21-24.地理学視点で世界を見ると(前編)
前回のあらすじ:纏まって話したので休憩タイム、そこで大陸を我が物顔で練り歩いているという地竜達についてあれこれ聞くことができました。こちらでは魔術があるといっても貴重品扱い、大量の魔力を利用した魔力車みたいな交通機関は存在しないそうです。妖精界ならソレができるくらい魔力は豊富でしょうけど、シャーリスさんが語る言葉は契約術式のような威を発するとか言う話なので、複雑な機関を安定動作させることに四苦八苦するかも。あと、こちらでも都市内交通というこじんまりとした使い方ですけど鉄道は使われてるそうです。港湾都市ベイハーバーの拡張工事が始まれば、工事現場で走る姿を眺めることもできそうなので楽しみですね。(アキ視点)
食事を挟んだ休憩も終わったので、これからは地理学の紹介スタートだ。
「それでは、僕がエウローペ地域に枷をつけ、他地域を後押しした方がいいと判断する根拠となった地理学について紹介しますね。といっても身構える必要はありません。ある意味、それはそうだろう、という判断をしつつ、世界に線を引いて、色塗りをしていく作業を繰り返していくだけです」
そう話すと、ミエさんが手をあげた。
「線と色はそれぞれ何を意味するんだい?」
「線は行き来ができない断絶を、色も今回の場合は行き来を困難にする難所を示します。えっと皆さん、大地溝帯ってご存知ですか?」
この問いにはリア姉が手をあげた。
「私達の探査船団はまだアフリカ大陸には殆ど足を踏み入れてないから、知る人は殆どいないよ」
「なるほど。えっと、大陸を動かすプレートの存在や、大地が年間指一、二本分程度とはいえ移動し続けてるって辺りの大陸移動説の方は?」
「そっちは弧状列島で頻発している地震についての研究である程度は知れ渡ってる」
ん。
「ではそこは既知の知識ということで話を進めると、アフリカ大陸を動かすプレートの力は、アフリカ大陸を東西に割く動きを齎しています。引き裂かれたアフリカ大陸の巨大な地割れ、大地溝帯に海水が入り込んだのが紅海、そしてそこから南にずっと巨大な地割れが続いています。どれくらい巨大かというと、割れ目の狭い部分でも共和国の島がすっぽり入るほどの大きさで、両岸の垂直の壁は城壁の十倍くらい高さがあったりして、アフリカ大陸の東西の往来を阻んでるんです」
衛星からの光学観測画像にも大陸を割る長大な亀裂が見えますね、と示して、そこから南に進んでいくと、大地溝帯に水が貯まることで生まれたひょろ長い湖もいくつかをなぞっていくと、皆さんも七千キロに及ぶ長大な大地の割れ目と、その幅だけで最大百キロにも達してて、亀裂の内側に別の地域があることも納得して貰えた。
「同縮尺の弧状列島を見れば、ソレがどれだけ長大で、行き来を阻むか理解できたよ」
ミエさんも皆さんを代表して、思いを教えてくれた。
「凄いですよね。幸い、大地を割いていく地溝帯はここ以外はアイスランドに一部あるだけで、他は全部、海の底なのでそこまで気にしなくて大丈夫です。他に行き来を困難にする地形があるのでちゃっちゃと書いていきましょう。まず砂漠。これは僅かな隊商の行き来以外を不能にします。赤道直下の熱帯雨林地帯は生物相が強すぎて数メートル先も見えないジャングルに覆われてしまい、やはり大勢での移動は困難ですね。それから山脈もある程度以上の高度になると酷い寒さと空気の薄さと氷や雪によって、やはり生物の立ち入りを拒みます」
雲を省いた光学観測結果の地図があるので、それをホワイトボードに貼って貰い、ここが砂漠、ここが熱帯雨林、ここが森林限界を超えた山脈地帯、というようにペンで書き込んでいく。
・世界の文明圏と地理的障害図 ※本編内ではこちらの地図を使用している。
<説明>
黄色いエリア:砂漠
緑のエリア:熱帯雨林
黒枠薄赤エリア:ある程度の規模を持つ銃器を量産した文明圏
黒点線枠薄赤エリア:ある程度の規模を持つ文明圏
橙枠薄赤エリア:部族社会の地域
薄緑エリア:遊牧民達の行動範囲
紫太線:大地溝帯
海の上の太線:この話で想定する航海術での通行不能ライン
その中でわかり易い例として、アフリカ大陸を示した。
「はい、ここ、アフリカ大陸は巨大ですけど、北部の我らが海との沿岸地域から少し南に行くと巨大なサハラ砂漠が大陸中程までを大きく埋め尽くしていて、南北の行き来が阻まれています。砂漠の次は赤道直下の熱帯雨林があって、東西の行き来が困難、それから大地溝帯があるので、東岸と西岸の行き来も困難です。アフリカ南部ですけど、現地の言葉で「なにもない」を意味するナミブ砂漠が西岸を覆っているので、南部の幅が狭いと言っても陸地伝いに東西交流というのも無理」
大陸を通行を阻むエリアで区切っていくとサハラ砂漠によって北とサハラ以南は分断され、アフリカ大陸中央は熱帯雨林に阻まれ、大陸南部はナミブ砂漠に阻まれ、と各地域間の交流が絶たれている様を可視化できた。
ん、マリさんが手をあげた。
「その熱帯雨林より南、ナミブ砂漠より北の緯度帯なら、東西を分断する大地溝帯は湖になっているから、まだ東西の交流は可能と言えないかしら?」
ふむふむ。
「良いご指摘です。確かに他よりはマシですね。ただ、その辺りは弧状列島が入るような巨大な湿地帯と乾燥してて疎らにしか木々が生えないステップ気候なので、人の十倍速で走れる自動車と、それが安定して走れる道路網の整備、両者が合わさってからでないと、これほど長大な距離の行き来はできません。途中はあちこち点在して小さな集落を作れる程度の貧しい土地しかありません。弧状列島のように多くの人が住めるような豊かな地が狭い間隔で並んでる訳ではないんです」
なので、地球でもアフリカ西岸、東岸それぞれに豊かな国がある訳でもないので、両者を繋ぐ内陸部に価値が見出されることはなく、アフリカでも最も貧しい地域でした、と補足した。
実際にはそこ、ボツアナでは世界最大のダイヤモンド鉱山が見つかったおかげで、人口も急増していくことになるんだけど、それは今回の趣旨ではないから割愛する。
ん、リア姉が手をあげた。
「アキ、今回、地理学で説明するのはどういう視点か説明しておいた方が良くない?」
ふむ。
「あぁ、確かに。えっと今回の趣旨は、その地域が部族社会から都市国家、それらを束ねた統一国家へと拡大していき、列強に到れるかどうか、という視点で語っていきます。また、航海技術は地球での大航海時代より前、外洋を航行できるけれど陸地を見ながらの沿岸航法が限度、魔導推進機関なしとします。あ、船舶に魔導推進機関をつけるのって、一般的じゃないよね?」
「今のところ、共和国以外にソレは確認されてないよ」
「なら、それを前提で。そして、航海術がその域としたのは、現時点で南北アメリカ大陸からやってきた船舶はなく、アフリカ南端を行き来する船もないからです。性能的には街エルフの外洋帆船はそれが可能でしょうけど、まだそれを為したことはありませんからね」
そこまで話すとマリさんが手をあげた。
「そこで、今度は海の上に線を引くのね。アフリカ南端の海域に線を引いて東西の行き来ができないことを示す、南北アメリカ大陸の間の大西洋に線を引いて、大陸間移動ができないことを示す、と」
おぉ。
「はい、正解です。こうして分断する条件を追加していくと、アフリカ大陸は大きいけれど、アフリカ北部、我らが海の沿岸地域はエウローペ地域に入れて、北東部の砂漠地帯とその沿岸を中東地域にいれると、アフリカ大陸はサハラ以南地域と見做すことができます。そして、そのサハラ以南はエウローペ寄りの西岸、中東寄りの東岸、どちらからも遠い南部に分断されていて、地域間の交流が乏しいことが浮き上がってきました」
弧状列島より遥かに大きな大陸なのに、分断されまくりなんだぞ、と。
そうした実状が見えてきたことで皆さんも目の色が変わってきた。いいね。
◇
「では、次は南北アメリカ大陸のほうを見ていきましょう。まず北アメリカですけど、西側は荒れ地と山脈だらけで、事実上、西岸と中央部との交流はできません。西岸北にアメリカ三大河川の一つ、コロラド川という弧状列島より長い大河があるんですけど、他との交流がなく流域内交流のみです」
中央部にあるのはミシシッピ川という大河ですけど、酷い暴れ川で水害が多発することもあって、やはり発展は厳しいモノがありました、と中央部を括る。そして、東部にもテネシー川があるけれど、中央部と距離が開いていること、アメリカ大陸には馬がいないことから、陸上での長距離移動が困難であり、東部と中央部の交流も起きなかった、と話した。
北アメリカ原住民、インディアンの皆さんは部族社会レベルを脱する事は無かったけど、場所が超大国アメリカの地なので、土地が広大過ぎて、バラバラだと明示的になるように大河川単位で西、中央、東の接してない円を描いた。
「せっかく広い大陸なのに、分断されていて、行き来できないのね」
「地球では行き来するには、大陸横断鉄道の開通を待たなくてはなりませんでした」
休むことなく人の十倍速で移動し続けられる鉄道があれば、拠点間の移動時間を一割に縮められることになる。北アメリカ大陸が広大でも縦横を一割にまで縮めれば弧状列島サイズになるからね。高速移動手段の発達は、それまで交流できない地域間を繋げることになる、と話した。
「ただ、今回の地理学紹介では、あくまでも各地域が独力で発展、強大化していくことが前提なのよね」
「はい。例えば今の共和国の技術力があれば、水の確保にも難儀する灼熱の砂漠であっても、海沿いであれば海水から淡水を作り出し、狭い都市内だけではあっても緑豊かな地に変えることとて可能でしょう。ただ、それは発達した国が進出してくるからできる話です。都市国家レベルが精一杯の砂漠地域において、そこから独力で統一国家レベルの技術、国力に達することができるかというと、まぁ無理です」
お、母さんが手をあげた。
「アキ、規模と国力、技術の発展について補足しておいたらどうかしら?」
ん。
「それは部族社会レベルだと、金属器を量産して普及させるのは厳しい、みたいな?」
「そう。先程、アキは砂漠を緑に変えるような技術は、都市国家レベルでは難しいと話したでしょう? 一応、共和国の義務教育範囲ではあるけれど、観点が違うから、改めて説明しておいた方がいいでしょう」
なるほど。
◇
「では、かなりざっくりとですけど、集団規模が増えないと技術レベルが頭打ちになる点について軽くお話しますね。まず部族社会。このレベルでは身近に手に入る草木や石、骨を加工した道具を作るのが限界です。あ、装身具などの少量の金属利用は除外します。一般的な道具として普及させられるかどうかという観点です」
皆さん、前提は理解した、と頷いてくれた。
「金属器を普及させるには最低でも都市国家レベル、できれば複数の都市国家を抱える規模が必要になります。鉱物資源の捜索、採掘、精錬、加工といったようにそれを行う専門家集団を抱えなくては、金属器の量産は不可能だからです」
「それはそうでしょうね。その次は?」
「多くの都市国家をまとめた統一国家、この規模でないと鋼鉄や銃火器の大量生産はできません。鉱物資源の分布には偏りがあるので、例えば銃火器だと、火薬の材料である硝石、木炭、硫黄、銃弾の材料である鉛、銃本体に用いる鉄、それと製鉄に用いる大量の石炭を揃えなくてはいけません。けれど、それを一国で賄うのは困難で、それを可能とするのは大国レベルの規模が必要です」
実際、地球で銃火器の大量配備を全部自前で行えたのは中東のオスマン帝国、インドのサルヴィー朝、中国の清王朝だけで、ヨーロッパ勢、日本は広い地域間の交易によって材料を揃えることでそれを達成した、と話すと、皆さん、海外交易については理解が深いようで、すぐ納得して貰えた。
「先ほどの砂漠に緑溢れる都市を作る、というのは銃火器が作れるくらいの大国でないとできない話と言いたいのね」
「その通りです。海水の淡水化一つにしても、安定的に淡水を大量に供給できる施設を建設しようとしたら、部品の規格化、大量生産ができるくらいの技術力がないと厳しいですから」
僕の言葉に、皆さんもそれはそうだ、と同意してくれた。
ふぅ。
◇
「では、説明を続けると南北アメリカは地峡で繋がっているものの、険地なのとジャングルに覆われているので、ここも移動困難地域相当になります。南アメリカ大陸ですけど、赤道直下は大河のアマゾン川とその流域の巨大なジャングル地帯になるので、ここもまた移動困難地帯です」
南アメリカ大陸は西岸側に、南北に連なる長大で険しい山脈地帯があり、そのせいで山脈の東側は乾燥地帯になってて貧しいという説明もした。こちらは西岸の海からきた風が、山脈西側に雨を降らせて水分を失い、山脈を超えた風はカラカラに乾燥してるから、と説明したら納得して貰えた。海と山脈と雨の関係は弧状列島内でもよく見られる気象だから、とのこと。
まぁ、弧状列島の形状はかなり日本列島に似てるから、日本海側で大雪、山を超えた乾燥した空気のせいで、太平洋岸はカラカラに乾いてる、といった具合なんだろう。ロングヒルも冬は雪が積もるからね。
「そのため、南アメリカですけど、太く広い北部はアマゾンのジャングル地帯で移動困難、南部は極度に乾燥していて貧しく、ある程度の水分が期待できる西岸にあるアンデス山脈付近でのみ、安定した農業が可能で、険しい地形ですけどアンデス山脈を版図とする広大なインカ帝国も成立できました」
補足として、北アメリカの地峡付近、メキシコの辺りはアステカ文明が成立していたし、地峡の途中にはマヤ文明が成立していたから、ある程度の規模までは発展できなくもない、という話もすると、ユカリさんが、ここもなのね、とちょっと残念そう。
「それなりに発展したといいつつ、マヤ、アステカ、インカの地域はそれぞれで発展していて、交流は乏しかったのね」
「地形が厳しかったですから。南北アメリカでは金属も装飾品を作る程度しか使われず、馬もいなかったので、文明の基本は草木と石、骨で成立してました。なので船も沿岸漁業用程度で長距離航海や大規模輸送といったところには手が届かなかったんです」
「それはこちらでは違う可能性もあるわね」
「はい。もし金属器が普及していて航海術が発達していれば、アメリカ地中海を中心とした地域間交流を期待できるでしょう。かなり怖い海ですけどね」
アメリカ地中海というのは、メキシコ湾、カリブ海を纏めた総称だ。
アステカ、マヤはアメリカ地中海沿岸で、インカはちょっと微妙だけど航海術が伸びてれば、一部を陸路で西岸に渡ればアクセス可能だ。北アメリカ中央部ミシシッピ川流域もアメリカ地中海沿岸に入れてもいいだろう。
「アキがかなり怖い、というのは余程の事ね。ぱっと見、周囲を陸地や島に囲まれていて内海っぽく見えるけれど?」
ユカリさん、程良く魅せる表情が上手いな。
っと。
「アメリカ地中海、こんな見た目ですけど、そこらの高山が水没するほど深い外海なんですよ。平時はとても美しい楽園のような海だけど、野分(台風)が強大化する条件が揃っているので、日本でも滅多にない最強レベルまで発達して沿岸地域を薙ぎ払いながら北上していくんです」
海水温は常に真夏のような27℃超、深い深度との海水の入れ換える流れもないので、海水温が下がりにくいから、野分(台風)に常に大量の水蒸気と熱が供給される。また安定した西風によって大気も渦を巻くと発達しやすい、と説明すると、ユカリさんも合点がいった、と頷いた。
「そんな海域で海運を行うなら、確かに河川や沿岸漁業用の小船では心許ないわ」
「こちらもそうとは限りませんけどね。ただ、突然、船が沈み、飛行機が行方不明になる魔の海域なんてところもあるので、探査船団でも注意した方がいいでしょう」
「魔の海域?」
「船を飲み込むような高波や落雷、海底のメタンハイドレートが気化した泡によって浮力を奪われた船が石のように海底へと落下するとか、色々言われてます。ただ、普通に交易路として使われている海域なので、海難事故多発地帯くらいに思って貰えれば」
「十分、怖いわ」
うん、まぁ、そうですね。
◇
「最期に未探査地域の残り、オーストラリア大陸と、ニュージーランドについても触れていきましょう。オーストラリアは東岸、南岸以外は荒れ地か砂漠という過酷な土地です。北にはインドネシアの島々があるんですけど、結構、海域幅が広い上に、オーストラリア北側は世界最大の珊瑚礁が広がっていて船が近付きにくく、近づいても北側は不毛の大地ということもあって、この間の交流は部族間の小さなレベルが精々でした」
インドネシア側、オーストラリア側のどちらも部族社会レベルだったので、大規模な交易に発展しなかった経緯もある。あとインドネシア側の島々は熱帯雨林地域なので、部族社会レベルから発展しなかった、とも補足した。
「熱帯雨林、幅の広い海、世界最大規模の珊瑚礁、砂漠の四段構えでは、交流は発展しようがないわね」
「そうなんです。そして、その遥か先にあるニュージーランド、島に見えるけど地質学的にはここはその殆どが海中に没しているジーランディア大陸の標高の高い部分だったりします。オーストラリアとの間の行き来は距離が離れすぎているのと途中に島もないので無理。ニュージーランドには太平洋の海流経由で北東側から上陸となりました。人類が最後に到達した最も遠い地です」
太平洋を航海カヌーで渡ったポリネシア系のマオリの民が凄過ぎる話で、他地域との密な交流は、外洋帆船の登場を待たなくてはなりませんでした、と説明すると、あまりの僻地ぶりに皆さんも実感が沸かないようだった。
「ニュージーランドは、気候は温暖、海の幸に恵まれ、自然豊かな地なんですけど、人類が到着したのが十世紀、今から千百年前程度、辿り着いたのが部族社会レベルの民でしたから、列強が接触した際には十万人程度の人口はいたんですけど、部族社会の段階のままでした。自然が豊かで人が少な過ぎるので、争わずに離れて暮らしていけて、部族社会のままで困らなかったんですね」
なので、オーストラリアもニュージーランドもそれぞれが孤立地域と強調するために円で囲ったけど、皆さんからも特に異論はなかった。
◇
最後にユーラシア大陸上の文化圏として、エウローペ、中東、インド、中国、弧状列島を囲い、それらに隣接する形で、大陸中央の広大な高地を円で覆った。
「未探査地域の概要、孤立具合を説明したので、最後に私達の住まうユーラシア大陸について紹介して一旦、休憩としましょう。見ての通り、大陸中央の内陸部は広大な高原で遊牧民族が移動しながら暮らすことでその他の地域全てとの交流を可能としてきました。また、それぞれの文化圏も隣りとの交流が可能でした。日本列島は規模的にはかなり小さいんですけど、大陸との間に交易路があって、ユーラシア大陸全体の情報を得ることができました。未探査地域はバラバラなのに、ユーラシア大陸は五つの文化圏が繋がっているという事です。これはかなり有利ですよね」
未探査地域の文化圏は孤立しているので、それぞれの中で物資も情報も文化も賄うしかない。それに対して、ユーラシア大陸側の文化圏は、他の文化圏との交易などを通じて、異なる風土で育まれた物資、情報、文化を得られるのだ。
リア姉が手をあげた。
「何事も手探りで進めていくなら、成功事例も失敗事例も多ければ多いほどいい。一つの世代ではあまり差がなくても、五倍ペースで増えていく差の積み重ねと、それらを組み合わせた技術の発展は加速度的に進んでいく訳だ」
ん。
「リア姉の言う通りで、異なる風土、文化であれば、同じ情報を得ても別の気付きを得る可能性があります。互いに影響し合いながら、時には穏便に、時には争いもして、ユーラシア勢は発展していく優位性がありました。科学は未知を切り開いていく学問ですから、試行回数の多さ、取り組む視点の多様性こそが発展を促します。それらが孤立地域ではどうしても伸びない、多様性もないから気付く可能性も少ない。これが未探査地域に列強がいないだろうという理由です」
僕達は地理的にかなり優位な位置にいたんですよ、と締め括って休憩時間に入る事にした。
皆さん、示された各文化圏の孤立具合、繋がり具合を見て色々と思うところがあったようで、場には静けさがあった。ただ、それは内に秘めた熱を抱えた熱い熟考故の静けさだった。
いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
地理学紹介スタートです。先ずはざっくりと世界に存在する文化圏とそれらの範囲に影響を与える大きな地理的特徴という観点で語ってみました。
<ニュージーランド>
ニュージーランド、こうしてみると世界の果てというくらい僻地ですよね。気候や平地の多さなど、単独の地理的な条件を眺めてみると、最高クラスと言っていい素敵な国なんですけどね。沈んでるジーランディア大陸のおかげで水深の浅い大陸棚相当の海域が続いていて海の幸も大変豊富なんですよ。
ただ、他地域との交流という意味で行くと、大航海時代以前ではどうにもなりませんでした。
そして、国土比でいくと僅かと言える人口の部族社会から駆け足で先進国に辿り着いたこともあって、現在の人口も460万人と、人より羊が多い国となって、自然との共存を一足先に成功してる国となりました。他の地域だとアメリカのインディアンも、部族社会ではあっても北米大陸全体に活動範囲を拡大していたように、普通は地域が許す限り人類は活動範囲を増やしていきます。
ところがニュージーランドだけは、自然環境はソレを許す豊かさがありながらも、少人数の大洋超え入植者達だけで高難度スタートしたこともあって、活動範囲と人口を増やす前に先進国化、衣食住満ち足りて民度も上がって、特殊出生率も先進国並みで落ち着くことになりました。
そんな訳で、辿った歴史と現在の状況はかなり面白い国です。……超僻地ですけどね。
<ヨーロッパ大きくない?>
地図的に高緯度帯なので引き延ばされて大き目になっているのと、トルコ、北アフリカ地域までヨーロッパ文化圏に入れた円で描いているのでめっちゃ大きくなってます。まぁ、中東地域は拡大したり縮小したりと変化が激しいですから、大雑把に理解するなら問題ないかな、と。
北アフリカ勢はイスラム勢力の力が強いと言いつつ、ヨーロッパとの交流も多かったという立ち位置だったことから、アラブの春で民主化ドミノ、なんて騒動も起きてボロボロになったりもしてます。独立文化圏というほど独自性がある訳でもないのが悩ましいところですね。
<遊牧民凄いね>
ユーラシア大陸だけが、陸上移動の超遠距離ハイウェイを装備できていたと言える状況だったので、遊牧民達による交易、それに伴う情報伝達、騎馬弓兵軍による暴威と、彼らが歴史に残した爪痕の広さ、強さは凄まじいモノがありました。ただ基本が遊牧民族なので羊の背に乗せて移動できる程度に荷物を纏める必要があり、そこが文化圏として伸び悩む縛りとなったってとこはありそうです。定住組は結局、それぞれの文化圏に組み込まれていきましたし。
<地理学的に見るとユーラシア大陸はチート級>
ざっくり説明してるので、実は中国とインドの間のチベットルートが開かれたのは結構後だったり高山地域なので今でも行き来が大変だとか、中東地域の国土は荒地や砂漠だらけでよく繋いでいるモノだとか、日本と中国の間ほどではないにせよ、各文化圏の間の行き来はそれなりに面倒ではあった、なんてとこは省略してます。だからこそ各文化圏が独自進化できたとも言える訳です。このグルーピングだと中東文化圏とインド文化圏の間が比較的、行き来がしやすい感じでしょうか。歴史的にみても取って取られてと繰り返してますから。
<アフリカのソンガイ帝国>
サハラ砂漠があったからこそ、ヨーロッパ勢の圧も少なく独自勢力を築けたと言えますけど、サハラ砂漠と熱帯雨林に阻まれて、規模の拡大に限界があり、何を得るにも遠かったというのが、伸び悩んだ原因でしょうね。最後に滅んだのも、困窮したサード朝モロッコがソンガイ帝国の黄金鉱山を得て一発逆転を狙ってサハラ超えで侵攻した、という流れでした。一応、相手の10倍戦力を揃えて抗戦したんですけどね。ヨーロッパ勢が何千と火打式銃を装備してたのに対して、ソンガイ帝国側は騎馬兵や歩兵で弓矢や剣が主装備だったので、どうにもなりませんでした。鉄器の量産、配備まではできていたので、南北アメリカ勢に比べればかなり頑張っていた方なんですが。
サハラ超えされた時にはもう内乱もあって、国が纏まるどころじゃなかったとか、滅びた要因は他にも色々ありました。ただ、アフリカ文化、歴史はとにかく情報が乏しいので不明なことだらけなんですよね。悩ましい話です。
<インカ帝国>
装飾品以外に金属を使わない草木、骨、石ベースの文化でありながら、巨大な勢力を築き上げたインカ帝国は、糸を用いたキープと呼ばれる仕組みで僅かな情報管理はしていたものの文字を持たず、貨幣もなく、全ての実りは一旦国に納めて、必要に応じて分配するという完成した共産主義を実現できたという意味でも異色だらけの文化圏でした。その石組みは精緻で剃刀の刃が入らないほど密に組まれていて地震があってもびくともせず、壊れたのは新しい建物ばかり、なんてのは有名ですよね。山岳地帯で発達したというのも特異な点で、各地を繋ぐ何千キロという歩道、山を削って穿ったインカ道は有名です。手摺りはないので落下が怖い作りでした。
なお、インカ帝国に組み込まれた各地の勢力への支配も緩く、帝国に属することへの反発は少なかったとされてますが、完全なる共産主義が成立したのは、あの地域が極度に貧しかったから、という理由がありました。衣食住が満たされる、なんて素晴らしい、と言う訳です。ただ、文字がないのでその文化の研究はやはり高難度なのです。スペイン人許すまじ。
<ヨーロッパ勢と鉄砲、大砲>
列強勢でみると、フランスはほぼ国内だけで資源の種類は揃えることができてたようですけど、それでも他の国々と同様、交易によって中東地域を含む広いエリアから資源を搔き集めることとで、量を満たすことになりました。何でも自前で、という真似ができる欧米勢は、超大国アメリカの出現を待たなくてはなりません。
<外洋帆船の水事情>
大航海時代の帆船は、港で詰み込んだ水もすぐ劣化して飲用に適さなくなり、水の代わりにワインを飲んでいた有様でした。おかげで雨が降れば、水を貯められる容器を甲板に並べて水を確保するといった感じだったんですよね。大変でした。
なら、動力機関が普及した時代の船舶はどうかというと、自衛隊の護衛艦ですら海水風呂が使われているくらいで、海では淡水は貴重品というのが今でも一般的です。停泊中は水道を繋いで淡水風呂を使えてるので自衛官の皆さんもそれには大喜びでしょうね。
なお、浴槽は海水ですけど、シャワーは淡水とのことなので、洗った髪が塩だらけ、という事態は避けられてます。何気に海水風呂は肌ツヤになる効能もあるんだとか。
現代の潜水艦ではシャワー設備もあります。特に原潜では電力が有り余ってるので、ロシアの戦略級原潜では25mプールまで備えてる程でした。あー、勿論、第二次大戦時頃まではシャワー設備などという贅沢装備はありませんでした。うん、なので、潜水艦乗りは独特の臭いがしました。
それと、そもそも湯舟に身を沈める入浴文化がある国というのが世界的に見るとレアだという話は忘れてはいけませんね。Bardさんの回答によると、浴槽を備えた軍艦がある国は、日本、イギリス、フランス、オーストラリアだけのようです。アメリカの軍艦なんて、サウナ、マッサージルーム、ジム、プール、スポーツコート、映画館、図書館なんぞも備えてるくらいだから、作ろうと思えば余裕で作れる筈ですけど、海兵達から入浴を求めるニーズがないんでしょう。
前置きが長くなりましたけど、街エルフの外洋帆船は当然、浴槽を設置していて入浴できます。文化的にも健康面でも心身のケアには欠かせません。海水からの淡水化設備もあるし適度な湯温にする為のエネルギーも魔力で賄ってます。アキが以前、街エルフの外洋帆船は探索者達を運ぶ客船だ、と話していたように、外洋帆船は客船、交易船、探査船、軍艦としての機能を兼ね備えてますけど、客船としての装備は殊更気合を入れてるのでした。まぁサイズ的にプールは設置できませんけどね。
<魔の海域>
アキが語ってる魔の海域はバミューダトライアングル、魔の三角地帯とされるところですが、実はアメリカ地中海の隣になるのでズレてます。ただ、その誤りに突っ込みを入れられるほど、地球の地理に詳しい人がこの場にいないので、そういうモノか、とスルーされたのでした。
さて、次パートは、他地域に比べて文化圏同士の交流が多く、他地域より伸び率がかなり高くなるユーラシア勢、その中でも何故、アキがヨーロッパ勢、こちらでのエウローペ文化圏が優位にあるのか語っていきますのでお楽しみに。
……今回、一番面倒だったのは地図作成でした。何気に配布フリーな地図で、私の欲しい情報が描かれているものって見つからず自作したものですから。有料ならポロポロ見つかったんですが。説明に十分な情報を載せて、必要のない情報はカットするというのが探した地図では無理でした。
あと、標高が高く移動を困難にする山脈群については、地図がごちゃつくので割愛しました。なくても説明に困らなかったので。
次回の投稿は、二月七日(水)二十一時五分です。