22-17.魔力泉から竜族が魔力を取り込む事の意味(前編)
<前回のあらすじ>
前々から予定していた伏竜さんのロングヒル入りも、やっとその日を迎えることができました。黒姫様、白岩様、依代の君、それと妖精族の皆さんまで同席しているということで何気に賑やかな感じに。それだけ皆さん、伏竜さんに期待してるってことでしょうね。良いことです。(アキ視点)
さて、竜達相手にホワイトボードって訳にもいかないから、言葉で確認しないとね。
『本日は①魔力泉からの魔力取り込みの実演、②竜用料理の試食、③竜眼、竜爪の改良に関する意識合わせを行っていきます。皆さん、この順番で宜しいですか?』
<構わぬ>
黒姫様が答えてくれた。ん、なるほど。竜内序列ってそんな感じか。
実際は黒姫様と白岩様の間だと序列の上下は無さそうだけど、白岩様は相手の話をじっくり聞いて考えてるタイプだから、こういう外向けの受け答えのシーンでは、黒姫様に自然と任せる感じに役割分担してるんだろうね。
あと、伏竜さんは完全に待ちの姿勢、求められれば発言するけど、自分からは基本、発言しない姿勢、と。
うーん。
これもまた、改善ポイントだ。
スタッフさん達の控えているエリアに合図を送ると、そこからのそり、とトウセイさんが姿を現した。控えのエリアには実は久しぶりいロングヒルに戻ってきた父さんや師匠もいたりして、何気に賑やかだったりする。そうそう、依代の君の抑え役としてヴィオさん、ダニエルさんもいたりする。
「それでは時間も限られますので、手短に行います」
そう言って一礼すると、トウセイさんは変身、と短く掛け声を発し、大鬼の姿へと変化した。相変わらずの大きさなのと、以前よりだいぶ元気そうな雰囲気があるし、身の丈に合ったシャンタールさん達謹製の服も来ていてだいぶイメージが良くなった。
スタッフさん達が魔法陣を稼働させて魔力泉を生じさせる。トウセイさんに伺った通り、ドーム状の結界のような境界が現れた。魔力泉の境界面で時折、光が反射するからそこに何か生じているとわかるけど、まぁ、僕から見えるのはそれくらい。
『トウセイさんの大鬼は魔力取り込みを考慮して、魔力を何割か使った状態としてあります。これから魔力泉の隣に座って、魔力取り込みを行いますので、完全無色透明の魔力の認識は難しいかと思いますが、魔力泉や大鬼の身体に満ちる魔力の変化をご覧ください』
そう促すと、三柱とも竜眼で、トウセイさんの様子を注視してくれた。
まぁ、絵面は地味なんだけどね。少しだけキラキラしてる魔力泉に対して、横に座り込んだ大鬼のトウセイさんが手を翳して何やら集中してるだけ。
僕にはトウセイさんの魔力は感知できないから、座禅を組んで瞑想してるんだろうなぁ、くらいにしか見えない。
「ねぇ、君はトウセイさんの変化が見えるの?」
隣にいる依代の君に聞いてみた。
「当然、知覚することはできている。とはいえ、魔力泉を構成している完全無色透明の魔力はボクにも見えないぞ。大鬼の纏う魔力の属性が僅かに揺らめく様や、微増といったところだが増していくは認識できる」
なるほど。
竜眼だとかなり注意して見れば、完全無色透明の魔力であっても、周囲に及ぼす影響といった間接的な部分を視ることはできる、とか言ってたけど、依代の君だと、その域は無理か。とはいえ、属性が揺らめく、か。
「ケイティさん、魔力属性って普通は変化しないんですよね?」
「はい。各人が持つ魔力属性はそれぞれ固有のモノであり魔力量の増減はあっても属性が変わることは基本ありません。変化が生じるのは他から魔力を受け入れた、今回のような場合に限られます。トウセイ殿の魔力属性が揺らいでいるのは、魔力泉から完全無色透明の魔力を取り込むことで自身の属性が薄らいでいるから。そしてそれを自身の魔力属性として一体化することで属性が元に戻るといった事を繰り返しているからです」
おや。
「随分、面倒な事をしてるんですね。外にあるタイミングで属性を自分に合わせてから取り込むのは無理なんです?」
そう問うと、これには依代の君に呆れられてしまった。
「自身の外にある魔力の属性を操作するような真似など、それは術式の範疇だろ。魔力を取り込むのに魔力を消費してどうする?」
「あー、なるほど」
自分の体内だからこそ、ちょっと入り込んだ異質な魔力を、自身のソレに同化させていく真似もできるけど、身体の外となると、そういう訳にもいかない。
そんな話をしているうちに、トウセイさんが取り込み作業を終えた。
「これ以上は魔力の取り込みは難しいので、ここまでとします。質疑応答はこのまま行いますか?」
立ち上がったトウセイさんを三柱は少し視ていたけど、それには及ばない、と元に戻るよう促し、トウセイさんも鬼の姿に戻った。時間にして五分くらいだったかな。思った以上に短かったね。
◇
『トウセイさん、お疲れ様でした。魔力の取込みが厳しくなったのは、立ち会った竜が多かった事も理由ですか?』
一柱ですら圧を感じる天空竜が三柱となれば、圧は大変でしたよね、と言う労いの思いを言葉に乗せたら、トウセイさんも苦笑しつつも、理由を教えてくれた。
「元々、異なる属性の魔力を取り込んで、自身の魔力と同化する作業は、それだけでもなかなか手間がかかる。多く取り込み過ぎると同化に時間がかかり過ぎるか、上手く同化できず不調が暫く残ることになる。ただ少ないと同化の回数が無駄に増えることになってしまう。私の場合、同化を行える量も一日に一、ニ割取り込むのが限度だ。それと天空竜の方々の魔力が広がり重なると、自身の魔力を安定させる事にもかなり気を使う。だから答えは両方と言ったところか」
なるほど。
『色々と制約が多いんですね。それだと、今日試すのは止めて、日を改めてトウセイさんとペアで取込みを試した方が良いかも』
そう話を振ってみたけど、思った以上に、三柱の反応は渋かった。嫌という訳ではないけど、難事に挑むと言った雰囲気だ。
あれ?
『どうされました? 何か問題でも?』
トウセイさんが取り込めているのだし、瞬間発動も簡単にできる竜族なら多少の苦労はあっても余裕じゃないかなーって気持ちを言葉に乗せて、意外な反応ですね、って感じに軽く聞いてみたんだけど、それぞれ即答を避けるくらい、思考がごちゃごちゃしてる感じだ。
はて?
急かす話でもないので、考えが纏まるまで待つと、暫くして黒姫様が口を開いた。
<アキ、まず、トウセイの力量への思い違いを改めよ。その者がいま為した事は、ほんの少し加減を誤るだけで大きく害を受ける野分(台風)の中、風の力だけを頼りに華麗に飛んで見せたような域の技よ。トウセイ、其方、ここまで為すのに重ねた失敗は十や二十ではあるまい?>
問い掛けているけど、確信した気持ちが賞賛と共に思念波に乗っていた。なんと。
「ご推察の通り、始めは加減がわからず随分痛い思いをしました」
トウセイさんの淡々とした言葉に、三柱も深く頷いた。ちらりと師匠の反応はどうか伺ってみたけど、確かに言葉通り、ああして取り込めるようになるまでには結構な艱難辛苦があったようだ。
ふむ。
三柱とも甚く感服したといったところだけど、微妙に温度差があるね。それに伏竜さんの魔力から感じ取れる意識も、なかなか良さげだ。なら、ここは見極めポイント追加だ。
『それでは、言葉にすれば簡単な、魔力泉から魔力を取り込む件について、何が難しいのか、どう工夫する余地があるのか、これから暫くどう取り組んでいくのか伏竜様からお聞かせくださいますか? 黒姫様、白岩様は思うところがあれば、話を聞き終えた後で補足して頂くという形で。……どうでしょう?』
ちょい、皆に声が届くように、伏竜さんの意識、考えにとっても興味があります、余すとこなく全部知りたいです、熱烈歓迎、って気持ちを乗せて、問い掛けてみた。
ぜひっ!
別に大声を張り上げた訳でもないのに、伏竜さんが目を丸くしてるけど、うん、なかなかカワイイ。白岩様はあぁいつものか、といった感じだけど、黒姫様は顔色一つ変えず、無言の思念波でじゃれつき過ぎ、とツッコミを飛ばしてきた。なんて器用な。
<ふむ、それも良かろう。では何かあったら後で話すとしよう。伏竜、己が考えを述べてみよ>
黒姫様から話を振られ、伏竜さんもそれならば、と自身の考えを話すことに同意してくれた。
ふぅ。
伏竜さんと黒姫様の関係は、僕とヤスケさんってとこか。それもまだ親密度が足りないヤスケさんで、なおかつ憧れのような思いを抱いてるってとこ。これは意識改革は大変そうだ。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
今回は短いですけど切りがいいのでここまで。トウセイが魔力泉から完全無色透明の魔力を自身の体内に取り込む試技をして見せましたが、絵面はだいぶ地味でしたね。ただ、竜眼を使っていた三柱からは色々と見えていたようで、達人級の技だと褒められることに。
そして、その説明をアキは伏竜に求めました。伏竜もある程度は話を聞いて覚悟は決めてきてたとは思いますがアキの遠慮の無さには、ちょっと押され気味のようです。初対面なのにぐいぐい突っ込んでくる子猫相手に扱いの勝手がわからず困惑してる成猫みたいな感じではありますけど。
次パートで、竜族目線の分析と、伏竜自身の見解に対する黒姫、白岩の採点も入ります。大変ですね。
次回の投稿は、五月二十六日(日)二十一時十分です。