23-3.他文化圏に派遣する使節団の種族構成
<前回のあらすじ>
三大勢力の代表の皆さんから、妖精さん達が急に国策として次元門構築に取り組むとか、国民総出で心話や魔力共鳴の大規模検証をやるとか言い出しているが、何やった、と詰め寄られることになりました。うーん、今回は冤罪なのに。話しているうちに、他文化圏育成計画に向けて送り出す予定の魔導人形達による使節団に、ちょっとした工夫を追加できそうと気付いて、それについて関係者の皆さんに意見を聞いてみることにしました。(アキ視点)
そして、翌日。
ケイティさんが調整をしてくれて、想定していたメンバー全員が欠けることなく庭先に集まって貰えた。
テーブル席を見ると、今回は魔導人形さん達の比率が高いけど、皆さん、飲食可能な高機能タイプってこともあって、アイリーンさんも、敢えて様々な軽食を出してくれている。各人に小皿四枚、趣の違うお菓子が並んでるあたり芸が細かい。
今回は話し合いに参加ということで女中三姉妹からシャンタールさんもテーブル席についてくれている。
まぁ、そうは言っても給仕役を兼ねてアイリーンさんが横に控えてくれてるし、ホワイトボードでは板書役にベリルさんが参加されているから、三人揃い踏みなんだけどね。
さて。
「皆さん、お忙しいところ集まっていただきありがとうございます」
「海よりも深く山よりも高く感謝しなさいよ。ほんとに捻じ込んだんだから」
エリーが顔を顰めて文句を言ってくれた。うん、他の皆さんだと言い出しにくいところもあるだろうからと率先して言ってくれるのはほんとありがたい。
「後で関係する皆さんには感謝をよく伝えておくね。他の皆さんも、こうした面々で揃った事は珍しく思うのではないでしょうか?」
森エルフのイズレンディアさん、ドワーフのヨーゲルさん、人族からはエリー。この三人までは揃うこともないではないけど。
鬼人形のブセイ、小鬼人形のタロー、リア姉麾下の魔導人形ヒロシ、ウォルコットさんの助手をしているダニエルさんが揃い、そして同席するというのはまずないことだ。
これに人形遣いとして父さんも加わり、他文化圏への派遣が話題でもあるから、ケイティさん、ジョージさんも必要があれば発言する役処で参加してくれている。いやぁ、錚々たる面々だ。
「国家百年の計に関わる話として意見を伺いたい、としか聞いてないから、そろそろ本題を聞かせてくれるか?」
イズレンディアさんも話に入りやすいよう促してくれた。
「はい。では、時間も限られてますし本題に入るとしましょう。今後、弧状列島全体が統一される流れとなり、どの前段階として同盟を結ぶに至り、妖精族の皆さんもこちらの事業に国として参加することを明言してくれました。これでやっと弧状列島も統一国家、弧国(仮称)として語れる段階に入る訳ですけど、そうなってくると、国家百年の計を考えて世界全体に目を向けた場合、他の海洋国家との競争を考えなくてはいけません。共和国限定ですけれど、探査船団を定期的に派遣して、中華文化圏、インド文化圏、中東文化圏の三つとすでに交易をしている状況ですから」
「文化圏?」
「あぁ、えっと、文化圏というのは――」
ベリルさんに、共和国が外に出している交易範囲だけを記した世界地図を出して貰い、交易相手としての中華、インド、中東の三つの大まかな位置と規模を認識して貰い、その中で弧国(仮称)はかなり小さい方だけど、他は陸運国家系だから、競合相手にはならない、といった話をした。
話をしたら、そもそも海運国家と陸運国家って何さ、という話になり、その概要を説明することになり、その流れで、なら競合相手の海洋国家ってどこなの、という話に繋がって、エウローペ文化圏のことを話すことになった。
この段階で、こちらの公開地図だとエウローペ地域は掲載されてないから、マコト文書に記された地球の地図ですけど、ということで、ざっくりとした荒めの地球の世界地図を出して貰い、エウローペ文化圏の位置や規模を認識して貰った。
「……なんかもう話がお腹一杯なんだけど、ぱっと見、地球とこちらの地理ってかなり似てるのね」
「そうだね。異世界と言いつつこうして交流があるくらいだから、世界的に近いってことなんだと思う。まぁ似てるってのは便利だよね。行った事がない地域でも、地球からするとこちらにも似たような大陸や文化圏はあるだろうなぁ、って予想もつくから」
そう話を振ると、大使としての仕事もしてるイズレンディアさんが諦観めいた視線を向けてきた。
「先ほどの他の海洋国家との競争と言う言葉と、他文化圏にも目を向けよう、という主張からして、今は交流のない文化圏に対して、交流範囲を広げていくべき、それが国家百年の計だ、と言うことか」
おー。
流石、イズレンディアさん、森エルフで引っ込み思案な方が多い中、他種族との交流を難なくこなすだけの事はある。
「はい、その通りです。それでですね、地球の地図を見て貰うと解るんですけど、今、情報もないような未接触の他文化圏って、半端ない大洋に阻まれていて、我々が交易している地域との接点が多分、何千年、何万年というレベルで断絶してるんですよ。なので互いに未知の伝染病の類が怖いんですね。あちらだとそれで人口の九割が死んだりしてるので」
さらっと言ったけど、これには皆の顔色が変わった。うん、伝染病は怖いよね。
「伝染病はどれも怖いけれど、過去に罹患していれば耐性のある人が生き残ったり、対処法がわかったりと被害を抑える方法もある程度は見えてくるんですけど、何千年単位で断絶している文化圏同士となると、過去に誰かが罹患してたとか、対処法がどうとか、そういうことがごっそりなくて、対処療法くらいしか手段がなくなってしまい、地球では酷い事になりました。なのでそこは避けたい。けれど交流はしたい。ここまでが前提です」
はい、話にはついてきてますねー、と確認してみたけど、うん、大丈夫だ任せろ、みたいな力強い視線を返してくれたのが一人もいないや。
あれ?
エリーが深く溜息をつきながらも、それでも話を進めろ、と促してくれた。
「色々と疑問だらけだけど、詳しく聞いていたら本筋にいつまでも入れないから、取り敢えず前提は聞いた、ってことにして、本筋を話して」
「ありがと。で、そうした制限があるので、伝染病に罹患してしまう恐れがない魔導人形さん達だけで使節団を結成して、これまで交流がなかった他文化圏に派遣してみたらどうかと思うんだ。竜族、妖精族は召喚術式で参加して貰うのと、召喚術式で繋がっているから、距離は遠いけど、湖国(仮称)とも常時、連絡を取り合えるから、使節団も本国の指示、支援を受けられるのは心強いかなーって」
「……それはそうでしょうね。で、こうした面々を集めた理由は?」
「その使節団だけど、言うなれば、弧国(仮称)の代表ってなる訳でしょう? なら、魔導人形さんだけとは言え、弧国(仮称)を構成する人種構成に沿うべきじゃないか、って思ったんだ。父さん、確か魔導人形としては、人種は街エルフ、小鬼、大鬼の三種でしたよね? 子守人形は妖精さんとはかなり違うので別とするのと、妖精さんは召喚術式で直接参加するので今回、妖精相当の魔導人形は不要ですから」
「その通りだ。この場にいるように、鬼人形のブセイ、小鬼人形のタロー以外は、女中三姉妹もダニエルも、リア麾下のヒロシも街エルフベースのボディになる」
うん、うん。
「同じ街エルフ男性と言っても、父さんとヒロシさんではかなり違いますけどね」
「個人差はある。それにヒロシは街エルフの中でも体格に恵まれた者相当なんだ」
なるほど。
あー、ちょっと父さんが不機嫌そうな顔をした。うん、父さんは街エルフとしては並みくらいの体格って話だからね。そして男としては体格がヒロシさんの方がご立派と言われると、色々と思うとこもあるんだろう。ごめんなさい。
っと、ヨーゲルさんが手をあげた。
「今の話からすると、アキは新たに森エルフ、ドワーフ、人の魔導人形を創ろうと言うのか」
「はい。ブセイさんから話も聞きましたけど、今でこそ鬼人形ですけど、以前は普通の魔導人形、つまり街エルフタイプだったとのことなので、それぞれの身体を用意すればソレもありかな、と」
僕の説明にイズレンディアさんが顔を顰めた。
「魔導人形で形だけ模しても精霊使いにはなれないぞ」
ん。
いい顔してる。そういう、文化的な意識とか、気持ちとか、そういうとこが知りたいんだ。
「良い意見ですね。確かに派遣されている森エルフの皆さんは、どなたも優れた精霊使いとしての力をお持ちとも伺ってます。ただ、試してみても良いかと思うんですよ。同席してくれているそこのダニエルさんは、ウォルコットさんの助手をしている魔導人形さんですけど、神術の使い手にしてマコト文書の神官ですから。魔導人形でも神術の使い手はいる。なら精霊使いだってなれる可能性はあるでしょう?」
立派な神官様ですよね、と同意を求めると、ダニエルさんの実力自体はロングヒルでは、依代の君の抑え役として、知る人なら知るといったところだから、当然、イズレンディアさんもそこはよく把握していて、だからこそ、精霊使いにはなれない、と主張することは無かった。
いいね。
っと、今度はヨーゲルさんか。
「儂らの技も魔導人形に再現できると考えおるんじゃな?」
「そこは結果は同じでも過程は違う、といった事はあるかと思ってます。鬼人形のブセイさんも鬼族と完全に同じ手法でその技を再現しているのではなく、魔導人形としての特性や魔導具の併用によって同じ結果を出す、といったアプローチをされてますからね。それと、ちょっと誤解されているようですけど、必要なのは森エルフやドワーフとして振舞い、それをそれぞれの種族も問題なしと認めるだけの質と、本国と妖精さん経由ですけどやり取りができる状況において、他文化圏に出向いた森エルフ、ドワーフの現地担当者としての役目を十全に果たせるか、ってとこです。何でもできる、なんてのを街エルフ以外の方々に求めるつもりはありませんよ」
そう。
必要なのは、各種族の文化や目線を持ち、現地担当者として、弧国(仮称)に控える支援担当者達がその任に堪えるだけの人材と認めるだけの実力を備えているか、ということなんだ。
だから、森エルフとしての感性、文化、目線があれば、精霊使いとしての力がなくても問題ないとすら思ってる、とも話すとイズレンディアさんは低く唸った。四六時中、精霊とのコミュニケーションが行えると言っても、結局、最後に外部とのやり取りをするのは森エルフ本人だからね。確かに精霊術を使うとなると、普通の魔術との差は大きいけれど、それを言うなら、街エルフの魔導師と、魔導人形だって違う。魔導人形さん達は魔導具を使って同じ結果を出すという形だから。
お。
エリーが手をあげた。
「それで、アキは私達に忌憚のない意見を聞きたいのね。弧国(仮称)を模した人種構成の魔導人形だけで編成した使節団を海外に送ろうというアイデアを思い付いたけれど、それに対してそれぞれの立場から意見を聞かせて欲しい、って」
おー。
「うん、うん、そうなんだ。長命種なら百年くらい先のことを考えて手を打つべきだなーって思ったし、地球だと国家百年の計と言う言葉も人族しかいなくても使ってたくらいだからね。だから、今回の話は、時間軸は最短だと五年くらい、長ければ百年くらい先になるけれど、どう思うか? 今がもし駄目なら何がクリアできれば良しとなるのか、準備に時間がかかりそうなら何年後ならいけそうなのか、そういった広い視点、長い目線で自由に語ってみてくれると嬉しい」
と言う訳で、それぞれの専門家なんだし、遠慮しないでいいから、意見を聞かせて、と言ったら、場を酷い沈黙が支配することになった。
あれ?
っと、ケイティさんがフォローしてくれた。
「皆様、事前検討も手持ち資料もない中で答える事への圧がキツイのでしょう」
おや。
「そうした準備がない中、即答して貰うことは僕も認識しているので、気負われる必要はありませんよ? 話してくれた内容もベリルさんに箇条書きにして貰って、議論の叩き台にしようってだけですから、過不足や誤りを気にしないでも大丈夫です」
ほら、怖くない。
って感じで、もっと気楽に話しましょ、軽い茶飲み話だと思って、と和んだ笑みで促してみたんだけど、小鬼人形のタローさんも、勘弁してくださいよ、って目線で切々と訴えてきて、どうも場を和ませる雑談は失敗したようだった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
はい、代表達への返書を行う前に、魔導人形のみで構成された使節団だけど「弧国(仮称)を構成する種族メンバーにしよう」なんてことを思いついた事から、そう思いついたけどどう思う?、と関係者を集めて話を聞くことになりました。
ただ、アキも説明する中、できるだけシンプルに補足していったつもりでしたけれど前提条件が多過ぎて、アキの言うシンプルな問いに答える前に、もうお腹一杯、勘弁してくださいって感じになってました。
これまでに丁寧に紹介してきた海洋国家と陸運国家という概念、文化圏という概念、これまでに交流のない未知の大陸、未知の文化圏という概念、何千年という単位で断絶した地域との交流で生じる未知の伝染病という危険、病を完全に防ぐ魔導人形のみで構成した使節団という新しいアプローチ、これまでにない森エルフ、ドワーフという魔導人形の創造なんて感じですからね。
これまでの本作を読んで来た人なら、アキが何を相手に相談しているのかイメージもできると思いますけど、これまで国内知識だけで人生が閉じていた面々からすれば、いきなり世界儀をぽんと出して、視点を広く持ってみましょうか、とか言われても、物凄い場違い感に戸惑ってしまうのも仕方ないでしょう。
とはいえ。
この場に招かれた以上、逃げる訳にもいきませんし、覚悟を決めて話に参加するしかないんですけどね(笑)
それにアキも、即答できない、他に相応しい者がいいる、とか言われればそういうものか、と思うだけですし。
次回の投稿は、八月十四日(水)二十一時十分です。