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23-8.伏竜さんと地の種族の家について学ぼう(中編)

<前回のあらすじ>

伏竜さんには今度は住居という切り口から、地の種族の文化を深く知って貰うことにしました。まずは一番シンプルな安全な寝床確保、という意味でのテント、ワンポールテントで基本機能を説明したけど、伏竜さんもしっかり興味を示してくれました。掴みオッケー♪(アキ視点)

建物の軸組工法と枠組壁(ツーバイフォー)工法の違いを説明したいとこだけど、台車で模型を揺する形で説明するとして、竹ひごと粘土、ちょうどいいサイズの薄板で、凝ったものでなくても良いので、それぞれの説明用模型を手早く作れないかと聞いてみたら、スタッフさん達がなんとか用意すると約束してくれたので、創造術式によるゴリ押しは無しで。


創造術式は便利だけど、創ったモノは竜爪で消してもらう必要があって扱いが面倒なんだよね。師匠の許可を得る必要もあるし。


使わないで済むなら、その方がいい。


『それでは伏竜様、スタッフの皆さんが、論より証拠、見れば違いがわかる模型を用意してくれる間、テントと住宅の違いについてお話していきますね』


大型幻影に別邸の外観を表示して貰い、それと目の前にある設置済みのワンポールテントを見比べて貰う。


『見ての通り、テントの方は持ち運べる事を最優先として畳めばコンパクトになり、重さもできるだけ軽くなるよう工夫されています』


組み立ての様子は始めから眺めていたので、ポールも短かったし、テントも畳まれていて一人で簡単に運んでくれていた。まぁ、ストーブは小さくならないけどね。


<それに比べると、住居は運ぶ事は考慮されていないな。使われている木材も石材も、全体を覆う土や草もその場に根付いている>


うん、そう。街エルフの建築様式はまるで緑に埋もれているかのように壁面緑化されているし、屋根も土、と言っても軽量土っぽいのが被せてあって草木に覆われているからね。上空からみたらそこらの森と区別するのも面倒そうだ。


まぁ、そうして表面を偽装した小山のような乾ドック、大型帆船も収容できる待エルフの地下施設も、天空竜達にはバレバレで、街エルフは地下で暮らすのを好む種族と思われていた、なんてオチも付いてた。


城塞都市の屋根全体を緑化してるのも、森エルフのように草木を好むのだろうとか見られていただけで、欺瞞効果は無かったんだよね。


竜眼で見れば、本当の森林と、屋上緑化した都市では熱分布を含めてあまりに違い過ぎるから誤魔化される事も無かったようだ。


『広さもだいぶ違うでしょう?テントは一階建てで、中央のポール付近以外では真っ直ぐ立つのも難しく、広さも一部屋ってところです』


人との大きさの比率を示して、ワンポールテントくらいの大きさが部屋一つ、それと形状的に円錐状だから、床面積に対してのテントの体積が狭いんだよね。基本、座って休む、寝る為の用途にしか使えない狭さだ。


<住居の方は何処でも立って歩けて、手足を伸ばせるだけの広さもあるか>


『ですね。今、表示している別邸、僕が住んでいるお屋敷だと十人以上が中で暮らしてますから』


僕も別邸の間取りは自分が歩ける範囲以外は知らないけど、それでも別邸の周囲の庭は定番の散歩コースだから、別邸の規模はだいたい把握してるんだよね。僕とリア姉が立ち入りを禁止されている区画は、立ち入れる区画の倍以上の広さはあるのだから、十分過ぎるほど広い。それに僕がロングヒルに来てからも、時折、拡張工事もしてたりするし。


<広さの割に住んでいる人数が少なくないか?>


 ん。


魔力から受けた印象だと、伏竜さんの頭の中では、部屋=巣、といったところのようだ。そうすると部屋数はもっと多いのに、半分くらいしか利用されてないように見える、と。縄張りの意識も少し混ざってるかな。適切な広さの部屋に本来なら一人なところ、同居人もいて少し手狭、それが今の竜族の当たり前のようだ。


『そこが道具を使う地の種族の特長なんですね。竜族の巣はそうですね、僕達で言うと各人の個室に近いイメージでしょうか。プライベートな空間で、他人の部屋に入るのは許可を得てから、といった具合です。代わりに皆が集まるための大部屋である居間であるとか、食事をするための食堂、家財をしまい込んでおく倉庫といったように、役割に応じた部屋を別途設けるんです』


<大勢が集まる場所というと、我らであれば皆が集まる広場があるが、そうした役割の部屋も住居にはあるのだな>


 いいね。


『はい、その通りです。あと、建物を部屋だけで構成すると、どこかに行くのに部屋を横切るような話になってしまい、不便に感じることもあります。なので目的に応じて移動する経路、動線というんですけど、それを考えて住居の間取りは設計されます。部屋と部屋を繋ぐ通り道は廊下で、部屋と違って移動するための場所なので物は置くとしても最小限です』


別邸の実際の間取りを例として、玄関部分も何人もが移動したり、荷物を搬入する事も考慮してある程度の大きさが確保されていたり、廊下も日本家屋に比べると少し広めだったりする点を説明していく。また、居間や食堂のように一時的に使われるだけの部屋は動線を兼ねる場合もある。全ての部屋が独立していて廊下で繋がっている、というのは敷地の広さを考えると現実的じゃない。


また、重たいモノを設置するのは基本は一階で、上の階に行くほど軽くするよう利用も配慮する事を説明するとちょっと驚かれた。


<聞いてみると、一部屋で完結していたテントは随分簡略化されているのだな>


『そうなんですよ。テントも複数の部屋を持つ連結したようなタイプもあるんですけど、それでもわざわざ廊下を設けるだけの余裕はありませんし、上層階を用意するのも無理ですね。あぁ、そうそう、固定された住居の利点の一つに、地下室を設けることができるというのがあります』


 お。


知ってるぞ、といった感じに伏竜さんが笑みを浮かべた。


<やはり、土の中にいないと落ち着かないのかね?>


 あー。


『確かに半地下暮らしみたいな生活をしているドワーフの皆さんのような例もありますし、外と違って気温が安定していて、音も静かで工夫すれば結構快適だったりもしますけど、地の種族だからと言って、穴倉が好きとは限りませんよ?』


地下室の利点として、先ほど挙げた温度や湿度が安定していること、防音性能が優れていること、竜巻に襲われた場合の避難場所として有用なことはあるとしても、換気しないと危険だったり、水の侵入を防ぐ工夫が重要だったりと、水害が多い弧状列島においては、地下室を設けるとなると何気に手間がかかることを話した。


<なるほど。それでもわざわざ地下に住処を広げるのは、それだけの理由があるのか>


お、なんか面倒そうなので深入りせずスルーするつもりになってくれた。これはありがたい。今回の話の本質はそこじゃないからね。


『そうなります。敷地の広さが十分にあるなら平屋が一番住みやすいですからね。わざわざ上層階を設けるということは屋根だけじゃなく、上の階が乗るので下層階をその重さにも耐えるよう頑丈に作らないといけませんし、地下室を設けるなら空気や水の扱いにも慎重な配慮が必要です。簡単に言えば余計な手間と労力がかかるので、必要がなければ作りません』


上層階を設けると、上の階で歩いている音が響いたりもするからね。それでも日本あちらで二階建てや三階建てが増えているのは、土地代が高くて広い敷地を確保するのが難しく、上に伸びた住居にした方が安上がりだから、と言うだけに過ぎない。足腰が弱ってきた年配の方のご家庭だと、低層階だけで暮らすようになって、上層階が単なる物置と化している、とかニュースでもやってたりするくらいだ。いまいちピンとこないけど、一階が駐車場で、二階が居間や風呂やトイレといった生活環境、三階が個室みたいな間取りは過密な都市部ではよく見るけど、アレもいちいち何をするにも二階に上がらないといけないから、階段の上り下りが大変で、なんて言ってる話もよく目にしたからね。


<ロングヒルの城塞都市は随分と高層階が多いが、雀達の(ねぐら)のように集まるのを好むからではないのか>


 あー。


確かに地の種族は群れるのは好きだけど、だからといって狭い敷地内に身を寄せ合って高層階まで延々と積み上げて暮らすのが好きというほど、群れるのが好きな訳じゃない。


『雀は小さくて軽いので、一つの樹木に何百と集まることもできますけど、僕達はそうはいきませんし、先ほど話したように住居には複数の部屋を設けるのが一般的ですから、集うのはそれなりの理由あってのことです。簡単に言えば、外敵から身を守るための城壁は作って維持するのも大半なのでできるだけその長さは短くしたいってことですね。短くすると内側は狭くなるので、そこを平屋だけ埋めて暮らすのは難しく、だからこそ高層階を設けて、より多くが暮らせるようにしてるんです』


小さな力を集めることで大きな結果を生み出すのが得意と言っても、大きな建造物は作るだけで手間だけど、維持するのはもっと大変だ。特に城壁なんて日常生活では単なる邪魔な障害物だからね。日本あちらでも太平の世を謳歌していた江戸時代には、維持費が高過ぎるからと江戸城の土塀を廃して、木を植えるだけとしたなんてのは典型的な例だ。表面を漆喰で塗り固めた白い土塀は姫路城なんかが有名だけど、あれもひたすらメンテし続けなくちゃいけないから、維持するだけで大変な手間がかかってる。


<維持、という考えが重要なのだな>


竜族の巣は維持という手間の意識がさして必要がないくらい簡素なモノっぽい。一度作ればそうそう壊れるものではない感じか。だからこそ、作った時点からもう維持のことを考えないといけない、という概念への共感は薄いんだね。理解しようと努力してくれるのはほんとありがたい。


『はい。テントの場合も長持ちさせるために手入れは必要ですけど、住居の場合はそうした手入れとは別に、重くて動かせず、暴風に耐えないといけないし、地震で揺れて倒れても困ります。大雨になったからといって水没しちゃうと、大切な家具や書物など住居の中にあるモノが駄目になってしまうので、そうならないよう、どこに住居を構えるのか、というのも重要な要素になってくるんです』


<どこでも良い訳ではない、という点は我らの巣と同じだ>


だよね。地脈なんて概念があるくらいで、大地に満ちる魔力には偏りがあって、特に魔力が集まる場所は魔力泉なんて呼ばれたりもする。そして竜達が巣を構えるのはそうした魔力豊富なポイント、魔力泉の位置なんだよね。だから、地の種族の住居ほど簡単に増やせない難点を抱えてる。良い巣とは豊富な魔力を生み出す魔力泉と同義だ。だから、居候が借りてる巣は魔力の湧きが乏しく、縄張りの主はわざわざそこに巣を構えようとは思わない、そんな場所になる。まぁあるだけマシなんだけどね。


『そうなります。雨が降った時に水が集まるような地は住むのに適さないし、河が増水して溢れた場合にも水没しないような高台なら安心です。でもあまりに高いところはいちいちそこまで上り下りするだけでも大変なのでそれもまた限度あり。どうです? 単に眺めていた地上の景色も、定住を考え、移動するのにも歩かなくてはならず、荷物を運ばないといけない地の種族目線が入ってくると、今の形になっているのは理由あってのものだと思えてきませんか?』


ここでちょっと大型幻影に上空から眺めたロングヒルの光景を出して貰った。城塞都市があって、僕の住んでる大使館領があってその周りに水堀があって、田畑が広がり、道が伸びていて、といったよくある田園風景ではる。


でも、それまで地の種族の文化や暮らしを軽く眺めていた程度の竜族からすれば、自分達の縄張り以外は、縁のない景色に過ぎなかった訳だ。ところが今、伏竜さんは水は高きから低きに流れ、集いて河となり、或いは窪地を埋めて池や湖となる(ことわり)を知った。知らなかった訳ではないけど、生きる為にそれらの特性を理解して、逆らわず共存していく意識を知った。


伏竜さんは、大型幻影に映る景色を見ながら、感慨深げに呟いた。


<美しい光景だ>


人が自然の持つ二面性、豊かな恵みを与えてくれる一面と、容赦なく災害で苦しめる一面をそれぞれ、和魂(にぎたま)荒魂(あらたま)と認識して、人知の及ばぬ存在、神にはそうした二面性があるということを否応なしに受け入れた。そんな民が自然と共存するために生み出した努力の結晶、多くの犠牲を払って生み出した地の種族の暮らす地域の光景は、その隅々まで考え抜かれた知に満ちているのだ、と伏竜さんはった。その重みが感じられる呟きだった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


住居の基本的な話を説明しようと思ってたところに、幼竜でも利用できる、虫や蛇、獣を気にせず安心して眠れる寝床としての住居が欲しい、なんて話に流れてしまい、急遽、小屋を作るにしてもその基本構造によって、拡張性とか、耐震性なんてところへの理解をして貰う必要がでてきたので、スタッフが説明の為の模型を用意してる間、尺を稼ぐことになりました。


良い感じに説明して、伏竜もこれが地の種族の目線か、なんて風に感じ入ってますけど、アドリブだらけでスタッフ達はきっと後ろで頭を抱えていることでしょう。彼らからすれば何故か、アキは僅かな言葉から、的確に次の話題に繋がるポイントへとスキップしていくようにしか見えないので。

流れは理解できても、なぜその話題を選ぶのか、話の粒度がソレでいいのか、アキは魔力に触れて、言外のイメージを把握した上で、話を進めて行くけれど、第三者にはソレが見えないので、不思議な会話になってるのでした。


次パートはスタッフさん達が短時間で模型を用意してくれたので、住居の工法、大きく分けると二つのそれについて、説明して、竜目線でどっちがいいか、求める仕様は何か、なんて話を詰めてくことになります。まさか皆で遊べるリバーシの次は、幼竜達が利用できる住居、実体としては巨大巣箱を渡すなんて話になるとは、アキも全くの予想外でしたね。


次回の投稿は、九月一日(日)二十一時十分です。

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