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24-6.竜達によるエコな飛行レース(前編)

<前回のあらすじ>

参謀本部の皆さんから、若雄竜の三柱(炎竜、氷竜、鋼竜)にV字飛行と伝話を習得するよう提案がありました。確かにどちらも「死の大地」の浄化作戦や竜族社会に群れとしての特性を持たせるためにも精妙なアイデアだと思ったので、それを推進することに同意しました。(アキ視点)

若雄竜、炎竜、氷竜、鋼竜の三柱に対して、V字飛行を試して貰うこと、それをいずれは竜族の中に広めていくことについて、参謀本部からの提案があった。それに飛行する竜達の間で長距離でも手軽に連絡し合える手段として伝話を導入する件も入ったので、それらを含めてどうせなら耳目を集めるイベント仕立てにしようと思いついた。


それで、こんなのはどうでしょう、とケイティさんやお爺ちゃんに話してみたところ、急遽、ヤスケ御爺様や父さんまで第二演習場に押し掛けてくることに。


おー、フットワーク軽いなー。なんだろうねぇ、ヤスケ御爺様の歩きながら不満を表明する器用さ。


「お忙しいところお疲れ様です。ちょっとしたアイデアだったんですけどね」


そう韜晦とうかいしてみたけど、ヤスケ御爺様はぶすーっとした表情を隠すこともなく一言。


「ふん、お前の言うちょっとしたことなど、まったく当てにならんわ。だいたい、同じ距離を飛行して魔力消費量の少なさを競うだと?」


「はい。地球(あちら)では結構一般的なんですけどね。同じコースを最低速度以上で走ってどれだけ少ない燃料でゴールインできるか、っていうレースで、誰よりも無駄なく走れたチームが優勝って感じです。こちらなら同じ距離を飛行して、どの程度、体内魔力を失ったのか測定することで評価すればいいかなぁ、って思ったんですよ」


スタッフさんが弧状列島全図を表示してくれたので、例えば、ということで、ロングヒルから西に向かって、西端の地の南端、ディアーランドまで行って戻ってくるとかやってみるとか。多分、長距離過ぎるからもう少し距離は縮めた方がいいでしょうけど、と説明してみた。


「それで若雄竜三柱と対決するのは誰にするつもりなんだい?」


父さんに促されて、ちょっと考えてみた。


「やはり、知名度や他の竜よりずっと洗練されている飛び方をされる雲取様は外せないでしょう。それから、鬼族の武の技を取り込んで独自に効率を改善されている白岩様も外せない。後はまぁ、三柱に考えて貰えばいいでしょう。飛ぶのに自信があって、自他ともにそれが認められている有名な竜で、なおかつ、敗北を素直に認められる意識と、V字飛行の有効性を理解し、それを取り入れられる柔軟性を持つ竜なら誰でも良いので。そうした部分での目利きは、やはり彼ら自身に頑張って貰わないと。それに自分達で企画立案した方がきっと楽しいですから」


中継地点には有名どころの竜にその役を担って貰い、参加する竜達はそこでちゃんと挨拶をしてから次の地点へと向かう。早く到着するのが目的ではなく、できるだけ余力を残して飛行の全行程を終えることが目的ですよ、と念押しするとして。……って感じで語ってみたんだけど。


なんか、ヤスケ御爺様も父さんも、それに母さんやリア姉、あー、なんか参謀本部の皆さんまでなんか溜息ついてるし。


「皆さん、どうされました?」


僕の問いに、リア姉が呆れ気味にその胸の内を教えてくれた。


「ちょっと、というけど、もう計画の全体像まであらかた考え終えてるじゃないか、ってね。地球(あちら)での実例があればこそだろうけど、私達からすれば、沢山のステップを飛ばされていきなり完成図がぽんと出てきた手品みたいに感じたんだよ」


 おや。


「えっと、こちらでは省エネレースみたいなのってやらないんです?」


「やらない。というか、洗練された魔力強化をした状態での遠距離走なら結局、早く到着した人が勝利という普通のレースになるだけさ」


あー、なるほど。より洗練された運用を長く効率よく行って身体強化をした人ほど、早くゴールに辿り着けるだろうし、誰が見てもその効果は明白だものね。


「言われてみれば、地球(あちら)でも、エコレースが始まったのは、環境汚染が深刻化して、燃料の無駄遣いは良くないねって風潮が生まれて、そこから、同じ燃料でできるだけ長い距離を走れるよう工夫しあうレースをしてみよう、という話になったんでした」


そこでは、当然、ドライバーの力量も重要だけど、何より車両をどれだけエコに走れるよう創り上げるのか、そこが重要になってくる。そこで技術競争ってことになるんだよね。通常のF1レースとかと違い、選手同士の駆け引きなんて事はおきないから。


ちなみに、ってことで実際に行われている低燃費を競う競技、ホンダエコマイレッジチャレンジ。 通称エコランについてもざっと皆に説明をしてみた。サーキットを最低25kmのラップタイムで周回して同じ距離を走って減った燃料の少なさを競い合うんだけど、一リットル換算だと何と三千キロを超える超低燃費を発揮してて、って話したら、皆から何その嘘臭い話、とか凄く人外でも眺めるような目線を向けられてしまった。


運営側が用意した180㏄のガラス製燃料タンクを渡されて走行後、厳密に燃料残量を計測するそうだ。1㏄ですら大きな差になるから燃料揮発すら考慮してそうした厳密な運用をしているとのこと。下り坂にはアイドリングストップをして燃費を稼ぐなんて当たり前、車体もリュージュみたいに寝そべって乗るような究極のフラットデザインだったりして、ドライバー目線だと地表すれすれを爆走していく凄まじさ。ドライバーが小柄で体重が軽い人が選ばれるなんての定番だ。


そして、同じ距離をできるだけ低燃費で最低規定速度を守って走る、というただそれだけのルールであるが故に、ドライバーの身長や体重に拘ったり、空力を徹底してみたり、車体を軽量化してみたり、転がり抵抗が極端に少ないタイヤにしてみたり、軸受けの摩擦が少ないベアリングにしてみたり、駆動系のロスを限界まで減らしてみたり、コースや天候に応じた加減速の徹底最適化をしたり、なんて全体としての完成度を極みを目指す必要がある。


更にそんなレースに最大で五百台もの車両が参加したり、一人乗り、二人乗りであったり、中学生、高校生、大学生のクラスがあったり市販車クラスもあったりと、とても広い裾野があって、子供から大人まで、そして個人から企業まで幅広く毎年参加して競い合ってるんですよ、と話すと、なんか皆さんから溜息が漏れてしまった。


「どうされました?」


「そんなお祭り騒ぎに、毎年、改造車両を持ち寄って走らせるという豪勢さに眩暈がしたんだよ。どれだけ平和で、どれだけ豊かで、そしてどれだけそうした余暇につぎ込める余力がある社会なんだろう、って感じてしまったんだ。正に異世界、妖精界とは違った意味で物語の中にあるような世界だよ」


研究所を率いているリア姉がいうと説得力あるなぁ。


「まぁ、そうですよね。きっと竜達もそんなレースを呑気に行えるくらい、平和な世であることを満喫して貰えると思います。同時にV字飛行のエコな効果もきっと、レースを観戦する竜達はきっと目をまん丸にして驚いてくれるでしょう。あぁ、どうせなら、それほど飛ぶのが上手でない一般枠の竜にも参加して貰いたいですね。参加する竜が多いほど、V字飛行の三柱の誰が見ても明確にわかる差を認識して貰えるでしょう」


できれば何十柱かは参加して欲しいなぁ、と話すとヤスケ御爺様が酷く渋い顔をした。


「馬鹿者! そんな数の竜達が飛んでいたら、それこそ「死の大地」の祟り神の気を惹くことになるわ」


 ん?


「互いに影響がない程度に一定時間ごとにスタートすること、それから予めどう飛ぶか聞いておいて早めに飛ぶ竜は先行スタート、遅く飛ぶ竜は後からといったように配慮すれば、竜同士が連なって飛ぶようなことにもならないでしょうし、コースを工夫して「死の大地」から死角になるコースを飛べば問題ないでしょう。あと、派手に飛ぶ訳ではないので、そもそも意識を惹くような飛び方でもありません」


「死の大地」から弧状列島の山々が死角となるような高度、距離で離れて飛べばいい、と示すと、ある程度は納得して貰えた。けれど、ここで母さんから手があがった。


「アキ、そのコースや高度はどう制定するのかしら」


「通過するチェックポイントとして訪問する竜の住処は規定するとして、後は「死の大地」と反対側の海の上を基本飛ぶことくらいで十分では? それにコース取りや高度をどうするか、ってのは各竜の工夫するとこでしょうからね。ただまっすぐ飛ぶだけ、とか工夫する余地がないと飛んでて飽きるでしょ」


 あー。ちょっといいこと思いついた。


「えっとですね、各地の若竜達にも声を掛けて、通過する竜達を応援して貰いましょう。きっと自分をアピールする場になるから盛り上がりますよ」


竜達の文化における力比べとは別の意味での競い合いの場となるって寸法だ。何より長距離であり、日時を触れ回って、皆が観戦して楽しむビッグイベントという概念自体、竜族にはないからね。きっとかなり盛り上がる筈だ。


……って思って、ニコニコしてたら、リア姉に酷く溜息をつかれてしまった。


「どうしたの?」


「いや、ほんと、アキの提案って激震だらけだと思ってさ。反対する要素は特にないけど、まぁ参加する竜には食べ物や飲み物を提供するとか、少し地の種族一同も応援してますよ、という姿勢は示すとして。三大勢力には連絡を入れた方がいいだろうね。一応、三柱に連絡を入れて説明をして、彼らがやる気を見せてくれたら、って手順は踏むけど、まぁ賭けにならないほど確実に、三柱は快諾してくれるよ」


何せ、数少ない異性へのアピール、多くの成竜達への自分達の存在アピール、そして既存の序列に従わない別の尺度での存在感アピールだ。やらない訳がない。縄張りを持たない若竜達こそ、ここぞとばかりに参加する事だろう。


「皆さん振るってご参加ください、参加賞もありますよ、事前にコースは日程を発表するから、多くの竜達も観戦してくれるでしょう、ってね。じゃ、その方向で行きましょう。ケイティさん、ロングヒル王家には三柱が集う特例になるけど調整をお願いします。同じ事を三回バラで説明するのは面倒臭いし、何より三柱揃ってのチームプレイですからね。その場でV字飛行の優位性や難度、それを皆に魅せることの意義など一通り語ってがっつりやる気になって貰いましょう」


ぐっ、と拳を握って頑張るぞー、って示すと、ケイティさんもすぐ連絡を取って許可を貰ってくれた。手際が良くてほんと助かるね。


第二演習場から別邸に戻って心話で三柱にそれぞれ連絡を入れてみたところ、結構食いつきがよくなんと明日、集ってくれることになった。うん、うん、やる気を見せてくれるのは良いことだ。その煽りを受けて日程調整が入ることになった竜の皆さんには詫びの連絡を入れて何とか調整終了。いやぁ、これは楽しみだ。あー、ぜひ、レース当日には雌竜の誰かにお願いして座席ハーネスを付けて少し並走して飛んで貰おう。僕が応援するだけでなく、雌竜の皆さんも影響者集団(インフルエンサー)だから、ここは宣伝活動にも協力して貰わないとね。

いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、と言う訳で、地球(あちら)でいうところのエコランを竜族達にマラソンのノリでやって貰う提案を行うことになりました。はい、関係する竜は数千柱確定です(笑)

しかも、竜族社会にこれまでにない、日時、コース指定の参加者多数となるだろう大規模レースですからね。これまで個での力比べくらいしかやってことなかった竜族社会に激震が走るのは確定です。そして、実はこの提案などの流れが、福慈様の決断を後押しすることにもなります。その辺りの経緯は福慈様自身が語ることになるでしょう。アキにとってはもう福慈様との対面や小型召喚をしてストレス解消をして貰う話は対処が終わった話扱いなんですよ。後はもうお任せでいいや、と。この扱いの軽さ、竜族全体を見据えたアキの視点。その意味に福慈様とて気付かない訳がありません。なかなかショックでしょうね。


次回の更新は2024年12月15日(日)の21:10です。

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