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24-4.召喚体の改造(後編)

<前回のあらすじ>

樹木の精霊(ドライアド)の召喚は残念ながら中止となりました。普通の樹木の精霊(ドライアド)は召喚に応えられる力がないし、連樹の神様や世界樹の精霊はあまりに巨大過ぎて召喚自体が危険過ぎる、失敗確実、それに出現したとしても台地に根を張ってない樹木なんて転倒必至。危なくて駄目だと。(アキ視点)

召喚術式の改良の方だけど、見比べやすい参考情報としての既存の構造体を、幻影で表示してくれるなどの補助もあったおかげで、実はサクサク進んで予定分はずっと超える数の幻影化、記録まで終わっていたそうだ。それならそうと言ってくれればいいのに、と文句を言ったところ、師匠から「弟子がどこまでできるか把握しておきたいじゃないか」と言われれば納得するしかなかった。


とはいえ、限界を超えて倒れるようなことになったら大変と抗議してはみたけど「そこらの見極めは得意だからねぇ。安心おし。ちゃんと限界手前になったら止めてやるさ」なんて、信頼できる師匠でござい、って笑みで押し切られる始末。


 うーん。


「ソフィーがそこまで見極める目を養った影には、ばたばたと倒れていった多くの先輩方の犠牲があったればこそだよ」


リア姉が突っ込むと「痩せ我慢されると見極めにズレがでるんだよ」などとどこ吹く風。ちゃんと限界ですって今度はちゃんと自己申告しよう。





なぜ、そんな話をしていたかというと、お爺ちゃんがちょっと待てといって、妖精界からシャーリスさんを喚び出したからだ。


 おや。


「シャーリス様、こんにちは。研究の場にいらっしゃるなんて珍しいですね?」


そう問うと、ふわりと飛んできて鷹揚に頷いた。


「妾が説明した方がよい事があるので出向いたのよ。それ、話をしたい者達もやってきたわ」


 ん?


おやおや、千客万来、今度は参謀本部の皆さんがぞろぞろやってきた。スタッフさん達が種族の違いを考慮したテーブルセットを横に用意していく。手際からしてある程度前から連絡があったっぽい。


「よぉ、邪魔させてもらうぜ」


ちょっと立ち寄った、と言った感じにシゲンさんが軽く挨拶をして、他の人達も続いて席についていく。


 ふむ。


「シャーリス様が説明されて、参謀本部が関連して、研究組の面々がいる方が都合がいい? なんだかナゾナゾみたいですね」


はて、何の話なんだろ。魔術なら賢者さんがいるから、それ以外なのだろうけれど。


「シゲン、では説明せよ」


「では手短に。「死の大地」の浄化作戦において、多くの竜達が広い戦域を飛び回り、多くが群れとなって作戦行動を行うとなると、全体の指揮、統制が既存の技術ではどうにもならないのは知っての通りだ。竜達の飛行速度は余りに速く、その飛行する空域は余りにも広いからだ。そして、竜族の中ではこれを解決する技法がない、これも時折来る竜族の方々から話を聞いて確認済みだ」


 ん。


「思念波だと、事実上、見える範囲、そう遠くない距離までしか届きませんからね。しかも遠くに呼びかける時はかなり収束して大出力で放つ感じで、とても気軽に連絡という訳にはいかないでしょう」


「そうだ。我々ならここで魔導具を用いる事を思いつくところだが、竜族が身に着けられる魔導具という時点で制作難度が高過ぎるのでそれを何百、何千と用意するのは現実的ではない。そこで目を付けたのが妖精族が大勢空を飛び交う中でも管制官が的確に指示を行い全体を統制する、その連絡技法である伝話という訳だ」


 ふむふむ。


経路(パス)を通じて連絡をするから、離れていても直接、連絡が届いて便利ですよね」


「まぁ、そうなんだが。そこで、我々は疑問に思ったんだ。我々が頻繁に目にする伝話の使い手となると、実はアキしかいない。聞いたところによると翁から伝話の技法を教えて貰い、見様見真似で真似して使えるようになったそうじゃないか」


「ですね。便利に使えて重宝してます」


「で、だ。近衛にも詳しく聞いてみたんだが、妖精族が用いる伝話と、アキが思いを言葉に込めて放つ力ある言葉。これは似た効果は出しているが実は別の技法なんじゃないか、と疑問に思ったんだ」


 おや。


ここで、ふわりとシャーリスさんが前に出てきた。


「そこからは妾が話そう。アキは大勢に言葉を届けるのに、大声を張り上げるのではなく、声に遠くまで届くよう思いを込めて声を発する。結果として遠くにいる大勢にアキの小さな声は隣で話しかけるかのように届く。これはこれまでに洗礼の儀などでも何度となく行ってきてことよな」


「ですね。便利に使えてほんと助かってます。下手に触ると声を拾う魔導具(マイク)だと壊れちゃいますから」


魔導具はよほど頑丈な品でないと、僕が触れると過負荷で壊れちゃうからね。困ったものだ。


「では、アキ。この第二演習場にいる全ての者達に、周囲の土塁の上にいる森エルフ達の見張りも含めて全てに対して、これから最初にアキが、次に妾が声をかけるから、聞こえたら手を挙げるよう話してみよ」


そういって、シャーリスさんが後ろに下がった。はて? 僕の前にいると五月蠅かったりするのかな。


「えっと、研究組の皆さんが熱中しているようなので、ちょっと一声かけてから――」


「よいよい。聞けば、碌に休みもせずずっと議論に熱中してるのであろう? ならばアキの声掛けで休みを告げればよい」


あー、シャーリスさんってば、悪戯っ子な顔をしてるし。まぁ、いいか。確かに見てても椅子に座りこそすれ、前に出されたお茶や茶菓子を口にすることはあっても、全然休む気配もないもんね。


 では。


『えっと、皆さん、僕の声が聞こえますか? ずーっと熱中してる研究組の皆さん、そろそろちゃんと休憩取りましょう。それとお手数ですけど、声が聞こえた人は手を挙げてください。この後、シャーリス様が同じように声を掛けますので、その際も宜しく』


隅々まで声が届くように思いを乗せて言葉を発すると、土塁の上の方にいた森エルフの皆さんは僕達の方を見て、驚きながらも手を挙げて応えてくれた。研究組の面々もいきなり耳元で話しかけられたような驚き方をしながらも、仕方ないねぇ、などと言いながらも手を挙げてくれた。大勢のスタッフさんも手を挙げてくれたので、ん、ざっと見た限り全員にちゃんと届いたようだ。


「シャーリス様、これでいいですか、って、何です、その魔法陣」


後ろを振り返ると、シャーリスさんの目の前には精緻な魔法陣が姿を現していて、驚かせるのに成功したと笑みを浮かべつつ声を発した。


『皆の者、務めご苦労。妾の声は届いておるようじゃな。後ほど、アキの声と妾の声についてどう聞こえたか、聞こえ方にどのような違いがあったのか研究組に自身の体験を伝えるように。サポートメンバー達よ、上手く取り纏めをするのじゃ』


シャーリスさんの声は、直接聞こえる声量はとても小さく、でも届いた力ある声は心に直接響く感じで、時間差がないから取り囲む(サラウンド)な感じでなかなか面白い。


 ん。


「それで、両方を試してみましたけど、どちらもちゃんと皆に声が届きましたよね?」


シャーリスさんは魔方陣を杖で一振りして消すと、ふわりと前に出てその通りと頷いた。


「そうよな。結果は同じ、見える範囲の者達全てに声が届いた。ならば、妾とアキのソレは同じ技法か、という問いじゃ」


 むむむ。


これは難しい。というか、自分の伝話は自分自身では聞こえないから比べようがない。


「リア姉、伝話をやってみてよ。聞き比べができないと答えられないもの」


そうお願いすると、リア姉もはいはい、と引き受けてくれた。


『ほら、これで聞き比べはできるよね。何が違う?』


あー、なんだろ。わざわざ、声に僕がちゃんと答えられるか期待してるぞ、なんて応援の意思まで乗せてきてくれた。なんか凄く恥ずかしい。


 あー、まてまて。


落ち着いて、落ち着いて。せっかくリア姉が協力してくれたのだから、ちゃんと思い出してみよう。両者の違い、違い。


 んー。

あれ? あれれ? 確かに違う、違うよ。


「えっと、リア姉の声はちゃんと聞こえて、それが心に響いてくる感じ。シャーリス様のそれは実際に発した声と、心に直接響いた声が取り囲む(サラウンド)に両方から聞こえました。あれれ?」


僕が指摘したことは、参謀本部の皆さんも感じていた違和感そのものだったようだ。


「ソレが我々が感じた違和感って奴だ。アキやリア殿のソレは実際に声が届く。だが、シャーリス様のそれは心に直接響いた。そしてシャーリス様のそれこそが妖精族の伝話。経路(パス)を使って相手に意思を届ける技法って事だ」


 おー。


「それって、シャーリス様が展開してる魔法陣も関係していたりします?」


「無論、関係はしておる。大いにしておる。先ほど展開した魔法陣は経路(パス)に応じて送る力を自動で調整する術式よ。妾のように大勢を前に演説をするような立場となると、いちいち眼前にいる大勢の者達の経路(パス)など意識してなどいられぬし、それぞれの経路(パス)の太さもまちまちであろう? なのに一番細い者に合わせて大きな力で声を発すれば、太い経路(パス)の者にとっては心を激しく揺らす騒音になってしまう。それを防ぐための術式なのじゃ。太い経路(パス)には小さな声で、細い経路(パス)には届くよう大きな声で」


 なんと便利な。


って、あれ?


「でも僕、別にそんな手間をかけず、皆に届けてましたけど」


「それはアキが伝話のように、言葉に魔力を乗せて送り出してはおるが、経路(パス)に乗せてないから起こる差よ。アキはその代わりに、世界の(ことわり)に働きかけて、アキが認識する皆に届くようそこまでの(ことわり)を変えておる。だから声を張り上げなくとも相手まで声が届くということよ。そして、アキ。実演をした上で妾が来たのは、アキが経路(パス)に乗せた、妖精族の伝話を正しく使おうなどと言い出させないためでもある」


 なんと。


「えっと、何故です? 経路(パス)を通じて声が届くなら、ミア姉に呼びかけたりもできるって事でしょう?」


「それはソフィア殿も言っておったが経路(パス)を通じて魔力を相手に送り届けさせぬ話と同じ理屈よ。力の調整ができぬアキやリアが経路(パス)を通じて相手に声を送り届けるような真似をしたら、相手の耐えられない勢いで心を揺さぶり倒してしまうやもしれぬ。だから試してはならぬ。良いな?」


 ぐ。


まさか、実は間違った方法で同じ結果に辿り着いていたとは盲点だった。しかも、経路(パス)を使う訓練は厳禁、と。


 むむむ。


でも、こうして違いを認識した上で注意をして貰えなければ、きっとミア姉に向かって、今度はちゃんと正しいやり方で言葉を伝えよう、としてたに違いない。実際、伝話を教わって、その仕組みを聞いて、それっぽく使えるようになってからすぐミア姉に話しかけてみたくらいだもの。結局、応答なしだったからそれ以降はやってないけど、正しい技法を習得してからやってなくて不幸中の幸いだったということか。


かなり危なかった。本当に。嫌な汗が出て寒気がしてきた。下手したらミア姉が大怪我していたかもしれないと思うと、身が震える思いだった。

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さて、そんな訳で、千客万来、大勢が押し掛けて、アキのなんか違う伝話についての検証話でした。

実は本来の伝話とは違ってたんですね。結果として声は同じように届くのだけど経路が違う。

もっと遠距離、何キロと話してテストしてみればすぐ違いに気付いたことでしょう。

アキのやってる技法だと、伝話みたいに距離に関係なく声が届く特性がないので。


次回の更新は2024年12月8日(日)の21:10です。

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