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24-5.渡り鳥に学ぶ群れの知恵

<前回のあらすじ>

お爺ちゃんから教わった伝話、それを見様見真似でやっていた僕の伝話は、実はなんちゃって伝話であって、経路(パス)を通して意思を伝えてなかったことが判明しました。いやぁ、同じように使えていたからてっきりできているものとばかり。ただ、本当に経路(パス)を通していたなら、ミア姉に試しに使ったことで酷いことになってたかもしれないので、実はちゃんとできてなくて幸いでした。(アキ視点)

僕が伝話だと思って使っていた技法が、実はなんちゃって伝話といったところだったというのは意外だった。

僕が使う範囲だと同じような結果が得られたからね。遠距離で連絡したい時は相手が竜なら心話を使うし、共和国の島にはレーザー通信網を使っていたから必要性も感じなかった。


ちなみにお爺ちゃんに違うことに気付いていたかと聞いたら、魔力の乗った言葉が届いた時点で問題ないし、あくまでも余技だから深く学びたくなったらその時また教えればいいくらいに考えて、そこですっぱり終わりとして、以降は気にしてなかったとのこと。


うん、まぁ、そうだよね。僕も妖精さんの小さな口でどうして遠くまで声が届くのかなぁ、と不思議に思った程度で、伝話の技術を習得したい、みたいな熱心な意識とかは薄かったし。


と言う訳で、参謀本部の皆さんはこの確認作業をしたかった、本格的に竜族に伝話を学んで貰う為には妖精族からきっちり教わることが重要で、僕の例は邪道で別技術だから参考にならない旨をしっかり伝える、その裏取りがしたかったのだと思ったんだけど。


それだけではなない、とのこと。


「えっと、それで、竜族に長距離を群れとして消費魔力を抑えながら飛行できるよう、渡り鳥を真似てV字飛行をして貰うことを提案したい、ですか」


 ほぉほぉ。


僕の問いにシゲンさんが頷いた。


「天空竜達は広い縄張りをそれぞれが単独で構える関係上、群れで飛ぶということは殆どない。もし飛ぶとしても二柱が並んで飛ぶ程度とのことだ。帝国領に向かった際には複数の竜が同行していたものの、アレはかなり異例なことだったとも伺った」


 なるほど。


「確かに、竜の暮らし方からしたら、皆でどこかに向かうという事がそもそもありませんからね。集団行動の訓練にも竜族にとって歩くより自然な飛ぶことでそれを学んで貰うのは大変良いアイデアだと思います。えっと、このアイデアは近衛さんから?」


そう問うと、近衛さんは残念そうに首を振った。


「私は渡り鳥達が飛ぶ姿はそれこそ数えきれないほど眺めてはきたものの、その飛び方を真似ようとは思わなかったし、その飛び方に利があるとも考えなかった。高い空を目立つように長距離飛ぶということがそもそも我々には無かったからだ。緩衝地帯の警戒飛行をする時はあるが、その際には互いにカバーできる範囲で広めに展開して飛ぶようにして術式行使の邪魔にならない事を優先もしている。それと妖精の飛び方では羽は補助に過ぎず、あまり揚力は当てにしてないというのもあった」


 あぁ。


「確かに妖精さん達の飛び方は、羽は飛行術式の補助といったところで、背中から展開してる翼で風を掴んで飛ぶのとはだいぶ違いますからね。それでは気付かないのも無理はありません。あと妖精さん達は木々の少し上を添うように飛ぶので、省エネ第一みたいに長距離飛ぶのとも違いますし。では、誰のご提案で?」


そう言うと、ホレーショさんが手を挙げてくれた。


「私だ。職業柄、風を上手く掴んで操船する経験が多く、それに渡り鳥の様子を眺めることもあって、自然と彼らがなぜあのような飛び方をするのか、何か利があるのではないか、と考えたんだ。ただ、帆船でそれを活かそうというアイデアは、船同士の距離が近くなると衝突の危険性が高まることもあって、それは断念した。それに大量の帆の操作を行う手間や時間を考えると、船同士が同時に操って風に乗るのはあまりに難度が高いだろうと思われたというのもあった。街エルフの大型帆船なら帆の制御は全て魔導具が自動で行ってると聞くから、多少はマシかもしれないが」


「では今度、ファウスト船長に伺ってみることにしましょう。とはいえ、街エルフの帆船だと魔導推進併用ですし、安全第一って感じもしますね」


それもそうだ、とホレーショさんも納得してくれた。


「ちなみに、その省エネ飛行ですけど、どのくらいの速度域が一番効率がいいんでしょう? あと何割くらい省エネになるんでしょうね?」


「桜竜様が速度限界を試した時も、速度を上げれば上げるほど魔力の使用効率が悪化したとあるから、最適な飛行速度はあるだろう。それに余りに遅過ぎると揚力も稼げない。だから、遅過ぎず、早過ぎず、そんな速度域になるだろう」


 なるほど。


「それを皆で編隊を組んで何度も試行して、先頭を変わるがわる担当することで、先頭と後続の負担の差なども試して貰うと良さそうですね。それにどの程度の差異が出るのかは、魔力の総量を計測すれば、ある程度は把握できるでしょう。それなりの長距離を飛んで貰う必要があるし、竜達からすれば、かなり近い距離を保って飛ぶから、普段と勝手が違って慣れも必要かな。うん、いいですね。えっとそれを、例の若雄竜三柱、炎竜、氷竜、鋼竜に提案してみて欲しい、と」


これにはファビウスさんが頷いた。


「そうしてみて欲しい。彼らに参謀本部に参加して貰うにしても、まず群れで動くことの利を体験して貰い、その認識を共有して貰い、更に多く何百という群れで「死の大地」の浄化作戦を担うには、その経験と訓練、連携が欠かせないことを意識して貰いたいのだ」


 ほぉ。


「三柱というのがまたちょうどいい数ですね。先頭を担う一柱と、後続の二柱。代わる代わる飛べば普段よりずっと長距離を飛行できるようにもなるでしょう。しかもちょうどいい速度域を調べる必要もある。追い風や向かい風など、互いの距離間、飛行方向や高度などによっても工夫すべきポイントは変わってくるでしょう。かなり良い試みです。あー、それと竜達だけだと魔力消費量の軽減の把握も目分量になるでしょうから、ロングヒルに三柱が集まって長距離飛行をして、我々の魔導具で魔力を厳密に計測というスタイルがいいかな。リア姉、竜達の魔力を計測する魔導具ってある?」


「あるよ、というか無かったから作った。空襲警戒なら大まかな距離がわかるだけでも良かったけれど、研究組との活動で、魔力測定機会が増えたからね」


なので、必要があれば研究センターの職員に協力させようとも言ってくれた。ん、いいね。


「では、僕の方で三柱にはそれぞれ、単独で飛ぶのではなく、単に誰かと共に飛ぶのでもなく、えっと、確か翼の先端から生じる渦を利用してそれに乗ることで揚力を稼いで飛ぶエネルギーを抑える利、それを協力して行うことを勧めてみますね。その際にはロングヒルの第二演習場を起点とすること、参謀本部の皆さんとも協力して、客観的な最適な飛行速度や実際に得られる魔力消費軽減効果の計測を行う事もお話しますね」


「頼む。……どうした、何か気になることがあるのか?」


「あぁ。えっと、それだけだとちと弱いなぁ、と思いまして。あ、そうだ、そうして最適な編隊飛行のノウハウを得た彼らは、既存の竜達の序列、枠組みとは違う形で頼られる先達ってことになりますよね。彼ら三柱は教官、先生ということになる訳で、編隊飛行という分野においては他の竜達は師と仰がなくてはならない。これは竜族社会にかなりの変化を生みますよね。うん、そういう意味で、新たな序列、新たな評価基準を生み出す、その第一歩ですよ、とお勧めしてみましょう。うん、それならかなり食いつきはいいですよ、きっと」


 うん、うん、いいね。


若竜として、いつも序列の下位に甘んじてる彼らからすれば、きっと目上の成竜達相手に師と弟子という関係になれることは、かなりの満足感、優越感を得られると思う。まぁ、責任感も生じるけど。


 ん?


シゲンさんが手を挙げた。


「ついでに、自らの技を持って、社会的に上の相手を教えるにはちとコツがある。我々参謀本部の面々は、そうした事には長けていると自負しているメンバーが揃っている、だから彼らに良く話を聞くといい、と売り込んでくれると助かる。何せ、竜族には集団としての法やそれを守らせる仕組みも殆どない。軍隊のように上官の命令だ、と言うことを聞かせる訳にはいかないって事だ」


 ふむふむ。


「あぁ、創作とかで良くあるようなひ弱そうに見える老人が、筋骨隆々な巨漢で自身の武に増長してる若者の鼻っ柱をへし折ることで、若者は心を入れ替えて、老人を師と仰ぐみたいな奴ですね。確かにそうしたはっきりと相手に理解させる行いが必要でしょう」


そう話すと、シゲンさんに苦笑されてしまった。


「見た目の割には言うことが荒っぽいが、まぁそういうことだ。年長者や社会的に地位が上の者に指導するってのはなかなか難しい。特に後腐れがないように、となると厄介で、相手の性格によっては命令で言うことを聞かせるなり、力をもってわからせる必要が出てくる。まぁその辺り、竜族ならどうそこをはっきりわからせて、なおかつ穏便に済ませるかは彼らに考えて貰うとするさ」


 確かに。


そうした中で、自分達で考えたら長老と相談してみるのも良いだろう。若者だけで考えたことが年長者にとって納得できるとは限らないけれど、うまい落としどころも長老なら思いつくだろうし、そうして長老を頼ることで、既存の序列を尊重する意を示して、あくまでも別の尺度もある、とする謙虚さを示す。そういうとこの駆け引きなんかもアドバイスしよう。よしよし、頑張るぞー。

評価、いいね、ブックマーク、ありがとうございます。やる気が大幅にチャージされました。

やっぱり高評価を貰えると嬉しいものですね。本作、読みやすさは重視しているものの、やはり万人向けとは言い難いところが多分にあるので。刺さる人には刺さる、そんな作品だと自覚はしてます。


今回は参謀本部の発案で、竜族に渡り鳥を真似てV字飛行を習得して貰うことになりました。本作の竜は足はランディングギア代わりであって、実は歩く速度は遅く、彼らにとっては飛ぶことが一番楽な移動手段だったりします。そして飛ぶことは娯楽でもあるので、この提案はきっと三竜の心に響くでしょう。何より、他の竜達を弟子、自分達を師とする新たな尺度が生まれる、というのは大変魅力的でしょうからね。うん。嘘は言わず夢は大きく。未来には希望を抱いて貰うとしましょう♪


次回の更新は2024年12月11日(水)の21:10です。

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