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23-18.振り回される人々(後編)

<前回のあらすじ>

調整組の皆さんから一言ずつ話して貰った感じだけど、まさか全員から鋭い言葉が放たれるとはまったく予想してなかった。もう全身ずたぼろな気分ですよ、とほほ。(アキ視点)

さーて。それじゃ、僕が今回、何を考えたのか、どこまで考えたのかを説明していこう。


「では、今回の福慈様が思念波の暴発をまた起こした件について、僕が話を聞いて何を考えたのかお話しますね。といっても、起きてすぐ父さんやヤスケさん、ジョウさんと相談して考えをあれこれ纏めて行ったので、そうした後から補足した部分は割愛します。皆さんが聞きたいのは、他の人と相談する前、僕がどこに注目し、何を聞き、何を考え、動く必要ありと判断したかってとこですよね?」


そう問うと、皆を代表してエリーがその通りと同意してくれた。


「それでいいわ。アキのことだから、今回の件は他の人に相談する前の段階であらかた方針は考えてたんでしょう?」


「まぁ、ね。ソレをどう実現するかどうかは後で詰めればいいってことで、基本方針まで今回はシンプルに決まったかな。そうややこしい話でもなかったから」


僕の返答に、エリーは、なんか少し不貞腐れ気味に、あーそうでしょうよ、なんて言ってる。まぁ、いいか。


「それでは、時系列に沿って話していきますね。今回の一件は僕が寝ている間に起きて終わっていた話なので、福慈様が思念波を再び暴発させた、という話は起きてすぐ、ケイティさんから聞くことになりました。そこで僕が真っ先に考えたのは弧状列島の地図と、思念波の到達範囲、暴発が起きた時間の長さ、爆発回数といったところでした」


ここで、スタッフさんが大型幻影に弧状列島全図を表示して、福慈様の巣から同心円状に、今回の思念波の到達範囲を示してくれた。


 うん、これはわかりやすい。


「御覧の通り、今回の思念波の到達範囲は前回に比べてかなり狭く「死の大地」まで届くことはありませんでした。それに放たれたのも一回、時間も数秒程度とのことで、慌てふためいて飛び回る竜達の姿もなし、とのこと。ここまで聞いて、最悪の事態は避けられた、と安堵しましたね。まだ呪いの研究や効果的な対処法もわからず、組織立った浄化作戦実行部隊の編成もできてないのに、「死の大地」の祟り神を刺激してしまうことはこちらにとって何も良いことがありませんから」


ということで、この時点で、あー良かったね、慌てるような話ではない、と一旦落ち着くことができたと話す。


 うん、うん。


参謀本部の皆さんも、僕の懸念については完全に賛同してくれている。何の準備もできてないのに、藪を突いて蛇を出すような話だからね。


「次に確認したのは、僕以外に竜族に対して連絡を取る手段を持ってるリア姉の行動結果でした。リア姉は雲取様に心話で連絡を行い、今回の件が福慈様と伏竜様が会談をされている最中に起きたこと、竜族の中で福慈様に対して今回の件を諫めるような動きが無かったことを知りました」


 ふぅ。


ここでちょっと間を置く。まぁ、この竜族の行動に問題があった件は、紅竜さん、白竜さんに対して既に説明済みだから端折ろう。


「問題を起こしたのに誰も怒らない、これはちょっと不味いと思いました。確かに竜族目線で言えば大した話では無かったかもしれませんが、それはたまたまそうだっただけで、長期目線で弧状列島全体の未来を考えれば、ここでうやむやにするのは悪手です。なので、苦情を入れるまでは確定で、後は誰がそれをやるか、って話になりますけど、既存勢力が正式に雲取様経由で苦情を入れるというのは話が大事になりますし、「場を弁えましょうよ、お婆様」と軽く窘める程度の件ですから、ソレは無し。なら、僕かリア姉が心話でちょっと怒ってあげれば、福慈様も自分の心に区切りをつけやすくなる、と。まぁ、この辺りは午前中に二柱に説明した通りです」


なので僕が怒ればいいか、と。悩むようなとこでもないです、と言うと、なんか皆から呆れた雰囲気の目線を向けられることになった。まぁ、些細なことなのでそこはスルーしよう。話が横道に逸れるのは本意じゃない。


「で、怒るのはいいとして、それで福慈様が反省を意識したとしても、それは再発防止に繋がりません。なので根本からどうにかしないといけないと考えました。ちょっとしたことで暴発してしまうのは、精神的に常にギリギリな状態にあって、その状態が緩和されないからだろうなぁ、と。そして魔力不足もあって多くの時間を巣で寝てるだけ、といった過ごし方をされているのは知っていたので、ソレではストレス解消どころじゃないな、とも。あと竜はある程度成長すると飲食も不要になってくる点も利点というより欠点、気晴らしをするタイミングすらない、と考えました。で、それらの問題を解決する手段はあるかといえば、僕の出せる手札に小型召喚体で喚ぶというのがありましたからね。竜族にとって好きに空を飛び回れるのは大変楽しいことでストレス解消になりますし、小型召喚体であれば実際に腹は膨れないものの、飲食を楽しむことも可能です。なので、福慈様を小型召喚体で喚んでストレス解消して貰えば再発防止策になるね、ってとこまではすぐ決まりました」


たまたま手札にあって良かったですよね、って皆に同意を求めると、皆さん、これには頷いてくれた。


 ふぅ。


実際、老竜はあまりに身体が大きくて、実体のほうで飛んでストレス回復とか、食べて回復とかは現実的には無理だもんね。そして福慈様の巣までリバーシセットを運び込んで遊んで貰ったりもしているけど、暇つぶし的な要素、物珍しさといった感じが強くて根本からのストレス解消になるかというと微妙だった。


「そこまで見えた時点で、あぁ、福慈様って地の種族への怒りが凄くて、本人も認めてるように、その気が無くても無意識に排除しちゃうかもしれない、と危惧されていたなぁ、と。なら、そうならないような工夫は色々するとしても、最悪、無意識の排除、この場合、瞬間発動される熱線術式が放たれても、それで被害がでなければ、尾を引くような話にもならないだろう、って考えました。後は詰将棋みたいな感じでしたね。既に説明した通り、目に映る対象を限定し、それが魔力感知不能、良く知ってる相手、危機意識を抱くような姿でもなし、となれば、無意識の拒絶が起こる可能性も大きく減らせるでしょうし、僕と福慈様しかいなければ、射線は決まるので、召喚前から予め射線を遮るように絞って強固に展開した障壁シールドを置いておけば、小型召喚体で大きく力を落とした福慈様が雑に放つ熱線術式くらい防ぎきれるだろう、と」


この辺りの話は既にした通りですね、と軽く流して。


「そんな訳で、一回対面して無事に過ごせれば以降の暴発はないでしょうし、一回暴発してしまえば、やはりその出来事自体が再発防止の楔になるだろうってことで考えは纏まりました。その後は、別邸に来ていた皆さんと相談してその考えを補強していった、という感じです」


はい、ここまで、説明終了っ、て切り上げたら、皆さん、まぁ、そんなとこだよなぁ、と深い溜息をついた。……あれ?






皆を代表して、エリーが口を開いた。


「アキ、先ず認識を改めて欲しいのだけれど、相手を必ず殺すぞ、という意思を込めた力ある恫喝である竜の咆哮(ドラゴンズロア)、今回、広域に広がった怒りの思念波は、正にそれだった、福慈様にその意図がなく、特定の誰かに向けて放たれたものでは無かったとしても、到達範囲にいた多くの地の種族にとっては、それは心を根底から崩すような恐ろしい力ある意思だったの。ロングヒルでも前回の思念波を思い出し、精神的に恐慌をきたして病院に担ぎ込まれた人達が結構出てるって知って欲しい」


「死の大地」に思念波が届かなくて良かったね、竜も慌てたりしない程度で尾を引かない軽い出来事だった、というのは間違いではないけれど、地の種族目線で見れば、決して軽い被害ではなかった、と。


 なるほど。


確かに、僕も今だに思い出すだけで心に閉じ込めてしまいたくなる一回目の記憶、ソレを思い起こさせる恐ろしい思念波となると、軽く済ませられるような扱いをされても困る、ってことか。確かにその通り。


「それぞれの城塞都市に成竜が出向いて、竜の咆哮(ドラゴンズロア)で市民達を恫喝して回ったかのように、多くの地域で竜族の恐ろしさを再認識することになった、と。融和ムードを進めたい時期にソレですから、確かに水を差す結果にもなったし、そうした視点からも控えて欲しかった、と苦情は入れるべきだったね。竜への畏怖が薄れるようでも困るから匙加減が難しいとこではあるけど、どう伝えるかどうかは別として、伝えることは約束するよ」


そう告げると、エリーは少し達観した目線を僕に向けて来た。


「確かに話が通じる、怖い顔を見せないことで、つけあがる馬鹿がそれなりにいることは認めざるを得ないわ。ただ、第一声としてソレが出てくるのって、アキも大概、人間不信なとこがあるわよね。こちらの民の意識に疎いだろうから教えておくけど、生ける天災として常に君臨してきた竜族に対して、ちょっと話ができるからと言って、それを甘く考えるような馬鹿はまずいないし、実際の竜と対峙するだけで命懸け、しかも、竜眼で表面的に取り繕っても全て見透かされる有様で、そこまで天空竜のことを都合よく考えるような輩は出てきていないからね?」


 ほぉ。


「その力が強大無比となれば、少し助力して貰えるだけでも自国に大きく優位に働くとか為政者なら考えそうなものですけど、思ったより皆さん謙虚なんですね」


素直な感想を伝えると、呆れた眼差しを向けられた。


「そこは違うわ。自国を訪れる若竜と多少仲良くなって助力がもし得られたとしても、竜族三万柱に対して、直接的、間接的に介入して、そうした不和を早々に潰せる存在がいて、しかもそうした弧状列島全体を見れば和を乱すだけで全体の益とならないことをその存在は座視しないと誰もが理解してるからよ」


「えーっと。それってもしかして僕のことを言ってる?」


「他に誰がいるって言うの。それに竜の噂は一日で千里を飛ぶ、なんて言われるくらいで、そうした悪巧みを人知れず行うことなんてまず無理。そうしたらそう時間を置かずに竜族の長達や、そこを経てアキの元にもその話は届く。なら、きっとアキはソレを穏便に潰すでしょ」


 ふむ。


「潰すというと聞こえが悪いけど、後に問題を残さないように上手く対処しましょうか、とその若竜に圧を掛けられるだろう関係してる竜に軽く相談して、彼らに良い落し処を考えて貰おうと働きかけるとは思うよ。放置しておいても良いこともないからね」


竜同士の関係図もだいぶ充実してきたから、そうした事に協力してくれるだろう竜をピックアップして心話で相談するくらいなら、()()()()()()()()()、とも。


「ええ、そうでしょうね。そして、今の弧状列島にいる為政者達でその程度のことすら理解できない馬鹿はいないの。少し考えて、その方向で自国の益を増やすのは無理だ、と考える程度の理性はあるし、そうした考えを口にして警戒される愚を犯さないだけの分別もあるってこと。だから、そうした風潮の兆しさえないのに、竜への畏怖を思い出させるべき、なんて意識は、最初から持つのは控えて欲しいわ」


考えるなといって、ソレができる訳じゃないだろうからお願いだけど、とは言われた。


 まぁ、確かに。


人間、あのことは考えないようにしよう、なんて思うと、それこそ頭からソレが離れなくなっちゃうもんね。難しい話だ。


というか、こちらの人々は先祖代々、竜族を畏怖する歴史を歩み続けているから、何も知らない幼児ですら蛇を恐れるように、竜族を恐れる意識は遺伝子レベルで刻まれているのかもしれないね。なるほど。その考えまでは持ってなかった。





それからもう一つ、とエリーは話を続ける。


「これはアキに文句を言うのは少し筋が違うけれど、白竜様もあんなに気軽に対竜向けの熱線術式を試技とはいえ軽く実演されるのは勘弁して欲しいわ。放つ前に高めた魔力、あれだけでロングヒル中の魔力感知に長けた人々が恐怖に身を震わせるレベルだったんだから。確かに熱線が放たれた時間は僅か、爆音も無く、遠い彼方の雲に大穴空いた程度ではあったけれど、到達距離があまりに遠過ぎて、きっとこの件では放たれた方角、連邦か帝国のどちらからか苦情が届くでしょう。研究という範疇と言いながら、第二演習場に留まらない技を放たれると、ロングヒルとしても困るし、他勢力にとっても被害がでなかったとしても、捨て置けない事例よ」


なんで地平線の彼方まで飛んでく熱線術式なんて非常識な話に悩まなくちゃいけないのかしら、などと大袈裟に振る舞うエリーに対して、皆が同情の視線を向けていた。そしてチクチクとどうにかしろよ、という催促の目線も僕に向けられることに。


「えっと、その件は先々、地の種族が飛行船の運用を始めたりすると確かに問題が出てくるので、空に向ければ実害はないと言っても到達範囲も広いですし、今後は注意していこう、必要がある場合は事前通達をして、予め話を通しておくようにしよう、って事で研究組と意思統一しておきますね」


皆から安心され任される研究組となるよう鋭意努力します、と所信表明すると、一応納得はして貰えた。


「はいはい、しっかり手綱を握ってちょうだい。特に竜族の方々は気軽に戦略級術式を使ってしまう気軽さがあるから要注意。それに瞬間発動できるせいで、長期的な視点が乏しくて、使ってから考えるとこもあるから、そこも事前に話し合って、自分達の魔力の高さと、地の種族との魔力差を意識するよう仕向けてちょうだい」


「そこは注意していくね」


そう約束すると、一応、エリーも矛を収めてくれた。ふぅ。


他の調整組の皆さんも特に追加補足したい意見はないようなので、これで調整組「は」終わりだね。次は参謀本部か。あー、こっちは全員やる気満々だ。シゲンさんが代表で発言して終わりとはならないね。さてはて、何を言われることやら。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


アキが今回予め考えたのがどこまでだったか、これで調整組、参謀本部はどちらも知ることになりました。アキが思考を巡らせている時点で、竜族と弧状列島くらいの意識くらいしかなく、各地の勢力については、意識するタイミングがなければその粒度ですら気にしないということも。


それから根強い人間不信、きっとグレーゾーンで活用しようとする輩も出てくるだろうから、意識を引き締めておかないと、なんて事を現状ですら普通に考えている事も認識され、これは参謀本部もかなり認識を改める事になったでしょうね。下手に自勢力に利益を齎そうとか、地の種族に有利になるように、なんて匙加減をしたことが気付かれれば「あぁ、やっぱり」とアキはそれに対処しようと竜や妖精達と共に動くでしょうから。そして、ある意味世間知らずな妖精達もまた大きな人族達とはこういうモノか、なんて訳知り顔で頷いて、アキに協力するでしょう。そんな未来は避けなくてはいけません。


次回の投稿は、十月六日(日)二十一時十分です。

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