二十三章の各勢力について
二十三章は七日間という短期間なので、各組織側の動きは殆どありません。ただ、実はかなり濃い七日間、今回、三大勢力に明かされた話は大きな影響を与える出来事なので、それらについて各勢力側からの認識を記します。
各勢力の基本説明は八章の「第八章の各勢力について」をご覧ください。このページでは、二十三章での状況を中心に記載してます。
【ミアの財閥】
SS⑫で語られたように、七人の魔導指揮官達、ロゼッタ配下の将官級魔導人形達をフルメンバーで引き連れて、長老衆の会合に乗り込んだ挙句、「人格模倣の範疇から出ず退屈でシタ」などと長老衆を盛大に煽るなど、アヤの支援をするという名目ではあったが、ミアを補佐した時と同様、アキに対する問題に対しては、財閥は全力でこれに対抗する、という意思表明をすることになった。
実のところ、財閥がそういう姿勢でいることは長老衆も把握していたものの、そうすると思われるというのと、明確にそれをすると表明したのでは、意味合いがまるで違う。
これは、長老衆の求めに応じて、必要に応じて知識のサポートをしますよ、といった協力をしていきます、というのと明確に異なる対応を意味する。それらは勿論行うが、同時にアキにとって利が最大となるよう財閥は総力を尽くす、という事だからだ。今回も示威行動として、長老衆個々人の思考のあらかたのところまでは把握している、交友関係から過去の行動も目立つところは押さえた、という事を敢えて晒した訳だ。下手な小細工をして足を引っ張るような真似はするな、という警告そのものだった。
家令マサトも、七人の魔導指揮官達に長老衆の人格模倣をさせて、彼らが今、何を考えているのか、何を恐れているのか、などということを把握した時点で、この時点で介入しておかないと不味いと判断しての行為であった。
【共和国(街エルフの国)】
妖精達の次元門構築優先宣言、その第一弾として、国民総出での心話、魔力共鳴の大規模検証が行われることは、ロングヒル王家経由で各国に通達が行われた。それとは別に、他文明圏への使節団派遣におけるメンバー同行と、召喚体と妖精界を経由することによる共和国の常時連絡実現という申し出があり、事ここに至っては世界儀の一般公開している一割の残り、灰色に隠蔽していた九割部分についても、大陸の形状や位置、それから大都市の所在地や規模についてもある程度把握していることを各勢力に対して公開することを決断した。これは、何もわからない未知の海域に対して大規模船団を派遣する、という行為に説得力が薄いのと、そこまでして隠蔽するとして、いつまで隠蔽するのか、隠蔽する意味は何なのか、と考えた時に、そうする意味はもはやない事を理解したからだった。
公開したとて、低軌道で運用している観測衛星群の高度までも竜達は上昇してはこれないし、静止衛星軌道上ともなれば、まったく距離が足りないだろうことは明らかだったからだ。そして他勢力についても同様で、地上からは点にしか見えない衛星群を街エルフが打ち上げて運用していると知ったとて、だから何ができるかと言えば、特にできることはなく、せいぜい空の上から観測されていることを自覚する程度だったからだ。
それに、地形は把握していても、新たな大陸はどのような生物や人種がいるのかも何もかもわかっていない。そんなところに使節団を派遣しようと言う以上、探査船団に乗る者達は運命を共にする仲間である。ならば、隠し事などするのは不義理というモノだと街エルフらしく考えた。これが人族なら後でバレても五年、十年騙して得を取ろうなどと近視眼的なことを考えるだろうが、街エルフはなにせ長命種なので、ここで隠し事をしても先々を考えると損であり、それより皆を信用している、仲間であると認識していると自分達からアピールした方が遥かに得策だろうと判断したのだ。長命種らしく。
結果として、アキからの手紙で、想定される三つの文化圏に対して、探査船団を派遣し、召喚体と魔導人形による使節団を上陸させ交流を行う旨が伝えられることになった。そこに大都市があり活動していることまでは把握できている、だからこそ、エウローペ文化圏よりもできるだけ早い時期に接触して、仲間に引き入れておきたい、という話である。
【探索船団】
→影響なし。
【探索者支援機構】
→影響なし。
【対樹木の精霊ドライアド交渉機構】
→影響なし。
【竜神子支援機構】
福慈様の二回目の思念波暴発は、多くの竜神子達も感知することになった。ソレは自分達が交流する穏やかな竜達の思念波と違い、怒りと拒絶に満ちたモノだっただけに皆も多少慌てることになったが、多くの思念波を受けて経験を積んだ事で、竜神子達はソレが自分達に向けられたモノではないと認識することができ、ソレを受け流すことができた。この経験はそれぞれの体験談と共に竜神子達の間で共有されることになり、福慈様の思念波が届かなかった地域にいる竜神子達にとっても貴重な情報を齎すことになるだろう。まぁ、今はまだ竜神子達もせっせと体験談を書に記しているところである。これからロングヒルに送られて編纂されて製本されて、各地に配布されることになるので、情報が届くのは何週間か後になるだろう。その時には、アキが雲取様や伏竜様から聞いた竜族目線での今回の思念波暴発の件への認識、今後、どう対処していくつもりなのか、とった情報も共に配付されることになる。何せ広域に及んだ思念波なのだ。対応している若竜達から話のネタとして振られないとも限らない。その時には、地の種族は大変だったんですよ、とあまり深刻にならない程度に伝えよう、なんて問答集まで付くことになる。
【ロングヒル王国】
福慈様の二回目の思念波暴発もあり、前回に比べればだいぶマシではあったものの、恐怖に心身の不調をきたして病院に担ぎ込まれる者達が続出することになった。ただ、他の国にも連絡を取ったところ、似たような距離の国でもロングヒルよりは被害が大きく、この事から頻繁に竜が飛来するロングヒルにおいては、直接対面していないような市民であっても、ある種の耐性ができているだろうことが見えてきた。頻繁に竜の対応をしている第二演習場付きのスタッフ達ではその差は顕著で、念のためにといって医師の問診を受けた者が数名出た程度という数の少なさである。この事を受けて、王家は負担にならない程度に第二演習場勤務のメンバーを増やす事を決めた。今後は、ロングヒルの地には更に竜が頻繁に訪れる可能性もある。だからこそ対応できる要員を少しでも増やしておくことは重要と判断したのだった。
【人類連合】
妖精達の次元門構築優先宣言、その第一弾として、国民総出での心話、魔力共鳴の大規模検証が行われることが、ロングヒル王家経由で届き、何があったのかとアキに問い合わせた結果戻ってきた書には「実は世界儀ですけど、残りの灰色部分、どこが陸地でどこが海か把握できてて、大都市の位置や規模も把握できてるので、エウローペ文化圏に先んじて、未知の文化圏三つとの交流を行おうと思うんですよ。その為の使節団を今後送るつもりです。詳細は次に春にお会いした時にお話ししますね」などと書いてあったのだから、貰ったニコラス大統領も思わず、周囲を見回してしまったのも無理はない。
そして、手紙には続きで「その文化圏への使節団に妖精さんもそれぞれに参加するので、妖精界経由で適宜連絡を取り合えるようになる予定です。それと妖精さん達は自分達の世界地図の未知の部分を探査して広げていくより、三界を繋ぐ次元門構築の方が益が多いと判断しました。物の理を深く知った事で、賢者さんが創った竜の鱗は、皆が観ていても消えることはなく、僕が触れると手の中で淡雪のように消えていくのが綺麗で――」などと書いてあるのを見て、驚愕することになった。
創造術式は妖精族であっても、さほど時間を置かず消えてしまうくらい高難度な術式だ。それが皆が眺め回しても消えないと言う時点で尋常ではない変化があったとわかる。三界を繋ぐことの利とはそこまであると判断したのか、とその意味を理解したからである。普通に考えれば、自分の国を取り巻く地理を把握することは為政者ならば最重要と判断するだろう。勿論、飛行船でそれはそれで行うのだろうが、そちらはあくまでも十人程度が派遣される規模である。それが次元門関連の検証作業として、国民全員が参加ときた。力の入れ具合がまるで違う。そして肝心なことは全部、春にお会いしたら説明しますから、だ。
共和国に世界儀について問い質すことにもなり、連邦や帝国とも対応を入念に協議せねばならないだろう。そう判断して春先にロングヒル入りするメンバーの増員を決めるのだった。
【鬼族連邦】
アキからの返信を受け取った鬼王レイゼンは、共和国が世界儀の残りの領域について、どこに陸地があるのか、どこに大都市があるのか、規模も把握しているとの事実を読んで、さもありなん、と納得することになった。というのも、アキは連邦領を訪問するにあたり、事前に立体地図を用いて飛行ルートの調整を行っていたからだ。連邦領に対して行えるなら他の地域に対してできても不思議ではない。ただ、さすがに世界儀全域などとは想像してはいなかった。そして、いきなり世界儀全体と言う話に飛んだことから、自分が世界儀を眺めるように、そうした視点からこの惑星を眺める何らかの術があるのだろうと思い至ることにもなった。
航行する船から見える水平線までの距離など世界儀に比べれば点のような範囲であり、航行日数から考えても、探査船団が得た情報の集大成として世界儀全域を把握したということはあり得ない。なら、もっと広い範囲を一度に観る手段、いっそ惑星全体を眺める術でもあるのだろう、という訳だ。
また、妖精の国は周辺国に対して圧倒的に優勢とも聞いているので、そこまで脅威に感じず優先度を低く考えたのだとも予想した。それと、暫く放置していても消えないほど創造術式の改良が見られた、という点にやはり彼も着目することになった。それほどまでに術式の効果を高められる恩恵があるとなれば、三界を繋ぐ利の方が大きいと判断するのも当然だろうとも。後は春に詳しく話を聞けばよい、とそこですっぱりそれ以上考えるのは止めた。どうせ説明するというのだからその時考えれば良いのだ。
【小鬼帝国】
ユリウス帝もまた、アキからの手紙を見て、その認識範囲の余りの広さに驚愕すると共に、ある意味納得していた。以前見た立体地図では最新の埋立地の情報は反映されていなかったことから、観察頻度はあまり高くはなく、そしてその観察は上空から行われているのだろうとまでは推測していたからだ。だが、まさかこの惑星全域にある大地の形や位置、大都市の規模まで把握できているとは予想外だった。帝国領の詳細な把握のされ具合からして雲の上、竜達が飛行する程度の高度から何らかの手段で見ていると考えていたのだが、それでは到底把握しきれない超広域である。それより遥かに高高度から観なければ到底把握はできまい。
それと妖精達が物の理を深く識ることで、術式の大幅な改善を図った点に彼は着目した。物の理はこちらの世界でもかなり進んでいるとはいえ、魔力ゼロの地球に比べると、やはり魔力がある分、識る範囲に限りがあったため、それならば小鬼族にとっても同じように利が得られるだろうと考えた。同時に多くの文官達がロングヒルで交流に励んでいるが、妖精族が識る範囲と、自分達が識る範囲にはどのような違いがあるのか、何が彼らに大きな飛躍を齎したのかぜひそこを明らかにしたいと考えていた。いずれにせよ、春には説明があるとのことなので、そうした作業も分担できるよう、文官の増員を行うようユリウス帝は命じるのだった。
【森エルフの国】
→影響なし。
【ドワーフの国】
→影響なし。
【妖精の国】
要請の国としては、大方針も決まって、三大勢力への話もできたし、他文化圏への使節団派遣の際には妖精もそれぞれに加わるという大方針も定めることができた。共和国も、物質界の世界儀が実は全部埋まってる事実を公表する決断もしたので、これであらかたの状況は定まったといったところ。
【竜族達】
福慈様の思念波の再暴発は、短時間かつ、前回よりずっと規模も小さく、そして一度しか起こらなかったこともあり、竜達は特に慌てふためいて飛びあがるようなこともなく、あぁ、なんか怒ったなぁ、と認識する程度で「終わった事」として認識されることになった。なので二十三章終了時点では、まだこの件は、雲取様、伏竜様の二柱しか、この件が地の種族にとっては問題となったこと、「死の大地」の浄化作戦を考えると問題なのだ、ということは認識されていない。そして、再発防止策として小型召喚体でロングヒルに福慈様を喚ぶという話を伏竜様が行うことになるのだが、その話の顛末は二十四章で語られることになるだろう。
【樹木の精霊ドライアド達】
→影響なし。
【「マコトくん」の信者達】
→影響なし。
はい。長い、といっても本作世界では一年程度ですが、遂に三大勢力もまた、自分達のいる惑星の全体像を地球のように眺めることができるという事実を知ることになりました。実際に隠し事なしの世界儀を見ることになるのは次の春、再会の時になりますけどね。これでまた世界の中における弧状列島という意識を強く持つことになり、統一国家樹立に向けた流れもまた一方進むことになるでしょう。
<今後の投稿予定>
二十三章の施設、道具、魔術 十一月十七日(日)二十一時五分
二十三章の人物について 十一月二十日(水)二十一時五分
二十四章スタート 十一月二十四日(日)二十一時五分