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24-7.竜達によるエコな飛行レース(中編)

<前回のあらすじ>

魔力消費をできるだけ抑えて同じ長距離を飛んで、魔力消費量が少ない竜が勝ちというエコ飛行レースをして、V字編隊飛行の優位性を広く竜達に知らしめたらどうか、という提案をして、皆さんにも了承を貰うことができました。炎竜、氷竜、鋼竜の若雄竜三柱も興味津々。やる気を見せてくれました。いい感じです。

(アキ視点)

そして、翌日。第二演習場には炎竜、氷竜、鋼竜の三柱が揃って舞い降りてきた。こうして揃うとやっぱ迫力が段違いだね。皆さん、恰好いいし、それぞれの鱗の輝きに違いがあり、体格にも差があり、それぞれの個性が光ってる。


『皆さんお久しぶりです。急な呼びかけにも関わらずこうして集まって頂けて嬉しいです』


熱烈歓迎、皆さん、前より少し恰好よくなりました?って感じのイメージを言葉に乗せて送ってみたけど、誰からともなく苦笑されてしまった。


<アキ、それでは疑ってくださいと言ってるようなモノだぞ>


炎竜さんがやんわりと窘めてくれた。うん、うん、わかってるねー。


『皆さんにお会いできて嬉しいことに何ら嘘、偽りはありませんよ。ただ、それはそれとしてちゃんと一歩引いた位置から全体を俯瞰する意識をお持ちいただけたら幸いかなー、って思いまして。気が引き締まるでしょう?』


結構込み入った話をするのだから、ちゃんと集中して話に参加してね、という希望を言葉に乗せると、氷竜さんも頷いた。


<エコレースとやらには馴染みがない。長距離を飛ぶにしても到達する速さを競うのではないという話も同様だ。心話で大まかな概要は聞いているが、やはりもっと詳しく話を聞かせてくれ>


いいね。外見と同様、冷静さがまず前面に出るとことか、鱗の色合いと気質には相関関係があるのかもしれない。


<それにV字編隊飛行とやらも、言うほど効果が出るのか、そこをはっきりしたい。ソレが確認できなければその先の話も意味がない>


鋼竜さんも実利第一というか、がっちり手応えを得てから進む気質が良いね。


では、待たせても悪いからスタッフさんに合図して、大型幻影を表示し貰おう。そこには模式図として先頭を飛ぶ竜の翼の端から翼端渦と呼ばれる空気の流れが生じる絵が示された。


『心話でもお伝えしましたけど、皆さんも多分、少しは経験があるかと思うんですが、竜が空を飛ぶ時、大気を翼が割くことで、そこに流れが生じます。特に翼端では、それまでの翼と違ってその先がないので、空気の流れに違いが生じ、それが渦となる流れを生じます。翼端渦って奴ですね。そして、この翼端渦ですけど、上手く乗ると体を押し上げる効果が期待できます。簡単に言うと、それに乗った後ろの竜は先頭の竜より楽に飛べるってことです』


模式図には先頭の竜の翼の端からでる翼端渦が左右それぞれに生じるので、それぞれに後続の竜が乗ることで三柱全体で見るとエネルギー消費量を抑えられることが示された。


<先頭にいる竜は単独で飛行する時と変わらず、だからこそ時折、位置を入れ替えて消費を均等にするのだったか>


炎竜さんも、竜同士で協力して疲労が等しくなるよう楽なポジションに時折交代するという発想自体驚きのようだ。まぁ、個で完結してる生き方の竜族からすると、飛ぶ際に他の竜の助けとなるよう振る舞うというのは普通はあり得ない発想だものね。


<アキ、この場合、後続の竜はかなり近い位置を飛び、それに位置取りも先頭に合わせねばならないと思うのだが>


 ん。


『そうですね。皆さん、竜眼で翼端渦は目視できるでしょうから、その渦の流れが力を失わない程度の距離と位置、高度を維持しながら飛んでいくことは少し練習すればすぐできるようになるでしょう。渡り鳥達もやってることですからね。感覚を掴みながらあれこれ調整して長い距離を飛んでいれば自然と身に付くでしょう。飛行速度によっても距離感は変わってくるでしょうし、遅過ぎず、早過ぎず、ちょうど一番飛行に使うエネルギーと翼端渦で軽減できるエネルギーの割合の妥当なところも見えてくる筈です』


<なかなか手間がかかるな>


鋼竜さんってばせっかちだなぁ。


『簡単にできることなら、他の竜達にそれを示しても驚きと興味を惹くことに繋がらないでしょう? これまでの個で生きる竜達にはこうした技は必要がなかった。でも「死の大地」の浄化作戦をいずれ担う世代の竜達にとっては、仲間同士で助け合って群れとして見た時により利があるよう行動すること、その意味を理解するのにうってつけの技と言えるでしょう。これ、別に何柱連なっても恩恵は同じですからね』


模式図をちょい変更して貰い、複数がV字編隊飛行をする場合、三番手以降も二番手と同程度の恩恵がそれぞれ得られることを示して貰う。


<横風の時にはどうなる?>


『風下にいた方が楽かと思います。特に群れの規模が大きくなれば。なので、V字と言いましたけどそれは横風が無い場合の話で、横風がある時は風下の方に多くが連なる変形V字といった編隊飛行となるでしょう』


実際に楽になるかは横風を受けながら飛んでみて試してください、と伝えると、簡単ではないとはそういうことか、と納得してくれた。


<目的地までどう飛行するのかは自由。となると、どのルートをどの高度、方向で飛ぶのか工夫の余地がある、か>


ほー。氷竜さん鋭いね。


『向かい風に逆らって飛ぶとエネルギー消費が増えるでしょうね。そう言う意味では高度によって空気の濃さも違うし、流れも違う。雲の中を飛ぶのでは視界が効きませんし、雲の上を飛ぶのにも、下を飛ぶのにもそれぞれ利があるでしょう。そこをどう飛ぶのかは各竜の腕の見せ所です』


<狩りをするでもなく、景色を眺めるでもなく、より効率よく無駄なく目的地に飛ぶためにその技を磨く。なかなか手間のかかる話だ>


ほぉ。炎竜さんから伝わってきた魔力の感触からすると、そこまで気を使って飛ぶなんて酔狂な、ってとこか。


『近所の縄張りで狩りをするだけなら、こんな工夫は不要ですものね。ただ、「死の大地」の浄化作戦となると、かなり広い範囲から多くの竜に参加をして貰わなくてはなりません。遠くから飛んで疲れていては困ります。なのでこれまでより楽に長距離飛べる工夫、それを皆が行えるようになること。そこが大切になります。あと、そもそも皆さん、この弧状列島の地理って頭に正確に入ってます? 結構、雑に記憶していると思うんですよね。そこがレースにおいては勝敗を分ける要素の一つにもなるでしょう。目的地がどこか迷うほど疎いことはなくても、無駄なくまっすぐそこに迎える竜と、少し迷いながら到着する竜では、当然、そこでエネルギー消費の差が生じるでしょう。なので、弧状列島全体で今自分がどこにいるのか、どういったコース取りをするのか、どの程度の速度で進むと曲がる頃に見える風景はどうなっているか、なんてのも把握しておいた方が強いです』


そういって、弧状列島全図を示して、ロングヒルから西に向かって、西端の地の南端、ディアーランドまで行って戻ってくる往復ルートを示してみる。


『例えばこんな感じで、「死の大地」からの視認を防ぐべく、北よりの海上ルートを飛行しつつ、西端の地に至ってからは南下してディアーランドに到達、現地にいる名の知れた竜にご挨拶してから、同じルートを戻る、って感じです』


そう示すと、三柱とも驚いた顔をした。


 おや。


『どうかされました?』


<一日で行くにはあまりに遠い目的地だったので驚いた>


ふむ。氷竜さんの魔力から伝わった感触だと、片道でもかなり無理があるという認識か。んー。他二柱も似たような感じ。


『雲鳥様に帝国領の首都まで飛んで貰った時に比べると、距離にすると約四倍ですものね。大回りするから五倍と見た方がいいか。えっと、これはあくまでも例で、出発時にここロングヒルでその時点の魔力量を計測、それから目的地まで飛んで現地の有名な竜に挨拶をしてから戻ってきて、最後にまたロングヒルで飛び終えた時点での魔力量を計測して、その差が少ない竜が勝利という話なので、出発、到着がロングヒルなのは変えられませんが、往復のための目的地は皆さんの方で上手く見繕ってみてください。ただし、短いと差が出にくく行きと帰りでの魔力量の差も遠目で竜眼で眺める程度ではよくわからないかもしれません。なので、できれば雲取様や白岩様のように遠くまで飛べる方でも雑に飛んだらちと厳しいと、多くの竜も認識するくらいの目標地点を制定してください。ただし遠過ぎて脱落者が出るようでも困ります』


定量的に魔力量の差異を計測して、多くの竜で等しく計ってその差を出すようなことは、ロングヒルにいる大勢のスタッフ達が魔導具を使ってきっちり行うのでご安心を、と伝えると三人ともうーん、と唸った。おー、悩んでる、悩んでる。


『えっと、今すぐ決める必要もありませんし、鳥の場合だと翼端渦を上手く利用した場合、疲労を三割くらい軽減できるようだ、という程度しかわかっていないので、皆さんの場合、どの程度の効果が見込めそうか、そこを先ずは三柱で試してみては如何でしょう? ちょっと遠出ですけど、そうですねぇ、福慈様にこれからご挨拶をされてみては?』


そう伝えると、露骨に嫌そうな気配が増えた。まったく、なんだろうね、普段の威勢の良さはどこに行ったのやら。


<福慈様にも都合というものがあろう>


あー、鋼竜さんですらそんな日和った事を言うか。なんともカワイイ言い訳をする。


『これから三柱で何千という多くの成竜、若竜達に名を売ろうというのに、その程度で尻込みしてどーします? ほら、一柱ずつそこのマークの位置に移動してスタッフさんに今の魔力量を計測して貰ってください。あ、魔力量がそもそも完全に満ちてる状態からどの程度目減りしてるかは自己申告でお願いします。こちらでは現時点でどの程度減っているのか把握できませんので』


ほらほら、と急かすと仕方ない、と炎竜さんから魔力量の計測に入ってくれた。ふぅ。


『誰の縄張りに向かって飛んでいくのでも構いませんけど、三柱がぱっと見で、普通はあり得ない編隊で整然と飛んでいく様は、多くの注目を浴びるでしょう。ある程度、勘を掴んで、その後にその飛び方に利があると思わせるような印象を与えられるとして、ならどこを飛ぶのが注目を集めるか。三柱で相談してみるといいでしょう。ご挨拶に行く竜も僕が見知った方なら、心話で予め話を付けておきますよ?』


なーんことを話すと、なんだろね、うん、うん、目線で何か伝えあって、あー、無言の集束した思念波を互いに放ってこっそり内緒話か。


なるほど。竜同士の内緒話はこんな感じでやる、と。


そんな感じで三柱の若雄竜達の話が纏まるのを待っていると、結論を炎竜さんが教えてくれた。


<福慈様の元に向かうことにした。寝ておられるなら起こさず帰るが、我々三頭が揃って出向けば寝ていても起きて迎えてくださるだろう>


 ん。


『それならば、僕の方で心話で声掛けをする必要はないですね。距離的には帝都に向かった時より一割長い程度でしょうか。その距離なら体内魔力量もそこそこ減ってるでしょうし、それが自分の経験、目分量より少ないなら福慈様も驚かれるでしょう。ぜひ、興味を引き出して自分達の体験を聞かせちゃいましょう。きっと喜ばれますよ』


そう伝えると、三柱とも何とも気恥ずかしそうというか、もう福慈様相手に自慢話をするところを思い浮かべてるようだ。なんだろ、このカワイイ雄竜達ってば。


飛行ルートからすると雲取様や白岩様の縄張りも近いし、結構な数の竜達の耳目を集めることにもなるだろうね。尻ごみしていた割にはなかなか挑戦的なコース選定をする。いいね、やっぱり若者はそうでないと。


<では、行ってくる。心話で時折、連絡を入れてくれ。ロングヒルに戻ってくる頃合いもそれで調整できるだろう>


鋼竜さんも覚悟を決めたようで、途中、途中での試した具合なども僕に話して共有しておこうという腹積もりのようだ。いいね。そうして他者を利用することもどんどん覚えていこう。では、行ってらっしゃい。


僕達が見送る中、三柱はふわりと飛び上がると、上空でちょっと気を使ってゆっくり輪を描いたりしながら三柱があれこれ試しつつV字編隊を組んで福慈様の縄張りに向けて飛び去って行った。ふむ。……なんとも素直な飛び方だね。方位を欺瞞するとか多分、必要すら感じてないんだろう。


これで段取りの第一弾は終わったし、はいはい、スタッフ席の方に控えていてくれた参謀本部の皆さんとも、戻ってくるまでの間、得られた事をネタに話でもして有意義に過ごすとしよう。

評価、いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気が大幅にチャージされました。


さて、そんな訳で、若雄竜三柱もさくっときて、あれこれ話を聞いて、早速、V字編隊飛行を試しつつ、福慈様のとこまで飛んで行って、挨拶がてら試している内容なんかも話してから戻ってくる段取りとなりました。往復六百キロ近い飛行距離になるので、地球(あちら)で言うところの攻撃ヘリ相当な竜からすると、実は結構な距離だったりします。勿論、似たような距離の帝都直行便でも特に問題視されなかったように、無理のある飛行距離という程ではありませんけれど。


次回の更新は2024年12月18日(水)の21:10です。

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