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23-21.ちょっとした足しと思ったお話だけど

<前回のあらすじ>

一通り、参謀本部の皆さんとも意見交換ができて、これで一応、お呼ばれしてのお話も無事クリア。ただ、戦略級の話をするなら三大勢力の代表の方々にする必要がありそうなのが面倒ですね。(アキ視点)

調整組、参謀本部の皆さんとの話も終わり、さーて帰って伏竜さんへの教育準備でもするか、と考えたところで、ふとエリーに呼び止められた。


「どうしたの?」


「ちょっといいかしら。さっきの物の(ことわり)を竜族に学ばせようかって話、アレ、どれくらいの勝算があると考えたのかしら? それと期間の方も気になるのよね。彼らがやる気をみせたとしても修得には結構な年月がかかるんじゃない?」


 ほぉ。


個人的な疑問というより、参謀本部の二人を気遣ってか、僕の話した内容がどの程度のネタなのか伝えさせておこうって事のようだ。


 ん-。


「伏竜様の件もあるから、誘ったとしても今すぐだと前向きに取り組む竜って、殆どいない気がするね」


「なら、もし仮に一柱でも出たとしたら、どれくらいで身に付くと思う?」


 ふむ。


エリーは、今すぐ取り組むような竜はいない、と見越していたんだね。竜の皆さん結構即物的だもんなぁ。長期目線でじっくり取り組んでいく息の長い活動、ってのがそもそも竜の文化にかなり合わない。


「部分的になら五年くらい、全体的になら十年とかじゃないかな」


「あら、妖精族は僅か一年で地球(あちら)の知を導入してみせたのに、竜族がそれほど時間がかかるとするのは何故なのかしら? 知性という点では妖精族に劣るものではないと思うわ」


エリーがそう思うというより、そう考える人もいるだろうけど、といったニュアンスだね。気遣いが何とも丁寧だ。


「妖精族は物を自分達で作って利用する文化的な下地があったからね。それに地球(あちら)ほどではないにせよ、経験則や魔術による解析でそれなりの部分までは十分実用レベルで物の(ことわり)は理解して運用できていた。そうした下地があるところに、地球(あちら)の物の(ことわり)の情報を得たことで、より深い域まで理解が及ぶようになった。それまでは仮説は立てられても検証しようがなく、応用には至らなかった部分が補われることになった。だから、そんな短期間で一気に理解と、自分達の技への応用ができるようになったんだよね」


そう話すとエリーもなるほど、と頷いてくれた。


「確かに天空竜が如何に聡いと言っても、道具を作らず、利用もせず、文字もマーキング程度というのでは、物事への理解を深めて行くのにも限度があるでしょうね」


「例えば、今、この場にも満ちている空気、これが実際には多様な混合気体だってことは僕達は知っているけど、竜達はそうしたことには興味は薄いよね。上空に行くと空気が薄くなるとか、火山付近に行くとガスの臭いが混ざるとかは経験していても、窒素と酸素と二酸化炭素を空気から分離してみようなんてきっと考えないし、それをする意味があるとも考えない」


分離してもそれを貯めておく器もないし、分離して、隔離して、更に竜眼で解析、なんていくら竜でも実演は難しいと思う。だからといって、その作業を他の竜と共同で行う、なんてことも考えることすらなさそう、と話すと、皆さん、特に参謀本部の面々も同意してくれた。


「同様に、鉱石から金属を抽出するとか、他と混ぜた合金にしてみるとか、そんな事も考えないのね」


「考えないだろうね。彼らからすればどんなに強固な物でも竜爪で簡単に切り裂けちゃうから、盾で防ぐみたいな発想も出てこないと思う。持ち歩くための鞄だって僕達が提供するまでは持ってなかったんだから、投槍のような武器を使う発想もないだろうし、相手を攻撃するなら熱線術式でだいたい事足りるし」


物をぶつけたいなら投石術式という手もあるけど、その場で創って投げつけてもそれで終わりだから、物への理解に進まない、と。


「つまり、我々のような物を扱う下地、文化がない竜族が物の(ことわり)を身につけるのは、妖精族がソレを為すよりも遥かに手間と時間がかかると言うことなのね。モチベーションを維持するのも苦労するかしら」


「するんじゃない? 物を動かすのは物体移動(サイコキネシス)でできるし、壊すのは術式でできる。鞄くらいは欲しがるかもしれないけど、それを自分で作りたいと思うほどの創作意欲を彼らが持つかというとかなり微妙だろうね」


最強の個だから、風雨に晒されてもそれで困るということもない。飲み水が欲しいなら軽く飛んで池にでも飲みに行けばいい。何かを貯めておくという必要はなく、必要ならそこに行けばいい。だから備蓄という概念も育ちそうにない、なんて話すと、あちこちから溜息が零れた。


 まぁ、うん。


気持ちはわかる。こちらの竜は、地球(あちら)の物語に出てくるソレと違って、強欲で金銀財宝を集めて貯めるような収集癖は持ってないからね。鳥に近いなら光物が好きとかありそうな気はするけど、天然でキラキラ輝くような代物ってほとんどないから。磨かない宝石なんてくすんだガラス塊ってとこでキラキラしてないし。


「それなら当面は、天空竜が物の(ことわり)を身に着けて、突出した存在が出現することは心配しないで良さそう」


「そう考えていいだろうね。何か欲しくなったら、アレが欲しい、コレが欲しいと言えば、立派な物を貰えるとあっては、そもそも自分で作ろうとかも考えないと思う。打ち破る切っ掛けがあるとしたら、人形操作マリオネットを使う皆さんかな。人形を操作して人が使う道具を利用する頻度が増えて、人間サイズのおままごとセットみたいな家とか、ノートとか本とか所持品が増え始めると、そこから状況が変わってくるかもしれない。でも、人形を操作して物の読み書きするのと、自分でDIYで何か作るのにはかなり意識の差もあるだろうから、うん、やっぱり、なかなかそこで意識の飛躍は起きないと思う」


そう伝えると、皆さん、ほっとした表情と、幾人かが僕に少し恨みがましい視線を向けて来た。


 低い可能性なのに焦らせやがって~みたいな感じかな?


とは言っても、エリーみたいに実現は難しそう、と自分自身で気付いて欲しいとこだよね。僕に恨み言を言うのはお門違いってものだ。視線を向けて来ただけで文句は言ってないから、口にしないだけのプライドはある、と。それは良いことだね。





別邸に戻る馬車の中で、先ほどのやり取りが話題になった。


「アキ様、少し参謀の方々に向けた視線が残念そうに見えましたけれど」


 あー。


「ちょっと思っただけですけど……露骨でした?」


僕の問いに、ケイティさんは静かに頷いた。


「そうですね。見慣れている私だから気付いたというところはあるかとは思いますけれど、軽い失望を感じられたようには見えました。少し離れてはいましたので、参謀の皆様はあまり気付かれなかったかもしれません」


 ふむ。


ケイティさんが、わざわざ参謀の皆様「は」と言ったということは、調整組の面々や父さん、ヤスケ御爺様は気付いたってことかぁ。うーん、なんか後でお小言貰いそうだ。ある程度、しっかり交流して互いに微妙なところまで意識できるくらい親しい間柄になった人にはバレる程度の失態、と。なんとも微妙なラインだけど当事者にバレてないなら、まぁ、いいかな。


「まだ慣れてないのだとは思うのですけど、今回のネタくらいなら、実際には竜族がそれを為すのは難しそうとか、修得するのに結構年月がかかりそうだな、とかすぐピンときて、簡単に言うが一体何十年後の話だ、みたいにツッコミを入れてくれるくらいはして欲しかったんですよね」


わざわざ、とってもお手軽に二倍、三倍と強くなれるよー、なんて胡散臭い言い回しまでした訳で。


すると、ふわりとお爺ちゃんが前に出てきた。


「アキはそう言うが、竜達と頻繁に交流しておらんと、そういった感覚は養えんじゃろ。それに多少話した程度では、ロングヒルにやってくる竜達がとても聡く、竜眼はよく見抜き、一つ聞いて十を知るような受け答えを経験すれば、彼らならすぐ物の(ことわり)を身に着けてもおかしくないと考えるじゃろうて」


 なるほど。


「確かに、共感できないような話でも、想像力を巡らせてかなり的確に理解してくれるもんね。言葉に意思を載せて理解の補助をしてあげれば、馴染みのないことでも、だいたいはその場で理解してくれるから、そう思うのかもね」


そう話すと、それじゃ、とお爺ちゃんに指摘された。


「アキ、誤解を生むのはソレもあるじゃろう。アキが言葉に語らずイメージを載せて伝え、相手の思念波から言葉以上の情報を読み取っておるから、時折、言葉だけ聞いているとやり取りが繋がってない事があるが、互いによく理解し通じ合っていて、話が駆け足のように進んでいく様は何度も見ておる。アキが思う以上に、竜達を聡いと感じておるじゃろうよ」


 ふむ。


「ケイティさん、そんなものです? 僕自身は、自分と竜の話を客観的に見る機会がないので、お爺ちゃんが言うような、話が飛び飛びになっているのに通じてる、みたなことを意識したことがないんですけど。僕と相手の竜の間では十分なやり取りをした上で、言葉を交わしてますから」


そう聞いてみると、ケイティさんはその通りと頷いた。


「私はマコト文書の抜粋版とはいえ多くの知識を既に理解しているので、アキ様と天空竜の方々が交わされる言葉が多少少なく、そのやり取りが飛んでいたとしても、前提となる知識があるので、それらを共有された上で会話されているのだろう、と推測はできます。ただ、そうした前提知識がない方々からすると、会話の繋がりがなく、話が飛んだように感じることは時折あるかと思います」


 なるほど。


「一から十まで言葉でいちいち説明せず、イメージを丸ごと渡して、或いは受け取って、それを前提に互いに発言してますからね。僕と天空竜だけが見える資料があるようなモノですから、それが隠された状態の方々からすれば、なぜその言葉から、その返事になるのかわからない、なんて事も確かに起こりそうな気はしてきました」


 おっと。


珍しく、御者台に座っているジョージさんが割り込んできた。


「その話なら、俺は参謀達に近い感性があるだろう。ケイティほどにはマコト文書を読んでいない。だから、翁の言う「話が飛ぶ」という感覚は時折感じているぞ。上手く端折って伝えあっているのだろう、くらいにしかその場合だとわからない」


 なんと。


「あれ? ジョージさんでもそんな感じになりますか」


「なる。特に時間軸が伸びるような時は、その長さがわかりにくい」


  ん。


「今回の例であれば、竜達が物の(ことわり)を身につける未来とはどれくらい先なのか、ですね?」


「あぁ。それに職業柄、少ない確率だろうとあり得ないと捨てる意識は持たないようにしている。だからこそ、今回の例では、竜達がこちらが思うよりずっと早く物の(ことわり)を身に着けて、ただでさえ強い実力が更に跳ね上がる可能性もあると判断した」


 あー。


そこは確かに盲点だった。セキュリティ部門の人達は、それがどれだけレアケースだろうと完全に不可能でない限り、そうなった場合を想定して対策を立てるのが基本だ。となると、今回の例でもジョージさんの言う通り、案外、竜達が興味を示してくれて、しかも上手くポイントを押さえて理解がサクサク進んで物の(ことわり)を習得することも可能性はゼロではない、と考える訳だ。


「えっと、もしかしてご心配かけました?」


「いや」


 お?


「えっと、その可能性を予想しても、特に焦るようなことはなかったと?」


「セキュリティの観点からすれば、今の竜の時点でもう災害級であって我々の力ではどうにもならない。それが二倍になろうと三倍になろうと、どうにもならない事態は変わらないという話だ」


「あぁ、なるほど」


僕からすれば、小鬼族の武官でも、それが人族でも、鬼族でも、竜族でも、僕よりずっと強くて勝ち目がないって点では変わらない、というのと同じ論理だ。


「それと、参謀に代表の方々と同じことを求めるのは止めておけ」


 ほぉ。


「代表の方々、つまりニコラスさん、レイゼン様、ユリウス様、それとヤスケ御爺様と彼らは違うと」


「当然だろう。彼らは与えらえた兵力を使い、任務を達成する事を求められる役職だ。自分が許された裁量の範囲内ではあれこれ自由に決められるが、それを超えた場合は上の者にお伺いを立てる、そんな立場だ」


 ふむ。


「代表の皆さんだと、その上っていないですからね」


「そうだ。そして、アキが先ほど彼らに求めた、「死の大地」浄化作戦の次、それは彼らの職務の範囲外だ」


 あー。


「言われてみればそうですけど、年齢的にもシゲンさんや近衛さんなら余裕で現役対応する話ですよ?」


「だとしても、人族のホレーショ殿や、小鬼族のファビウス殿にとっては自分達の次の世代が担う話だろう。ファビウス殿だと次の次かもしれない」


ジョージさんが指摘してくれたように、確かに今の研究や準備のペースからすると、例え人族のホレーショさんでも、多分、「死の大地」の浄化作戦は、自身の仕事の集大成といった位置付けになるんだろうね。ファビウスさんだと、準備までを担当して次に引き継ぐ感じかもしれない。


 おっと。


今度はお爺ちゃんが前に出てきた。


「アキ、その話じゃが、近衛も現役で対応することにはなるじゃろうが、浄化作戦のような長い期間を費やすような仕事は今回が始めてじゃ。勝手の分からぬことばかりであって、妖精族の領分には入らぬ話も多い。じゃから、地球(あちら)の話を絡めた場合、竜族ほどではないにせよ、共感できぬことの方が多いと思うて、少し配慮してくれれば幸いじゃ」


気遣ってやってくれ、とお爺ちゃんに言われれば、それは配慮しないといけないね。


「うん。ならちょっとそこは今後は注意してみることにするよ」


 ふぅ。


こうして僕の事を良く知るサポートメンバーの皆さんと話をしただけでも、結構、僕の認識と周囲の認識のズレがあったことを思い知らされることになったくらいだから、確かにさっきは雑に参謀の皆さんを眺めてしまったのは不味かった。ジョージさんの言う通り、彼らには立場があるのだから、かなりの裁量が認められていると言っても、そこを超えた話をしたら、対応に困るというのも、なんとなくはイメージできる。子供同士でお話してるのと、親の了解を得ないといけない話題の違いみたいなモノだろう。


身近に長老衆のヤスケ御爺様がいるし、議員の立場ではあってもマコト文書に深く精通している父さんもいるし、全権大使として広範な業務の最上位責任者として振る舞うジョウさんもいるから、つい、国家レベルや、国家間のやり取りをするような戦略級の話でもさくさく話が通じてて、それが当たり前と感じてたけど、ソレはかなり認識が歪んでた、ってことだね。


参謀の皆さんは、先日までやってきていたお姉様方だとイメージすればわかりやすい。お姉様方に「死の大地」の浄化作戦、その実行後をイメージして備えていきましょうよ、と話すのは、おかしな話だと思うからね。丁寧に想定状況を説明した上で、その中でお姉様方の専門とする部分に限定して、何に備えたら良さそうか僕から伝えるとこまではやらないと不親切過ぎる。


……やっぱり、レーザー通信の早急な開通が必要だ。春先まで相談を先延ばしにするのは間が空き過ぎて、このままだと駄目だもの。


ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


はい、今回はちょっとした補足回って感じになりました。

アキも自分のことを良く知るサポートメンバーと話をしてさえ、認識のズレがあることに驚いてますけど、参謀達の立ち位置をやっと認識することになりました。ただの高校生、働いた経験もないアキ(マコト)には中間管理職の悲哀みたいなのを認識するのはちとハードルが高かったようです。何せ、アキの周りには突き抜けた役職、能力の人達ばかりですからね。普通に国家レベルの施策について実務レベルで話せるような連中ばかりなせいで、感覚がバグってました(笑)

今回の話で、それもだいぶ是正されたことでしょう。


次回の投稿は、十月十六日(水)二十一時十分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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