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22-19.竜向け二度焼き食パン

<前回のあらすじ>

魔力泉の術式、それを用いることで、竜族社会に対して巨大な一石を投じることになり、その波紋は全国津々浦々、全ての竜族に影響を与えるであろうこと、そして魔力泉の魔法陣を設置することは手が届く範囲なのだ、と伝えたら伏竜さんもいい表情をしてくれました。やっぱりはっきり意欲を見せてくれると嬉しいですね。(アキ視点)

魔力泉からの魔力取り込みについては、ある程度方針が出たので、次は食事だ。


『それでは、魔力泉からの魔力取込みの実演は別の機会に設けることとしまして、次は竜向け食料の提供について、確認をしていきましょう』


合図を送ると、スタッフの皆さんがごろごろと台車を使って、それぞれの前に三つずつ小皿の乗ったプレートを置いていく。小皿といってもそれは竜から見ての話で、僕達からすれば、大人数用の大皿なんだけどね。それぞれの皿には竜からすれば一口で放り込める飴玉か乾パンかといったサイズのパン、我々で言うところの一斤まるごとの食パンが置かれていた。


焼き立てホカホカの美味しそうな匂いが辺りに満ちる。


<アキ、これは?>


『こちらは米粉を原料とした食パン、米粉パンになります。どれも同じ製法で作ったパンですけど、魔力泉の術式に浸した時間を変えることで、含まれる魔力量を調整したモノになります。先ずは素朴プレーンな味をご堪能ください』


焼き立てパンの香りって素敵でしょ、とアピールする思いを言葉に乗せて、試食タイムですよ、と食べるよう促すと、三者三様、多少の違いはあったけれど、竜眼で確認して問題ないとわかると、指で摘んでひょいと口に放り込んだ。


二度焼きして保存寄りというより、固めにしたとアイリーンさんからは伺ってたんだけど、食べてる感じからすると、マシュマロ以上、乾パン未満といったところか。


<何とも香ばしい。それに味も主張せぬ控えめさで飽きずに食せよう>


黒姫様は、今回の意図を理解しているので、我々が食べる食事における食パンのように、飽きずに毎日、それなりの量を食べられるか、という点でちゃんとコメントしてくれた。


『含まれる魔力量の違いについても、食べ比べてみてください』


促されて、それぞれ、小皿から食パンを摘んで食べていくけど、もぐもぐと竜が行儀よく食べる様子は見てるだけでも楽しい。


<一番魔力量が多いパンは、あまり多くを一度に食さぬ方がいいか>


白岩様が腹具合を確認するように、食べた自身の状況を確認しつつ、そう告げた。


 ふむ。


『伏竜様は如何ですか?』


<味は変わらぬが、腹に貯まる感じは魔力が多いモノほど重めに感じる。それと私には二つ目のパンの時点で、量には注意した方が良さそうだ。それと魔力泉からの魔力取込みと併用するなら、一つ目のパンにして負担を抑えた方が良いとも思う>


 なるほど。


というか、問われれば詳細をサラサラと語れるのに、問われるまでは自分からは発言しないって辺りも、今後の課題だね。同席してる二柱の圧が強いことはわかるんだけど。


『量はどうでしょう? 軽く味わうのではなく食事と考えると、数十個は食す感じですけど』


伏竜さんは腹具合を確認すると、塩梅を教えてくれた。


<数十と食すなら水も少し欲しい。それと私達は地の種族のように頻繁に食すことはないから、食べる量は、魔力泉からの取込みの負担も考慮してバランスを取っていこう。確か地の種族は、食事をそのまま保存しておけるのだろう?>


 ん。


『保管庫がそれですね。ただ、いらっしゃるタイミングを決めてあるなら、その時間に合わせて食べ物を焼き上げた方ができたてを食べられて良いでしょう。保管庫は便利ですけど、保つのに魔力がを必要としますから』


っと、スタッフ席から、アイリーンさんが声を拾う魔導具(マイク)を手に取った。


「保管庫ですが、それほど多くを収納できる保管庫は存在しないため、いらっしゃる時間に合わせて料理を用意するようお願い致しマス。時間の多少のズレは生じても問題はありまセン」


『例えば、その日の予定がキャンセルになったとしたら、夕食の献立の方を調整するとか?』


「ハイ。ただ、魔力泉に置いて魔力を馴染ませる時間がある為、できれば前日までにご連絡くだサイ」


なるほど。魔力泉を用いて魔力をたっぷり含ませた食パンとなると、下手すると鬼族でも沢山食べると問題が出るかもしれない、って感じかな。


 んー。


『伏竜様、スケジュール調整は後ほど行って貰うとして、急用ができて予定を変更する場合、前日までにその旨を伝えてもらうことは可能でしょうか? あと当日キャンセルの場合、早い時間に別の竜に言付けを頼むとかお願いできます?』


僕の提案に伏竜さんはしばし考えていたけど、提案をしてくれた。


<そのように手配しよう。それとそのパンだが、ちゃんと保管すれば何ヶ月か食べられると聞いた。だから、いずれ焼き立て以外でも食してみたい>


 ほぉ。


『アイリーンさん、確か密閉容器に入れておけば、二度焼きしたパンなら一、ニヶ月は保ちましたよね?』


「ハイ。ただ、そのように時間をおいて食すことは一般的ではありまセン。スープと共に食するといった形でご提供致しマス」


 ん。


「ケイティさん、探索者の皆さんも保存食を口にするのは稀なんですか?」


「人里から離れた長期任務(ミッション)で火を使えない時などは保存食を口にすることになりますが、あまり人気はありません。日持ちの良さ、携行性を重視しているので、味はそれなりなんです」


 ふむ。


<我々には食を保存するという文化がなく、前々から興味があったのだ。なので食する時には、どういった料理なのか話も聞かせてくれると嬉しい>


ほぉ。伏竜さんはそういった分野に興味があるのか。それは良い傾向だ。しかし、食料を保存する文化がなくとも生きていけるってのは、地の種族からすると何とものんびりした生き方だ。


『幼竜の越冬はどうされてるんです? 流石に半年で越冬できるほど育たないでしょう?』


<ある程度までは、冬場にも獲物を狩って与えている。アキは子育てに興味があるのか>


そう問いかけてきた思念波からは、軽い驚きが感じられた。なんだろ、僕は子育てするような印象がそれほど薄かったんだろうか?


『勿論です。竜眼や熱線術式を使える竜からすれば、冬場で動きが鈍い獲物を狩るのもさほど苦にはならないだろうとか、そうは言っても誰もが最初から竜眼が上手く使えるわけではないだろうから、結構苦労話もありそうだとか、狩りやすいからと偏った狩りをしては生態系が歪むから、狩る数や種類はきっと制限してるんだろうとか、色々と気になるところはありますから』


竜族の文化を理解する上でも、教えてくれるならどんどん知りたい、聞きたい、と言葉に思いを詰め込んで送ると、伏竜さんは目を丸くして驚いてくれた。うん、かわいい。


っと、黒姫様が割り込んできた。


<その話は果てが無くなる故、またの機会にせよ>


『はい。それでは黒姫様、先程の食パンとは別に共に食した方がいい食材があれば教えてください』


<では、それは別途、アイリーンに話しておこう。調理した食材は美味くはなるが、偏食は害となる>


 ほぉ。


調理する文化がない竜族ではあるけど、歯の付き方も雑食寄りだったりするし、猫みたいに、猫草を食べるみたいな事をするんだろうね。血抜きして、骨を取って、しっかりモツを洗ってに零して、みたいな下処理をして味噌味にすると美味しいみたいな話も、多くを捨ててるという意味では、栄養バランスは他で取らないと不味いんだろう。


そんなことを考えていると、黒姫様が少し覗き込みながら問うてきた。


<ところでアキ、子育てに興味があるのは伝わってきたが、実際にそれを為したことはあるか?>


『僕は末っ子でしたし、日本あちらではこちらと違って集団子育てみたいなことはしないので、そうした経験はないんですよね。色々と見聞きはしてるので、全然知らない訳ではないですけど』


核家族化が進んだ日本では、何か個人的な接点でもないと、大きく年の離れた幼子の面倒を見るといった経験をしたことがない人の方が多いのが実情だろう。保育園と幼稚園、小学校や中学校といった異なる年齢層同士の交流なんてあったとしても数える程度なのだから。


それに昭和の頃と違い、そこらの公園などもあれは駄目、これは駄目と言われて、子供同士が集まって遊ぶような場がどんどん失われてしまった。


なので、見かけたり、ちょっとしたことで接点があった僅かな時を除いて、そういう体験はしてない、と言葉に思いを乗せて送ると、あぁ、そうだろう、と凄く納得されてしまった。


<アキ。幼竜は確かにかわいい。それに庇護すべき対象でもある。だが、幼竜は小さな成竜ではない。理を説いても意味がなく、僅かに目を逸らした隙に、勝手気ままに飛び回る突拍子の無さもあって、子育てを父母竜だけで行うなど、とても目が行き届かぬのよ>


凄く重みのある思念波が届いて、軽く返事するのが憚られるほどだった。人の赤子と違って、幼竜は飛べるようになると、数秒であっという間に何十メートルと飛んでしまう。危険に気を配ると言っても、そうそう半径何百メートルという範囲に常に目を光らせておくことなど無理というモノだと。


竜眼は便利だが、透視能力がある訳ではなく、魔力の弱い幼竜が少し茂みに入れば簡単に見失ってしまう。


幼竜がある程度、分別がつくまでの期間というのは、部族が総力を挙げて子育てするのだ、といった具合に、皆で育てるという強い意思が伝わってきた。


 うわぁ。


『では、それらについてもいずれ、心話などを通じて伏竜様より教えていただきますね。宜しくお願いします』


以前、雲取様から聞いた感じでも、他種族との交流とかも幼い頃は行っていたというし、その手の経験なら、伏竜さんは結構、多くを知ってそうだからね。


<おいおい話していこう。地の種族の事も聞かせてくれ>


 う。


『こちらのことは知らない事だらけですけど、各種族のそういった情報を互いに出し合って、互いの理解を深めて行きましょう』


そう言うのが精一杯で、そうよなぁ、などとふわりと飛んで来たシャーリスさんに頭を撫でられる始末だった。


 ぐぅ。


そういった種族に根差したような文化とかになってくると、僕は全然知らないからなぁ。興味はあるんだけど、手が回ってないから、そこは何とかしたいとは思ってたんだ。とはいえ、うーん、人族のそういった子育て文化的な話となると、エリーに聞いてみるかなぁ。なんか、街エルフのメンバーやロゼッタさん辺りに聞くのって、変な先入観が付きそうで、そこは後回しにした方がいい、と僕の勘が囁いてるんだよね。


そんな感じで、パサついた口直しの麦茶を飲んだりしてまったりした時間を過ごすことができた。伏竜さんの食事については、アイリーンさん、黒姫様にがっつり入って貰って対応ってとこだね。伏竜さん自身も勿論、自分自身の体調や変化を視ていくとしても、第三者の客観的な分析は必須だ。


評価、いいね、ありがとうございます。執筆意欲が大幅にチャージされました。


さて、伏竜を迎えて行う話も3つのうち、2つをクリアすることができました。

人間からすれば、一斤の食パンはとても大きいモノですけど、竜族からすれば、そんなのは乾パン1個くらいの一口サイズですからね。実際に一食分となると何十斤と用意して、それに合わせたスープやサラダ、肉や魚なども用意しないといけないでしょう。ただ、食事としてはできるだけ穀物類で量をカバーしていく作戦なので、大豆製品も活躍に期待したいところです。


そして、色々と多くの分野をカバーしているアキでしたが、ごっそり抜けている分野、弱点が露呈することにもなりました。当初から指摘されていた実体験のあまりの乏しさ、それが見えてきた感じです。アキの場合、幼子なんて親戚同士が集まった時に数時間触れ合った、とかその程度ですからね。幼児がどれだけ小さな怪獣なのか、なんて事は話は聞いてても、実感がないんですよね。その辺りも少しずつ皆から教わっていくことになるでしょう。実際には魔力が強過ぎるので接触は厳禁なんですけどね。


次回の投稿は、六月二日(日)二十一時十分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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