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22-6.師匠参戦(前編)

<前回のあらすじ>

妖精さん達から、他文化圏育成計画の推進を後押しして、と頼まれることになりました。対価として望みのモノを用意しよう、と言わんばかりの誘いの言葉付きで。こういう案件となれば、めっぽう強い師匠に頼るしかない、ってことで、話し合いに参加をお願いすることにしました。(アキ視点)

ケイティさんが杖でメッセージを飛ばすと、小一時間後なら合流できるという事だったので、それならばと、今いるメンバーで、妖精さん達からより多くの協力を得られるとするなら何をやりたいか、といったことについてアイデア出しを行うことにした。


今回の切掛となった話が、この惑星ほしの裏側まで探査船団を送りたい、こちらと何千年か交流が無かった文化圏なので、竜族や魔獣といった高位存在をあまり知らないかもしれない点が争点となった。


賢者さんが口火を切る。


「アキの話では、竜や魔獣と馴染みがない人々に対しては、百の言葉を重ねるより、一の実物を見せた方が話が早いという事だな」


「ですね。雲の上を遠く飛んでるだけの天空竜を眺めるのと、すぐ目の前に降り立ってこちらに意識を向けてきたソレでは、まったく受ける印象も変わってきますから」


近づくだけで、竜にその気がなくとも踏み留まるだけでも気力を振り絞る必要のある圧を受けることになるという。僕はそれほどでもないけど、最初に会った時には、僕でも感じ取れる魔力の強さは、圧倒されるものがあった。あぁ、コレは自分達とは違う、同列に扱う存在じゃないんだな、と。


実際は、雲取様の優しい思念波を受けてわかったように、その気がなくとも放たれてしまう性質のもので、相手を恫喝する竜の咆哮とはまるで別だとも理解できた。穏やかで力強い圧は、心地よさと安心すら感じられるくらいで、今ではお気に入りだ。


なかなか僕のこの感覚に同意をしてくれる人がいないのはちょい悲しいけど。


「だが、もしかしたら我々と同様、それらとの交流が密であるかもしれん。それでもアキは、弧状列島に住まう天空竜達が現地に降り立つ必要はあると思うのか?」


 ふむ。


それはそれで嬉しい誤算って奴だ。


「棲み分けをしている程度なのか、こちらと同様、頻繁に通ってお話する仲なのか、竜達に庇護して貰う代わりに、実りを献上する関係なのか、色々なパターンが考えられますけど、いずれにせよ、降り立つべきと思ってます。高位存在を知らないなら、そうした存在がいると理解して貰う為に。高位存在がいるならば、それが極めて珍しい間柄であって、弧状列島が至った共存という関係の尊さを、高位存在込みで共に理解する心強い仲間を得る機会となるでしょう」


他の地域の実状を聞けば比較ができる、そして高位存在との関係が粗な多くの地域があると知ることで、自分達の立ち位置を理解することにも繋がる、とアピールしてみた。


これにはシャーリスさんも同意してくれた。


「自分達しかいなければそれが常識と思う。しかし、惑星ほしの裏側からやってきた、多くの地域を見聞きしてきた船乗り達の言葉となれば、近い地域だけでなく、この惑星ほしの中に住む者としての意識も持てよう。それに同じ高位存在が上陸した使節団と親しげに接する様を見せれば、そのような国もあるのだ、と雄弁に物語る事ともなろう」


うん、そうなんだよね。魔導人形さん達だけが上陸して「私達、竜族とも仲良しなんです」と語ったとして、それが本当のことだと現実感を持って理解できる住人がどれくらいいるだろうか、という話だ。彼らも高位存在と密な間柄であれば「あぁ、そちらもそうですか」と共感してくれるだろうが、高位存在と粗な関係、或いは近場には存在せず伝聞で知るだけといった人々なら、嘘ではないと認識できたとしても、それを現実味のある話とは受け取れないだろう。遠い、遠い国の自分達とは関係のない話と考えるのがオチだ。


賢者さんも、僕とシャーリスさんの話を受けて、考えを整理してくれる。


「ならば、今回、対象となる文化圏がどうであろうと、探査船団や魔導人形達の使節団と、天空竜が揃いで訪れること、両者が近しい関係にあると見せつけることが基本方針だ。実際、天空竜が共にあって思念波で相手側の高位存在と意思疎通ができるなら、交流の手間をいくつも飛び越えられるだろう」


 なるほど。


「思念波は、言葉というより、心話のように心に直接響く意思疎通手段ですからね。その場合、うまく行けば、こちらの目的の伝達と滞在許可を得るとこまでスムーズに進むでしょうから、ニ、三ヶ月分くらいは短縮できるでしょうし、相手が天空竜なら、成層圏まで空間跳躍テレポートして周囲を見渡すことで、我々の住む世界が、宇宙に浮かぶちっぽけなオアシスだというイメージもすぐ共有できるでしょう。そうすれば、遠路はるばる、外洋帆船で大海を超えてやってきた船団の苦労も理解して貰えるでしょうね」


それなら、物事がトントン拍子に進んでめっちゃ楽だ。


っと、母さんが手をあげた。


「それは、弧状列島に住まう竜達のように温和で共存する文化を相手も持っている場合の話よね。勿論、その可能性が無いとは言えないけれど、今回、目的とする文明圏では、天空竜がいるとしても、アキが以前話していた大陸気質の荒い文化を持つ可能性が高いと思うわ。地球あちら準拠で考えるなら、特に南米山岳地帯は貧しい地域でしょう? 乏しい実りを補う為に、竜達が地の種族から実りを献上させていてもおかしくないわよね?」


 あー、うん。


母さんの指摘に、冷や水を浴びせられたように楽観論は力を失った。ベリルさんがホワイトボードに場合分けを書いてくれた。弧状列島のように良好な関係を築いている場合はレアケース、双方共に干渉しないユーラシア大陸定番の棲み分けパターン、それと今、母さんが示した、乏しい実りをかき集めさせる為に地の種族との上下関係が確立しているパターンの三つだね。


こちらの竜族と街エルフのような種族殲滅戦にまで話が拗れるパターンは多分ないと思う。それをするくらいなら、竜達の縄張りから距離を離すだろうから。弧状列島のように互いに逃げ場がない島でなければ、そうしたとこまで徹底してやり合う事にはまずならない。竜と人ではその力の差は圧倒的で、理性で考えれば、竜相手に戦うのはあまりに利がなく損害ばかりが増えるのだから。


「その場合だと、地の種族との交流もするけど、天空竜達の意識改革と協力を得ないといけないね。まぁ、話の持って行き方次第だけど、実力差があって君臨してるなら、その力量を褒めて、記念にそこらに落ちてるだろう立派な鱗を持ち帰りたい、鱗の大きさだけでも相手がどれだけの体躯なのか雄弁に語ってくれるだろう、とか言えば、多分、大して裏読みされることもなく、所縁(ゆかり)の品を入手できるでしょう。そこまでくれば、探査船団の転移門経由で鱗を入手して、僕やリア姉のほうで心話でがっつりお話しますよ」


僕の提案にリア姉は諦め顔をしつつも同意してくれた。


「もし現地に空間跳躍テレポートで弧状列島の竜が降り立てたとしても、大陸に棲まう竜達の方が体格では優位だろうからね。多勢に無勢、おまけに体格差もあるんじゃ、話も対等とは行かないと思うし、心話ベースの交流に引きずり込むのが上策かな。あまり気乗りはしないけどさ」


シャーリスさんがふわりとリア姉の隣に飛んで頭を撫でつつ、話を続ける。


「そして、高位存在との馴染がない人々相手ならば、天空竜の存在を示すことは大きな意味を持つ事になる。それに一方通行とはいえ、思念波で意図を伝え、竜眼で観察しつつ、相手に反応を促せば、やはり使節団逗留までの段取りは大きく捗ろう。こうして三つのパターンを並べてみると、どの場合もこちらの側にも天空竜はいることが望ましいという結論じゃな」


 うん。


「交流が密で親しい場合、相手側だけに天空竜がいる状態での交渉になるから色々と不利になるだろうし、交流が祖な場合なら、身体言語ボディランゲージで何とか使節団逗留と戦闘の意志がないこと、逗留の意図を伝えるだけでも結構な時間を費やすだろうし、交流は密でも竜が支配してる場合なら、新たに支配される国が増えるだけ、と思われるところから、船団だけで状況を覆すのは厳しいでしょうね。確かに、どの場合もこちら側にも天空竜がいた方がいいと思います」


賢者さんが新たに問いかける。


「どの場合も実体の竜が同行するのが望ましいが、召喚体の竜ならどうか。相手に竜がいるなら召喚体の竜が降り立つ意味は理解でき、こちらの優位性を示すことになるだろう。交流が粗な場合、召喚体からは属性の関係で圧は感じられずとも、拡散型思念波で広く語りかければ、その威は誰でも理解できるだろう。そう考えると、実体より召喚体の方が望ましいとさえ言えそうだ。何より実体と違って竜が傷つくことを心配せずに済む。それと彼らはことわりを自分達に都合よく捻じ曲げる存在だが、病に冒されない訳でもない。安全策を取って魔導人形達で使節団を構成すると言うのなら、現地に降りる天空竜もまた、召喚体とする方が良い」


だから、遅延召喚だけでなく、任意位置への召喚体の降臨、という技術を持つことは重要だ、と我田引水な感じもするけど、賢者さんは自信満々に言い放った。


でも、この発言は、僕達の意識を改めることにもなった。竜神とも言われる彼らが他の地に降り立ったとして、風土病に罹患して苦しむ、なんて事は完全にイメージの外だったからだ。


でも、以前、金竜さんに「皆さんの無病息災を祈りますよ」と伝えた時にびっくりされたけど、そんなことは無用だ、と否定されることは無かったからね。僕達とはだいぶ生病老死の感覚も違うだろうけど、そんな竜達であってもこの世界で暮らす生き物であって、信仰されあれば不滅という実体を保たない神々に比べれば、在り方はこちら寄りなんだ。黒姫様と話をした時にも、病気や怪我の治療についてあれこれ教えてくれた通り、竜もそうした事から逃れられないのは確かだからね。


共存と言いつつ、ちょっと僕も強くて拝む感覚がどこかに残ってたのかもしれない。反省、反省。


「賢者さん、良いご指摘ありがとうございます。これだけ親しく交流をしていても、僕もどこか、竜達は敵無しに強くて心配はいらない、なんて事をどこかで都合よく考えちゃってたようです。そうですよね。竜族だって、交流が無かった地域に踏み込めば、病に罹患するかもしれないし、伝染病を持ち込んじゃうかもしれません。ここは慎重策を取るべきでしょう。他文化圏応援計画では、使節団を魔導人形のみで構成するのと同様、現地入りする天空竜もまた召喚体であるべき、と」


ベリルさんも重要、と赤丸を付けて、現地入りは召喚体で、と記してくれた。そうなると、三地域に召喚体の竜を送り込むこと、それも簡略化はまぁしてもいいけど、小型化は避けた高性能な個体を三体、か。遅延召喚だとずっと召喚状態を維持しつつ三枠を潰すことになるから、それは避けたい。


そんな話をしているうちに師匠が到着した。





急に呼び出されたことへの愚痴もそこそこ、青天井で研究できる話だって?とかなり乗り気で、これまでに話した経緯に熱心に耳を傾けてくれた。


ただ、妖精の国がこれまで以上に支援してくれそうという話自体は喜んでくれたものの、未探査領域にある文明圏への天空竜の空間跳躍テレポートに話題が及ぶと、ぐしゃっと顔を顰めながら深い溜息をついて、とんとん、とテーブルを指で叩きながら、衝撃的な一言を放った。


「これだけの面子が揃っていながら問題点に気付かないってのは問題だね。私がこうして呼ばれた意味もあるからあまりとやかくは言わないけれど、この話はケイティが危険性を忠告すべきだったよ」


 え?


「師匠、危険性って?」


僕の呑気な問い掛けに、師匠は少し言い淀んだけど、はっきりと口にしてくれた。


「未探査領域に空間跳躍テレポートした馴染みの竜が帰ってこれず、現地で憔悴した挙句死んじまう可能性がある、って事さ。なぜケイティかと言えば、魔力の乏しい領域を実際に旅した熟練の魔導師だからさ。ここまで言えばわかるだろ?」


師匠の声はやさしげですらあったけど、ケイティさんもそのヒントに顔色を変えた。


「……申し訳ありません。確かに私が指摘すべき事柄でした」


ケイティさんが平謝りするけど、どうして戻ってこれないなんて話が出てくるんだろう?


「皆がピンとこないようだから説明しておやり」


師匠に促されて、ケイティさんも少し居住まいを正した。


「皆様は弧状列島に住まわれている、或いは妖精の国に住まわれていることから、魔力の乏しい領域についての知見が乏しいかと思います。また、初歩的な話なので自在に魔術を使えるようになると忘れがちな内容ともなりましょう。ソフィア様が指摘されたのは、魔術はどうやって発動するか、です」


さぁ、説明して、と促されたのでそこは僕が話すことに。


「ちょっと僕の場合は違いますけど、人族の場合、杖の先端に魔力を集束して、それを一点に圧縮して、魔術発動の種火として、己が意志をもって世界を塗り替えていく、ですよね」


「そう、種火です。つまり発動する魔術に必要な魔力の殆どは術者本人ではなく、術者のいる場、周囲の空間に満ちている魔力によって賄われます」


 うん、そうだね。


だから、妖精さん達も天候を大きく変えるような集団魔術を使った後は、地に魔力が満ちるまで時間がかかったって……。


「ケイティさん、それって魔力が乏しい地域だとどうなります?」


「魔術の発動が難しくなったり、発動しても規模が小さく、効果が弱くなります。これは術者の力量によって多少は変わりますが、だからといって、如何に優れた術者でも、乏しい領域において、豊かな地のような魔術を発動させることは叶わないのです」


つまり、こちらから現地に転移した天空竜が帰ってこれないというのは……。


「下手をしたら現地で空間跳躍テレポートの術式が発動しないかもしれないって事ですか!?」


少し声が震えてしまったけど、僕の問い賭けにケイティさんは静かに頷いた。


「そもそも空間跳躍テレポートは我々には手の届かぬ超高難度術式です。必要とされる魔力も膨大な量となるでしょう。魔力の乏しい領域では、戦略級の発動ができず、戦術級、戦技級といったように術式を落として使用するといった事も良くある話なのです」


ケイティさんの説明を受けて、師匠が後を続ける。


「そして、問題は弧状列島にいる竜達は、誰も魔力に乏しい領域での活動経験がないって事さ。そりゃ、弧状列島においては空間跳躍テレポートは幾度も使ったこともあるだろうし、発動自体を失敗することは彼らの力量からしたら心配はいらない。だがね、そもそも術式を成立させるだけの魔力がその場になけりゃ、いくら天空竜だって、世界の(ことわり)を曲げて世界の外になんか飛べないんじゃないかね?」


「天空竜はその身に沢山の魔力を貯めてるけど足りたりは?」


「無理だろうねぇ、術式の発動で術者が提供するのは所詮、種火なんだよ。種火で燃やせるのはせいぜいおが屑程度、そのちっぽけな火で松明なんか燃やせる訳がない」


それから師匠は現地で野垂れ死んでしまう理由を教えてくれた。


「そして目的地は大陸なんだろう? となれば、アキが言うところの昔気質な荒れた竜達がいるような地域って話だ。なら、ちょっと空間跳躍テレポートができるくらい濃い魔力のある巣を使わせて貰えませんか、と頼み込んだところで、頼みを聞いてやる義理もない。追い出されるのがオチだろうさ。そうなったら、後は膨大な魔力を必要とする身であることが不利に働く。飛んで帰るには遠過ぎて、空間跳躍テレポートも発動できない、そもそも魔力が乏しい場では、体内の魔力も失われていく一方。そうなったら、その竜はもう助からないね。探査船の大型宝珠の魔力を渡してやっても、大した時間稼ぎにもなりゃしない」


師匠の声はとても優しくて、包み込むような温かささえ感じられたけど、誰も帰れない可能性に気付かないまま無邪気に現地に空間跳躍テレポートで飛んだ挙句、そうなったら……。


その可能性に気付いて、胸の奥底から体が冷え込んでいくのが止まらなかった。

いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


他文化圏がどういう状況かわからないので、想定される様々なパターンについてアイデア出しを行いました。本編にもあるように、どのパターンでも召喚体の竜を同行させるのが望ましいとの結論に。


そして、予算青天井な打ち合わせと聞いて大喜びで駆け付けたソフィアでしたが、検討内容にでかい抜けがあることに気付き、苦言を呈することになりました。案外、福慈様辺りに聞けば、ある日を境に姿を消してしまった天空竜の話を聞けたりするかもしれません。魔力濃度に地域毎の違いがある本作世界ではこういうおっかない話が転がってるのでした。


次回の投稿は、四月七日(日)二十一時十分です。

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