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23-13.福慈様の暴発対策(後編)

<前回のあらすじ>

福慈様を小型召喚体で喚んだ際に起こるかもしれない事故。それの実害を防ぐための方法を研究組と相談する程度のつもりだったのに、調整組や参謀本部、その他関係者もろもろまで集まる話に膨れ上がることになりました。いやはや、予想外で困ったものですね。(アキ視点)

第二演習場に到着すると、少し離れたところに急遽、設けられた観覧席には調整組の面々や参謀本部の皆さんが早速陣取っているのが見えた。それぞれのところに声を拾う魔導具(マイク)が設置されていて、必要があればそれを使って発言するとのことらしい。


通常時は声を拾う魔導具(マイク)をオフにしておくことで、それぞれ仲間内で話し合ったりといったように使い分けていくそうだ。


僕はいつでもどのチームとも話してるから、あまり 実感がないけれど、他の人たちは他のチームの人たちと会う機会もそう多くはないからね。参謀本部の皆さんが少し緊張気味か。そういえば竜族の誰かと彼らはもう会っているのかな。


そして 第二演習場の内側に目を向ければ、研究チームのいつもの面々が既に集っていた。


「皆さん お久しぶりです。すみません、急ぎで集まってもらってしまって。 どうしても技術的に詰めておきたいところがあり、皆さんと相談しておきたかったんですよ」


僕の隣ではお爺ちゃんが召喚陣を起動して、早速、賢者さん、シャーリス様を呼び出した。


「何やら、守りの術式を色々と試すという話らしいな」


賢者さんはこれまでにない方法をあれこれ見聞きして試せそうということにずいぶんと興味を示してくれて楽しそうだ。隣りにいるシャーリスさんもそんな彼の振る舞いに苦笑してる。


それに比べると師匠はブスっとした顔をしていた。


「あの天空竜相手に術式を暴発させること前提で、防ぐための算段を立てたいなんて、アキでなければ正気を疑っているところだよ」


 おや、おや。


「そうですかね。 小型召喚体にして喚ぶことで力は二百分の一くらいに低下、それを本体の白竜さんや紅竜さんに防いで貰うと言うなら、十分すぎるほど余裕を見てると思いますけど」


僕の弁明にも師匠は心底疲れた感じの深い溜め息をついた。


「アキは根っからの探索者気質ということだねぇ。普通、撃たれて安全だと理解できても、喜んで撃たれる奴はそうそういないよ」


「あー、まぁ、そうかも」


妖精さん達の投槍術式を、探索者さん達は喜んで撃ってもらって「来るとわかってても避けられねー」とか皆で笑ってたくらいだ。


安全に試せるなら、試してみたくなるのが性分、というか本当に避けられないか試してみたくなるのが普通と思うけど。


トウセイさんも心配そうな面持ちだ。


「白竜様から聞いた感じでも、老竜は成竜に比べてもとても力が強いということだから、いくら小型召喚体と言っても心配だよ」


「その辺りは紅竜さんと白竜さんも、至近距離で撃ち合ったことはないと話してましたし、試してから考えてみましょう」


今まで見たことがあるのは、妖精さん達が放つ、小指より細い熱線術式までだからね。金属鎧を紙のように穴だらけにしてたから、おっかない術式なのは間違いないけど、天空竜が撃つとどんな感じなのか見てみたい。


ふわりとシャーリスさんが前に出てきた。


「竜達もやってきた。少し苛ついているようじゃ。あまり煽らぬようにせよ」


なんて、頭をポンポンと叩きながら囁かれてしまった。あー、そう言うシャーリスさんも少し不満顔してる。発言には注意していこう。





上空から舞い降りてきた紅竜さん、白竜さんは、埃一つ舞わせる事なく、いつものように優雅に足を地につけた。


<見たことのない面々が随分多い。何故か説明して>


思念波からすると、まだ参謀本部との面識はなかった感じ、と。


『はい。そこにいる皆さんは参謀本部に属し、「死の大地」の浄化作戦の立案、指揮に携わっていく方々になります。では彼らがなぜこの場にいるか。少し話が連鎖した結果として影響が出てくることが懸念されるからなんです。では、話を整理する意味でも大型幻影に話の連鎖を映して説明していきましょう。事の発端は――』


①幼竜が安心して休める施設として、彼ら向けの休憩住居を提供してはどうかという話で伏竜様が乗り気になり具体的な建物のアイデアや外見のイメージ図まで考えてみた。


②その日の出来事を伏竜様が福慈様に報告している最中に、福慈様の感情が爆発、思念波が前回よりは大幅に弱いものの、広い範囲を席巻した。


③「死の大地」の呪い、祟り神は外部からの刺激がなければ、自主的に動いて計画的に振る舞うような生物的特性は持たない可能性が高い。


④呪いの性質についての研究は、帝国の地でまだ始まったばかりであり、その究明にはまだ時間がかかる。現時点では効果的な呪いへの対処方法、大規模化した場合の呪いの相互作用についても不明な点が多くどう動くか予測できない。


⑤前回の福慈様が放った怒りの思念波は、「死の大地」にも伝播していき、呪いの分布が福慈様のいる方向に対して分厚くなるといった挙動を招くことになった。


⑥「死の大地」の呪いに対して、対処方法の確立や、呪いの浄化に対する準備が整わないまま、徒に刺激を与えて暴発させることは、弧状列島全域に対して、取り返しのつかない被害を招く恐れがあり、断じてこれを避けなければならない。


……って感じに。


<でも今回の思念波は極短期間で、その範囲も狭かった>


白竜さんは、福慈様もその問題はよく理解していて、ちゃんと配慮してる、と思ってるようだ。んー、紅竜さんの様子を見た感じでも、同様の認識か。甘いなぁ。


『お二人が今回の件について問題ないと認識されていることは理解できました。そして、雲取様に伺った限りでも、今回の思念波を発した後に、福慈様を諫めた竜はいないとのことでした』


<問題があると言いたげね?>


自分達だけでなく、部族全体で見ても、騒ぐような話ではない、との認識にあること自体に問題があるとされたことを意外に感じたようだ。この辺り、やっぱり群れで生きている我々とは、考え方が随分違ってるね。


『はい。確かに今回の思念波は「死の大地」にまでは到達しなかったようですし、発した期間も短く、尾を引くようなことにもなっていないように一見すると見えなくもありません』


<違うと?>


『残念ながら、問題ありです。そもそも広域にまで伝播するような思念波が再び放たれてしまった、注意していたのに、規模や時間はどうあれ、再び放たれてしまった。これがそもそも不味いのです』


そういうと、白竜さんは少し苛ついたように目を細めた。


<問題にならない程度に抑え、誰も困るようなことも、慌てるようなことにもならなかった。小さな事を殊更、問題だと事を荒げているように思えるわ>


 ほぉ。


あぁ、とても竜族らしい返事だね。紅竜さんもその通りと頷いてる。いちいちそんな小さなことに拘ってどうする、もっと気楽に過ごそうよ、って感じかな。あぁ、少し僕らの反応を神経質と認識してるのか。なるほどね。敵対的な反応ではなく、理解しようという姿勢もあり、意識も向けていてくれてるけど、出した結論は大外れだ。残念。


『その認識は竜族同士なら正しいですね。でも、今回、相手は生き物ですらない「死の大地」の呪いです。しかも、福慈様が激しく反応された事柄はと言えば、地の種族が作った幼竜向けの住居を竜達の縄張りに持ち込んで使ってみよう、という提案でした。使うのが幼竜だ、というだけで地の種族が作ったという意味では娯楽用のリバーシとなんら変わりません。竜眼でしっかりチェックすれば、幼竜達への害を減らし恩恵のみを得られる品です。なのに福慈様は理解はできても感情は納得しなかった。詳しくは聞いてませんけど、状況から推測するとそんな事だったと思うんですよ』


<老竜達の抱えているそうした感情は、過去の酷い経験があればこそ。ソレを否定しても仕方ない>


 まぁ、そうなんだけどね。


『でも、こう考えたら事態が放置しておくには危う過ぎると理解できるでしょう。福慈様の抱えているそうした感情は、コップに溜まった水のようなものとイメージしてみましょう。それはもう器一杯、縁のギリギリまで満たされていて、ほんの僅か、一滴の水が注がれただけで溢れでてしまう。そんな状況なのだと。問題なのは、水がそこまで溜まっていて、まるで減らないこと。何か失敗した時に、再発させないよう注意します、というのはそれ、対策になってないんです。誰だって注意するには限界があって、注意力にも波もあり、そうした頑張ります、注意します、反省しました、みたいな意識付けではなく、そうならないよう根本的な解決を図り、そもそも似た状況になっても同じ事故が起きないよう処置を行う、そうして初めて対策と言えるんです』


ここは道具を使わない竜達にはイメージしにくいだろうから、コップに表面張力ギリギリまで水を注いで今にも零れそうな状態にしておいて、そこにぱちゃりと一滴、水を垂らして溢れて流れ出るイメージを言葉に載せて伝えてみた。


いくら注意してても、元がそんなギリギリではまた溢れちゃうよ、と。


<それでアキは、自身が福慈様に対して今回の件が問題だったと伝え、そして小型召喚体で喚ぶことでストレス発散をさせようと考えた>


 うん。その通り。


「はい。まずそもそも、注意していたのに再度、暴発させてしまった。この事について、福慈様自身も、多分、好き好んでそうした訳ではなかったと思うんです。なのに、外から誰も問題行動だ、と指摘しなければ、大事には至らなかったのだから上手く対処できたのだ、ともやもやした思いを抱えながらも、自身を納得させることになるでしょう。それだと福慈様が自身の感情を誤魔化すことになってしまう。それは良くありません。先ずは誰かが指摘して、あぁ、済まなかった、と福慈様が自らの思いを外に出す。そうすれば今回の件も素直な目線で意識を向けられるようになります」


白竜さんが無言で続きを話せ、と促してきた。はい、はい。


『そうして、自身の心に素直に向き合って、そうしたら次は、今回の問題への根本的な対処です。どうして、心の中に満ちたそうしたドロドロとした感情がいつまでも溢れて減らないのか。勿論、決して消えない思いというのはあるでしょう。でも、刺激の少なさ、ストレス発散の場のなさも理由と思えるんです。お二人も空を飛ぶと楽しい気分になれるし、空を無心で飛んでいるとそうしている間だけでも、余計なことを考えずに済むでしょう? そうして心を休ませる。それがストレス解消になります。それに年を重ねていくと食事も不要になって、巣に留まって魔力を体に満たすだけになる。美味しいモノを食べると気分が良くなる、そんな機会すら失われてしまっている。巣から見える光景は狭くて変わらないし、身体に満ちた魔力が乏しいからそうそう空も飛べない。そんなんじゃストレスが溜まるばかりでしょう?』


白竜さんや紅竜さんはまだとても若くて活力もあるし、食事も美味しくできる年齢層だから、そうした自身が、ぼーっと巣に留まって何をするでもなく空を眺めてるだけ、という暮らしをしたら、とても退屈して、あぁ空を飛びたい、何か食べたい、他の竜と少し話でもしてみたい、とか思いますよね? とそんなイメージを言葉に載せてみたら、二人も老竜の置かれている状況が好ましくないと感じてくれたようだ。


<実際に福慈様に自由に空を飛んで貰ったり、自身の体躯に見合った飲食をするのは無理。でも、小型召喚体なら体験させることはできる。そして、小型召喚体で制限なく空を自由に飛び回れる楽しさは、多くの竜が経験していて実証済み>


 うん、うん。実際、白竜さんも魔力が減らないのをいい事に外から止めるまで飛んでたもんね。


 っと。


無言の思念波で、黙るよう圧を掛けられた。なんて器用な。


「はい。そういう訳で、今回の件、問題があったよね、と諫めるだけなら、別に僕じゃなくてもいいんですけど、再発防止策としての小型召喚の実施となると、他の方に任せる訳にもいきません。そして、福慈様自身が、地の種族が目の前にいたら、その気が無くても消し飛ばしてしまうかもしれない、と危惧しています。大変ですよね。なまじ力が強過ぎるせいで、術式を放とうと明確に意識しなくても、害する行為が発揮されてしまいかねないんですから。シャーリス様なら、この事について共感できる部分があるんじゃないですか?」


そう話を振ると、シャーリスさんはふわりと飛んできて、その通りを頷いた。


「アキの申した通り、強過ぎる力を持つ者として妾もそのことには共感できる部分はある。何気ない言葉一つですら、力ある制約となってしまう。故におちおち冗談も言えぬ」


「それは何とも気苦労の絶えない話ですね。こちらでそうなってないのは、やはりこちらの魔力濃度が極度に薄いから?」


「恐らくはそうだろう。妖精界であれば難なく使える術式も、こちらでは意識して使わねばならぬ。もっとも、だからこそこちらに来ている間は、気楽に話もできるのじゃ」


なんて嬉しそうに話してくれた。ストレス解消になっているようで何よりだ。


<ただ、問題は小型召喚体で喚ぶという行為それ自体にあるのね。今回の思念波暴発の件と同様、福慈様にその気がなくても、目に映った地の種族をその気がなくても害してしまう可能性がある、と>


「はい。なので、できるだけ拒むような反応がでにくい状況や人物を選んで、害する可能性を低くする事も重要ですけど、万が一の事態が起きてしまったとしても、それで被害がでなければ、それこそ竜族の方々が今回の件について感じたように、問題なし、とできる訳ですね。あともし撃つ気がないのに撃ってしまったなら、その事実自体が福慈様の心を縛る枷となって、再発防止の一助となるでしょう」


福慈様はお優しいので、きっと撃ってしまったなら、実害がなかったとしても酷く後悔されるでしょうから、と確信をもって話すと、白竜さんが放った圧縮された思念波が僕を雑に叩いた。


 ぐふぅ


<性格悪い>


あぁ、なんて酷いツッコミか。濃縮された呆れと退いたイメージが白竜さんの気持ちを雄弁に物語っていた。うん、まぁ、僕もそうなることを最初から想定してる人がいたなら、同じ感想を持ったと思う。


なので、取り敢えずストレス解消作戦が必要という合意も得られたし、ここからちゃんと説明して理解を促していこう。そもそも暴発させないための配慮が幾重にもされているアイデアなんだぞ、ってね。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


そんな訳で、竜族との認識の違いについて、色々と見えてきたお話でした。アキは福慈様の暴発を受けて、すぐに、あぁ、ストレス解消させないと不味いね、と感じた訳ですけど、実際、順を追って、なぜ不味いのか説明しようとすると、結構なステップを踏む必要があって面倒なのでした。

これ、それでもちまちま話を聞いてる調整組や研究組は良いとしても、そうした経験の乏しい参謀本部からすれば、竜達の視点の違い、ズレなどもあるので、なかなかアキと同じようにイメージして、というのは難しい部分でしょう。


次回の投稿は、九月十八日(水)二十一時十分です。

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