23-26.伏竜様と相談する(中編)
<前回のあらすじ>
母さん、リア姉がロングヒルに早々に帰ってくることになったそうです。竜族対応の為の人員層が手薄だからだとか。まぁ、でも竜族相手の対応って結構、長期目線対応だからそこまで急がなくても良い気もしますけど。(アキ視点)
第二演習場に到着すると、すでに伏竜様は食事を済ませて、魔力の取り込みの方も終え、ゆっくり休んでいるところだった。
「伏竜様、お久しぶりです。食事と魔力取り込み、如何ですか?」
<体に力が満ちてくるのを感じるぞ。それに魔力の取込みもトウセイ殿の指導が大変役立っている>
ほぉ。
と言うか、トウセイ殿呼びなんだね。教わる相手なら、相手が小さな地の種族だろうと敬意を払うとか、ほんと、完璧種族か、とか思っちゃう。
「やはり、どの程度まで取り込んで良いか、何が止める合図となるのか、そこに意見を聞けるのと独力では大差が出ますか」
<その通り、良く分かっている。そもそも取り込む魔力も全身に行き渡らせて馴染ませる必要があり――>
理解を示してくれる相手に飢えていたのか、伏竜様はそれからはとても饒舌に魔力を取り込むということの難しさやそれを意識して行うことの重要性、そしてそれを指導できる先達としてのトウセイさんの凄さについて、それはもうたっぷりと語ってくれた。
スタッフ 席にいるトウセイさんも満更ではない様子ではあるけれど、やはり師匠として自信満々といった感じではなく、褒められることに慣れていないといった感じであった。何とも可愛い巨漢のおじさんである。
「手応えを感じてくれているようで何よりでした。 この分で行けば、次の春の頃には伏竜様も見違えるように変わっているかもしれませんね」
<私もそうなることを期待して励んでいくとしよう>
やはり、指導者がいるのといないのでは大違いなんだね。僕も魔術という、地球では一切馴染みのない技術も、師匠がいてくれたおかげで使えるようになったもの。ほんと有難い。
◇
さて、思わぬ長い説明会に時間を取られたけれど、よいアイスブレイクにもなったので、本題に入るとしよう。
「それでは伏竜様、楽しいお話はまた後ほどと言う事で、先ずは先に用事を済ませるとしましょう」
<用事? 地の種族の文化の説明とは別に何かあるのか?>
ふむ。
雲取様からの事前の話はなし、と。まぁ、僕が話すからそれでいいや、と考えたのだろうけど、この辺り何とも蛋白なとこが竜族らしい。
「先日、福慈様が思念波をまた暴発させたじゃないですか。アレが地の種族にとって、それから「死の大地」の浄化作戦を行う上でも問題視されたんですよね」
そう話を切り出すと、少し不快な意識を浮かべながらも詳しく話を聞こうと言ってくれた。
その不快さも、僕に対してではなく、福慈様に対するソレであって、僕が感情の変化に気づいた、と認識したら、僕への意識ではないとわざわざ詫びてくれる気の使いようだった。
こんなに大きくて強いのに気配りまでできるとは、品の良さなのか、育ちの良さなのか、種族固有の特徴なのか、ほんと嬉しい気遣いだ。
それからは福慈様の思念波は、まるで各地で竜の咆哮を放ったような有様で、地の種族は右往左往の大騒ぎになったことを話して、竜族にとっては それは軽い出来事だったかもしれないけれど、地の種族にとってはそうではなかったのだということを結構驚かれた。
特に伏竜さんが驚いたのは、思念波に含まれる害意や怒りが誰宛のものなのか、地の種族が判別できておらず、自身に向けられたものとして怖がったという点にあった。
「心話で心を触れ合わせている僕だと、相手の感情がどこに向けられたものなのか 何に向けられたものなのか、といったことを理解できるので、福慈様の怒りに晒された際も、ある程度は受け流すことができたんですよね。 ただ地の種族の一般の方々だとそうした区別をするのはどうも難しいようです。 とても怒ってることは分かっても、それが自分向けでないとまでは分からない、その点は確かに共感は難しいとは思いますけれど、理解していただけると幸いです」
僕も竜族の持つ圧は感じられるけれど、それがどこに向けられたもので 何に向けられたもので、どういった心境にあるのかといったところまで把握できるから、その圧の強さに脅威を感じたのは最初だけだったものね。
もちろん 自分に対して怒りの感情を向けられたらそれはもちろん怖いけどさ。
それから 広域に向けて放たれた思念波が、「死の大地」の祟神を刺激してしまう恐れについては、伏竜様はそれほどまだ弧状列島全図が頭に入っていないようなので、認識が大雑把ではあったけれど、こちらはスタッフさんが用意してくれた 大型幻影で図示した事で、事の問題を理解して貰えた。
◇
それからは思念波暴発の再発防止策と言うことで、小型召喚によるストレス解消や、それを最初に行う際の不本意な事故防止のための策について説明をすると、唸りながらも、その有用性と必要性についても理解を示してくれた。
<あれからそう時も経っていないのに、よくぞここまで考え抜いたものだ>
思念波から伝わる感情も、素直な感嘆と、自分達にはそこまで深く考えるのは 無理だろうという認識も持たれていたのは、いやはや、何とも感服するしか無い。
なかなか相手の良いところを良いと素直に認めること、小さな地の種族が、自分達より優れたところがあると認められるものではないと思うんだよね。
それも自他ともに認める最強の個であるという事実に裏打ちされているというのはあるだろうけど。
度量の深さというか、器の大きさをほんと感じる。
「我々は見ての通り、数多く、皆で手分けして事に当たれますからね」
そう話して、離れて控えてくれている大勢のスタッフさん達や、僕の隣にいるお爺ちゃんなどを示して、ほら、この通りと話すと、なるほどと伏竜さんも腑に落ちたようだ。
<確かに、私への食事の手配や魔力泉の手配、今も解説のための幻影の操作など、皆が手分けして無ければ、ずっと時間を費やしたことだろう。皆の尽力に感謝する>
ぽかぽかと温かい気持ちになれる穏やかな思念波が放たれたことで、スタッフさん達にも笑みがこぼれた。いいね。
「そのような訳でして、福慈様にはそれに取り組む必要性を理解していただき、小型召喚に応じるよう話をしていく必要があるのです。ところで、伏竜様、そもそもどうして福慈様は思念波を暴発させたんです?」
僕の問いに、伏竜さんは顔を顰めながらも、その時のやり取りをポツポツと話してくれた。
<――そのようにアキと相談した幼竜向けの建物の導入が必要であり、有用であることを話したのだ>
「ふむふむ」
<ところが、福慈様は地の種族が作った建物を我らの縄張りに持ち込んで、幼竜が使うと聞いた途端、幼竜を危険に晒すのかと激高されて、な>
うわぁ、思念波からも、伏竜さんの不満たらたらぶりがもの凄く伝わってくる。良かれと思い、話したことなのに、前の説明を全て忘れたかのように感情を爆発させるとは、何と理不尽な、となかなかのご立腹っぷりだ。
『それは何とも災難でしたね。過去の諍いはあるのでしょうけれど、伏竜様からすれば、納得できるものでもありません』
わかりますよ、と共感する気持ちマシマシで言葉に乗せると、伏竜さんも、我が意を得たりとばかりに頷いた。
<若竜達がどれだけ気を配ろうと、どうしても見落としは出る。気付かぬうちにおかしなものを口に含んで大事になる事もある。我らの創造術式とて万能ではなく、薬草とて都合良く手に入るとも限らん。そのような事を避ける良い方策だろうに、あの頑固者ときたら……アキ、どうした?>
伏竜さんの魔力に触れているから読み取れてしまったのだけど、伏竜さんも過去には幼竜達が蛇や蜂、獣に襲われたり、変な物を飲み込んだり食べたりと、色々なことで苦労されて、中には手を尽くしても助からなかったケースもあったらしい。だからこそ今回の件は深い思いがあり、それを頭ごなしに否定された事が悔しかったのだ。
なんて優しい竜なのだろう!
溢れる感情のせいで、上手く言葉にしにくいので、竜の思念波を真似て、感激して慈しみたい、ギュッとしたい、という想いを無言のまま伝えると、気持ちが落ち着くまでの間、伏竜さんに寄りかかって愛でる事にしたのだった。
いいね、ありがとうございます。やる気がチャージされました。
さて、伏竜とのお話が始まりました。だいたい良い感じで進んでますけど、ラストの辺り、周囲から見ていると、伏竜の話を聞いたアキがなぜか、感極まってピトッと抱き着いて暫くグズッてました、と言う話になるので、え、どうして?って感じでしょうね。伏竜の話す言葉だけでそこまで他の人が、事情を読み取ることなど不可能ですから。
あと、マコトはアキになって、本人も言ってるように随分と涙腺が緩くなりました。感情の起伏がマコトの時よりも大きくなってる感じです。後はまぁ、竜相手だと感情を抑えようという努力も投げ捨ててるとこはありますからね。感情は素直かつ少しオーバーなくらいに示すことが大切だ、と。はい、犬猫相手感覚なのです。
次回の更新は2024年11月3日(日)の21:10です。