23-12.福慈様の暴発対策(中編)
<前回のあらすじ>
「暴発する可能性があるなら、安全に暴発させて反省を促した方がいい」という僕の意見は、その発想自体が街エルフそのものだ、と突っ込まれることになり、その後もなんだかんだあって、皆さんから絞られることになりました。ぐぅ。(アキ視点)
「ケイティさん、魔導具や素材絡みの話に派生するかもしれないので、ヨーゲルさんも呼んで貰えます?」
「はい。念の為、調整組の方々や参謀本部の皆様にも声を掛けましょう」
おや。
「参謀本部もですか? 今回は「死の大地」まで思念波は届いてないでしょうし、影響は少ないかと思いますけど」
そう言ったら、ヤスケさんが口をへの字に曲げなら、そんな訳ないだろ、と突っ込んできた。
「列島の大半を飲み込むような思念波を撒き散らすアレに対して、心話で怒って言い聞かせます、などというお前の行動が、竜族主体で「死の大地」の呪い、祟り神を攻略することを主任務とする参謀本部に対して影響が無い訳がないだろう!」
おおっと。
「あー、うん、そう言われるとそうかも。でも、年配のご婦人が声を張り上げて柳眉を上げた様子を見て、まぁまぁ落ち着いて、と宥めつつ、ちょっと場を弁えましょうね、と諭す程度の話ですよ?」
その場が弧状列島全域であったり、怒りの思念波が半径何百キロという範囲を席巻はしたけどさ。
僕の弁明にも、父さんもこれには反対の意を表明してきた。
「アキ、福慈様の巨大過ぎる力を抜きにすれば、確かに喫茶店で場違いに声を張り上げたご婦人と同じ構図かもしれない。だが、ソレが国を消し飛ばすような巨大な天空竜にして、竜族の部族の中でも尊重される存在となれば話は別だ。関係ないと判断するかもしれないが、それを判断するのは参謀本部の面々であって、アキがそう考えて声もかけないのは遺恨を残しかねないぞ」
なるほど。
「では、参謀本部の皆さんもメインではないですけど、離れた場で傍聴する立ち位置くらいで。えっと、父さんやヤスケさんも来ます?」
「行くに決まっておるだろう!」
「行かない選択肢はないよ。それに私は今回の件への対処は、国の未来を左右しかねない重大な分岐点だと思う」
おや。
そこまで重い判断をするのは過剰じゃないか、とも感じたけど、父さんの目は冗談目化してる雰囲気はないので茶化すのは止めた。
んー、でもそこまで大きな変化になるかな。
「老竜達のストレス過多な状態が解消できて、地の種族を反射的に消し飛ばすほどの憎悪も我慢できる程度に静まって、「死の大地」を無駄に刺激する危険性はまぁ大きく減らせるとして。小型召喚体という形ではありますけど、空を飛んだり、食事を飲んだり食べたりして、竜であっても、世界の恵みを頂いて命を育む存在だと思い出して貰う程度の話なんですけどね」
指折り数えて、今回の策でできそうなことを列挙してみたら、予想外の方向、ベリルさんが割り込んできた。
「アキ様、先ほどまでのヒアリングでは、福慈様の食事を通した意識改革といった話はありませんデシタヨ?」
あー。
「すみません、さっきまでは敵対的な潜在意識を持つ福慈様の暴発をどう防ぐか、という視点で語ってましたからね。派生した意識改革の話はいま思いついたオマケといったとこです」
そう弁護したけど、影響範囲は大きい、と指摘されることになった。
「天空竜は成長するに従って食に頼らず、魔力を得て体を維持するよう生き方を変えていくと伺ってマス。大きな体躯で、それに見合った大食をされては世界が持たないので良い変化デスガ、食物連鎖の循環から離れていく事になり、世界の一員としての意識が薄れていくことにも繋がりマス。その意識を改め、食物連鎖の中で生きる側に引き寄せる事は大きな変化デス。私達の側に寄った視点に立って頂ければ、私達も安心できるデショウ」
ベリルさんが告げた話は、確かに言われてみれば、強烈な意識改革と言えるかもしれない。老いていく過程で薄れて行った食物連鎖との繋がり、他の生き物との繋がりは、そうした自分を取り巻く生き物たちの繋がりを、僕達ほど重視しないよう意識が変わって行ってても不思議じゃない。記憶はあるし経験もしてる。けれど長い年月を経て、それらは薄れて実感が乏しくなっていく。
それはきっと……良くないことだ。
「地の種族であれば、老いても食事を頂けること、そうして命を紡いでいけることに自然と感謝の念を抱きますからね。確かにそう考えると、福慈様を切っ掛けに竜族の高齢層に対する意識改革ができれば、弧状列島に住む多くの種族にとっても益を齎すでしょう。えっと、では、福慈様に騒いじゃ駄目でしょ、と叱りつけるのと、ストレス解消で空を自由に飛んで貰ったり、飲食を楽しんで貰って、意識改革を促すことについて、別に秘密にする話でもないので、そう考えてますよ、って辺りも伝える形で、興味のある方々には集って貰うことにしましょうか。なんか結構大掛かりになっちゃいますね」
それだと集めるのに時間も食うから、できれば人数は絞りたいとこなんだけど。
時間が遅くなることにちょっと難色を示した気持ちが表情に出てたようで、ケイティさんがまぁまぁと宥めてくれた。
「連絡体制は機能しているので、関係各所には興味があれば離れの傍聴席に参加して貰うこととしましょう。メインは研究組による小型召喚体として喚んだ福慈様の無意識な暴発に対する完全なる対処案の検討なのですから」
お任せください、とケイティさんも引き受けてくれたので、それなら、ということでお願いした。紅竜さん、白竜さんが飛んでくるし、シャーリスさんも召喚でこっちに来るとなると、あまりズルズルと予定を遅らせられるモノでもないからね。
……なんだか、随分、大事になってきたなぁ。
◇
第二演習場に向かう馬車の中でも、ケイティさんやベリルさんに促されるままに、思いついたことをあれこれ話してたんだけど、二人から特に念入りに注意されたのは、今回、僕が福慈様に働きかける事について、動く前に必ず伏竜さんに話を通しておくことだった。
「えっと、でも、福慈様と伏竜さんの間で起きた個人的な衝突の件はノータッチにしてくつもりですよ?」
そう方針を伝えてみたけど、これにはお爺ちゃんからも駄目出しをされることになった。
「アキ、それはそれ、これはこれと分けるには、アキの福慈殿への働きかけとそれによる変化、そしてそこから横に派生していく老竜達への意識変化はあまりに話が大き過ぎるじゃろ。それにアキは最初から、この件が世代間対立だと予想しておったからのぉ」
「まぁ、そうだね」
「アキ様、世代間の意識の持ち方の差が問題で、高齢世代の意識を激変させるような真似をするのに、伏竜様を蚊帳の外に置いては、伏竜様ののし上がるチャンスと言っていたアキ様の思惑からも問題になりますよ?」
ケイティさんからもお忘れですか、と指摘されることになった。あー、確かにそのつもりだった。
「今回の件で、伏竜さんの働きかけで、福慈様が伏竜さんの意見に折れる形で話が進めば、伏竜さんの評価は大きく変わることになるでしょうからね。そういう意味では、認識のズレは避けた方が良いでしょう。じゃ、事前検討できた時点で、伏竜さんとの心話をする方向で――」
おっと、ここでベリルさんがそれは駄目、と割り込んできた。
「アキ様、心話では話が終わってから結果を聞くしかなく、途中で支援することができまセン。これまで通り、ロングヒルに来ていただいてオープンで話をしていただいた方が良いデス。多岐に渡る影響がある件なのですカラ」
話が僕と福慈様の間で閉じた件ではないから心話を使うのは適切ではない、と。
なるほど。
「では、基本、伏竜さんには予め話を通して認識のズレが生じない方向としましょう。幸い、紅竜さん、白竜さんもやってきますから、竜族目線で今回の一連の判断についての感想とか意見も伺う感じで」
変だなぁ。怒って迷惑をかけたお婆ちゃんを宥めつつ再発防止に協力して貰う程度の話だった筈なのに。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
今回は少し短めですけど、丁度良いシーンチェンジなのでここまでとします。
アキと福慈様に限定すれば、場違いなとこで騒いじゃったお婆ちゃんを窘める孫みたいな構図なんですけど、取り巻く状況や福慈様が天空竜、それも世界を揺るがすような強大な老竜となれば、関係しそうな人々が話に混ぜろ、と押っ取り刀で駆けつけるのも無理のないことでしょう。逆に伝えなければ、そんな件なのになぜ声を掛けなかった、と非難轟々でしょうね。
そんな訳で、メインこそ研究組の参加ですが、傍聴席には調整組、参謀本部、それ以外にも関係しそうな連中はかたっぱしから呼ばれて集まってくることは確定です。大した距離も離れてないのに、伝聞でいいや、と今回の件を済ませちゃうような人なら、そもそもロングヒル勤めなんて任せて貰えませんよね。
次回の投稿は、九月十五日(日)二十一時十分です。