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23-20.参謀達の意識(後編)

<前回のあらすじ>

ファビウスさんに「福慈様の暴発の再発防止策は、小型召喚体でストレス解消させることだけか?」と言われ、はいそうです、と答えるのもどうかと思い、即興で追加の2案「白岩様の竜と鬼の武の複合技で魔力消費軽減」、「召喚術の知識を応用して老竜の実体の在り方に介入して小型化を図る」というのを考えてみました。我ながら良い案になったと思いますけど、前者はともかく後者は研究組と相談する際でもヤスケさんに一声かけろ、と念押しされました。かなり危険だ、と。(アキ視点)

最後は人族のホレーショさんだね。


「アキ、私からの質問は白岩様が進めているという竜と鬼の武の融合技の件だ。その技を習得した天空竜だが、それは無駄なく飛ぶことで飛行距離を伸ばし、巣で休めば回復も早まるということか? 行使する技や魔術の精度はどうなる? それらも効率が上がるのだろうか?」


 ふむ。


「そうですね。まず竜ですけど、穴の空いたバケツをイメージしてそこに水が満ちているとイメージしてみると良いでしょう。白岩様が編み出そうとされている技はその穴を小さく、可能なら塞ぐというものです。飛行する際に必要な魔力のロスは減っても、飛行そのものに必要な魔力は相変わらず必要ですから、ファビウスさんに話した通り、それによる効率改善はせいぜい一、二割ってとこです。また、技や術式の行使の効率向上という意味ではあまり効果は期待できないかと思います。ただですね、回復の方は結構面白い事にはなると思うんですよ」


「というと?」


「例えば、全体で満ちたら百の魔力量があるとして飛んだりして消耗して半減したとします。巣で休むと毎日十ずつ回復するとしたら五日でフル回復ってことですよね」


それはそうだ、とホレーショさんも頷いた。


「ところが老竜の場合、これが総量で三百とかあって半減してたとして、巨体を維持するのに必要な魔力が例えば九必要で、巣からは十回復するとしたら、一日に回復できる量は僅か一に減り、百五十日かけてやっとフル回復って話になりますよね」


「……そういうことか。それが体の維持に必要な魔力が八に減れば、一日の回復量は二と倍増、半分の七十五日で全快することになる」


 ん。


「そういうことです。それに体に魔力が満ちてくれば、今のように一日の大半を眠って過ごしているような生活スタイルも変わってくるでしょう。心話をしていてもあまり長時間はお話できませんからね。その時間が大きく伸びるだけでも結構、老竜達の生活の質(QOL)は変わると思うんですよ。あと、多分、意識が起きていてくれないと小型召喚できませんからね」


召喚術式では相手との接続が確立しても、召喚への了承が得られないと召喚体を形成して降臨、とはならないからね。眠ってる相手が召喚できないのは召喚術式が相手の情報への深い接続を必要として、それが無意識レベルでは拒絶されてしまう、ってとこなんだろう。


まぁ、いつも召喚前に心話で相手に繋ぐか、本人が目の前にいて、今から召喚しますよ、と話をしてから召喚してるからね。試してないのに無理とか言うのもどうかと思うし、今度、寝てる場合に召喚したらどうなるか検証してみよう。


「それとですね、竜族の能力ですけど、劇的に強化できる話ならありますよ?」


「は?」


優男のホレーショさんが見せたあっけにとられた顔はなかなかカワイイね。


「ほら、妖精の皆さんが言ってたでしょう? 物の(ことわり)への深い理解を得た結果、自分達の実力は大きく向上することになったって。なら竜達はどうでしょう? 道具も作らない、使わない彼らが物の(ことわり)に精通しているとは到底思えませんから、そこへの理解が深まれば、二、三倍くらいまでなら跳ね上がると思いますよ」


〇王拳二倍だぁ!みたいな感じで、こう全能力が二倍、三倍って感じで、と身振りを加えて説明してみたら、なんか、場が静まり返ってしまった。


 あ、あれ?


「えっと、皆さん、どうかしました?」


そう問うと、壊れた機械のようなぎこちない動きをして、エリーが口を開いた。


「妖精の方々がこちらとの交流を通じて、物の(ことわり)を理解したことで、術式の効率向上ができた、なんて話は確かに聞いてはいたけれど、そうなのよね、言われてみれば知識なのだから、竜族が同じように活用できるのよね」


「うん、そうだね。特に研究組に参加してくれてる白竜さんは意欲的だし、興味さえ向けてくれれば、かなり伸びるんじゃないかな」


そう同意すると、エリーは鋭い目線を向けて来た。


「アキ、研究目的であれこれ試す際に物の(ことわり)をその都度、部分的に説明するのは仕方ないけど、物の(ことわり)全般についての知識を深めてはどうか、なんて提案は竜族相手には当面しないで。ヤスケ様、良いですよね?」


この問いに、ヤスケさんも固い表情で頷いた。


「当然だ。アキ、今はまだ、竜族の誰も、物の(ことわり)についての理解を深めようなどと言い出している者はおらんのだな?」


 えっと。


「そうですね。皆さん、一部の技術に興味を向けているだけですし、伏竜さんにあれこれ話していくのも、物の(ことわり)ではなく、地の種族の群れとしての社会や仕組みについて理解を深めて貰うつもりですから」


「ならば、この件は竜達の側からソレを求める者が出てこない限り、当面はこちらからソレを促すような真似は絶対に控えよ。何故かわかるか?」


ヤスケさんの顔が先生モードに切り替わった。これは意識を引き締めないと。


竜達の暮らしぶりをみれば、道具を使う文化もないと考えると、物の(ことわり)への理解が深まったとしても、行使する術式の威力が大きくなるとか、持続時間が増えるとか、より精緻に制御できるようになる程度の話だと思える。


「道具を用いることのない彼らですから、物の(ことわり)を深く理解して実力を大きく伸ばすと、飛行効率が良くなって速く遠くまで飛べるようになるとか、使える術式の威力を高めたり、効果時間を伸ばしたり、精度を高めたりはできると思いますけど、それくらいですよね。まぁ物の(ことわり)を理解している竜とそうでない竜がいたとしたら、同じ体格でもかなり優位でしょう。そうすると、体格的に劣勢な弧状列島の竜達が、大陸にいる体格的に勝る竜達と対立するなら、物の(ことわり)を理解した竜を増やした方が良い気もします。えっと、竜族内の序列が変化するような騒ぎが起こるのを今は避けたい、とか?」


考えてみると、広めてもいいんじゃないかとすら思えてきたけど、エリーとヤスケ御爺様が二人して厳禁だ、と言うのだからきっと理由あってのことだとは思うんだよね。そんな訳で思いついたアイデアを伝えてみた。


「甘くしても半分正解としかやれん答えだ。いいか、アキ。今の竜族は竜達の実力が均衡していることで秩序が形成されていると言っていい。我々、地の種族に対して激しい憎しみの念を抱いている竜がいたとしても、ソレが暴発せずにいるのは、他にそれを抑え込める竜達がいるからだ。その均衡に手を入れるのは今はまだその時ではない。アキの言う未来、ソレが下手すれば百年とせず訪れる未来だとしても、今、この時期ではない。統一国家樹立を果たし、竜族全体がそれに参加することに同意し、地の種族と共に歩むことを誓い、竜族全体が総意として共に歩むこと意識を持つ、その時まで、竜達の中の秩序、均衡を崩すのは余りに危険なのだ」


ロングヒルにやってきている竜達であれば、彼らが物の(ことわり)を理解して実力を高めたとしても、そうそう悪い方向に転がるとは思えないけれど、物の(ことわり)への理解を深めれば実力を高めることができる、という事実が広まれば、ヤスケさんの言うような悪意を秘めた竜がソレに手を出す可能性は十分にある。そしてその修得時期が早ければ、大半の竜は物の(ことわり)を知らない旧世代の竜、となると、力比べをしても旧世代の勝ち目は薄い。


「しかも、竜達は個で完結し、群れとしての活動は最小限という在り方だから、我々のように大多数で困った振舞いをする個を抑える、といったノウハウに乏しく、力を合わせて多数で対処するような経験も意識もない点に問題があるんですね」


「そうだ。群れで生きるのが前提の我々であれば、悪意を持つ個人が現れても、集団でこれを抑え込む術はいくらでも考え付く。だが、竜達はそうではない。しかも今の竜族の社会は、竜同士で力比べをしてその結果で序列を決める程度の仕組みしか持っておらん。突出した個が竜族社会に出現するのは不味いのだ」


 なるほど。


「ヤスケ様、今言われた「突出した個」というのはあくまでも竜の価値観で言うところの話、つまり力比べで勝てる強さを持つ、という意味合いですよね?」


「そうだが、伏竜殿の教育について危惧しているのか?」


「危惧ってほどではないんですけど、今の竜達の価値基準から外れた、別の価値基準、群れの秩序を作り出し、既存の序列を飛び越えて、広く、多くの竜達に働きかける力、地の種族が持つ群れとしての強さを伏竜様には学んで貰うじゃないですか。そうしないと東遷事業に大勢の竜を招き入れて参加させるなんてことはできないから。なので、そっちは駄目出しとかしないですよね、って思っただけです」


「そちらは進めても構わん。いずれにせよ竜達に群れとしての意識を少しずつ持って貰わねば、「死の大地」の浄化作戦を大勢で共同で実施することなどできん」


「ですよね。二人が危惧していることを理解しました。参謀本部の作戦の()()になるかと思いましたけど、()()()()時期尚早なのはわかりましたので、僕の方から提案はしない事を約束します。ただ、参謀本部の皆さんは、統一国家樹立後、大陸の竜達との対峙を想定した竜達の育成計画とかも考えに入れておいてくださいね? 「死の大地」の浄化をしてお終いじゃないですから」


多くの長命種が参加してる訳ですし、長期目線で計画を立てましょう、と念押しすると、ホレーショさんやファビウスさんからは「言いたい事はわかるが短命種目線の意識も忘れないで欲しい」と困った顔でお願いされることにもなった。


うーん、でも「死の大地」の浄化作戦が終わる頃には大陸との衝突も考慮しないといけないと思うんだけどなぁ。とはいえ、なんか二人が一杯一杯って感じなので「大計画を立てて上手く次にバトンを渡していく感じでゆったり考えて行けば大丈夫ですよ」と励した。


 ふぅ。


うーん、参謀本部に集まっているのだから軍師的な目線は持ってる方々だと思うんだけどなぁ。あぁ、戦闘が得意な方々ばかりだから、国の全体を統べる戦略に長けた軍師じゃなく、軍を率いて計略で敵を倒す戦術に長けた軍師タイプの方々ってことか。なるほど。そっちは代表の皆さんと相談する感じに分けるのも手かもしれない。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


はい。とりあえず、参謀本部との話は聞き終えることができました。


アキは残念、彼らは戦術に長けた軍師さんかぁ、などと言ってますけど、何とも無茶振りな話ですよね。


国家百年の計なんて海軍提督のホレーショ(人族)の実務にはまるで絡みませんし、対連邦前線司令官のファビウス(小鬼族)の実務にも掠りもしません。勿論、単なるネタ話として雑談くらいは二人だってできますけど、国家全体を俯瞰し、と言った時の彼らの国家とは人類連合であり、小鬼帝国な訳です。でもアキが求めるのは、連合、連邦、帝国に共和国、竜族、妖精を含めた統一国家の弧国(仮称)視点ですからねぇ。何とも酷い話です。そんな訳で、アキも彼らの得意分野と仕事の範囲について、ちょっと先入観で誤解してたので、国家レベルの長期戦略ネタは代表達と話をするかな、と認識を改めました。


こんな未成年の小娘が国家の行く末に絡んでくるどころか、各勢力の代表達を引きずり回しているのだから、間近で見ている面々は、常識がガラガラと音を立てて崩れ去る様を幻視していることでしょう。


しかも、サポートメンバー達はもっと露骨なアキの本音「()()()()ばかり湧いてきて本来やりたいことに集中できない」と少し不満気味に思ってることも認識してますからね。勿論、彼らは職務に忠実なので余計なことを口にはしませんが。内心複雑なとこはあるでしょう。


次回の投稿は、十月十三日(日)二十一時十分です。


<補足情報:変化の術と、竜の在り方の質を変える術の違い>

変化の術は、変身体を用意して別空間に保管しておき、必要に応じて実体と変身体を入れ替えるというもので、変身体と実体を一つの魂が共有しているのが特徴ですね。

今回の「召喚体に近い老竜の在り方」、その質を変える術は、実体そのものに手を加えて今と別の状態へと変えるもの。なので、変身ではなく改造の範囲になります。


どっちがヤバいかといえば勿論後者。前者も大概ヤバいんですけど、トウセイが鬼と大鬼の変化を実現しているという成功例がありその専門家でもあるのに対して、後者は誰も行ったことがありません。膨大な魔力を有している存在としては妖精族がいますけど、彼らは普通に飲食をするので、物の循環に属している存在であって、老竜ほど召喚体寄りではないのでそういったノウハウは皆無です。しかも、本体に手を入れるわけですからね。問題が起きても元に戻すのはまず無理。その辺りのヤバさについては研究組とあれこれ話していくうちにボロボロと問題が見えてくるでしょう。生ける災害、竜神に対して何やろうとしてんだ、とまぁ全員からのお説教コース確定です。

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