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23-27.伏竜様と相談する(後編)

<前回のあらすじ>

伏竜さんとお話してたんですけど、魔力に触れてることで、彼がこれまでに幼竜に対して向けて来た思いとか、辛い経験などの多くを知ることになって、だからこそ何とかしたいとする姿勢に心打たれてボロ泣きしてしまいました。でもこれは良い涙ですからね。我慢しないでいいのです。(アキ視点)

魔力に触れることで、かなり深い記憶まであれこれることができたせいで、すっごく感動してしまって、暫く胸が一杯でグズッてることになってしまった。


 あーもぅ。


でも仕方ないよね。情感たっぷりな番組を一本観たような体験だったし、伏竜さんの生感情とかにもあれこれ触れてしまったのだから。


そして、僕が感情の整理がつかず抱き着いてても、物静かに僕が落ち着くまで見守っていてくれるとか、ほんと、良くできた成竜さんだ。


 さて。


何とか心も落ち着いてきたし、元の席まで戻って、と。


『お騒がせしました。伏竜様の幼竜を気遣う深い思い、葛藤した出来事などをり、感極まってしまいました。お気遣いありがとうございました』


十分落ち着いたこと、好意マシマシな意思を言葉に乗せて安心して貰う。


<……落ち着いたようで何よりだ>


 あー、うん。


結構、混乱してる感じだなぁ。幼竜扱いしないとして、若竜、或いは成竜相当と看做してきた相手が、ふと見せた弱さ、というか脆さ?


 ふむ。


なるほど、竜族は成長していくにつれて、己を律する術を学んでいき、成竜となる段階となると、世界に頼らずとも己を保てるほどになる。そんな彼らの在り方からすると、大きく感情を揺さぶられて、泣いたり、喜んだり、というのも全てが律する範囲内で行えるモノであって、そこを逸脱するような振舞いは、幼さや弱さ、未熟さといった印象に繋がる感じか。


 ふーん。


  そっか。


 ふーん。


  なるほど、なるほど。


『ねぇ、伏竜様。己を律する事が当たり前な竜族にとって、福慈様の簡単に激発される様子、アレ、どうなんです?』


明らかに、全然、自身の感情を律することができてないよねぇ?


<誰しもそうあれと思っても自身にもどうにもできぬ激しい想いというのはあるものだ>


 ふむ。


なるほどねー、うん、うん、まぁ、対外的にはそうコメントするしかない、と。あー、もう、視線を逸らして逃げなくてもいいでしょうに。


『先ほど、僕が感激した振舞いもそういう範疇ってこと、それだけ伏竜様の考え、意思は尊いのです』


幼竜に向ける慈愛の心と、幸あれと願う心はとても尊い。そうした意思を言葉にマシマシに乗せて渡すと、少し目を開いて驚かれた。


<アキ、さきほどまでグズッていたのに、今度は揶揄う素振りとはいささか感情のふり幅が大き過ぎないか?>


混乱してる、混乱してる。


どちらも僕の本心からの振舞いで嘘は混ざってないからね。あー、竜眼まで使って真意か見極めようとかするとか慌てすぎ。というか、竜族ってまぁ、最強の個だからか、竜眼の使い方とかタイミングとかがかなり雑だよね。彼らの文化からすると、ソレを成竜相手に使うこと自体が、相手と対抗する意思、真意を見極めようとする姿勢を示す合図みたいなとこがあるからだろうけど。


 うん、雑だ。


ケイティさんが渡してくれたふわふわタオルで涙を拭いて、と。どうにもアキになってからというもの、涙腺が緩くていけないよね。勿論、竜族相手の場合だと、変に感情を隠すくらいなら表に出した方が好感も持って貰えるし、裏のなさもアピールできるから問題ではないのだけれど。あまり泣き過ぎると目が痛くなるからね。


『揶揄う気が無いこと等、御覧になっていて理解されているのでしょう? それと伏竜様が幼竜に対して向ける様々な思いは、我々、地の種族にとってもとても尊いものなのです。子供が生まれることが少ない街エルフや鬼族であればより共感を得られる想いでしょう』


そう告げると、考える余裕が出てきたからなのか、眼差しが少し落ち着いてきた。


<幼子を皆で大切に守り育てる事など、どの種族でも同じ事だろう? 殊更、褒められるような事ではない>


 ん。


まぁ、長命種ならそうだろうねぇ。でもね、それはあまりに見えてる世界が狭いというモノだ。


 あー、どうするかな。


こんな尊い心を持つ種族に、人族の下種な面なんて今話すのはさすがに趣味が悪いよね。





さて、では、人の悪意にはあまり触れない形で、意識を改めて貰い、竜族の幼竜に対する意識がなぜ尊いのかそれだけは伝えるとしよう。


『伏竜様、えっと、福慈様への説得ですけど、お任せしても良いですか? 先ほどのお話を伺った上で考えると、この件は伏竜様が話をされた方が良いと思います』


選択肢として、伏竜さん、雲取様、僕の三者を考えていたけど、幼竜への配慮は皆に話をして福慈様が皆に説得される、という流れにするより、伏竜さんが説得して福慈様がそれに納得して、皆に良い提案と思うがどうか、と話していただく方が角が立たなく手良いだろう、とも伝えた。その場合、当時者でない僕や雲取様がストレス解消や小型召喚の話をするのは、ちょっと違うかなぁ、とも。


そう伝えると、少し思案していたものの、静かに頷いてくれた。


<この件は私が話すこととしよう。そもそも感情を暴発する事となった私が話すのが筋であり、それに後々の為にも私がすべきだ>


 ん。


ちゃんと、今回、説得が成功した場合の他の竜達に与える印象、福慈様が後押しすることでの幼竜への休憩ハウス提供となれば、その提案をした伏竜さんに対する評価、権威付けができる点もちゃんと理解してくれている。いいね。


『では、そちらはお願いします。あと、緊急時の連絡手段としてだけで使うと約束しますので、伏竜様の所縁ゆかりの品をいただけないでしょうか? 今回も雲取様にはすぐ心話で相談できたんですけど、伏竜様はいらっしゃるまで待つしかありませんでしたから。今回はそれほど急ぎの件ではなかったのでソレで良かったのですけど、今後の伏竜様の立場を考えると、心話で直接連絡を取れる体制作りだけはしておくべきと思うのです』


他意はありませんよー、という意思だけしっかり篭めて、誠実さ、理詰めで良かれと思って、という意思だけ言葉に乗せてみた。


あー、伏竜さんが胡散臭い相手を見るような、何とも言い難い複雑な意思の感じられる眼差しを向けて来た。


<そういう事をするから、素直に渡そうという気になれなかったのだ。だが、必要なことは理解した。後で鞄を受け取って、次の時には持参しよう>


良し。ロングヒルと、念の為、共和国の館用とで合わせて二つを持ち込んで貰えるようお願いして、この件は終わり、っと。





「それではその件はそこまでとして、先ほどの話もありましたし、竜族の幼竜に対する意識に何故僕がそれほど尊いと感じたのか、今日はそのことについてお話していくことにしましょう」


<先ほどの話はもういいのか?>


『竜族内での調整は、伏竜様と雲取様の間で取り決めて貰えれば問題ありませんから。結果は今度、いらした時にでも教えて貰えれば十分ですよ』


そのレベルの話にまでいちいちあれこれ言うほど狭量じゃないですよー、ってことで、お任せしますからどうぞ続きはお二人で、と言葉に乗せて、この話はばっさりここまで、という切替の意識もセットで伝えた。


<わかった。福慈様はちゃんと説得するから吉報を待っているといい>


『はい、福慈様も話せばわかる方ですし、伏竜様もそうした説明は得意な方ですし、問題となるのは福慈様の胸の内だけですから、そこは信頼しています。あ、ただ、面倒かもしれませんが、福慈様が過去に体験された幼竜絡みの出来事について、できればその思いに共感する姿勢を示した上で、しっかり聞いていただければ幸いです。単に理詰めで物事を判断するだけでなく、老竜の方々の感情にも寄りそう姿勢はお忘れなきように。老竜の方々の奮闘があればこそ、今の成竜達の暮らす世があるのですから』


生々しい当事者だけがもつ体験談というのは、必要なのは情報として知ることではなく、その体験に対する共感こそが大切だと思うんだよね。


まぁ、それも、当時の事を知る一個人の体験である、という限界も認識した上で聞かないと駄目だけどね。第二次世界大戦の時の戦争体験を語ったお話も直接聞く機会は殆どないけど、聞いているとあくまでも個人目線であって、なぜ開戦への流れになったのか、現代人から見るとヤクザな事をやってる当時の政財界について、それらを市民はどう見ていたのか、みたいな大局観、マスコミが煽る報道をしていた事への認識とか、そういう広い視点が乏しいのが難点だからね。嘘は言ってないと思うけど、個人の体験をもって時代を語るというのは、見える範囲が狭過ぎて適切じゃないってとこは、留意しておくべきとこだ。


<共感、か>


『老人の昔語りを、あぁ、またか、みたいにあまり熱心に聞いてないとか、地の種族だとあったりするんですよ。昔は昔、今は今、そんな昔話をされても興味ないよ、なんて言ってしまうような若者達も多かったりしまして。お恥ずかしい話ですが』


昔の出来事についても、終戦記念日に一度聞いた事があるみたいな感じで、風化は避けられないからね。それは仕方ないとこがあるけど、聞く機会があっても、聞く意識がない残念な方々もいるのが実情だからね。なので、敢えてこちらの残念ポイントを示して、そういうのは良くないんです、と先に示して受け入れやすく促す。


<良き理解者となるよう努力しよう。小型召喚でストレス軽減ができてからとなるが>


苦笑しながらも、そう約束してくれた。今だとあまり長くお話もしていられない感じだから、確かにそうして元気になってからの方がいいだろうね。うん、うん。


「では、この件はここまでとして。なぜ、伏竜様、というか竜族が幼竜に向ける思いが尊いか、それを説明していきましょう」


<聞かせて貰おう>


そこからは、子供が生まれることが稀で成長にも時間が沢山かかる竜族や街エルフ、それに鬼族だと、子供というのは生まれれば集落全体でその誕生を祝い、皆が気を配り、大勢が見守って大切に、大切に育つよう、全員が協力するのが当たり前というとこから話をスタートした。


伏竜様はなぜ、そんな当たり前なことを、といった顔をしていたけど、小鬼族が毎年数十万人と生まれること、そして十年もすれば大人になることを伝えて、社会全体からすれば、名前を皆が覚えていられないほど、とても多くの子供がが生まれていくのだ、ということを伝えると、目を見開いて驚いてくれた。


勿論、幼子のことは大切に育てる文化はあるけれど、やはり医療技術や貧しさの問題もあって、一歳の誕生日を迎えられず死んでしまう乳幼児は多く、だからこそ、女衆が生まれた子供達を皆の子供として共に育てることで、自分の子が亡くなった親を決して孤立させないように、皆で悲しみを分かち合うように、そんな文化を持つに至ったのだ、と紹介してあげた。


ロングヒルのような大都市ともなれば、子供がいても、それが誰の子供かなど、知らない大人が殆どだ、なんて事も伝えて、幼子一人に向ける集落全体での労力の総量差が違っているのだ、とも。我が子の事は大切にするのは当たり前でも、見ず知らずの子供となるとそれなりに気を配る程度、といったように温度差が生まれるのは仕方のないことだ、と説明した。


群れることで強みを発揮する地の種族は、その特性故に、毎年沢山生まれるし、沢山鬼籍に入る。そういった死生観について語っていくと、伏竜さんも驚きながらも、とても熱心に話に耳を傾けてくれたのだった。縄張り内にいる獲物について、出産、子育て時期とかは把握していて、怪我をしたり老いて群れから外れた個体を狩る、といったような工夫はしているからそうした命の循環を知らない訳ではないけど、自分達のような社会、文化としての視点で意識したことが無かった感じか。なるほどね。


 ふぅ。


()()()()もあったけど、結果として世代間の思いの違いとか、種族の死生観とかにも触れられたからまぁ、終わりよければ全て良しだ。今回の反応からすると、もっと基礎的な生老病死といったレベルとか、種族間の違いを含めて少しフォローしていくことにするかな。伏竜さんはとても当たりな性格をされているし、ここは気合を入れてがっつり助力して、雲取様と双璧と言えるくらいには育って貰おう。


<どうした?>


『あぁ、いえ、伏竜様には雲取様と並び称されるように是非なって貰いたいので、さて、どうご支援すれば良いかと思いまして』


一切疑念なく、そうなる未来を確信している、貴方はそうなるだけの方ですからね、と応援する気持ちマシマシで伝えると、伏竜さんは何とも困った表情を浮かべて、それでも、幼竜を安心させるような気持ちで、支援してくれる気持ちは嬉しいぞ、とは応えてくれた。


 ん。


まだ、今は自信があまり持ててないようだけど、春先までには十二分にがっつり成長して貰うとしよう。大丈夫、伏竜さんはかなり柔軟な発想ができる方だし、地道な努力を厭わない稀有な性格をお持ちでもある。まさか、こんな地の種族に近い性格の竜がいてくれるなんて。運命の導きとかあるのかもしれない。あー、依代の君に今度聞いてみるのもいいかも。これはもう正式に伏竜様育成計画をスタートするしかないね。彼が担当する東遷事業の為にも、老竜の抱えるストレスを解消して態度を軟化させるためにも、表の顔である雲取様だけでは手が届かない部分をカバーできる裏の顔としての竜族代表、それに伏竜様にはなっていただこう。頑張るぞー。

いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。


はい、伏竜との調整も終わり、結局、伏竜が福慈様を説得する方向となりました。アキは雲取様と竜族の事は相談してね、と丸投げに近い形でお願いしましたが、まぁ、これくらい強引にやらないとなかなか伏竜も積極的に雲取様と腹を割って話し合おう、なんて気にもなれないでしょうから必要な措置だったと思うことにしましょう。実際のとこは、二柱ともあー丸投げしたな、と思う話ですから、きっと双方、同じ思いを抱えているとなれば、アキへの愚痴や疑問などを潤滑油にして、話し合いも円滑に進むでしょう。

きっとそこまでがアキの計画だったんですよ(笑)


あと、あぁ、これは運命の導きかも、からの、なら依代の君に聞いてみよう、という発想もアキの中では自然な発想ですけど、これ、地球(あちら)でも物質界(こちら)でも、トンデモ思考ですからねぇ。それに聞かれた依代の君だって、「マコトくん」本体であっても返答に困るでしょうね。どちらも運命を司る神とかじゃないし、もし物質界(こちら)にそうあれと望まれた神がいたとしても、実際にアキの問いに答える力があるかといえば、かなり微妙ですから。そう在れと望まれた=その力がある、ではないですからね。あまりに過剰な設定盛り過ぎにすると、神が自己矛盾で崩壊しかねません。


子育てというか子孫を残すことですけど、連樹の精霊に話を聞いたりしたら、きっと、伏竜はその余りの常識の違いに面食らうことでしょうね。そもそも育てるという概念がありませんから。逃げるという概念もないんですよね。本作における樹木の精霊(ドライアド)は、指輪物語に出てくる木の牧人(エント)のように歩いたりしないので。連樹が空間跳躍テレポートできたのも、ソレを連樹が知覚できる範囲内で行った天空竜がいたからで、樹木の精霊(ドライアド)にとって空間跳躍テレポートという移動系の概念はかなり異質なのです。


はい、そんな訳で、23章もこのパートでラストです。次回はちょっとSSで共和国の長老衆vsアヤ&リアの裏話で補填しておくことにします。二人がアキの弁護に色々回っていたからこそ、最終的には長老衆への説明なんて事は後回しに、二人がロングヒルに早々に戻ってくることになったので。本編のアキ視点だと見えてこない部分ですからね。


その後はいつもの章の補足3パートをやって、それが終われば24章スタートです。


次回の更新は2024年11月6日(水)の21:10です。

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