第二十三章の施設、道具、魔術
今回は、二十三章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
◆施設、機材、道具
【レーザー通信施設】
共和国の本島とロングヒルの間を繋ぐ長距離通信施設であり、双方向でリアルタイムな映像、音声の再現を遅延なく行えるという超技術である。マコト文書の知がなければ、こんな施設の建設など考えないと断言できるくらい、こちらの技術体系からすると異質な施設である。今回、アキは、ロングヒルに駐在している三大勢力の関係者達が、代表達ほどの権限も視点も意識もない事を強く実感することになった。これまではまぁあれば便利くらいにしか思っていなかったものの、竜族絡みで最上位の為政者同士で相談し合わなければならないような事態が起こることが容易に想像できることが理解できたので、今後はアキもこの施設の建設の前倒しを切望するようになるだろう。
◆魔術、技術
【召喚者の心の隙間を利用した異世界間通信】
召喚体と召喚者を心の隙間を利用して繋ぐ通信手段。現状では物質界の本や図などを妖精界に持ち込むのに利用されている。召喚者が記憶して妖精界でメモを取るのと違って、劣化なく情報の世界観の持ち運びを行うが利点だ。また、情報を直接やり取りできるので、召喚者のアキやリアを経由しない点も素晴らしい。ただし、召喚者の心の隙間を用いることから、どの程度であれば負担が少なく通信を行えるか、試行錯誤をしているところである。通信速度換算ではまだまだ全然早くない。
【幼竜向けの就寝専用家屋】
幼竜が数柱入れる=軽自動車数台が入れる規模の大型倉庫であり、羽を広げても事故にならない程度となると更にあと数台分入るくらいの広さが必要になるだろう。また、入口も最低でも一柱ずつが入れる余裕のある広さが欲しいし、外で暮らすのが当たり前の幼竜達が息苦しさを感じないよう、閉塞感を出さないで済むよう窓もそれなりにあった方が良さそうだ。換気口もあった方がいいが、そういった開放部全部は虫や蛇、鳥が入れないような網目で封じておく気配りも大切である。
また、風雨にも耐える必要があるし、地震で倒壊するなんてのも困るので頑丈さが必要だ。そしてこれが重要だが、空間鞄に入れられる程度にパーツ分割をして、それらを遠隔地で取り出して、物体移動で行える程度の雑な作業で組み立てて完成させられるよう工夫もして欲しい。
それから、出入口も竜のあまり器用に動かない爪や、或いは物体移動で開閉し戸締りできるよう配慮して欲しい。鍵はいらないが内側からも外側からも開けられる工夫が欲しい、といった具合で、列挙してみると、何とも無茶振りのオンパレードであり、アキをして、どんな手品を使えばそれが可能になるのかわからない、と呆れたのも無理はない。いっそのこと建物なんて諦めて防虫結界や蛇や獣の侵入を検知して警告を発する警戒用魔導具を渡して、それを使って貰う方がマシではないか、なんて話にもなるだろう。ただしそうした魔導具の場合、今度は竜の膨大過ぎる魔力で壊れず安定して使える頑強さと強信頼性を兼ね備える必要が出てくるのだが。……そんな訳で、この話を振られたドワーフ族のヨーゲルが盛大に顔を顰めて天を仰いだのも無理のないことだった。
【福慈様の思念波爆発の可視化】
物質界の世界では、まだ全土に地震計も速報を可能とする高速連絡網もなく、全土を正確に把握できる正確で詳細な地図も共和国以外に保有していないことから、地震の被害があったとしても、震源地を特定する必要性が乏しかった。各地の国が自助努力で被害に対処し、難しい場合は周辺国に援助を要請して共助、それすら厳しい広域災害の場合には、各勢力のトップに連絡を入れて、遠隔地から支援を投入するといった段階を踏むことになる。そのため、前回の福慈様による思念波暴発による広域被害や、今回の規模こそだいぶ小さくなったものの、新たな広域被害については、共和国が主体となって、その可視化に取り組むことになった。
福慈様の巣の位置は被害エリアから逆算すれば特定するのは容易であり、一回目と二回目でその中心点が同一であったことからしても、その位置の認識に誤りはないだろう。
そして、思念波は距離と共に減衰していくのも地震波と同じ。地震と違うのはそれによる新たな別の地震の誘発といったことが起こらないのと、津波を伴うこともないといったところだろうか。実は、地震と似た性質と言える特性も兼ね備えていたりする。それは一回目の思念波暴発時に起きた事だが、強烈な思念波に慌てふためいた多くの天空竜が混乱して飛び上がって空を飛び回って右往左往するという広域での大混乱が起きた。これはソレ自体が協力な圧を生じる天空竜が各地に襲来してくる事に近く、これもまた、福慈様の思念波で大変混乱した地の民に、更なる追い打ちをかけることになったのだ。
二回目は規模が小さく、持続時間も僅かだったこともあり、そうした誘発された更なる混乱は起きることはなかった。そのことから、一回目と異なり、単発の思念波による影響や、距離による減衰について、被害状況を地図にプロットしていくことで、思念波の規模と距離による被害状況の変化といった分析も可能になった。この事は、春先に三大勢力の代表達がロングヒルに集結した際に披露されることになるだろう。全勢力が詳細な弧状列島全図を共有するからこそ起きた大きな変化である。
この事もまた、弧状列島全体を統一することで生まれる国をイメージする一助となることだろう。その際には、福慈様クラスの老竜達の巣の推定位置も新たにプロットされて公開されることになる。恐ろしい事だが弧状列島は思念波災害に常に全域が襲われる可能性がある恐ろしい地であること、参謀本部も強い懸念を示した件は春の首脳会談においても重要テーマとして語られるに違いない。
【無言の伝話】
アキは竜達の思念波の真似をして、伝話の技を無言でやってみました、とかさらりと言っているけれど、実のところ、声という媒体に対して意思を乗せて新たな特性を付与するという伝話の技法からすれば、それはまったく似て非なる内容であり、知る人が知れば、ツッコミどころ満載の超技だったりする。アキは伝話の亜種と考えてアレンジしましたと言っているものの、実態としては、竜族の思念波そのものと言った方が恐らく妥当だろう。というか、無言の思念波というツッコミを何度となく受けているのだから、自分もソレを真似してみました、と言った方が正確だと思うのだが。ただ、ソレを指摘してくれる人はいないので、アキの勘違いはしばらく続くことになるだろう。
両者を比較していくと、どちらも波の特性があり、竜族はそれを全周囲への拡散で行使したり、集束して対象を絞って直進性を高めたりとかなり幅広いアレンジをしているが、思念波自体の特性寄りなので、音のように反響しながら遥か奥地まで届く、大きく回り込むといった特性は示さないといったところが違いか。いずれにせよ、話題になれば賢者辺りが喜んであれこれ分析してくれることだろう。その機会があれば、だが。
【位相を揃えた光】
アキは本編で、熱線術式は位相を揃えた光ではないから遠距離だと減衰が激しそうだよね、などと思った訳だが、実のところ、位相を揃えた光というのは、どこまでも細く一点に集束した形で照射されていくかというと実はそうでもない点をすっかり忘れた意識だったりする。マコト文書にはそのこともしっかり記されているので、アキがこの発言時には忘れているだけである。例えば月面には入射角に対して完全に全反射を行う再帰反射器が置かれていて今でも現役で、毎日レーザーを照射して、月との距離を超精度で計測しているが、地球から放たれるレーザーは糸のように細いが、月面に到着する頃にはそれは直径6.5kmにまで拡散しており、再帰反射器が全反射して地球に届く頃には更にそれが直径6.5kmに拡散することで、打ち出した光の何兆分の一というレベルにまで光は減少してしまうのだ。
これは光は波であり回析という現象が避けられず、相互干渉によって広がってしまうのが避けられない特性を持っているからこそ起こる現象である。また、光は当然だが大気や水分によっても減衰するので、昨今話題の迎撃用レーザーも射程が最大でも8kmと言われているのはその為だ。創作作品のビームのようにどこまでも細く鋭く凄いエネルギー量で届くなんてことはないのである。残念。
【熱線術式】
本作ではこの術式はかなりポピュラーで、多くの種族がこれを使っており、地の種族も当然、これを使っている。ただ、それなら本作において妖精族や竜族が見せたような効果が出るかというとそんなことはない。地の種族が使う熱線術式はどちらかというと牽制技であり可燃物を燃やすといった特性で使われることが大半である。露出した肌に命中させれば火傷を負わせることができるし顔面直撃なら視力を大きく奪う事も期待できる。ただ、それくらいの術式扱いなのだ。
それに対して妖精族は、重装甲の鎧に対して熱線術式を放ち、これを点で融かして貫通させる妙技を見せた。これを気軽に見せられた人々は内心、かなりの恐怖を覚えたことだろう。熱線術式は見て防ぐのはほぼ無理な速さの代わりに低威力であり、盾を展開するなどしてある程度防御を厚くしていれば被害の多くは防げるというのが常識だったからだ。それが一点貫通、必中となると話はまるで変わってくる。本編では描写されていないが大陸にいる地竜達が使うのも妖精族の運用に近くしかも機関銃のように連射できるというのだから悪夢である。そして、天空竜が空戦距離において放つ牽制技としての熱線術式は竜族なのにその力を大きく溜めて撃ちだすという、特徴的な放ち方をする。それだけ距離減衰があるのと相手も低位術式は軽く無効化する竜族なので、牽制技とはいえ効果を与えられるためにはそれなりの大出力で撃たないとそもそも牽制にすらならないという話があるからだ。
……ただ、放たれた結果は遥か遠距離に浮かぶ雲に大穴を空けるほどであり、これが地上目標に放たれればマップ兵器扱いの大被害を出すのは確実である。アキ達はうわー凄い、いいモノ見たわー、などと喜んでいたが、鬼族や小鬼族のように恐怖に顔を引き攣らせるのが普通の反応である。
<空間断絶術式>
よく創作作品で出てくる定番の絶対防御である。何せ、切断するという現象を起こす空間自体がないのだから、切断効果をそこを超えて及ぼすのは原理的に無理という点が素晴らしい。……ただ、本作においては、妖精女王シャーリスが止め、依代の君が止めたように、ある意味、世界を破壊して、崩壊させた領域を作り出すわけだから、世界そのものに影響が無い訳がないのである。止めておいた方がいいと両者が言ったように、そんな真似をしてタダで済むわけがなく、止めたのは正解だった。
それならまだ、世界の理に介入して、性質を少し変えるくらいの方が悪影響は少ないだろう。常闇の術式が光が存在できないよう理を捻じ曲げるという超絶技法を行っているが、それでも世界そのものは存在しているという大前提は変わってない。ただ、実はコレは実行しなかったものの、ある種の突破口となる術式でもあるのだ。そう、妖精の道と呼ばれる自然現象、次元門としてそれを再現しようという試みとこいつはとても近しい関係にあるのだ。次元門はその1点において、別世界と繋がるという、通常世界が決して持つことがない特殊状態が出現している。これを常闇の術式のように世界の理の性質を変えた亜種と見るのは間違いである。ソレはあくまでもこの世界だけの性質変化なのだから。次元門は他世界とこちらの世界が一点で交わっているという点で、二つの世界そのものに介入するという超絶技法と言える。そしてソレは実現方法はわからないものの、実現は可能なのだ。自然現象として異なる世界同士を繋げる妖精の道という実例があるのだから。
……と言う訳で、ポッとでのお蔵入り超危険技と思われる方もいるかと思うけれど、実はこれ、今後も研究組が楽しく弄繰り回すことになります。なにそれ、怖い(笑)
【保管庫の時間制御】
本作においては空間鞄は、良く聞くアイテムボックスと違い時間経過に影響はない。別の保管空間に繋げるといった仕組み程度である。それに対して保管庫の方は今度は空間への干渉はせず、覆った空間内の時間の進みを遅くするという点に特化している。そして、中に何を入れても同じように時間を遅くできるのかといえば、そうでもないという技術特性が今回明かされた。できるだけ動きが無いもの、静かなものを保管するようにしないと魔力消費量が膨大になってしまい止められない、或いは止めておける時間が極端に減少してしまうという限界があるのだ。だから、料理が冷めないようにしておく、くらいの事にしか現状では使えていない。
なので、うん、これは駄目だね、と今回は軽くスルーされたが、実のところ、こいつも今後いじり倒される技術である。空間制御、時間制御、そして世界の理への介入、世界そのものの局所的な破壊、とまぁ、できることが随分増えてきて、手札も増えてきたね、とアキとしてはニコニコである。
【味噌、醤油、豆腐、日本独特と思うのは誤り】
本編でも紹介されていたように、これらはぜんぶ大豆がなければ発展はそもそも不可能であり、大豆は大陸から渡来してきた外来植物なので、日本には元々はなかったものなのである。そこから日本全土に広まっていき、様々な製法が編み出され、日本食と言えばこれらは欠かせないものとなっていったのとかなりの年月を経ているので、古来からあると思いがちだが、実は案外そうでもないのである。そういう意味では妖精の国において、大豆が存在し、質にかなりの問題はあったものの、味噌や醤油が作られていたというのは行幸だったと言えるだろう。アイリーン達からがっつり知識を学んだ妖精達の手によって、本来なら長い年月と試行錯誤を経なければ辿り着けない改良技術をいきなり学ぶことができたので、これによって、下手すると数百年単位での技術進歩が起きたと言っても過言ではない。世界間交流の凄まじい効能である。まぁ、これも妖精の国が三界交流を最優先とすべし、と判断した理由の一つなのである。
はい、投稿が1日遅れてすみませんでした。二十三章は思ったより、施設、道具、魔導具の新しいネタは出てきませんでしたね。まぁ、本作の最重要問題である次元門構築に絡んでくるネタもだいぶ増えてきたので、今までは軽い暖機運転みたいなものでしたが、今後は次元門研究も本格化していくでしょう。妖精族の国民総出による心話や魔力共鳴に関する超大規模検証の結果もがっつり入ってきますからね。アキとしては、前払いで沢山協力もしてあげたし、こちらの研究にも協力してくれるだろう、と皮算用しているところです。とはいえ、アキの認識と、周囲の皆が求める粒度の差もだいぶ明らかになってきましたし、アキがいうほど、皆が快諾してくれるかというと、はい、そんな事、ある訳がないのです(笑)
<今後の投稿予定>
二十三章の人物について 十一月二十日(水)二十一時五分
二十四章スタート 十一月二十四日(日)二十一時五