると、できるだけ消耗を抑えて飛んでくる必要があるが、それを可能にするのがV字編隊飛行だ、と。ここまではちゃんと理解してくれてましたよ」


 ここまでは、と強調する。


「ではどこが危うかったと?」


「危ういというか、意識してる範囲が狭い印象は受けましたね。大勢の竜達にV字編隊飛行の優位性を知らしめる。それによって、大勢の竜達は自分達もそれを修得しようと賛同する。そこにどうも意識の飛躍というか、そうしたステップを踏める段階にある竜は少なそう、その意味をちゃんと理解できる竜が少ないだろうと彼らも思ってるっぽい感じなんですよね」


これは、魔力を触れ合わせていたからこそ感じ取れた部分だ。まぁ、V字編隊飛行をまだ試してなくて、手応えを感じていないからこその「ふわっとした感じ」だったのかもしれない。


「では、実際に試して実用性を理解したならば、多くの竜にそれを知らしめ、興味を惹くことは可能だと」


「んー。まぁ、そうなんですけどね。そもそも、竜達が多くの仲間に何か意思を伝えるって、各部族の長が皆を集めて考えを伝えるってルートしか今は無さそうなんですよ。だから当然、若雄竜三柱にそうしたことを行う術はないし、また、V字編隊飛行について試してもいない長の竜が語りかけても説得力は薄い……かもしれません。なので、参謀本部の皆さんがそこはかなり導いてあげないと迷走するでしょう。竜達の部族の長を巻き込むことは必須。それから若雄竜主体でやらせるのも必須。でも、彼らにはそれをどうやればいいのか、どう皆の意識を揃えて共通認識を持たせるか、という群れとしての経験、仕組みが今はない。だから、そこを踏まえて、しっかりご指導お願いします。彼らには、参謀本部の皆さんはそうしたことに長けた専門家だから安心して相談するように、と話してはおきますので」


そこまで伝えれば、後はご両人同士でお好きなように、と少し退いた意識を見せたところで、街エルフの参謀、探査船団を率いた経験もあるマサトミさんが手をあげた。貫禄のある体格とカイゼル髭もあって凄く街エルフっぽさが薄いんだよね、この方って。


「アキ、それなんだが、我々は確かに軍集団を率いるプロでそれなりの実績もあり実力もあると自負している。だが、そうした群れとしての基本的な意識、経験がない集団に対して、ソレを教えるといった学問については経験がない。私も何でもできる街エルフ、の一人ではあるが、その街エルフにしても、群れとしての習慣に乏しい異種族に群れとしての行動を教える技能などというモノは存在していないのだ。だから、そこを後は我らで、とされても手探り状態で進めることになってしまう。済まないが最初の何回かはアキにも同席して欲しい」


 ふむ。


リア姉、は多分、力不足だと言って、本当に必要でなければ僕がやるべき、と言うだろうなぁ。心話もできるけれど、竜族に対する本能的な恐怖を理性でねじ伏せて平静さを装って交流しているんだ、って真顔で言ってたもんね。彼らの表情や感情の変化について、どこに注目すればいいかアドバイスをして、だから、カワイイでしょ、と言っても全く微塵も共感してくれなかったからなぁ。アレは結構ショックだった。


「では、そのように。ただ、僕は同席はするけれど、意思疎通に手間取っているようなら手を貸すといったスタンスで、前面にはでませんのでそのつもりでいてください」


「当然だ。ただ、できれば、彼らとの交流を終えた後に反省会を開き、よりよくなるだろうアドバイスを貰いたい。我らは気付かないかもしれない。誤解しているかもしれない。認識がズレているのに会話が一見成り立っているのかもしれない。それでは不味いのだ」


 なるほど。


「では、そうしたポイントについては随時、メモを取っておいて後でお伝えする事にしましょう。三雄竜達が求める場合、彼らに心話でフォローを入れるのは構いませんか? 参謀本部側にだけフォローするのも片手落ちですからね」


「勿論、頼む。できれば、彼らから言い出さない場合は、手間ではあるが、それぞれと短い時間で良いので心話をして、そうしたズレ、補足の必要性の有無などを確認して欲しい。かなり慎重な手順を踏むが、それが必要な相手だと我々は判断している。相手は三雄竜だけではない。何千という他の竜達もいずれは対象としていくのだから」


 ほぉ、ほぉ。


さすが軍勢を率いる将の位置にいる方は視点が広い。いいね。とってもいい。あぁ、これで政治方面や経済方面、文化なんて方もカバーしてくれれば。


っと、なんか視線を感じてちらりとケイティさんの方をみると、何でも求めては駄目ですよ、と目線で釘を刺された。


 ぐぅ。


なんて器用な。はいはい、参謀本部の方々に、勢力代表としての視点、意識までは求めません。


お、小鬼族の参謀ファビウスさんが手をあげた。


「アキ、さきほど、福慈様の元へ向かうよう促した際、彼らが誰を念頭にコースを決めたのか認識できていたなら話してくれ。彼らが最初にV字編隊飛行の姿を見せる、その相手として妥当と判断した竜達、或いはそれを見せることについて注意をしておくべき竜達であるとも考えられる。予め意識に入れておきたい」


 おー。なんか凄く丁寧な意識だ。


あ、シゲンさんがなんか渋い顔をしてる。なるほどね、こういう相手の意識、周囲への認識にまで、徹底して分析をしているからこそ、個では圧倒的な武力差がある鬼族相手に、小鬼族の軍勢を持って拮抗状態にまで持って行く離れ業をしてのけていたわけだ。で、シゲンさんはある意味、手の内を読まれまくって悔しい思いがある、と。


そこでまぁ、苦々しく思いながらも、今は味方として頼もしくも感じている、と。いやぁ、男心も複雑だ。


さて。ではスタッフさんに指示をして、ロングヒルから福慈様の縄張りまでの地図と、こちらが把握している有名どころの竜達の縄張りの位置をプロットしたものを大型幻影に出して貰おう。


「ん、良い図ですね。えっと、こちらに示された竜のうち、三雄竜が意識したのは――」


僕も何でも感知できる訳じゃないからね。会話の中で時折、彼らの意識にふっと現れた他の竜のイメージ、それに付随する感情、意識などを元に、どれが意識され、どう思われていたのか、それを伝えていく。そうしたら、ファビウスさんは、炎竜、氷竜、鋼竜の誰がその意識を持ったのか、それを話してくれ、と念押ししてきて、改めて誰が誰に対して抱いた意識、感情だったのか、なんてとこから思い出しつつ、苦労して伝えきることになった。


いやぁ、これは面倒臭い。認識できた事も言葉にして第三者にわかるように伝えると、これほどまでに面倒臭いとは、あぁ、ほんと言葉ってば不便だ。心話ならこんなの一分もかからず伝え終えられるのに。


たっぷり時間をかけて説明している間に、茶菓子セットをアイリーンさんが出してくれて、美味しい紅茶も淹れてくれた。


 ふぅ。


「やっぱり言葉だと手間がかかりますね。時間節約のためにも参謀の皆さんも誰か僕と心話をできるようにしていきましょう。えっと、ケイティさん、経験者として色々とフォローしてあげてくれます?」


そう話を振ると、ケイティさんも少し考えたものの、必要とあれば、と引き受けてくれた。ふぅ。


なんだろね、大の大人達が揃って腰が引けている、というこの酷い有様。そこはほら、カワイイ女の子と心話ができて心が若返る、とかこう和ませる会話くらいしてくれてもいいとこだろうに。……ねぇ?

いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、伝話について、翁がだいぶ横着してた事がバレました。また妖精さんの魔法陣ですけど、術式の発動のための補助だけでなく、外部支援機能的にも使えるという凄技であることも判明。こちらだと魔導具に担わせている部分を、有り余る魔力を元に自前で術式展開してその場で使う、そんな感じです。種族差という奴もありますし、妖精族は体が小さいので、その身に合った道具となると小指の先程の小ささになってしまい、あまり高度な術式を刻めないという問題もあるために編み出された技法でした。

翁も話していたように、用意しておいた術式の発動、利用はできるものの、妖精の国でも今回のような伝話用魔法陣を組めるような専門家はそう多くはありません。賢者とて理解はできても、専門家ではないのです。そういう既存術式の改良なんてのにはあまり興味を示さない人ですからね。


あと、マサトミ、ごめん。なぜか参謀本部一覧から認識が漏れていたせいで、本格的登場をした章以降、全然発言してない謎な人になってた。ちと、これは影響が大きいので既存の章の修正行います。参謀本部のメンバーが出てきているのに何も発言しないのは不自然過ぎるので。ごめんね、マサトミ。


次回の更新は2024年12月22日(日)の21:10です。

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