第三章の施設、道具、魔術
三章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
投稿が遅れてすみません。
◆施設、機材、道具
【アキが寝起きしていた館】
リアとアキの魔力共鳴効果の研究を行う為に、ミアが所有していた館に、高魔力者用の生活空間を増設するなど、様々な改造を行ったものである。活動を支えるスタッフだけで何十人といるので、現代並みの生活を実現してくれる家電製品相当の魔導具もごろごろ存在していることを考えると、かなり大規模なものと言える。実験、整備、娯楽施設も併設されており、研究活動がここだけで完結するよう配慮されている。アキが出歩きを許可されていた区域は全体の一割程度。
街エルフ様式の庭園に囲まれており、本来は長閑な施設なのだが、アキの訓練のために、庭の中に湿地や崖、砂地など様々な地形を作るような真似までしているので、きっと庭師達は泣いていることだろう。
厨房はそんな大勢の人々の胃袋を満たすために休みなく働いている。アイリーンが短期間で料理の腕を上げることができたのは、そのためである。
毎日、膨大な物資が搬入されていたのだが、アキは起きるのが遅く、寝るのが早い為、気が付かなかった。
【光通信施設】
拠点間をレーザーで結ぶことで、通信を可能とする魔導施設であり、街エルフの国と、隣国ロングヒルの大使館間で開設されている。直線でしか通信できないため、山頂など、途中に何か所も中継施設を置いて、バケツリレー式に情報を伝えている。
アキの留学に伴い、館まで通信経路が延長された。
通信速度は圧倒的で、中継拠点さえ作れば、距離も伸ばせる利点があるが、霧や雨では通信速度が大幅に低下してしまい、レーザーの経路を葉っぱ一枚遮るだけで、通信が途絶するといった弱点がある。
今のところ、送ることができるのは文字情報に限定されているようだ。
【妖精召喚用魔法陣】
妖精との所縁のある品として、ミアが翁との交信時の記録を込めた魔力結晶を触媒とした巨大な魔法陣であり、通常の魔法陣と同様、起動してしまえば後はお任せ、自動で決められた術式を実行してくれる便利機構である。
アキの持つ膨大な魔力を利用するため、頑丈さを最優先に、構造をできる限り簡略化していた。
【アキを魔法陣の中央に運んだクレーン】
科学式の数少ないクレーン装置であり、ゴンドラ部分にアキが触っても壊れないので、わざわざ搬入された。制御機構は魔導具が行なっており、厳密に言うと魔術と科学のハイブリッドである。
【アキが移動に使う馬車】
式典用の馬車であり、重要人物用ということで、襲撃に耐えられるよう装甲化が施されている。当然重い。タイヤも分厚い。V字底面が採用されていたりと、このまま紛争地域に放り込んでも耐えそうだ。
また、アキが触れても壊れないように高魔力耐性を施す改修も行われた。要求は満たしたが、かなり無理やりやっている。時間もなかったから仕方ないところ。
衝撃吸収機能は揺れを全く感じない驚異のレベルだが、もちろん、市民が使う馬車にはここまで過剰な機能は付いていない。
補助動力も搭載しており、単独での移動も遅いが一応可能。普通は馬力がもう少し必要な時とか、車庫入れのような作業の時にだけ使う。
牽引する馬車馬は、普通の馬の魔導人形であり、式典装甲を付けている以外に違いはない。……ないのだが、そもそも馬の魔導人形自体が稀であり、式典用の馬車とセットで作られる程度に過ぎない。
それを言い出すと、普通の魔導人形などというほど、魔導人形をみかけるのは、街エルフの国だけである。
【耐弾障壁の護符】
警戒術式を常時発動し、必要に応じて脅威に対してピンポイントに耐弾障壁を展開する護符型の魔導具であり、街エルフの魔導技術の結晶とも言える。アキがはじめに見せてもらったように普通は警戒術式を展開しても目に見えるような変化はない。これは極限まで魔力効率を高め、極薄で術式を展開しているからであり、古典魔術と違い、その発動状態を外部から認識することは難しい。
耐弾障壁は、ライフルの射撃を完全に無効化してしまう。これはライフル弾に刻むことができる術式に対抗する意味も含んでいる。つまり単なる鉛玉の高速礫を無効化しているのではなく、ある程度の貫通・中和術式すらも無効化していることを意味する。
なお、目に見える形で虹色の『警戒術式』を展開するモードに変更することもできる。翁が習得して実演したのはこちらであり、のちに護符の待機モードに変更するといった外部からの操作をできていることからわかるように、本来の目に見えない警戒術式を展開をすることも可能である。
目に見えるようにするのは、動作確認の試験モードだからである。
技術者達は、翁が行った驚異の結果を直視し、アキがそーいえば程度に披露したコピー防止、暗号化について真剣に取り組むことを決意したのだが、それはまた別の話。
【耐弾障壁の杖】
護符が首から下げて、服の内側に忍ばせておける利点があるのに対して、杖の利点は展開する障壁のパワーと持続力が高いことにある。隠密性は下がってしまうが、ケイティが見せたように、虹色に輝く耐弾術式を常時展開しておき、ライフル弾だけでなく、コンパウンドボウガンが撃ち出す矢でも、低位な貫通術式であれば防ぐ強固な障壁を長時間展開することも可能とする。現代の銃に対する防具でいえば、護符はグレードⅡ程度で、杖のほうはグレードⅣといったところ。かなり過保護な対応をしていたのである。
【魔導甲冑】
一般的な甲冑は重過ぎて、圧倒的な腕力を持つ鬼族相手では、死荷重になるだけだった。そのため『銃弾の雨』の時代には、主要臓器だけを守る鎧の軽装甲化が一般化した。
しかし、耐弾障壁が一般化すると、射撃だけでは倒しきれない事が多く、近接戦で鬼族と戦う装備が渇望された。直撃すれば死んでしまうことは免れないが、かすり傷程度でも動きが悪化するので、動きを悪化させないことを前提として、装甲の強化を行いたいという難度の高い要望だった。
鎧を着る人の身体強化をしても、重い鎧を着こんだら運動能力の低下は避けられず、身体強化も限界に達していた。そのままでは手詰まりと言えたが、外骨格の概念が状況を打破した。
鎧の重さは本人の動きに追従する外骨格が支えればいい。本人に鎧の重さが加わらないのだから、まるで鎧を着ていないかのように軽やかに動けるのも道理である。
外骨格が補助することで、甲冑を着た兵士が、軽やかに走り回れる、それが魔導甲冑である。
いいとこどりの素敵装備に思えるが、世の中そんな都合のいい話がある訳がない。価格の高騰、着こんだ後の調整の手間、稼働時間の短さ、外骨格が支えることを前提とするため選択できる姿勢への制約、そして重いので軟弱地盤での運用に難があるというように、真価を発揮するために配慮すべき点は多いのだ。
なお、マサトが投資しているプロジェクトは、魔導甲冑を空間鞄の中から転送して、瞬時に装着してしまおうというもの。成功すれば稼働時間の短さ、着て調整する時間が長いという問題が解決することになる……が、かなりの無茶をしていて、まだまだ実用レベルには程遠い。
【野外の祝賀会で設置されていた環境管理用魔導具】
これで四方を囲むと、風はそよ風レベルに、日差しも小春日和程度に緩和されるという便利な魔導具であり、街エルフの国では一般的な品。野外イベントでの必需品である。
【マサトが説明に使った映像機器】
記録されている立体映像を投影する魔導具である。マサトが使ったように、予め記録しておいた映像を切り替えることで、説明をスムーズに行うといったプレゼンテーションでよく使われる。映像の質感はまぁまぁと言ったところで、翁が魔法陣で出現させた『見た目だけは完全再現した彫像』に比べると数段劣る。というか妖精の魔術のレベルが異様なだけである。見た目だけなら本物と区別がつかないのだから。
【アキが訓練に使ったキャンプ用品】
アキが触れても壊れないよう、魔術付与抜きで実用に耐えるよう作られた注文生産による一品物だったりする。魔術付与による誤魔化しができないため、通常品より遥かに高価である。今時、魔術付与なしで高品質な道具などというものは、見かけるとしたら博物館くらいだろう。
◆魔術
【召喚魔術】
召喚とは、相手の仮初の肉体を一時的に作り出し、力を貸してもらう魔術である。召喚の利点は仮初の肉体が破壊されようと、オリジナルには何の被害もないということ。欠点は顕現率に応じた力しか出せないため、本体の劣化コピーになってしまうこと。
また、召喚魔術はとても魔力消費が大きく、これまでの召喚では長くても数分といった程度しか活動した記録が残っていない。これは召喚の目的が、自分より高位の存在に力を貸して貰う、というものだからだ。
妖精の翁がずっと召喚され続けているのは、異例中の異例である。
なお、召喚主に不利にならないよう色々と制約を付けるといった工夫はされているが、制約といっても、こちら側での活動を縛るだけで、本体に対しては何の影響も与えることはできない。
空間鞄の中から、魔導人形を呼び出すことも召喚と呼ばれている。それまでいなかった存在がいきなり出現するという意味では同じ結果に見えること、空間鞄から取り出す行為は日常的に行われていることから、一般的には『召喚する』とだけ言った場合は、空間鞄から取り出す方を指す。
【召喚体との同期率】
本体と召喚体の間にはリンクが発生しており、通常は常に同期していて時間のズレは生じない。しかし何らかの理由で、召喚は維持しつつ、本体は別のことをしたいといった時に、同期率を下げることで本体と召喚体が別々に動けるようになる。本体側は召喚体の制御をしなくなるので、お任せ自動モードといったところである。とても便利そうに思えるが、同期率を戻した際に本体と召喚体の情報のズレが大きいほど、酷い副作用がある。強い二日酔い状態のようなもの、と翁も言っているように、そうそうやりたい話ではない。
また、同期率を下げた状態が続き、情報のズレがある程度大きくなってしまうと召喚が破綻してしまうので、あくまでも緊急回避措置といったところである。
それでも、思い立ったらすぐ動きたい翁は、同期率を下げて、後は任せた、と動くことも多い。
【妖精さんの魔術その一「魔法陣丸ごとコピー」】
稼働中との制限はつくが、魔法陣を完全にコピーし、再現できるという反則魔術。
こちらの世界の魔術理論では、そもそも可能なのかすら結論がでない代物。
ただ、中身を理解してコピーしている訳ではないので、魔導具の材質や加工とセットでないと動かないような工夫をされると、コピーしても動かないなんてことになりそう。
コピー先も確保しなくてはならず、翁の場合、召喚体の空き領域があったからできた話であり、制約は多いようだ。まぁ、急いで作った術式だから仕方ない話だろう。
【妖精さんの魔術その二「見た目完全再現」】
アキと妖精の友好を表現した彫像を、披露する為に翁が持ち込んだ魔術である。
幻術の極限と言ってもよく、見た目だけなら、本物と区別できない姿を出現させる。
見た目だけなので触ったりはできない。
こちらの魔術理論ではやはり厳しい超魔術である。
これも、実物を持ち込めないけど、どーしても見せたいという妖精女王の強い要望で作られた術式であり、妖精界の幻術のレベルが皆、こんな非常識な域に達しているという訳ではない。
【妖精さんの魔術その三「魔術の貸与」】
相手の心の隙間に魔術を入れて貸与できるという技法であり、本人の実力を超えた術式を渡して、使わせることができる便利技である。翁が、魔法陣丸ごとコピーや、見た目だけ完全再現の魔術を持ち込んだのも、この技法だ。
貸与できるのはだいたい一つか二つで、更に時間経過で魔術が劣化してしまうとのこと。
これもこちらの魔術理論にはない技法である。
◆その他
【マコト文書】
これは異世界に住む少年マコトとの会話を綴った手記であり、その量は膨大で、内容も驚く程多岐に渡る。
書籍化もされており、読んでいる者も多いが、それでも大半の人は抜粋版を読んでいる程度に過ぎない。また、俄かに信じ難い内容も多く、解釈が割れるような事もしばしばだった。
考えてみれば当然の話で、例えば、大陸間の航海を一部の探検家が行うだけといった大航海時代直前の頃に、『海洋を支配する者は世界を制する』などとマハンの地政学を教えられたところで、ピンとくるはずもない。
書籍化されている内容は有用と判断されるか、公にしてもよいとミアが判断したものに限定される為、文書全体からすれば公開されていないもののほうがずっと多い。
中でも突飛な内容は外典と称されており、その閲覧は厳重に管理されている。ベリルが読んでしまったムー民の書はその一つである。読むとSAN値が1D10減少する。
ハヤト、アヤ、リア、それとロゼッタが非公開部分も含めて、ほぼ全てを読んでいるのは家族であったり、秘書であったりしたためであり、極めて特殊な事例と言わざるを得ない。
ケイティはマコト文書の大ファンであり、ミアに雇用されたこともあって、非公開情報もある程度読んでいる。だからこそアキとの会話が成立していると言えるだろう。
ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
出てきた施設や道具、魔術について書いてみると色々ありましたね。本編で書いてあることを重ねて書いても意味がないので、少し視点を変えて書くようにしてみました。
次回からは四章、書籍でいう二巻相当が開始になります。
投稿は、十月二十一日(日)二十一時五分の予定です。