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SS⑩:野鳥観察に出掛けてみよう(前編)

<前回のあらすじ>

集まった皆でアイデアを出し合った結果、妖精の国の皆さん総出で、心話や魔力共鳴に関する地道な検証、研究う作業をやって貰えることになりました。何万という魔導師級にして自在に空を飛んで地形を無視して移動できる妖精さん達だからこそ実現できる大規模活動です。こちらだと魔導師の方々は軍勢扱いされるせいで移動も国同士の調整が必要だったり、そもそも人数が多くないってのもあって、弧状列島が統一されたとしても到底手が届かない偉業相当だというのが凄いですよね。ほんと、嬉しいです。こうして得られた基礎研究の情報も次元門構築の立派な礎になってくれるでしょう。(アキ視点)



さて、今回はSS⑩「野鳥観察に行ってみよう」ですけど、これまでのSSと違い、第三者視点でアキ達の様子を描写するためのモノなので、裏話的なこれまでのSSとはおもむきが違います。話し合いの場が延々と続いたので、息抜き回と思ってください。

他文化圏育成計画に対して、竜神の巫女であるアキやリアが中立派であることに対して、推進派に転向するよう、妖精達が朝から押しかけてきて論説をぶちあげてきた件は、他の予定を全て止めて耳を傾けるだけの説得力があり、二人は中立派から推進派に鞍替えすることとなった。


彼らの主張する「三界を繋ぐ利」は国力を十倍に増やすことよりも利があるとの高評価であり、更に世界中がネットワークで繋がった真価を発揮するのはこれからという地球あちらの状況を考えると、繋ぐのがあまりに遅れてしまうと、後発の利すら発揮できず、世界規模で繋がった世界の叡智を活用できなくなってしまう恐れがある、との認識すら示すことになった。


この会合の結果は、共和国の議員でもあるアヤ、研究所所長でもあるリアと、ケイティを支える三人の女中人形、アイリーン、ベリル、シャンタールのサポートも受けて纏められ、その日のうちに共和国へと届けられることになった。秘匿性を高めるためだけなら、共和国との間に設置されているレーザー通信網を使えば良いのだが、概要を聞いた長老達は、最大限の礼を尽くして、アヤ、リアだけでなく、召喚されていた三人の妖精、妖精女王シャーリス、宰相、賢者の三人も国賓として共和国に招き、直接、長老衆との会談をする流れを整える事となった。


そんな訳で、別邸で生活していた母アヤ、次女リアが短期出張で不在となった訳だが、家政婦長ハウスキーパーであるケイティは、共和国気象台の出した長期天気予報を受け取ると、予定していたアキとの野鳥観察会を前倒しに実施することを決めた。今年は冬の寒さが強くなる見込みだからだ。それなら近々の天候が良い時期に開催してしまうという訳である。


というのも、あと数日もすれば、大河の流れる先を小鬼帝国の帝都沖に広がる湾から、東に付け替えて大洋へと流すことで、南部水量削減による治水向上、南部沼地の干拓、東部地域の穀倉地帯化と長大で安定した東向きで大洋と繋がる大河を得ることによる水運事業拡大、という一挙何得だかわからないような東遷事業に対して、竜族から唯一、参加することが確定した伏竜がロングヒルへとやってくることになる。


伏竜の社会的順列の低さからくる成長の鈍さを解消しようと医学に詳しい黒姫、土木事業に向けて竜眼や竜爪といった竜族独自の技を発展させるために白岩、という二大成竜も同席するという大盤振る舞いであり、伏竜絡みの多くの案件が片付く頃には、この地域であれば雪がちらついてもおかしくなかったりする。


実は野鳥観察という視点だけで言えば、冬季のほうが寒さを避けて南下してくる渡り鳥が多く飛来したり、冬用の装いに羽の色を変えて美しく変わる鳥もいるなど、利点は多い。ただ、積雪時の移動は困難であり、セキュリティの確保という面でも、護衛頭のジョージは冬季の移動にいい顔はしない。


なので、秋も中盤を過ぎて稲刈りシーズンに入っている今、このタイミングで野鳥観察会を行うことにしたのだった。





いつも通り、朝とはいい難い時間帯になって、やっとアキは起きてきた。寝起きが悪いのではなく、魂入れ替えという秘術を行った結果、身体と魂のズレが大きく、多くの時間を睡眠というよりは、意識を失う、といった形で負担軽減が為されているためだ。なので、普通に寝てる人と違って叩き起こすとか、眠気を払うコーヒーや緑茶を飲んで起きる時間を伸ばすという試みは意味がなかったりする。


そして、起きたアキは、いつものように手早く検診を終えると、ケイティに手伝って貰いながら、身支度を整えることとなった。その隣には女中人形のシャンタールも自身が作り上げた野鳥観察用の装い一式を携えてスタンバイしてたりする。


「ケイティさん、完全なパンツルックではないけど、キュロットスカートなんて、僕がこちらに来てから初めての選択ですよね。今日の野鳥観察会ってスカートだと難儀するとか?」


鏡越しに並べられた衣服や靴などを眺めるアキも、いつもと違う服装のチョイスに楽しそうだ。魂入れ替えで、男子高校生から、いきなり姉ミアの体へと魂を入れ替えされた女の子初心者なアキは、この一年、女性らしい振る舞いを身に着けさせるためと称して、バリエーションは多様なれどワンピースばかり着続けることとなった。一部の例外は武術や水練、それに天空竜とともに空を飛ぶ時ぐらいなもので、ケイティの服装選びはとても徹底していた。


それが今回は短めの丈で、見た目こそスカート風でも、ズボン状の構造になっているキュロットスカートが選ばれたのだ。この違いは大きかった。


「梯子の昇り降りをするのと、草木の生えた場所を歩くので、ひらひらした服装は避けることにしました」


スカート丈こそ短いものの、オーバーニーソックスも用意するなど、肌の露出を減らす工夫もちゃんと行われている。街エルフの女性は肌が弱いというのもあるが、屋外活動において肌の露出を避けるのは鉄則だ。


ふわりと飛んできた翁も、わざわざ妖精サイズに誂えた探検ルックといった服装に着替えており、いつものローブを着た魔法使い風の装いよりも活動的に見える。


「お爺ちゃん、気合入ってるね。ソレもシャンタールさん謹製?」


「うむ。ちゃんと帽子もこの通り、探検家風じゃぞ」


商売道具である杖はいつもと同じだけど、それ以外はそのままエジプトの遺跡に向かっても良さそうな見事な出来だ。服装が白を基調としていて、迷彩柄のような溶け込む意識より、自身の存在を目立たせる方向性なのも良い。


野山なんて、数メートル滑落しただけでも、変に溶け込むような服装をしていたら見落とされかねない。野山では目立つ派手目な色合いの服装にする、というのは観光客にとっては命綱なのだ。


しかし、お人形さんサイズなのに見事な縫製で、見せびらかしにきた翁を間近に見ても、粗はどこにもなく、丁寧なお仕事だ。


ちなみに、妖精族が展開する透明感のある幾何学的な形状の翼は、魔力によって生成されているから、背中から展開されているけど、背中との接点はなく、翁が着ている服も、翼を通すような穴は存在していない。それに鳥の翼と違って羽ばたく訳でもない。浮遊している時も広げているだけで、停止飛行ホバリングしているハチドリのような忙しない翼の動きはなく、風の流れも音もない。


シャンタールが手袋を取り出した。


「アキ様、屋外ではこちらを着用してくだサイ。全体重をかけても手を守れマス」


岩場や、倒木を全力で掴む場合を想定してのことらしい。用意されている靴も普段の軽さ重視の靴と違い、荒れた場での歩行を想定している登山靴である。ただし、本格的な登山用の足首を完全に覆うハイカットタイプではなく、運動靴のように足首が見える程度のローカットタイプだ。


そんな話をしているうちに、アキの長い髪も整えられて、綺麗に結われて歩く時に邪魔にならないよう纏められた。さすがに髪を梳くくらいなら慣れてきたアキだったけれど、腰まで伸びる長い髪を纏めるような技量までは手が届かないので完全なお任せだった。


用意されるままに着替えていくと、ケイティが空間鞄からバスケットを取り出した。


「アキ様、今日はスケジュールの関係で朝食は移動中に軽食で済ませる予定です。ちゃんと行楽弁当ですよ」


そんな言葉に、アキは勿論、翁も、そしてひょいと床から飛び上がってきた角猫、トラ吉さんまで興味津々覗き込んでくるくらいバスケットに注目が集まる。


「コレは駄目ですよ、トラ吉。そもそも貴方はちゃんと朝食は済ませているでしょう?」


「にゃー」


ケイティの呆れた声にも、それはそれ、これはこれ、と言ったようにトラ吉は聞き流していたが、空間鞄内にバスケットが仕舞い込まれると、不満そうな声を出したものの諦めたようだ。





そんな感じに、寝起きに軽く水を一杯飲んだ程度で身支度を済ませたアキは、玄関先で待ち構えていた馬車を前に驚嘆の声をあげることになった。


「ウォルコットさん、これは!?」


馬車の手前で佇んでいた御者のウォルコットは、サプライズイベントに成功したことに満足そうな笑みを浮かべると、いつもとすっかり様変わりしている馬車に手を向けながら、その説明を始めた。


「こちらは、移動しながら野鳥観察を行えるよう、乗客が落ち着いて座れる二階席を拡張したモノになります。重心がかなり上になりますが、普段よりもゆっくり走らせるのでご安心ください」


そう。アキがあちこちの移動に使っているドワーフ謹製の馬車には、外フレームが増設され、二人が座れる二階席が増設されていたのだ。今は二階席に繋がる梯子も接続されていて、馬車に触れないで済むよう、簡易な手摺りまで用意されている念の入れようだった。


椅子も軽さ重視といいながらも、キャンプ用の折り畳み椅子よりは座り心地も良さそうである。


ケイティも手早く、いつものメイド服から、魔導師の装いに着替えている。


「トラ吉は、私達の足元か、膝の上が定位置になります。では、乗り込みましょう」


アキは梯子をトラ吉がどう登るのか気になったようだったが、心配は不要だった。彼は空中に仮初の足場を次々に作りながら、軽やかに宙を登っていき、あっという間に二階席へと降り立った。


「にゃ」


どこか自慢げな顔で、ほら、早く登ってこい、と誘う姿はすっかり保護者目線だ。


「はいはい、ちょっと待っててね」


アキも、ウォルコットからどこが触れていい部分で、どこは触れると不味いのか一通り説明を受けると、足取りも軽く二階席へと登っていった。足回りのすっきりした装い、しっかり握れる手袋、それにしっかりグリップ力を発揮してくれる靴もあって、その登りは見ている者達を安心させた。


ケイティも二階席に座ると、急造の二階席はもう満員だ。まぁ、空を飛ぶ妖精の翁に座席は必要がないし、御者席に護衛頭のジョージとウォルコットがいつも通り並び座るから、座席の数も問題ない。


とはいえ、二階席で立って周りを見回そうとしたアキは、ケイティに言われて立つのを諦めることにはなった。


「アキ様、ただでさえ普段より不安定な足場なのですから、二階席では立つのは厳禁です。停車時、ウォルコットの許可がでた時だけとしてください」


「はーい」


ただでさえ、馬車は車高が高く、その座席位置は自動車というよりトラックのソレだ。そんな馬車の客室の上に二階席を増設してるのだから、その位置は家屋の二階相当と言っていい高さである。そのくせ、横幅は大柄な男性が両手を広げれば届く程度なのだから、確かに安定性という意味では心許なかった。


アキがすぐ従ったのは、普段の客室と違って周囲全ての遮る壁がないことでの圧倒的な視野の広さと、視点の高さにご満悦だったから、というのもある。鬼族に肩車をして貰った時とどっちが高いかな、などと考えて、ちょっと比べてみようかとしただけなので、それほど立ち乗りへの執着心は無かった。


ウォルコットが梯子を取り外して、空間鞄に収納している間に、馬車の周囲をジョージが歩いて安全確認を行い、問題なしと許可がでたところで、今度は二階席の四隅から周囲に伸びた棒の先に、外灯のような魔導具を設置すると、起動の文言を唱えていった。


「ケイティさん、ソレらは?」


「多重結界の魔導具です。いつもの客室と違って、この通り剥き出しですから、それを補うための工夫です」


ケイティの言う通り、馬車の客室は作動中はアキが触れるのは厳禁という魔導具の集合体であり、対物理、対魔術両面からの厳重な護りを提供してくれていた。しかし、今回は視界重視、剥き出しの二階席なので、それを補いつつも、視野を妨げないという結界の多層構造によって同様の防御力を発揮させようという代物だった。


見る者が見れば、やりたいことはわかるが、なぜそこまでしたのか理解できないと言われる変態仕様である。王侯貴族だって、こんな魔導具の使い方はしないだろう。


魔力共鳴でそこらの魔導具なら触れただけで過負荷で壊すアキの手が届かないように、伸ばした棒の先に取り付ける念の入れようである。もしアキが触れて壊したりしたら、あまりの損失の大きさにケイティですら卒倒しかねない代物だった。


ただ、そんなドキドキな内面は一切表に出さず、ケイティはさらりと説明を済ませると、それよりは景色を楽しみましょう、と話を切り替えた。


アキも、普段とはまるで違う視点の高さ、広さに興味津々、すっかり吊り下げられた魔導具への興味を失い、しっかり手摺りを握りながら、まるで幼子のようにキョロキョロを周囲を眺め始めた。


そんなアキの振る舞いに満足そうな笑みを浮かべたウォルコットは、洗練された身のこなしで、ジョージとともに御者台へと登ると、別邸の玄関前に並ぶ女中人形達に軽く礼をして馬車を進めるのだった。


馬車を牽引する魔導馬達も予め、今日の予定を聞かされていたようで、普段よりも更に丁寧でゆっくりした足取りで歩き出す。


翁もその様子を確認すると、軽く杖で合図を送ると、アキの隣へとふわりと位置を変えた。


「お爺ちゃん、もしかして今日は妖精さん達も同行してたり?」


「うむ。女王陛下からの計らいじゃ」


中立派から推進派に変わってくれた事への軽い礼じゃよ、と翁から説明を受けて、そう言えば、確かにシャーリスがアキの立ち位置変更を大喜びしてた、と納得することになった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


そんな訳で唐突ですけど、第三者視点で描きたい、というただそれだけの為にSSを差し入れることにしました。実は、アキ視点で普通に書いてみたんですけど、第三者視点が欲しいシーンが多かったもので急遽書き直しました。本人が意識してない描写とかは、本人視点だとどうしてもやりにくくて。


ちなみに、馬車で移動しながらの観察会としてる区間は、アキにそこらを出歩かれるとあちこちの民間が設置してる魔導具が壊れそうなのと、見えないように護衛を配置するのが困難な為です。馬車で移動しながらなら多重結界と、姿を消して同行してる妖精達の護衛がいれば、魔獣の二、三頭が襲ってきても簡単に蹴散らして安全確保できますからね。


そんな訳で、今回のSS⑩は前編、中編、後編の三部構成予定です。のんびりお楽しみください。


次回の投稿は、五月五日(日)二十一時十分です。


<おまけ>

今回、アヤ(母)、リア(姉)が緊急帰国することになり、ヤスケも帰国していることから、野鳥観察が終わる頃には、ハヤトが急遽、別邸へとやってくる流れとなります。誰もストッパーがいないのは不味いですからね。ケイティ達、サポートメンバー達だとやはりどうしても限界があります。……そしてハヤトが本編に登場するのは、なんと18章がラストだったので、4章ぶりの登場ですね。ほんと久しぶりです。作品内ではそう時間は経過してないんですけど。実時間だと1年ぶりくらいになります。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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