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SS⑫.福慈様の思念波の再暴発と、アキを危険視する風潮(前編)

<前回のあらすじ>

いろいろと、()()()()もあったけど、結果として伏竜さんには、種族同士の子供対する意識の持ち方の違いであるとか、生老病死の概念の差なども話して、深く理解して貰えたので、終わり良ければ全て良しでしょうか。それにしても、僕が確信を持って、伏竜さんは福慈様に並び称されるようになるから、と伝えた時の困惑した顔、可愛かったですね。

父親をスーパーマンと信じる娘に対して、夢を壊さないよう苦慮する父みたいな感じだったかな。でも、ソレは伏竜さんの自己評価が低過ぎただけで、貴方は磨けば光る珠なのだ、って話ですからね。それが証明されるのもそう遠い日じゃありません。(アキ視点)


今回は本編ではなく、共和国における長老衆vsアヤ、という観点の第三者視点描写です。読まなくても本編理解には何ら問題はありませんが、読むとより一層楽しめることでしょう。本編だとアキ視点なせいで、こうした裏の部分での駆け引きの多くが見えませんからね。或いは話してもアキは軽くスルーしてしまうので。


妖精族が国家千年の計として、次元門構築優先の方針を示し、更に他文化圏育成計画の為に、派遣する使節団にそれぞれ、妖精を一名ずつ同行させ、妖精と妖精界を通じた世界間通信を利用することで、遠い地の果て、この惑星ほしの裏側にまで派遣する使節団と本国の間を、大型帆船の転移門といった特別な設備を利用せずとも、双方向通信を実現させることも可能となるだろう、という衝撃的な見通しが発表されたのも束の間。


それから程なくして、福慈様が二回目となる怒りと拒絶の意思モリモリな思念波を暴発させることになり、列島の広い範囲が混乱することになった。


共和国は、福慈様の巣からは離れた位置にあることから、ロングヒルに比べてもその被害は軽めでは済んだ。ただ、軽いとは言っても、竜の咆哮(ドラゴンズロア)に近い思念波とあっては、やはり心身のバランスを崩してしまう者とて、それなりの人数は出ることになったのだった。


なお、実は毎日のようにロングヒルにやってくる成竜達との対応をしているスタッフや、ロングヒルの大使館領に努めている者達は、それによって竜の圧に少しずつ慣れて行ってるのか、統計上、明確な差異が出るほど、被害が少なかった。この事は半年置きにしかロングヒルを訪れない三大勢力の代表達に比べると、日々接している者達の方が、竜の圧に耐えられる傾向が感じられた件とも一致しており、ある種の訓練としてロングヒル勤めをするべきではないか、などという意見も出ているのだが、それは主旨の違う話なので今回は控えておこう。


 さて。


陽中の陰であれ、として長老衆達からも、任せる、お前しかいないのだ、お前で無理なら他の誰でも無理だろう、などと言われて送り出されたヤスケだったが、そのヤスケが到達して、すぐ起きたのが、弧状列島の本島の何割かを巻き込むような福慈様の思念波暴発である。抑えとなってくれ、という長老衆の願いも空しく、抑えとはならなった、という意識を持つ長老も少なくはなかった。


福慈様が思念波を暴発させたのは夕方を過ぎてからであり、その時間帯にはもうアキは意識を失って就寝中であって対応は無理。その為、別邸にある心話魔法陣を用いて、リアが雲取様に対して連絡を取って、何が起きたのか情報収集に励むことになった。結果として、伏竜様との対面時に起きたことや、特にそれで竜達が混乱して飛び回るようなこともなく、更なる思念波暴発もなかったことから、竜族の中では大したことがない、その時だけで終わったことと看做されたことも推測できた。


アヤは本島において、マコト文書に精通する専門家にして、議員であることから、まつりごとにも理解があるとして、長老衆の活動支援を行う為に、今回の件でも長老衆の会合に呼ばれていた。


だからこそ、アヤは母親の勘として、目の前にいる老人達がアキに対してある種の恐れ、手に負えぬ存在と捉えつつあることを感じていた。ヤスケの次席とも言える地位にいるクロウやジロウに対して、どうにかならないかと目線で訴えたものの、二人は内に籠らせるより、発散させた方が良いと判断して、他の長老達がヒートアップして議論している事に敢えて止めず、流れるままに議論を進めさせる事を選んだのだった。





翌日、リアはアヤと共にやはり長老衆達に呼び出されて会合に立ち会うことになったのだが、アヤの後ろに尽き従う魔導人形達や、その先頭を歩くロゼッタが軍団レギオンモードの指揮用ヘッドセットを付けており、そしてアヤ自身もまた、同じ指揮用ヘッドセットを付けていることに気付いて驚くことになった。


「母さん、戦争でもする気?」


リアがそう問うのも無理もない。というのもロゼッタは別格過ぎるとしても、ロゼッタに尽き従う魔導人形達もまた、七人の魔導指揮官達(セブンシスターズ)と呼ばれる軍団レギオン級の兵力指揮を可能とするロゼッタお抱えの専門家集団なのだ。並み、というかかなりの案件でもロゼッタ一人で事足りるというのに、最強の手駒達まで同伴するとは、まつりごとや軍の関係者なら、この集団の異様さがわかろうモノだった。


「母さん、難しい話は苦手だから、長老衆にお願いして、補助をする魔導人形達の同行を許可して貰ったの。この子達は深い議論をする上でのサポートスタッフ達、ロゼッタはその纏め役、そして指揮用ヘッドセット(これ)は、この子達とのやり取りを邪魔にならないよう行うための小道具よ」


アヤはシレっとそんなことを言ってのけた。まぁ、嘘は言ってない。七人の魔導指揮官達(セブンシスターズ)にしたって、普段はロゼッタの指示を受けて、財閥関連のお仕事に携わっている訳で、荒事専門でもないし、大軍指揮を仕事としている訳でもない。彼女達はそれ「も」できるというだけなのだ。ロゼッタがまるで街エルフのように何でもできる、それもどの分野でもプロとして最低ラインの技量を備えるという街エルフ基準ではなく、どの分野でも一般的なプロ並みの技量を備え、得意分野では他の追随を許さないなんて超個体はもう別格として、別枠扱いせざるを得ないところだが。七人の魔導指揮官達(セブンシスターズ)もまた、ロゼッタ程ではないけれど、割り振られた仕事+α程度はこなせるようにと、ロゼッタが手塩にかけて育て上げた将官級人形達なのだ。


なお、街エルフの国には百万体を超える魔導人形達がいるが、部隊指揮相当の尉官級、師団指揮相当の佐官級、そして師団を束ねた軍を率いる将官級となるに従って、それを担える魔導人形の数は急激に減っていくのが実状であり、将官級ともなれば数十人という狭き門だった。


そんな中、ミアの財閥はロゼッタ以外に七人も将官級人形を擁しているのだから、他企業からすれば、鬼に金棒といったところで、まともにやり合う気が失せるレベルであった。


「ロゼッタだけでも事足りるでしょうに。というかロゼッタ、仕事の方は良かったの?」


「アキ様を十全に支援することはミア様からの命ですので問題ありまセン。それに部下達もたまには仕事を任せて自立を促さないと育ちまセンカラ」


財閥の上位八名がごっそり連絡不能になるというのは、なかなかない事態だが、家令のマサトが残っているので判断に困るようなことにはならないだろうという読みもあった。それにロゼッタの言う通り、部下達の地位に相応しく自己裁量を認めて行動させる機会を与えなくては、能力を鍛える事ができないのも確かである。


ちなみに、小売業のドン・キホーテでは一定エリアごとに独自裁量で全権を委任して好きに商品を仕入れて商売させて売り上げを競わせるという。そして下位二割は脱落して、新たな人材を入れるという競争を毎年強いているそうで、それによってグループとしての競争力を常に鍛えているという。自由な裁量を任されるから才のある者は伸びる、されど、実績が出せなければ容赦なく入れ替える。凄い会社もあったモノだ。おかげで、同じドン・キホーテでありながら、店舗によって品揃えも違えば、価格すら違うというくらい自由だったりする。仕入れミスりました、とか言って在庫処分セールをやってる一角が常にあるのも、その競争故だ。


なお、財閥は流石にそこまでの競争は強いていない。あまり自由にやらせすぎると同業他社との争いが増え、市場の独占率が増えるといった弊害が出てくるからだ。共和国は万年戦時下なこともあって、独占禁止法の類はないのだが、だからと言って財閥による市場独占率が高くなり過ぎて、全体として硬直するような事は長老衆も望んでいない。故に同業他社が独自の商売を行えるシェアを確保できる範囲で、なおかつ、市場全体を活性化させ、パイの全体量を増やすことによって、売上げを伸ばす、なんてことが求められていたりする。


長命種故の長期戦略と、損して得取れ、急がば回れ、といった姿勢といったところだろうか。なので、短期的に今あるパイを取り合うような策は好まれないのだ。そんなことをしても恨みを買うだけだし、何せ同業者たちとて寿命はとても長い上に恨みというのは時間と共に失せたりはしない。百年前の恨みなどと言って意地悪をされることだってあり得るのだ。


だからこそ、街エルフ達は可能な限り情報を公開して、誰か損をするような事があっても、実は皆も損をしていて、全体としては苦労を分かち合う差配をしたのだ、配慮は忘れてない、とアピールするような活動をする羽目になっていたりする。人族のように自分の代だけで沢山稼いで繁栄すればいい、などという()()()()な仕事の仕方だと、二代目、三代目の頃に手痛いしっぺ返しを食らうことになって、街エルフ目線だとソレは悪手なのだ。


「話には聞いてたけど、論戦で指揮用ヘッドセット(それ)を使うって、ミア姉以来よね」


そうリアが話すと、アヤも苦笑しながらも、こんこんとヘッドセットを叩いた。


「そうね。私はミアと違って、戦闘指揮の時以外に指揮用ヘッドセット(これ)を使うなんてやった事はなかったけれど、今回はコレが必要と判断したの。ロゼッタも賛同してくれたわ」


アヤの言う通り、普通、論戦で秘書人形を同伴させることはあっても、大軍指揮用のヘッドセットなんてモノは必要としない。会合の話題が多岐に渡ると言っても、普通は絞った内容について小分けにして話し合うモノだからだ。


ただ、コレは街エルフ達の一般的な感覚が日本の議員達のソレだとすると、ミアやアヤのように大勢のスタッフ達と連絡を取り合いながら集団戦で対抗していくというのはアメリカの議員達のソレだったりする。ミアがこうした手法を大々的に取り入れることができたのも、マコト文書を通じて、地球(あちら)の知識を仕入れていたからに他ならない。議員一人の能力には限界があっても、大勢の専門スタッフ達がチームで支援をすることで、議員の能力は何倍にも跳ね上がるのだ。


そして、アヤは、ミアがそうして鍛え上げた論戦用スタッフ勢を今回使うと決めたのだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


さて、今回は裏話ということで、福慈様の思念波暴発二回目を受けて、長老衆が右往左往して、アキへの憎悪ヘイトが高まる様に、母アヤが本気を出して護るために奮戦した、ってお話になります。ここでアヤが自身が全力で頑張る、ではなく、ミアが鍛えた論戦用スタッフ勢を活用する事にしたのは良い判断だったと言えるでしょう。いくらアヤが部隊指揮の最強格であったとしても、まつりごとにおいて、長老衆相手となると、多勢に無勢、しかも相手の方がその道の先達となれば、本来なら勝ち目はないとこです。


なお、長老衆にも情状酌量の余地はあるんですよ。彼らはアキとの接点が殆どありませんからね。だからこそ、流れてくる膨大な情報や、激動を続ける状況を見て、ソレを起こしている空想上のアキを本来のソレよりも勝手に脅威に感じて恐れてしまってる「だけ」なのです。


<今後の投稿予定>

SS⑫.福慈様の思念波の再暴発と、アキを危険視する風潮(後編)十一月十日(日)二十一時十分

二十三章の各勢力について      十一月十三日(水)二十一時五分

二十三章の施設、道具、魔術     十一月十七日(日)二十一時五分

二十三章の人物について       十一月二十日(水)二十一時五分

二十四章スタート          十一月二十四日(日)二十一時五分

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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