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3-15.耐弾障壁習得祝賀会[後編]

前話のあらすじ:翁(妖精)が耐弾障壁を習得しておめでとーということで、美味しい料理と飲み物でお祝いの席を設けました。でも、皆は飲食後の質疑応答時間が待ち遠しかったようです。

皆の飲食も一段落し、早く質疑応答の時間に行け、という圧力もあって、さっそくお爺ちゃんの周りに皆が集まった。


「では、翁。耐弾障壁だが、あれをどう実現したのか教えてください」


「うむ。まず、耐弾障壁の実現している機能、性能について話は聞いたが、あちらで検討した結果、一朝一夕で実現できるようなものではなく、機能が複雑過ぎて、自分達で同じような術式、魔導具を作るのは間に合わないという結論に至った」


でも、結論が再現不可能じゃなく、間に合わない、なんだ。技術面というか、能力の上限はこちらより高そうな感じで期待できそう。


「だが、実現された耐弾障壁は完璧な再現だった。というか、あれは我々の耐弾障壁そのものだった。どういうことなのか」


技術者の一人が質問をする。表情からすると、かなり驚くレベルの出来事だったっぽい。


「そこじゃよ。それで儂らは考えた。耐弾障壁は魔法陣で稼働させておる。そして魔法陣は魔力を通して活性化させるからこそ魔法陣足り得るのであり、同じ文様をただ描いても、それは単なる絵に過ぎぬ」


「確かにその通りだが」


「えっと、つまり魔力という視点で捉えると、そこに正常稼働している魔法陣があるから、どうにかして、それをコピーして、再現したってこと?」


「うむ、アキ、その通りじゃ。魔法陣に流れる魔力の状態、パターンを正確に再現すれば、同じ結果を生み出せる道理じゃ」


僕は魔術に詳しくないので、簡単なイメージで語ったけど、お爺ちゃんはその通りと頷いて見せた。


「稼働中の魔法陣をそのまま写し取っただと!?」


信じられん、なんて呟く人達も出てる。かなり衝撃的な内容だったようだ。……当然かもしれない。書いてある文字に似せて書いたとかじゃなく、細密な密教曼陀羅図を見て、ちょっと再現してみました、というようなもの、かもしれない。


「そうじゃよ。ケイティ、その節は世話になった。読み取るために護符を一つ壊してしまった」


「必要なことでしたので、気にすることはありません」


「だが、なら、その魔法陣はどこにあるんた?」


「ここじゃよ」


お爺ちゃんは自分の体をトントンと叩いた。


「知っての通り、この体は召喚体じゃ。性能にもかなり余裕があり、簡単に言うと、空いている領域があった。そこで、耐弾障壁の魔法陣を読み取って、その空き領域にコピーしたんじゃよ」


「その話だと、耐弾障壁は常時稼働中にするしかなさそうだが」


「そうなんじゃ。流石にそれはこの短期間ではどうにもならんかった。耐弾障壁は儂から常に魔力を供給されて、稼働し続けておる。魔力に余裕があるからこそ許容できる無駄ということになるのぉ」


「でも、お爺ちゃん、いまは何処にも虹色の膜は見えないよ?」


「護符とて、待機状態では大人しいもんじゃろ。外から護符を操作する真似事くらいはできるということじゃ」


「凄いね、お爺ちゃん!」


「うむ、儂の友は凄い奴らなのじゃ」


「しかし、稼働中の魔法陣をそのまま写し取るとは……」


そもそも原理的に可能なのか、なんて話をしている人達もいるくらいで騒然とした雰囲気はなかなか収まらない。


「えっと、難読化、コピー防止処置とかしてないんですか?」


「アキ様、それはどういうことでしょうか?」


ケイティさんも知らない? というかそれほど興味は持たれなかった内容なのかな。


「例えば本なら、文字を読んでそのまま書き写したら、本はコピーできるでしょう? 難読化は文字を意味のわからない文字列とかに変換して、そのままでは意味がわからないようにすれば、コピーしても、読める本のコピーではないから、本のコピーは防げる訳です」


「魔法陣の暗号化ですか」


「はい。あとコピー防止の方は、魔法陣のほうにダミー機能をつけたり、複数揃えて初めて機能するようなパズル的要素をわざと組み込んで複雑化するとか、護符の材質に合わせて動くようにして、魔法陣単体では動かないようにするなんかもいいですね。敢えて積層化して、バラバラだと動かず、重なっているから動くとか」


「魔法陣はできるだけ簡潔に、無駄なくというのが一般的なのですが……」


「でも、それだと分析して複製するのも簡単になっちゃうでしょう? もちろん難読化とかコピー防止措置は、安定動作や生産性とのトレードオフになるとは思いますけど」


「アキ様、あちらでは、そんな手間を掛けるのが一般的なんですか?」


「えーと、お爺ちゃん、ごめんね。ちょっとだけ地球あっちの話をするね」


「うむ、仕方ないのぉ」


一応、地球あちらの話だから、お爺ちゃんの許可を得てから話すことにした。ケイティさんが聞いてきたということはこの場で語ること自体は問題がないはずだ。


地球あちらでも、高度な製品、こちらの魔導具、そうですね、船舶に搭載するような戦術級の武器のようなものだと、苦労して作る訳ですから、簡単にコピーされるような真似は避けたい。でも製品だからどんどん生産して売りたい。悩ましい問題ですよね?」


「言ってる事はわかる。たくさん作れば量産効果で安くできるからな。しかし、国内だけでは需要は限られる。他国に売る時には避けられない問題だろう」


技術者の人達も、量産効果や他国への売却については思い当たることがあるようで、頷いてくれた。


「そこでカバーのほうを工夫するんですよ。中を見られたら技術が漏れる、それならカバーを一度開けたら、元に戻せない、開けたことがバレる細工をしておくんです。普通に使う分にはカバーを開けて中を見る必要なんてないのだから。そして、契約で、もし開けたら膨大な違約金を支払うという形で縛るんです」


「おぉ、アキ、それはサイコロの話と同じじゃな」


「そうだね。この話のミソは、製品を売り切る形ではなく、保守契約込みにするとか、レンタルにするとかにして、必ず製品の状態をこちらが確認する機会を残すこと。それと製品を最後は回収すること」


「なるほど……」


「あと、物騒な話ですけど、無理に開けようとしたら壊れるとか、爆発するとかして、覗き見を許さないなんて仕掛けを組み込む場合もあります。これは機密のレベルによっても変わる話でしょう」


「アキ、あちらはそれほどまでに工夫をせねばならんのか?」


盗まれてしまうくらいなら、壊してしまえというのはなかなか乱暴な話だよね。


「なんでもそうなってる訳じゃないけど、たとえば、開発中の製品のデータを盗んで、自分たちの製品です、と売ってしまうような話もあるくらいだから、生き馬の目を抜くような分野もあるのは確かだね。何十年もかけて品種改良した苗を盗んで、自分達の作った品種だと言い張って売るような国もあるし、厄介な話とは思うよ」


「それは互いにコピーするだけの技術力を持つが故に発生する問題ですね」


「面白いのは特許の仕組みで、世界中で合意してることもあって、戦争中に相手の国が持ってる特許技術を使っている場合、ちゃんと特許料を支払うんですよね」


「殺し合いをしているのにか?」


お爺ちゃんが驚きの声をあげた。んー、妖精界だと戦争は、生存競争と同義だったりするのかな。


「戦争はどこかで落しどころを見つけて終えるものだから。非常時だからと特許を無視するような国とは、交易しない、交流しないというように世界中から疎外されちゃう。そんな事態だけはどの国でも避けたいからね。地球あちらでは世界中で貿易をしているから、そこから切り離されたら、その国の未来は真っ暗だよ。自給自足なんて無理なんだから」


「自給自足できんのか?」


「あらゆる素材を、技術を、食料を、情報を全て自給自足するのは無理だね。数年後の未来さえわからないほど、技術進歩が早いのに、その流れに取り残されたら、自分達だけ原始人になっちゃう」


「なんとも忙しない世界じゃのぉ」


「うん。のんびりしている分野もあるんだけどね。惑星全域を活動範囲として、他の星にまで探査機をどんどん送っているくらいだから、規模も歴史も話しきれないほど沢山あるよ。だから、期待しててね、お爺ちゃん」


「わかった。本当に星々の世界じゃな。儂にはこの国の事さえ、わからない事だらけだと言うのに」


「話が横道に逸れてしまいましたね。ほかに翁に聞きたいことがありますか?」


「コピーするといったが、その術式はどうしたんだ? 妖精界で教えてもらって翁が魔術を使ったということだろうか?」


そう、それ。僕も気になった。


「うむ。妖精界では魔術を貸し渡す技術があるんじゃよ。渡された術式の中身は知らずとも、使えるだけの力量がありさえすればいい」


「なんとも便利な話だが、何か制限はないのか?」


「心の隙間にねじ込む技術じゃから、渡せる術式は多くても二つと言われておる。それに時間経過と共に劣化して使い物にならなくなる。そもそも渡す術式を入れるだけの隙間がなければ渡すこともできん」


「なるほど。参考になった」


ケイティさんが他の意見を確認したけど、お爺ちゃんが、渡されたコピー術式の中身は知らないとわかったので、特に追加質問はなかった。





「この場を借りて、表彰と授与を行いたい。アキ、こちらに来てくれ」


お爺ちゃんに呼ばれて、正面の位置に移動した。お爺ちゃんが杖を振って声を会場の隅々まで届くよう大きくして語り始めた。


「アキ、お主のお陰で、妖精界では公平な確率による娯楽、文化、学問がサイコロによって齎された。この功績は極めて大きい。よって、妖精女王シャーリスの名において、アキに名誉国民の地位を授ける。また、功績を後世に伝えるため、女王の広場にその彫像を設置し、讃えるものとする、とのことじゃ」


「あ、うん、どうもありがとう」


「とても名誉な事なんじゃが、やはり儀式めいた演出がないと盛り上がらんのぉ。じゃが、アキよ、これを見たなら、儂らの賞賛の気持ちを理解できるはずじゃ」


そして、お爺ちゃんが杖を振るうと、お爺ちゃんサイズ、つまり、フィギュアサイズの彫像がテーブルの上に現れた。


映像なのだろうけど、本物がその場にあるとしか思えない実在感が半端ない。大きなサイコロ三個をエル字型にした椅子に腰かけた僕が、周囲に飛んでいる妖精さんと戯れているという像だ。


妖精さんの透明な羽は宝石のような輝きを湛えていて、躍動感溢れる造形は見事というほかない。僕の姿も美化されている感じは少しあるけど、それでも知っている人なら誰もがミア姉ではなく、ぼくだと断言するくらいに生々しい。


これは気恥ずかしい。同じものが妖精界で、飾られていると知れば尚更だ。


「なんだが、とっても凄いね。気の利いたことが言えないけど、これ作った人、僕の事を知らないのによく、ここまで似せて作れたね」


「儂の記憶を共有したからのぉ。注文が多くて大変じゃったぞ。じゃが、苦労した甲斐あって見事な出来じゃろう?」


「うん、まるで生きているみたい。妖精さんが三人いるけど、一人はお爺ちゃんだよね。そうすると、あと二人は?」


「中央にいる抱きつこうとしているのが我らが女王様で、あと一人はこの彫像の作者じゃ」


「人選で揉めたとか?」


「うむ、その通りじゃ。この像の主役はアキじゃからして、妖精の数は三人に抑えたいと作者が主張してのぉ。確かに四人、五人と増えるほど、妖精の主張が煩くなって良くないという結論になった。そうなると人選は女王陛下と、儂は外せぬ。となると、残り一人を誰にするのかで揉めてのぉ。結局、作者でいいか、という話に落ち着いたのじゃ」


なるほど。誰を選んでも角が立つのなら、製作者を選ぶのも手だね。


「それで、このサイコロ……一の目のところに洒落た感じで書かれている六六六の番号はどういう意味?」


シリアル番号かとも思ったけど、飾り文字だし、何か意味がありそう。


「六つの魔術属性を、六人の術者が、きっちり六当分に付与したという、最高品質を意味する数字じゃよ」


「それはまた、大変そうな話だね。サイコロ一個に六人も術者を投入するなんて」


「最初の一つ以外は、均等付与する魔導具を作ったから、それほどでもないがのぉ。サイコロを作る方が間に合ってないが、毎日数千のペースで作っておるから、国民全員に行き渡るのも時間の問題じゃ」


「どれだけ、気合いが入ってるの!?」


というか、この前、試作したばかりでもう大量生産、国全体に流通し始めるって凄くない!?


「女王自ら、ゲーム大会を開催するほどの盛り上がりじゃ。アキ、後世に残る仕事をしたと誇って良いぞ」


「あ、うん、そうだね」


サイコロを齎した者として、名が残るのか……なんかいまいち素直に喜べない。


「それとな、この像だが、ドワーフの技術者達が寸分違わぬ像を作ってくれるそうじゃ」


いつのまにか食い入るように最前列でドワーフの技術者達が、僕と妖精の像を凝視していた。虫眼鏡を取り出して様々な角度から観察する姿は真剣そのもので、小さな像を見る表情は驚愕に満ちていた。


「この像、実物大なんだよね?」


「無論じゃ。材質も、羽の透け具合も、精緻な彫刻も、見た目だけは完全に再現しておる。ドワーフに再現できぬ細工などないということじゃからな。儂も今から出来上がりが楽しみじゃよ」


お爺ちゃんは、早くも出来上がりを想像して、満面の笑みを浮かべていた。対照的にドワーフの皆さんは、想像を遥かに超える超精密芸術作品だったせいか、表情に余裕が感じられない。


「あの、お爺ちゃんが無理を言ったりしてませんか?」


「あ、あぁ、問題ないとも。ちと細工が細かいから時間はかかるかも知れんが」


「そうなのか? できればロングヒルに出発する時に持参しようと思っていたのじゃが」


「間に合わん時は、ロングヒルまで届けよう。それなら問題あるまい?」


「うむ。済まないのぉ。妖精界との架け橋となる記念の像じゃから、細工なら右に出る者なしというドワーフ族に請け負って貰えて儂も一安心じゃ」


「……任せておけ」


なんだろう、この温度差。というかいくらドワーフが細工が得意といっても、顕微鏡を見ながら行うような細工は厳しいんじゃないかな。妖精の羽だって、見た感じ極薄の色ガラスか、ルビーとかサファイアのような宝石っぽい感じだったし。小指の先くらいしかない妖精さんも、その表情や髪の流れる動きまで再現されていて、風を纏って揺らめく小さなドレスも繊細で可憐だ。


……細工に何年か掛かっても驚かないレベルだよね、あれは。


「ケイティさん、ドワーフさん達ですけど、無茶なようなら、少しフォローしてあげてくれますか?」


お爺ちゃんは全然疑ってないようだけど、流石にちょっとどころじゃなく困難な作業に思えてきた。


「……わかりました。もっともそのような事態に陥ることはないと思います」


「ドワーフさん達は、あのレベルの彫像が作れるんですか?」


「小さな像ですから材料費はそれほど掛からないと思います。必要なのは人件費、技術力ですが、そこはなんとかするはずです。交流の証を、ドワーフの腕を見込んで依頼されたんですから」


「挑戦するレベルなんですよね、やっぱり」


「完成すれば、美術史に残る名作となるでしょう。あれほどの細密加工を施した彫像は話に聞いた事もありません」


「……なるほど。あのドワーフの皆さん。ちょっとお願いがあるんですけど。その彫像のことです」


「どんな話なんだ?」


「出来上がった像を入れる透明なケースと、地震でも転倒したりしないように、垂直方向と水平方向の揺れのどちらの影響も軽減する工夫をした台座を用意して貰えませんか? あと、落としたりしても壊れないようにちょっと魔術的に強化とかして欲しいかな、って」


「……そうだな。用意しておこう」


そうだな、保管の工夫もいるよな、と請け負ってくれた。良かった。かなり繊細な作りになりそうだから、保管は気をつけないとね。


ドワーフの技術者さん達が仲間内だけで相談するために離れたテーブルに移動したこともあって、遠目に見ても素晴らしい出来の像をもっと詳しくみようと、お爺ちゃんの姿が見えなくなるほどの人だかりになってしまった。虫眼鏡がもっと必要だ、と取りに行くメイドさん達も慌ただしい。

熱気はいつまでも冷めそうになかった。

そんな訳で、翁の耐弾障壁実現は、稼働してる魔法陣を丸ごとコピッたという荒技でした。魔術といっても体系の違い、レベルの差は技術者達に衝撃を与えたようです。ドワーフの技術者達も、軽く引き受けた話がまさかこんなだとは思ってなかったようで、この落差が今後、様々なところに影響を与えていくことになります。

次回の投稿は、九月三十日(日)十七時五分です。(いつもより早いのでご注意ください)

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