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23-4.他文化圏への使節団派遣への意見(前編)

<前回のあらすじ>

「海外に派遣する使節団の魔導人形の人種構成は、弧状列島のソレに合わせよう」ってだけのアイデアなのに、いざ説明すると、前提とする話があれこれあって、シンプルにあぁ、わかった、と言う反応が貰えないが悩ましいですね。(アキ視点)

ざっと、集まって貰ったメンバーを眺めてみたけど、この人選だと、んー、他者との交流に長けた面々から意見を聞いていくのは悪手だね。先に話す人が理路整然とポイントを押さえた発言をさらさらとしていったら、慣れてない人の追い詰められた感は半端ないと思う。


 となると。


「それでは、鬼人形のブセイさん。魔導人形でもあり、更に通常とは異なる鬼人形のボディへの換装も体験していて、鬼族の兄弟子達やロングヒル大使館に勤務している方々との交流も行っている立場から、抱いた感想をちょっと聞かせて貰えます?」


人一倍大きな鬼族の身体だけど、去年会ったばかりの頃と違って、近頃は実直さとは別に風流さも併せ持ってきていて、立ち振る舞いもこう、おとこって魅力が増してきてる感じなんだ。おっさん体形のトウセイさんとは大違いだね。


あぁ、年配の方でも貫禄があるってタイプはそれはそれでいいんだけど、トウセイさんは単なる運動不足、不摂生が祟ってるだけだから。


で、その点、ブセイさんは、あのセイケンと並んでいても、武芸者としてだけでなく文化人のようなしなやかさも感じられて見劣りしないもんね。セイケンにブセイさん恰好良くなったよねー、って話を振ったら、鬼族の好む風流をよく理解していた女衆からも評価が高いなんて言ってたくらいだ。


あと、小鬼人形のタローさんもボディ換装組だけど、仮想敵部隊アグレッサーを纏めている立場ってこともあって、人前で前準備なしに話せと言われても、サクッと話せるだけの能力と経験を積んでるから、トップバッターにタローさんを選ぶのは良くない。


その点、ブセイさんは個としては、武に優れ風流も理解する偉丈夫だけど、同じ鬼人形がいない事もあって、大勢の中での振舞いといった部分の経験が少ないのはどうしようもない。


「魔導人形のみで構成された使節団において、鬼人形が鬼族の代わりを務めるのは容易なことではナイ。文官としての立ち回りを期待しているのだろうが、それでもセイケン殿のような武を身に付けねば、鬼族は代表とは認めないダロウ」


 なるほど。


「武はそれほどでもない、という研究者のトウセイさんのような例もありますけど、そこは武への拘りがある感じですか。ふむふむ。ちなみにブセイさんは、使節団への参加に興味はあったりします? 事前訓練や海洋を超えて現地で活動と、諸々を考えると最低でも五年くらいは関わる感じになりますけど」


「まだ諸兄らと交流するようになってまだ一年にも満たナイ。学ぶべき事も多く、多くの足りぬことが見えている中、それらを中途にしたまま、海を渡る任務に就くことは、正直に言えば気が進まナイ」


 ん。


言われてみればその通り。というかブセイという名を貰ったのだって、連邦に行ってからだもんね。地に足がついてないと言われればその通り。共和国と連邦は去年までは殆ど交流も無かったんだから、知らないことだらけだろう。


「その気持ちは理解できます。ブセイさんが使節団に参加する必然性がある訳ではなく、確か女性の鬼人形を制作しようなんて話も出てましたし、そちらの方を誘うのも手でしょう。あー、鬼人形に変わる前に、求められるお仕事についてしっかり納得して貰ってからの方がいいですよね? 使節団に参加するなら、鬼としての武はあくまでもオマケであって、言葉も通じてない他文化圏との交流や親睦を深めることこそが主任務ですから」


「ぜひそうして欲シイ。ただ、伸びしろを評価して育てる意識でいた方がイイ」


 うん、うん。


「最初から合格ラインなんて、鬼族のことを深く知る街エルフがいないのだから、現時点の能力はさほど重視されないでしょう。それより異なる文化や風習への興味を持ち、忌避感を持たず、異文化の中に入って行こうという意欲のある方であることの方が大切です」


見上げるような体躯に成るのも面白そうだし、他人の金で異文化交流して、渡航できて、未知の文化圏の人達と共に暮らせて、更に制限付きとはいえ、この惑星ほしの裏側からでも、本国にいつでも問い合わせできる、と至れり尽くせりですよね、きっと競争率高いんだろうなぁ、なんて話をしたら、なんか皆さんに奇異な目を向けられてしまった。


 あれ?


変だなぁ。そんな楽しそうなことのオンパレードを自腹じゃなく、公費で行けますよ、なんて美味し過ぎる条件なのに給料まで貰えちゃう、あぁ、素晴らしい、と同意を求めたら、ケイティさんとジョージさんは一応頷いてくれた。


「アキ様、そうした未知に喜んで飛び込んでいける感性というのは、それほど一般的ではないのです。どちらかと言えば、社会に上手く馴染めず息苦しさを覚えるような者だからこそ、ここではないどこかに希望を抱くのですよ」


探索者達ならそんな連中ばかりですけれど、とも教えてくれた。


うん、そうだよね。安全に妖精の魔法が体験できると聞いて、喜んで投槍術式を打ちこまれて、これは避けられないわ、なんて皆さん笑ってたもんね。あぁいう感性が必要ってことか。


「んー、タローさん、でも、仮想敵部隊アグレッサーの小鬼人形さん達なら、そういう感性の人はごろごろいるでしょう? よーし、探査船団に乗って、海外で小鬼らしく一旗あげたるでー、みたいな調子のいい人の十人、二十人くらいぽーんと集まりません?」


そう話を振ると、いやいや、と首を振られることになった。


「アキ様、そいつぁ誤解ってもんデス。うちは教官肌な奴の集まりであって、単独任務で敵地侵入をするような特集部隊の連中とは毛色が違いマス」


 ほぉ。


「でも熱心に小鬼族の文化を学んで、後方勤務をしている小鬼族の文官の皆さんの振舞いや考え方の修得にも取り組まれていると聞いてますよ?」


実際、最初に会った頃は、荒くれ者達の集団ってイメージだったけど、今日も小鬼族のシンプルな服を着て洗練されている(スマートな)印象だもんね。質実剛健って小鬼文官の皆さんっぽい感じもだいぶ板についてきた。


「仕事で手は抜きまセン。ですが、未知の文化でもそうか、と言えば皆がそうではないンデス」


 むむむ。


ちょっと話し相手をブセイさんに戻して。


「鬼族の文化への興味があって、使節団の仕事に興味があって、未交流で情報のない未知な文化圏への興味があって、と三つ兼ね備えた人ってもしかして希少レアです?」


「それと、己が身を異なる種族と化すことへの忌避感がない者ともなるとかなり希少レアなのは間違いナイ」


ブセイさんも、いくらなんでも要求が多過ぎる、と諭してきた。


 ぐぅ。


っと、エリーが更に駄目押ししてきた。


「アキ、それは竜神子への要求の時と言ってることが変わらないわ。天空竜相手に物怖じせず話せるだけでまず希少レア、そこにあれもこれも、と条件を上乗せして行ったら、そんな奴はいない、って話になるだけよ」


天空竜と雑談できて、マコト文書に精通していて、心話に長けて、竜族の文化にも理解を示し、どこの勢力にも肩入れしない、そんな竜神の巫女アキの代わりが務まる奴なんてそうそういるか、って代表の皆様も話してたでしょ、と窘められた。


 ぐぅ。


「未知に対する溢れる情熱、と大きく一括りにしたらどうかな?」


「アキの案だと、対象種族から自分達の仲間として、代表として認められるだけの品格を身に付けて、使節団としての仕事をこなせるだけの力量も持つのが前提でしょ。その上で、言葉の通じない他文化圏の異種族相手でも仲良くなろうという情熱を持つこと。間違いなく外交官並みの狭き門ね」


しっかり技能を身に付けて、なおかつその種族から認められるという時点で難度は困難(ベリーハード)だ、と言われてしまった。


変だなぁ、弧状列島の人種構成に沿った使節団を派遣しよう、ってだけのアイデアなのに。ここまで高難度扱いされるとは意外だった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


はい。アキは簡単に一つの条件を足しただけのつもりでしたけど、実際にはゴリゴリの複合コンボ技と化していました。本作では魔導人形はボディ換装はできますけど、換装後はリハビリにがっつり取り組まなくてはならず、そうそう簡単に自在に動けるようにはなりません。異種族の身体に変わって、更にその種族の文化をがっつり学んで、相手から自分達の代わりに使節団として働いてこい、と言われるくらいになってね、という時点で、はい、かなりの無茶振りです。


アキからすれば、状況がソレを許すなら、ぜひやってみたい、鬼族恰好いいし、みたいな変身願望ありな男の子な発想だったりするし、ガチガチな日本社会に閉塞感を覚えて、未知を求めて異世界行きのチケットにさらさらとノータイムでサインしちゃうような子なので、楽しい事の目白押しってとこなんですよね。ほんと探索者向きな性格と言えるでしょう。実際にはしがらみが多いのでやれませんけど。


次回の投稿は、八月十八日(日)二十一時十分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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