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23-7.伏竜さんと地の種族の家について学ぼう(前編)

<前回のあらすじ>

三大勢力の代表の皆さんへの返書ですけど、ヤスケ御爺様が戻ってきてくれたので、ベリルさんに手伝って貰いながら用意した原案をチェックして貰うことができました。やっぱり話していい範囲が限定される返書って面倒ですよね。(アキ視点)

三大勢力の代表の皆さんへの返書だけど、ヤスケさんからは次の二点について手直しを指示された。


一つ目は世界に対する認識範囲の説明で、世界全体からすると妖精界はほぼ点、こちらの世界は街エルフが把握しているのは一割程度、そして地球(あちら)の世界は全てが見えている状態だ。そこで補足すべきはこちらの世界の地図。今回、公開することを決めてくれたおかげで、外向けに公開している地図は全体の一割程度だが、残り九割についても大陸や大都市の位置を把握できていることを伝えることになった。


そして、大まかな地形と大都市を把握してる状況を利用して、エウローペ文化圏に先手を打って、未探査地域に探査船団を送って、各地の孤立した文化圏が独立を維持できるよう手助けしようという案が出た事も返書に記す。その上で、そうした統一された弧状列島、弧国(仮称)の長期戦略を知った上でも、妖精達はそうして見える範囲を広げることも大事だが、それより遥かに三界を繋いで異界の知を手に入れることが重要と判断した、と説明する事となった。


詳細は春にロングヒルで合流した際に説明するにしても、妖精族が何と比較して三界を繋げる方が価値ありと判断したのか、その基準が明確になったことは大きい。


それから、妖精の魔術の力量が上がった件については、銀竜の鱗を創造された例を示して、何分も存在し続けたことを伝えた方がどの程度変わったか理解しやすいだろう、との事だった。これについては、リア姉の手の中で淡雪のように消えて行く様子が綺麗だったと書きたいと言ったら、好きにしろとなんか微笑ましい眼差しを向けられてしまった。


 むぅ。


でも、あれはとても綺麗で儚い感じがして、こう、何とも非現実的な感じがして、魔術って感じがして素敵だった、と主張すると、実演した意図が上手く伝わらなかった事に賢者が不満げな表情をしたこともどうせなら書いておけ、と笑われてしまった。


まぁ、そんな感じで若干の手直しは入ったものの、概ね、用意した内容で良しとされたので、後は私信をちょっと書き加えて返書とした。


 何を書いたのかって?


まぁ、それぞれへのちょっとした話題と、後は伏竜さんの第一印象や春先までにある程度、地の種族の文化を理解して貰えるよう頑張るといったとこ。ケイティさんには「伏竜様がアキ様好みの性格であることが良く伝わってくる文面ですね」と笑みを向けられることになった。ん-、客観的に褒めるべきところを褒めて、伸ばすべきところにちょっと触れて、魔力泉の術式や、米粉パンを食べた時の様子を書いただけなんだけどね。






代表の皆さんへの返書という割り込み作業も終わり、やっと直近の作業として伏竜さんへの教育の準備に専念することができるようになった。これがまた結構な難問だったから。()()()()に意識を取られず専念できるようになってほんと良かった。


できるだけ話題は竜族でも共感できる要素を含んでいた方がいいからね。そこから話を広げて地の種族の社会を理解して貰うにしても、入り口は竜族社会にもある文化、事象であることが望ましい。


なおかつ、東遷事業にも絡んできて実際に役立つ話なら最高だ。


……という訳で。


第二演習場で僕と合流するまでに、魔力泉からの魔力取込みや、米粉パンを食べ終えていた伏竜さんと久しぶりの対面となった。灰色で低視認性(ロービジ)な鱗の色は自己主張控えめだけど、以前より少し落ち着いた印象だね。贔屓目かもしれないけど。


『それでですね、今日は地の種族の住居について話をしていこうかと思うんですよ。竜族も巣を作ってて共通点がありますし、住居にとって風水害は切実な問題なので、東遷事業の治水にも繋がってくるから、今後にも役立ちます』


伏竜さんはまだ、細かいニュアンスとかの理解は雲取様ほどではない感じなので、暫くは声にイメージも乗せるのを基本としていくことにした。感情の変化とか僕の方ではだいたい把握できるけど、僕の発言を正しく受け取って貰うのにはまだまだ補助が必要そうだから。


<住居か。点々と場所を変える狩猟生活ではちゃんとした住居を持てない。農耕生活に切り替えた利点の一つが立派な住居を持てることだったな>


覚えているぞ、とちょっと得意げなところがカワイイ。あー、もちろん、愛でるような気持ちは表情に出さないよ。


『はい、その通りです。狩猟においては獲物となる生き物を過剰に狩り過ぎないよう注意する必要があるため、禁漁区を設けて、点々と狩猟できる地域を移り住む必要が出てきます。竜と違って遠距離を簡単に行き来できませんからね。なので狩猟生活主体だと、住居は夜露を凌いで眠れることが主目的の簡素なモノになります』


ここで、スタッフさんに持ち運びできる数人で利用できるテントを設置して貰う。


『今回は御見せするために演習場の中に設置して貰ってますけど、実は場所選び的にはこういう開けた場所は良くないんですよ』


<ほぉ。薄手の布をピンで止める様子からして、風に弱いからか?>


 おー。


『はい、そうなんです。今、設置して貰ってるのはワンポールテントと言って、真ん中に一本の棒を立てて、それが倒れないようにテントが各方向から等しく突っ張ることで安定するんですけど、テントは地面に打ち込んだペグによって地面に固定された状態です。テントが受ける風は地面に打ち込んだペグに力をかけることになるので、強過ぎる風はペグを引っこ抜いてしまい、テントが飛ばされてしまいます。テントはこの通り軽いので、支えがなくなれば飛ばされてちゃうんですね』


テントの中ではワンポールテントは実は風に強い形状なのだけども、普通の家に比べたら遥かに弱いのでそこは割愛。


スタッフさん達が、まずテントの下に敷くグランドシートを設置して、ペグで固定。そうしたらグランドシートにテントを繋げるんだけど、チャックで繋げる形式だね。円形にぐるっとチャックで固定してる。


ワンポールと言いつつ、真ん中に立てる(ポール)とは別に入口の枠組み用のポールはセットするんだけど。


スタッフさん達が手慣れた手順でペグを打ちこみ、真ん中の(ポール)を立てて、とあっという間にテントが広がっていく。まぁ、ここで終わりじゃない。


テント本体の展開、固定ができたら、奇麗な三角形屋根になるようテントの縫い目の線に沿って付いている張り縄を外側に向かってしっかり引っ張ってからペグを打ちこんで固定していく。これをテントの全周に対して行うことでテントが綺麗な形状になるんだ。


複数人で作業をしていることもあってか、そう時間もかからずテントは立派に設営し終わった。


それから、実際には火は入れないけど、煙突穴から煙突を出す形で中にストーブも設置してくれる。


『御覧のように、冬には暖を取るためのストーブを設置することもできます。排気は煙突から出て行くのと、テント上部に空いている換気窓(ベンチレーター)があるので、温かい空気がそこから抜けることで自然と外から空気を取り込むことになって酸欠も防げます』


<確か、締め切った室内で火を燃やしていると空気が汚れて倒れてしまうのだったか>


 おー。


狭い場所で暖を取るなんて習慣も必要もない竜族だから、どう説明しようかと思ってたけど事前学習していてくれているとは嬉しい。


『はい、まさにその通りで、寒いからと閉め切ったりしていると、どんどん空気が汚れていき、意識を失って亡くなってしまうような事故も起こったりします。なのでテントには外から空気を取り入れる口と、一番高いところに換気窓(ベンチレーター)を設けておくんです。温かい空気は上昇していくので、テント内の空気が上に向かっていき排出され、そうするとテント内の空気が減った分、他の取り入れ口から新鮮な空気が入ってきてくれます』


ストーブ内の燃焼で生じた排気は煙突から捨てられる訳だけど、風向きによっては逆流してきたり、そこまでしなくても排気が鈍くなったりして、ストーブから微量の一酸化炭素がテント内に出る可能性がある。それにテント下部の吸気口からストーブへの空気の流れだけだと、下から下という流れになってテント全体の空気が攪拌されないという問題もある。だから、テント最上部に換気窓(ベンチレーター)を設けるんだけど、まぁ、その辺りは冗長なので説明は省く。


<テント内に気流を生む訳か。よく考えたモノだ>


上昇気流については、さすが空を自在に飛ぶ竜族なだけあって、簡単にイメージしてくれた。テントの構造は中で火を燃やすことで、空気の温度差で意図的に空気の流れが生じる訳だけど、伏竜さんは日光に地面が温められることで上昇気流が生じることを思い浮かべてくれた。いいね。


『このように、温かい空気をテント内に満たしつつ、テント内の空気が汚れないよう外気も取り込むことで、安全に暖を取れるというのが、このテントの優れた特徴です。あと最初にグランドシートをテントの下に置いたのも理由があるんですよ。テントの中が温かいと、地面との温度差もあって結構、下が濡れるんですよね。そこでグランドシートがあるとテント本体は濡れずに済むという塩梅です』


これは布地で遮って気温差が生じる現象を観察でもしないとわからない部分なので、イメージで朝露に濡れる岩場を伝えて、それがテントの下部、地面との間で起こるんだよ、と補足してみた。


<ふむ。濡れると困るのかね?>


 おっと。


『テントの主目的は風や雨露を防ぐことですからね。僕達は確かにお風呂に入りますけど、そうした時以外、意図しない時に身体が濡れるのは嫌います。単に不快というだけでなく、体温が冷えたり体調を崩したりしかねないからです。なのでテントの下部が濡れるのを防ぐのも意味があるんです』


濡れれば冷えるし、そうでなくても服が汚れたりと濡れた床面なんていい事は何もない。


<これで、安心して休める場所を確保できる。これが地の種族の最小限の住居ということか>


 あぁ、ちゃんと話の流れを理解してくれてるね。ありがたい。


『はい。ストーブなしで、寝袋にくるまって寝る方が最小限って感じはありますけど、風や雨露を防いで安心して休める場所を確保する、つまり住居の機能は一応達成です。ちなみに防げるのは風、雨露だけじゃありませんよ?』


<ほぉ>


『こうして開いてる窓も網目状のカバーがついていれば、虫や蛇、小型の鳥や獣が入ってくるのも防げます。寝てる最中は無防備ですからね。そうした対象への心配をせずに休めるのは大きな利点です』


天空竜は強いから、そうした外敵なんて気にする必要がないし、多少の風や雨、霧があっても何の影響もない。だから巣と言っても、それらを守るような機能は必要がないんだろうね。寝てる最中は無防備と言っても、天空竜はそれほど周囲を気にせず熟睡するようなこともない。自分に危害を与える恐れがありそうな相手の気配を感じれば、すぐ起きる程度の浅い眠りだ。


って思ったんだけど、伏竜さんの反応はちょっと違っていた。


<それは良い仕組みだ。ぜひ、我らも使ってみたい。勿論、我らでも使えるような工夫はして貰わねばならないが>


 ふむ。


魔力越しに伝わってきた感じだと、幼竜用に欲しい、と。若竜になれば危害を加えてくる相手など魔獣くらいなものだけど、幼竜の段階では、虫や蛇、鳥や獣とて十分、脅威となりえる。だからこそ、幼竜を育てている間は若竜達が四六時中、周囲に気を配り、竜眼で観察してるって感じか。


『幼竜向けならさほど大きくなくても良さそうですね。ただ、皆さんにテントの設営は無理でしょうから、いっそのこと、扉をちゃんと閉じられる小屋の方が良いかもしれません』


テントはあくまでも仮設であって、長期間使うなら建物を用意した方が断然いい。


まぁ、竜族は炊事をする訳でもないし、物を利用する文化もないから、建物と言っても物置ってとこだけど。


それでも、しっかりと囲われた建物に幼竜が入って寝る、というコンセプトは伏竜さんにはとても魅力的に響いたらしい。


<その小屋とテントの違いについて、詳しく教えて欲しい。それと小屋の大きさはどの程度、自由になるのだろうか?>


 おおっと。


もう小屋が貰えるモノという想定で、幼竜の大きさもあれこれ考えていたりする。ふむ、どうもかなり気を遣うのは小型召喚体の竜よりちょい小さいくらいまでっぽい。そこそこ大きいね。一人乗り小型ビークルくらいのサイズだ。


『大きさはある程度相談に乗れますよ。ただ、出入りする時は翼は畳んでください。あまり大きな開口部があると建物が脆くなってしまいますから』


んー、これは建物がその形状を保つのに何を必要とするのか、軸組構造か枠組壁構造か、なんてとこも話した方が良さそうだ。そっちに話が繋がるかぁ……仕方ない、ちょい、模型か、創造術式で補いつつ実演しながら説明していこう。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


はい、アキから代表達への返書も無事発送されました。アキが加筆した分や私信部分は微笑ましいものの、ヤスケやハヤトが気付いた返書の問題点については当然ですが手付かず。なので、この返書もいずれ発火する時限爆弾状態なのでした。知らぬはアキばかり、と。


予定外の()()()()もやっと片付き、アキも手間がかかるけれど、しっかりやっておかないといけない伏竜への教育ネタを揃えて、久しぶりに伏竜との再会となりました。伏竜の方はもうちょい頻繁にロングヒルにやってきてるんですけど、アキ以外の文官達と敢えて話をするようにしてるので、インターバルが空くのです。


今回は、地の種族の住居が話のネタです。その為の準備も色々やったのですが、伏竜は思いのほか興味を示して、自分達も使いたいと言い出しました。勿論、学習意欲が旺盛なのは良いことですけど、アキ達からすれば、住居なんて天空竜が変化の術を手に入れて竜人になれるようになった遠い未来までは縁のない話だろう、なんて考えてたので、結構予想外でした。次回はアドリブで何とか話を続けて行きます。


次回の投稿は、八月二十八日(水)二十一時十分です。

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