表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
711/769

24-1.説得技法

<前章のあらすじ>

妖精の皆さんが、他文化圏との交渉、交流という貴重な場にぜひ参加したいとして、使節団の派遣を強く求め、その対価として、妖精の国総出で心話や魔力共鳴に関する大規模検証をしてくれることになりました。なにせ皆が一流魔導師級でそれが何千、何万と集まるのだからそれだけの規模、質となるとこちらの世界では何千年先でも無理ではないか、なんて師匠も太鼓判を押してくれました。三界を繋ぐことの利が発揮された好例と言えるでしょう。

その後は、福慈様が「また」思念波を暴発させたので、再発防止策をあれこれ皆で考えることになりました。妥当な対策もできて、説得役も伏竜さんが行う方向になりそうで一安心です。(アキ視点)

伏竜さんが福慈様の説得を行うとは話していたけど、雲取様が後で相談して決めると話していたから、二人でその辺りは話して、場合によっては説得を二人で分担して行うのも手ですよ、なんて感じにある程度、複数人で説得する時の手法について、あれこれ指導(レクチャー)することになった。


 なったんだけど。


僕が丁寧に説明して、二対一で説得する場合、二人の側は均質な姿勢で臨むより、異なる姿勢、例えば理想論を告げる役と、現実的に妥協する共感役みたいに役割を分けることで、一人の側に三者で異なる意見で話しているのだと認識させ、そして二者の異なる意見を聞くことで自身の考えに揺らぎを与え、妥当な答えへと誘導していく、なんてことを話して、実例も交えて解説もしたんだけどぉ。最初は二人とも同じ意見、途中から立ち位置を変えて説得と共感に分かれて、更に話の中で立ち位置を入れ替えたりして、露骨な「役割分担アプローチ」をしていることを気付かせないように工夫するのが肝心ですよ、とか話してあげたのに。


何故か、地の種族の集団での合意の仕方、その為の手法として参考にするというより、竜族があまり意識せず行っていた会話を複数人で行う技法にまで高めて、相手の思考を誘導していく手口に驚愕と僅かな恐れを抱かれる結果になってしまった。


理詰めで説得するだけでは不十分で、相手の感情に寄り添って共感しつつ、異なる視点を提案しながら、より良い方向に導くんですよ、共感を示して、相手に「自分をわかっている」と思わせるのが重要でぇ、なんて話をしたら、なんかドン引きされてしまった。


「伏竜様、相手の心に共感して寄り添う、って話をしてるのになんで、そんな引くんです?」


そう問うと、伏竜さんは少し逡巡した後、かなり言葉を選んで答えてくれた。


<寄り添うと言いつつ、そうして心の守りを弱めて、意図した方向へと導く、その対話を技法とまでしてる在り方に「遠さ」を感じたのだ>


 あー、うん。


互いに縄張りを持っていて、密な交流を必要とせず個で生活が完結している竜族からすると、集団の中で自分の意見を通して、賛同者を増やして、という対集団戦みたいな意識自体が文化に存在しないんだね。それを多少は意識して行っている個体、例えば長のような方ならなんとなく感覚でそれを駆使してはいるんだろうけど、体系立てた技法とまではしてないし、それを記して残すような技術もない。自分達にない部分、その威を知れば、そしてそれが自分達の感覚と違うと思うと「遠い」という感想になるんだろう。


『そこに悪意がなく、互いの利となり、更に互いに納得できるなら円満解決でしょう?』


両者、不満もなく目指した地点に揃ってゴールイン、って感じのイメージを言葉に乗せて送ってみた。ね、問題ない。


 ん。


伏竜さんはどうにも疑り深い性格のようだ。他の竜ならこれで「あぁ、そうだね」と納得してくれるとこなのに。


<あぁ、そうだろう、と軽く考えると思えてしまう。そう言うところがあるからアキとの心話は遠慮したいのだよ>


伏竜さんが自分の思うところを教えてくれた。うん、うん、良い性格されているよね。そういう方でないと。


僕が伏竜さんの返事を聞いて気を悪くするとでも思ってたのか、別の反応が返ってきた事に怪訝そうな目線を向けて来た。なんかカワイイ。


『伏竜様、貴方はそうした意識を持てる方だから良いのです。雲取様と並び立つ二枚看板となると話したでしょう? 雲取様のような考え、立場の方が二人に増えてもそれじゃ意味がないんです。伏竜様は雲取様とは違う。だから良いのです』


貴方は貴方のままでいればよい、それが良いのです、と好意マシマシに送ると、迷いのような意識が伝わってきた。まぁ、うん、なかなか今までの生い立ちを考えると、その貴方だから良い、と言われると困惑するだろうね。特に竜族的価値観からすると。


伏竜さんは、僕の意見はそうだ、と認識した、というところで考えるのを止めて話を切り上げると、雲取様と話をしてから福慈様の説得という流れになるのと、自身の中で考えを纏める時間も必要だから、結果は次に訪問する三日後までには出るだろう、と告げると去って行った。違いがあると認識した上で、今、そこを深く考えるのではなく、一端、保留としたのは良い判断だと思う。伏竜さんの中ではまだ、今の自分を評価する価値観も育ててる最中だからね。





 ふぅ。


伏竜さんとの話も終わり、時間も良いとこなので、馬車に乗って別邸へ。


その帰路で、先ほどのやり取りについて、ケイティさんやお爺ちゃんと意見交換することになった。


「アキ様、雲取様はどちらかが説得すると話されていたと伺ってましたが、なぜ二人での説得を推奨されたのです?」


 ん。


「そこはほら、今回の話ってこちらの文化や長期計画みたいに、地の種族的な思考が色濃い話じゃないですか。下手に伏竜さんと福慈様だけで対話されると、地の種族の意見と、竜族的価値観の対決という困った方向に話が流れかねないかなぁ、って。そこで重要なの雲取様です。雲取様ってお婆ちゃんっ子なのは竜族の間でも知れ渡ってるでしょうし、福慈様もそれを認識されているでしょう? となると、雲取様が同席すれば、自分の味方が増えたとまぁ考えてくれて、そうした対立基調が薄まると思ったんですよ」


「味方とは限らんがのぉ」


お爺ちゃんがわかっておるぞ、なんて顔をしてツッコミを入れてきた。


「そこをどう判断されるかは福慈様の胸の内ということだからね。まぁ、でも雲取様とて色々と思うところはあっても、僕の提案が多面的に見てベストと理解はしてくれたから。だから、福慈様から見てもそう悪い話ってことではないでしょ」


周りが良かれと思うことが、本人にとって良いとは限らないけどね。今回の件なら、外から見える範囲でなら、僕の示した案は妥当だろう。


「それと、遠さ、でしたか。共感は難しそうでしたか?」


「んー、そこはある意味、竜族は経験不足なところが多分にあるので、何とも。共感できるだけの素養はあるのかもしれなくて、経験不足だから「遠い」と感じているだけなのかもしれない。現時点で「遠い」と感じたのは確かですけど、それが今後もそうかどうかは、伏竜さんが経験を積んでいくことである程度見えてくるかも。あと個体差もあるから、伏竜さんから導いた判断と、雲取様のそれは違うかもしれないし、拙速な判断はしない方がいいでしょうね」


ここが難しいとこだ。伏竜さんは竜族にしては、一歩引いたとこでじっくり考える癖というか性格をされているからね。他の竜は良くも悪くも思った瞬間行動するみたいなとこが強くて、じっくり考えてから行動する、というより、行動してから結果を見て判断する、くらいなとこが多いと思う。勿論、すぐ行動するような話でなければ、雲取様みたいに考えた末に先送りしようか、なんて逡巡する場合もあるから、何でも即断即決ってわけではないのだけど。


 おや。


トラ吉さんが膝の上に載ってきて、撫でれ、と催促してきた。珍しいね。膝の上の重みと温かさがまた心地よい。うん、撫で心地もよきかな、よきかな。


「アキは随分と伏竜殿を肯定しておるが、先ほど話しておったのは全てではあるまい?」


まぁ、お爺ちゃんならそら気付くよねぇ。


「伏竜さんってこれまでにあまり、肯定的な評価を受けたことがないと思うんですよね。竜族的価値観からすると、見劣りした体格だとそれを覆すのが難しいとこがありますから。だから自己評価が低い。ただ、それは視野が狭いって伝えたいんだ。一つの尺度で駄目でも、別の尺度で見ると価値は変わるんだよ、ってね。今後の竜族はこれまでにはない集団としての文化、価値観を育てていく事になる。そうなると、皆が雲取様だと社会に厚みが出ないでしょ。地の種族の強みは多様性と団結だからね。団結だけ真似るのは片手落ちで、多様性も併せ持たないと社会が薄っぺらになっちゃう」


できれば、弧状列島の統一国家となる弧国(仮称)では、集いし種族ごとの異なる価値観、尺度を尊重して、相手を多様な尺度で見定める、そんな文化が育ってほしい、なーんてことを話してみた。まだぼんやりとした感じでしか考えが纏まってないんだけどね。


「ニャ」


おや、トラ吉さんも賛同してくれるとは嬉しいね。そうそう、トラ吉さんから見た尺度なんてのもあってもいいだろうね。言葉が通じないのが良いところなんだけど、こういう時だけは、通じた方が話が早いとか思っちゃうのは現金な考えなんだろう。


「アキ様、好ましいと伝えるのと、好きと伝えるのは似て非なるモノですけど、そこのニュアンスはちゃんと伝えられていますか?」


 ん?


「勿論、貴方の在り方は素晴らしい、そんな貴方が大好きですよ、ってちゃんと伝えてます」


そこは抜かりなく、しっかり、がっつり好意マシマシです、とぐっと手を握って伝えると、なんか呆れられてしまった。


「にゃー」


あれぇ? トラ吉さんも少し不満げな声を出してきた。むむむ。なんでだろうね?


そんな感じで馬車の中での団らんは終わった。後は伏竜様と雲取様、それに福慈様の話だからね。果報は寝て待て。明日からは久しぶりにがっつり研究組の方に顔を出すことにしよう。

ブックマーク、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい。前回の後、別れる前に補足ということで、説得について二人でやるのがいいよ、とアドバイスしたことが明らかになりました。アキが紹介している話法は心理学や交渉術で「グッド・コップ/バッド・コップ戦術」や「役割分担アプローチ」と呼ばれるものになります。二人の側が同じ意見を揃えて言うのではなく異なる視点、役割に変えることで相手の揺さぶりをかけるって奴ですね。なかなか奥が深い技法です。ちなみに今度第二期を務めるトランプ氏は、一人でコレをやってきて交渉ディールしてくる怖い人です。どんな極端な意見でもそれを選ぶ可能性を捨てず、相手の精神を揺さぶり、選択肢を狭めつつ、裏を読ませず、それでいて、キミの立場もわかる、我々は合意できる余地がある、私は対話する窓口はいつでも開いている、裏で交渉してその内容は明かさず、良い対話ができたくらいしか話さない(事で相手の面子を守る)とかやるんですからそりゃ手強い。この底の見えないところ、揺さぶりをかけるところは極めて対独裁者向き特攻があって乱時のリーダーの面目躍如といったところです。バイデン氏のオープンスタイル、理詰め、冷静に、という平時のリーダー特性は、独裁者からすると選択肢が無駄に狭められて裏が読みやすく交渉が決裂しやすいので、独裁者との相性が非常に悪いんですよね。


次回の更新は2024年11月27日(水)の21:10です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ