22-31.伏竜の抱いた漠然とした何か(後編)
<前回のあらすじ>
僕との距離感とか、付き合い方について色々と伏竜さんが考えたことを明かされました。人を毒物や、依存性薬物、砂糖菓子のように例えるのはどうかと思いますけど、好意と感心はちゃんと持ってくれているので、まぁ初手としては悪くないと思うことにしましょう。(アキ視点)
伏竜さんとあの場にいた皆さんが残って話してたとのことで、その理由を聞くと、一つは何とも嬉しく悩ましいことに、僕との距離感や付き合い方なんてことだったそうだ。ほんと、これまでに出会ったどの竜達とも違っていて、伏竜さんとの考え方は大変好ましい。
とはいえ、それだけで延々と話せるほど内容が濃いとも思えない。
「それで、伏竜様はそうお考えだ、というのはわかりましたけど、伏竜様が自分の考えを述べただけ、なんてことはなかったのでしょう? 他にどういった事を話されたんです?」
「例えば、アキが竜達の魔力に触れて、その変化やイメージを的確に読むことについて、そういった読心術のような能力を持つ者と皆が普通の付き合いをしていそうな事を不思議がっていた。それについては、アキが竜族くらい強大な魔力でないと、他者の魔力を感知することができず、雲取様がロングヒルに飛来してくるまでは、魔力感知ができないとさえ認識されていたくらいだったというエピソードを紹介して、納得して貰うことになった、なんてのもあった」
人は群れる種族ではあるけれど、魔力感知に長けた者であっても、他者の魔力に触れたところで、せいぜい感情が落ち着いているか、荒ぶっているか、といった大雑把なところを読み取るのがせいぜいで、そこまで便利使いできるものではないこと。それに魔力感知に長けていることが良いこととは限らず、多くの人々が集う街中においては、大勢の魔力が混み合っているせいで心が疲弊してしまうため、雑踏を好まず、静かな地で離れて暮らすような事になる、とった弊害も紹介したそうだ。
「騒音から耳を守るための耳覆いとか、或いは周囲の雑音に惑わされないよう心を律するとかは駄目なんです?」
僕の疑問に、父さんはそれでは駄目な理由を教えてくれた。
「魔力感知は、魔力に触れることでそれを感知していて、魔力とはその大きさに応じて強ければ広い裾野を持つように、遠くからでも感知ができるモノだ。けれど、音なら耳が聴く訳だが、魔力の感知は、これといった専用の感知器官がある訳じゃない。アキも竜族限定とはいえ感知できるのだから理解し、共感できると思うが、魔力感知は肌で感じるモノ、全身で感知する。だから、それを防ぐように全身を覆うというのは現実的じゃない」
宇宙服みたいな完全遮蔽服みたいなのを開発すれば、魔力感知を遮断できるかもしれないけど、とっても暮らしにくそう。
「なら、自身の心を律して変化に惑わされないというのはどうです?」
「何を感知しても心が静寂に満ち動じることがない。確かに心術の中にはそうして心を律する技はある。けれどね、それは外からの影響を遮断しているのではなく、心を固くして揺るがないようにしてるだけで、常にそれをするのは難しく、またもしそれが可能だとしても、感情の変化も乏しくなり、心の活力も失われてしまう弊害は避けられない。そんな精神状態を自身に強いてまで、雑踏の中で暮らしたいなどとは思わないよ」
街エルフが皆、引き籠りなのは、誰もが魔導師としての力量があり、広く感知されるだけの魔力の裾野を持つが故に大勢集まると、その重なりを不快と思うから、という点も理由の一つと教えてくれた。
なんと。
「単なる出不精って訳じゃなかったんですか」
「竜達が行っているように、自身の魔力を抑える技は魔導師なら誰もが修得している。けれど、アキも知ってる通り、それをしていると息苦しさ、堅苦しさを覚えてしまい、好んでそれを続けたいモノじゃない。だから、大勢集まるような事は、それが必要なら仕方ないから我慢するとしても、そうでないなら、常日頃はそれを避けるんだ」
「大変ですね。あれ? ケイティさん、探索者家業をしてて、ケイティさんは問題なかったんですか?」
探索者というのなら、実力者揃い、さぞかし魔力の高い者が多そうだけど。
「アキ様、探索者とは探索任務に長けた者達の集団であって、魔力の多いことが有利となる職でもなく、それを必須とする職でもありません。私の場合、魔導師でありながら探索者としての技量も備えていた、というだけなのです。そもそも、魔導師は国に何人いるかといった程度には少ない存在ですから、他人の魔力を気にするような事態にはなりませんでした」
あぁ、なるほど。
そして、他にも術者はいても、それらの人達は魔導師としての力量差もあって、ケイティさんからすれば、特に気にするような相手でも無かった、と。
「他の探索者の皆さんは、ケイティさんの高い魔力を感じても平気だったんですか?」
「探索者は高位存在を相手に立ち回ることもありますからね。魔力の高い相手だろうとそう気後れするようなことはありません。それに安定している魔力であれば、さして時間をかけずとも慣れるものです」
ほぉ。
ちらりと、壁沿いにいるジョージさんに視線を向けると、こっちに話を振るな、と拒否られてしまった。ちっ。
一応、父さんが別の視点からフォローを入れてくれた。
「一応、護衛の中には魔力を抑えて潜伏しているような暗殺者を見つけるような、魔力感知に長けた者もいる。ただ、そうした者がいても、魔力感知はあくまでも補助的な役割であって、それを主軸として何かの対象を探すと言ったことはないんだ。そこまで便利なモノではない。隠形術についてはリアが得意だから聞いてみるといい。無用な音を消し、自身がいた事を示す痕跡を消し、目立たず、動かず、といった事が基本になる」
まぁ、リア姉の場合、魔力属性が完全無色透明ってこともあって、魔力を周囲に溶け込まして隠蔽するような真似は必要としてこなかったとは聞いてるけどね。
あ。
「お爺ちゃん、妖精さん達は隠れる時に自身の高い魔力を感知されないよう、周囲に紛れ込ませているんだよね?」
「うむ。じゃが、それは動かず身を隠しておるからできることであって、飛ぶ時には透明化を施して、魔力を抑え気味にするのが精々といったとこじゃ。妖精界は魔力が濃密であるが故、その程度でも十分、隠蔽効果は得られる。こちらのような魔力が希薄な地では、素の儂らがいたとすれば、どこにいても目立ってしまうじゃろうて」
なるほど。
というか、うん、やっぱり、物理的な理から大きく逸脱している、手乗りサイズな妖精さん達は、幻想種としての在り方は強い魔力を必要としていて、量はともかくその魔力の位階は竜族に匹敵するだろう、という推測にも否定はしなかったくらいだもんね。あと、お爺ちゃん達がぽんぽん創造して射出してる竹串のような投擲武器である投槍も、竜鱗を軽く貫通するくらいだから、妖精さんの潜伏能力が高いと言っても、それは妖精界という環境においては、という条件付きってことだ。
周りも濃い魔力だらけなら、妖精さんの魔力が濃くても、そう強くは目立たないって話なんだろう。
◇
「それで、魔力感知できないから、僕は竜族相手のように相手の心の変化を読み解くような真似はできない、ということでソレができる存在とストレスなく交流できてるのではないと納得はして貰えたとして。他には興味を惹いた話って何がありました?」
そうそう深堀りするようなネタではないからね。僕の魔力感知が竜族限定とわかれば、天空竜が地の種族が大勢並んでいてもそれに何も感じないように、ある程度、力量差がある場合には、それはストレスを生じさせることはないってのも共感して貰えるだろう。
「竜族と違って、我々は誰もが専門の仕事を持っている。その事に強く興味を示していたよ」
「それは師匠が魔導の先生であることとか、トウセイさんが研究職についているといった事?」
「それと、私が議員を務めていることか。伏竜様は議員という存在、というか議会制民主主義の仕組みに甚く驚いていたよ」
ほぉ。
「竜族も問題があれば皆で集まって話し合って決めるという意味で、民主主義をベースにしてますけど。議員、つまり代議士を選んで、判断を委ね、自身らが議会に直接参加はしない、という手法に驚いたということですか」
そう問うと、その通りと頷いてくれた。
「政は大切なことなのに、大勢の市民がそれに参加をせず、選挙で代表を選んで議員として、その議員達が集って議会で物事を決める。ソレが必要であり、機能する社会といったものが何なのか、竜達の社会と何が違うのか、といった視点で多くを聞かれ、説明していくことになった」
一つ聞けば七つ、八つを知るというくらい竜族は聡いから、次々に疑問が湧いてきて、投げかけられる問いもまた鋭くて、答え続けるのも大変だったと父さんは話してくれた。お疲れ様だ。
「まぁ、でも竜族とて三万程度の数でありながら、多くの部族単位で分かれて纏まっているのだから、直接民主主義とばかりに全員が集まって物事を決めることの限界についてはすぐ理解してくれましたよね?」
「その点はすぐ困難さも理解してくれた。それと黒姫様のように医術に長けた竜の存在もあり、専門職という概念については理解して貰えたから、議員もまた専門職であり、多くの物事について国という広い視点から判断を行うこと、それだけに専念した仕事である、といったことも納得して貰えた」
なるほど。
「ただ、そんな面倒な仕事を引き受けるとは、苦労も多かろう、などと変に感心されてしまってね。どうも竜族の社会においては、纏め役の長老というのは、名誉職といった意味合いも多少はあっても、群れを纏める義務、それを可能とする力量を持つ者が担うべき責務といった意味合いが強く、喜んでその立場となるようなモノではないらしい」
あぁ。
「個で生活が完結してて、それぞれが自身の縄張りを持っているから、それ以上を必要とせず、何か諍いが生じた時の仲裁役としての役目くらいしか、長老さんの出番はない訳ですからねぇ。物を作ることもないから、贅沢を覚えるみたいな話もありませんし、長老になるような方は老竜でしょうから、その立場が番を得るのに何か役立つかと言えばそんなこともなし。確かに喜んで就きたい職業ではないのでしょう」
なのに、そんな労ばかり多い仕事を敢えて引き受ける、そんな父さんは、群れの為に生きることを選択した義務感の強い男だ、とか思われちゃった、と。
うん、そりゃ、父さんも必要以上に尊敬される目線を向けられて、困惑気味にもなろうってものだね。
「しかも、政の判断を委ねてもいい、そう思えるだけの信頼を持てる人だ、と大勢から判断され、権利を預けられるに至った。……外れてはいないけど、そこまでキラキラした眼差しを向けられると、父さんも居心地が悪かったでしょう?」
僕の問いに、父さんも心底、困ったと思い出しながら内心を吐露してくれた。
「確かに街エルフはそれぞれが大勢の魔導人形達を従えた資本家としての側面も持っている。だから議員としての報酬額はその任に見合った重さではあるけれど、多くの報酬を得たいなら、他の仕事で稼いだ方がよほど効率がいい。だから議員となる者は、議員としての職務をすること事体が目的だ。名誉ある仕事ではあるが、それは責務を果たした後についてくる余禄であって、議員だからといって、それだけで得られる名誉など僅かなモノだからね」
うん、確かに日本でも議員バッチを付けていると確かに選挙を勝ち抜いて得た立場ということで、先生扱いはして貰えるけれど、議員としての活動で何をしたか、を問われるから、勉強会にも参加しないといけないし、その仕事っぷりは分刻みのスケジュールを組まれるほど忙しくて、一部の輩が言うような特権階級、多くの報酬を得て権力を振るえる立場などと言った独裁者ムーブなイメージとは随分違うんだよね。
お金を稼ぎたいなら、大企業の社長や会長職の方がよほど金持ちで、稼げる額も三桁、四桁違うなんて事すらある。自家用ジェットで全米を飛び回るような大企業の社長さん達を見てると、日本の議員さん達の慎ましやかっぷりは好ましくさえ思う。
「ヤスケさんも言ってましたよ。長老職なんて好き好んでやりたいものではなく、国に対する最後の奉公として、責務として行うモノだと。任期を終えれば、延長などせず引退するのが常だ、なんてボヤいてました」
「長老と言っても多くの法に縛られ、その中での最良を不足する情報の中、選ばなくてはならない、という意味では、権力を思うがままに振るう、といったイメージからはかけ離れているからね。それに長老衆と呼ばれているように長老の人数もそれなりに多く合議制だから、他の長老達を納得させられるだけの理詰めの説得力ある選択でなければ、賛同も得られない。私も色々と知る立場ではあるけど、アレはそう座り心地のいい立場ではないとは思うよ」
ん。
薄々感じているとこではあるけど、全権大使のジョウさんとも普通に話してたりと、父さんは議員さんと言っても、有象無象の議員さんの中ではそれなりに頭角を現している立場なんだろうね。担がれて嬉しい、みたいな軽い神輿でないというのも良いことだ。というか、資本家として鍛えられている街エルフという種族だと、軽い神輿として担がれて喜んでいるような薄っぺらい人ではいられないってとこはあるだろうね。成人の儀を終えた段階で、全分野について一通り学んで身に付いているという頭おかしい種族だってのもある。多面的に自身の立ち位置を把握し、自身の重み、役割、能力なども客観視できるだけの経験の厚みがある。
高い能力があるなら、自身で事業を興してそれを育てて相応しい報酬を得て、のびのびと興味のある仕事に打ちこんでいた方がきっと楽しいし、報酬も稼げることだろう。何より選挙区の市民達の陳情に耳を傾け、他の議員達と喧々諤々の論争に明け暮れて、面倒臭い割にすぐ結果がでず、儲けも無いような公共事業の判断をするような真似もしなくていい。
この辺りは、ある程度、リアルに政の界隈の人との接点がある人と、そうでない人では抱くイメージが真逆だと思う。その辺りが疎い人ほど、名誉ある地位、有名人、高い報酬、といった装飾に惑わされて、なんか憧れたり、或いは妬んだりする。
でもねぇ。
超大国アメリカの大統領選挙でも、出てくる候補が誰も彼も年配の金持ちばかりってのを見てもわかるように、お金を稼ぎたいなら大統領なんて面倒臭い仕事は好んでやるものじゃないんだよね。それよりGAFAMの社長さん達の方が何百倍も報酬を貰ってるんだもの。
大統領に就任しても報酬は一ドルでいい、とか言えちゃうくらい、お金に困ってない人がある種の義務感から最後に立候補する、そんなとこがある、何とも大変なお仕事だ。大統領になれば皆が不平不満を抱えてどうにかしろ、と殺到してくるからねぇ。
大統領はスーパーマンじゃないってのにね。
◇
「それで、四六時中、国という枠組みで全体を俯瞰して物事を考え、判断を求められるような仕事を選任しないといけない、そんな議員さん達が大勢集まり、そんな議会だけでは小回りが利かないから、ある程度の独自裁量を持たされた長老衆達を選抜して、全体の統括を行う、そんな多層構造を持つ、地の種族の社会について、伏竜様は何と言われてました?」
「どれほど能力に優れた者であっても、そのような複雑な社会の全てを理解し政を行うのは無理だろう、と驚嘆され、ロングヒルが王政で政を行っている事実にも、国の規模が小さいからそれで成立しているのか、国の広さとしてはロングヒルと街エルフの共和国では大差がないが、統治構造の違いはどこから生じているのか、など、質問が止まらなくてね。それについては、いずれアキに説明させる、と言って切り上げたよ」
おや。
「現役の議員さんから話が聴けるなら、その方がいいとか望まれそうな気もしますけど、伏竜様はそれを了承されたんです?」
「統治する仕組みが人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国それぞれに違いがあり、マコト文書に記された統治法の種類や歴史も多岐に渡るから、共和国の仕組みにだけ詳しくなるより、全体を俯瞰して大きく理解をしてから細部に入っていくべきと説得したら、了承してくれたよ。ただ、あまりの果て無き道に少しお疲れな感じも見えたから、そこは上手く加減するのが良いだろう」
それこそ竜神の巫女の得意領域、そういう説明は専門家に任せないと、などと父さんは笑顔で仕事を放り投げて来た。
ふぅ。
いくら聡いと言っても、竜族は所詮、数百柱が集って緩い部族を形成して、直接民主主義で物事を決めるようなシンプルな社会構造しか持っていない。
だから、そこから先は全部、理詰めで理解していくしかなく、共感するのはもう諦めるしかないんだよね。大変だ。
と言っても、まぁ良い前振りだ。
「東遷事業と言っても、事業説明の前に、群れで生活する地の種族の社会の在り方、分業によって成立する多層構造社会とは何か、ってとこから説明が必要ってところが見えてきただけでも良い収穫だったと言えるでしょう。貨幣経済も、備蓄の概念も、道具の利用、文字の利用もないのだから、結構端折らないといけませんね。春先、代表の皆さん達がやってくる頃までには、伏竜さんの学びを十分な域にまで高める、と。うん、これはかなり頑張らないと!」
ぐっ、と手を握ると、案の定、父さんに前のめりになった姿勢を正されることになった。
「伏竜様は長命種であって、私達、街エルフ並みに長い年月をゆったりと過ごされる生き方を常としているのだから、それを尊重しないといけないよ。最低限、何を学ぶべきか、どの程度の粒度とするか、その加減は皆で考えて行こう。アキも興味を惹き出して話題を渡り歩くのは得意でも、体系的に多岐に渡る文化を教えるような事をするのは初めてじゃないかい?」
ん。
「そうですね。地球の文化について全体の把握と深堀りをしていったのはミア姉でしたし、僕はどちらかというと求めに応じて、情報を集めて学んで理解して、それを伝える立ち位置に終始してましたから、確かにミア姉のように異文化の理解を深める、といった視点を持つのは初めてです」
改めて考えてみると、これはなかなか大変な話だ。言ってみれば、何も知らない子供に義務教育の間に、一通りの知識、技能を習得させようといってる教育全体の設計をやってみよう、といった話に近くて、それを半年程度の期間に圧縮、その代わり全体像の把握と軽い理解を最低条件として、東遷事業に支障がでない程度に伏竜さんの知識を深めれば良し、と。
あー、うん。
無理。絶対、無理だ、これ。確かに僕はマコト文書の知という膨大な手札を揃えてるけど、何をどれだけ揃えて、どの順番に提示していけばいいのか、基礎方針を打ち出すことすら厳しい。
だいたい、戦国時代に日本にやってきた宣教師達が日本の文化を学んで理解を深めることができたのも、同じ人間として共通の能力や人生経験、多くの類似事項のある文化、知識という土台があったからこそできた話だ。それでも結構な年月がかかってるし、突出した基礎能力と揺るがない信仰心という大黒柱があったからこそできた偉業だ。
「政やマコト文書の知について理解が深い父さんの協力は必須として、他種族への理解もかなり深まってるエリーの助力も必須、体系立てて教える事についてはプロ中のプロな師匠にも助けて欲しいってとこでしょうか。鬼族視点としてセイケン、小鬼族視点としてのガイウスさんはちょっと後からの参加が良さそう。どうでしょう?」
僕の提案に、父さんは少し思案してから考えを話してくれた。
「セイケン殿は長命な鬼族ということもあり、鬼族社会についての知識も多岐に渡るとみていいだろう。ガイウス殿は多彩な小鬼族研究者を束ねる代表ではあるものの、小鬼族社会全体を俯瞰するような政に携わっている訳ではないからあまり多くを期待してはいけない。妖精族からは翁に参加して貰えば良いか。馴染みのない異文化の紹介という視点で立てば、伏竜様に話を持っていく前に、翁に異なる文化を持つ種族としての視点で評価して貰った方が助かると思う」
おー、それだ!
「お爺ちゃん、物質界の文化研究の専門家さんだもんね。お願いしてもいい?」
そう問うと、感無量といったところで、大きく胸を張って僕達の期待に応えてくれた。
「うむ。そこまで期待されては応えぬ訳にもいくまい。儂も尽力するとしよう」
良し良し、これで最低限の仲間は揃った。
ふぅ。
「それにしても、伏竜様が僕との交流頻度を下げてくれて正解でしたね。雑な紹介を掻い摘んでやってたら、迷走して伏竜様の我々の文化への理解が歪んでたかもしれなかったのだから。あー、ケイティさん、僕の教育についての全体設計をしていただいてましたよね? そういう意味では、伏竜様向け教育の全体設計でも頼りにしてもいいですか?」
餅は餅屋、ここに適任者がいるじゃない、って感じに話を振ったら、思いっきり防衛ラインを敷かれることになった。
「アキ様、それはあまり参考になりません。街エルフの義務教育という基本計画があって、日本での教育で足りてない部分を確認し、それを埋めて行く計画を立案しただけで、共通土台のない天空竜に対して、地の種族の文化を体系的に紹介していく、などという基本計画を作る、という趣旨とは前提がまるで違います」
勿論、これまでと同様、メンバー一同、全力でサポート致しますのでご安心を、などと笑顔で逃げられた。あー、逃げたは言い過ぎか。横に立って、と話したら、後ろから支えますと一歩下がられた、ってとこだ。ここは支援の強い意志が得られただけでも良しとしよう。
「確かに。では、師匠とエリーに参加して貰う形でスケジュール調整をお願いします。先の長い話ですから、趣旨を軽く説明して、定期的に話し合いの場を設けて、伏竜さんの理解や興味を見ながら修正していくってところで行きましょう。父さんも宜しくお願いします。マコト文書を一通り把握してくれてる父さんがいてくれて心強いです」
非公開部分も含めて読み終えてくれてるのって、父さん、母さん、リア姉の三人しかいないからね。いやぁ、良かった、良かった。
そう、期待マシマシな目線でお願いすると、父さんも困った顔をしながらも引き付けてくれた。あまり過大な期待を積み増す前に、家族愛も足してくれ、と注文も入ったけれど。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
はい、伏竜が興味を示した分野、間接民主主義について軽く触れ、それを含めて体系的に地の種族の社会、文化を半年の間に伝えて、伏竜の血肉とするというミッションが発生することになりました。
大雑把には東遷事業について話はした訳ですけどね。前提となる地の種族の社会、文化を把握してなければ、それは理解には程遠い、という現実が見えてきた訳です。いやぁ、大変ですね、ほんと。
それにしても、まさかのハヤト推し、お父さん頑張って、と主軸に据えられる流れになるとは、作者の目をもってしても見抜けなんだわ(笑)って感じになりました。アキとの接点が減ってアピールしようと入れ替わりでロングヒルに戻ってきたら、伏竜教育主席宜しく、とかなっちゃった訳で。
22章をここまでとするか、もうちょい足すのか検討中です。SSで伏竜と皆が話すシーンを補足するのもありかなぁ、とかまだ方針が定まってなくて済みません。キリがいい感じもするので、SS→いつもの纏めページセットかなぁ、って気もしてるんですけど。
次回の投稿は、七月十四日(日)二十一時十分です。