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21-21.お姉様方の策、アキの策(中編)

前回のあらすじ:やはりこうして意見を伺ってみると、僕にない視点をお持ちだったりして楽しいですね。共通点を認識し、双方の違う点について意見を交わして。うん、良いことです。(アキ視点)

さーて、では、お姉様と僕の案の違いを説明していこう。


「では、僕の案とお姉様方の案の同じ部分、違う部分を明らかにしていきますね。先ずは同じ部分。弧状列島の統一国家、以降、弧国と呼称しますけど、その今後の方針を定める上で困るのが、現状の立ち位置が不明、他国の立ち位置も不明な国々が多い、ということです。他国に知られることなく詳細調査を行える衛星探査を活用しつつ、未探査領域の調査を終える。そして海沿いからはアクセスしにくい内陸地域については、商人の繋がりを利用しつつ情報収集に務める。また、これらの行動を行う際には、竜族の生息域、分布についても把握に務める。そんなところです」


そう纏めると、ユカリさんが手をあげた。


「そうすると、私達独自の部分は、調査対象を大国に絞り、その調査を終えた時点で、他に多くの未探査領域があっても、世界の中における弧国の立ち位置を明確にするという趣旨であれば事足りる、という部分なのね」


「はい。ちょっとこちらでは名称が決まってない地域も多いのと、地球あちらと大雑把な地理的な分布は同じなので、地球(あちら)の名称ベースで行っていきますね」


世界地図と説明する地域の拡大地図を指し示しながら説明する、と補足したら皆さん納得してくれた。そもそも、日本あちらでも世界地図や地名なんて大雑把にしか頭に入ってない人が大半だろうから、妥当な判断だろう。


「では、続きを。えっと、僕が意識したのは探査船団の移動のしやすさ、探索チームの到達のしやすさといった視点でした。国の大小は夜間地図で規模もある程度推定できる、と話してた割には意識から抜けてましたね」


なので、こうして様々な視点を持つ人と意見交換する場は嬉しい、と話すと頷きながらも説明をしろ、と目線で催促された。


挿絵(By みてみん)


 ※作中ではこちらの世界地図を使っているので、地球の世界地図とはちまちま違ってます。


「では、皆さん、ここ、アフリカ大陸の南端、地球(あちら)だと喜望峰と呼ばれる地点をご覧ください。ここ、この辺りの南半球の緯度帯は地球(あちら)では「吠える40度」と呼称されている暴風と高波で荒れる海域、沈没、座礁する船も多く出た海の難所になります」


「吠える40度?」


 おや。


「えっと、同じ緯度の北半球、南半球を比べてみるとわかるんですけど、南半球だと40度の緯度帯というと南アメリカ大陸以外に遮る陸地が存在しないんですよね。だから惑星ほしの自転に合わせて生じる強い西風がずっと吹き続けていてしかも陸地で弱まることもないんです」


海上では遮るモノがないので風が強くなりやすく、山陰に入ると風が弱まるという体験は皆さんお持ちだったので、ソレの世界規模版なのだ、と一応理解して貰えた。


「今、探査船団は大陸沿いに西へ西へ、と進んで中東地域くらいまで到達してる感じなんですけど、このまま進むなら、アフリカ大陸の東岸を南下していってマダガスカル島を通過、喜望峰を経由してアフリカ西岸に到達という事になるかと思います」


アフリカ大陸の北東、今はスエズ運河がある辺りから伸びる紅海、そこから大陸の東沿いに南下していくと、日本と比較すると北海道を九州を抜いたくらいと結構なサイズのマダガスカル島と、アフリカ東岸の間にあるモザンビーク海峡を抜ければ、アフリカ最南端、南アフリカ共和国に辿り着く。


地図を見るとアフリカ大陸が大き過ぎるのでサイズ感がピンとこないけれど、モザンビーク海峡は長さ千六百キロ、日本だと青森から鹿児島までの距離がそれくらいになる。通過するだけでも一苦労な長旅だ。


あと、喜望峰の辺りでは野生のダチョウも生息してたりする。面白いね。


「そうなるでしょうね。船乗りの方々から聞いた話でも弧国から南下していった先、多くの島々がある地域はあまり大きな国はなく、東には進んでも陸地はないのだから、西に進むことになる。……あぁ、それで移動のしやすさ、という観点なのね。40度帯は西風が強く吹き続けるとなると、探査船団は、そのアフリカ大陸の西岸海域に入るには、ずっと風上に向かって帆走しなくてはいけない。結構な手間ね」


流石、ユカリさん、理解が早い。


「そうなんですよ。ジグザク航行を繰り返すタッキングをしていくか、いっそ、魔導推進で突っ切ってしまうか、そこは船団を率いる提督の腕の見せどころでしょう。そういった難所なのでアフリカに住む人々も、帆船までの時代には、大陸南端に近い海域の海は利用することがなく、そのため、逃げ込める港もありませんでした」


港がない、ということは当然、水先案内人のような詳しい人もいない、ということ。


ん、ジョウさんが手をあげた。


「そいつはなかなか厳しい話だ。これまで探査船団が向かっていた海域は、規模の差こそあれ、現地の船乗り達が海上交易に勤しんでいたから、彼らからの情報や協力、それに立ち寄れる港も確保できた。それがないのに、暴風と高波で荒れる難所付近でそういった助けが得られないというのは、我々の大型帆船と言えども楽観視はできないな」


 ほぉ。


「お詳しいですね。もしかしてファウストさん?」


「私も仕事柄、他にも親しい提督は多いんだ」


 おー。


なんて羨ましいって思ったけど、ジョウさんに話を先に進めるようう促されてしまった。お姉様方で多少なりでも海外交易や探査にアンテナを伸ばしているのはユカリさんくらいで、残り二人は仕事上の接点も少ないせいか、薄味な反応だ。


挿絵(By みてみん)


「では「吠える40度」を突破したとしましょう。この後考えられる航路は大きく二つに分かれます。このままアフリカ大陸西岸を順次回って、最期はあちらでのヨーロッパ地域、こちらでのエウローペ半島地域や、あちらでの地中海、こちらだと我らが海(メアノストルム)へと到着するルート。もう一つはそのまま、だときついので少し北上してからになりますけど大西洋を突っ切って南アメリカ大陸へと到達、そのまま南アメリカ大陸東岸、中米地域、北米大陸東岸を回っていくルートです」


僕が示したルートに、マリさんが疑問を抱いた。


「エウローペ半島地域や我らが海(メアノストルム)は、商人達を通じてだけどある程度の情報があるわ。確か地球あちらではその地域はかなり発展をしてもいるのでしょう? 優先すべきはそちらかと思ったわ。あ、我らが海(メアノストルム)で海竜が暴れていて海運が壊滅してるせいかしら。私達の船団とて、海竜との争いが待ち構えているようなとこに向かうのは避けた方がいい、と」


 ん、ちゃんと覚えていいてくれて何より。


「そうなんですよ。僕がアフリカ大陸西岸を北上していくルートを微妙と判断したのは、我らが海(メアノストルム)を回遊している海竜達の具体的な動きに関する情報が不足しているからなんです。下手すると近づくだけで、いきなり攻撃してくるかもしれない。そんな海域だとわかっていれば、余程の理由がない限り向かいたくはありません。これが理由の一つです」


「他にも理由があるのね。それは?」


「エウローペ半島地域と我らが海(メアノストルム)沿岸、以前、それら全体を領土とする大国がこちらでもあったそうですけど、地理学視点だと、実は文明が高度化する多くの条件が揃っている重要地域なんです。そこに、模倣できる完成された大型外洋帆船、それも頑丈な金属船体、魔導推進器すら備えた船団を披露するというのは、かなり、リスキーな行動と考えました」


「以前話していた、後追いする側は楽、そして安全に外洋を航海してきた見た目も美しい大型外洋帆船から、小綺麗な船員達が降りてきたなら、確かに真似ようとするでしょうね。そこに完成された成功例が示されているのだから。それで地理学視点というのは?」


 おや。


出版系に携わってるマリさんからそんな発言がでるとは以外だった。うーん、何でもできるという看板だけど、なんか色々と漏れがあるなぁ。


っと、リア姉が手をあげた。


地球あちらでも地理学は、世界中に船を送って世界儀の穴埋めが終わって、多くの国々を並べて、気候の違いや地理的要因を比較できるようになって、始めて国の成立、発展には地理的制約がかなり影響を与えているってとこが見えてきた、そこまで情報が揃わってからでないと語れない学問だった筈だよ。がっかりした顔を見せるのは、私達に期待し過ぎ」


 ふむ。


言われてみれば確かにその通り。マコト文書であれこれ書いてあっても、こちらで実用できる情報が揃ってないのに、異世界について思いを馳せて語れるのはマニア、それも重度のマニアだけか。


「失礼しました。あー、そう言えば、皆さん、延々と続く砂の海といった感じの砂漠もご覧になったことは無い感じでしたっけ?」


「草木も生えず、砂山ばかりが続く写真は取り扱ったことはあるけど、それも数える程度だね」


ミエさんの発言に、皆さんもまぁ似たりよったりといった感じと話した。


 ふむふむ。


「では、そこは結構重要なので後で説明するとして、今は船団が移動するルートについての話に戻します。今、お話したようにアフリカ大陸の西岸を北上していくルートはお勧めできません。なので、南北アメリカ大陸の東岸を辿っていく方が良いでしょう。それと、南アメリカ大陸に辿り着ければ、一応、その南端、ホーン岬を越えて南北アメリカ大陸の西岸地域を辿るルートもあるんですけど。やっぱりこちらもお勧めしません。行くとしても東岸ルートを終えてからで十分でしょう」


挿絵(By みてみん)


「あら、どうしてかしら? これだけ大きな大陸なら、東側からだけの調査では、西側は手つかずになってしまう。東西から調べても、大陸中央付近は南北どちらも残るわ?」


ユカリさんが、なのに西岸ルートを勧めない理由は何?と可愛く聞いてきた。


 ぐふっ。


僕の表情を見て、リア姉がジト目で、ほら、話続けて、と圧を掛けてきた。


「はい、それで、西岸ルートの問題点でしたね。これは地球あちらの情報ベースの判断なので、こちらで衛星探査が進んだら、別の結論になるかもしれないんですけど、南アメリカ大陸は西側に山脈が壁のようにずっと続いていて、北アメリカ大陸の方は大陸の西半分は険しい山々が連なる高山地域で人口密度も疎らで、行き来も難しいんです。中米地域は東側は多くの島々があって行き来もしやすいのでいいんですけど、西側は険しい山々が続くだけ、そして太平洋にはぽつぽつと小さな島があるだけ、ということで、実入りが少なそうなんです」


お、リア姉が手をあげた。


「確か、地球あちらだけど、南アメリカ大陸の西岸、高山地帯には広大な領土を持つ帝国が成立してたんじゃなかった?」


よく覚えてるね。偉い、偉い。


「インカ帝国だね。うん、あそこは個人的には結構好きなんだけど、逆に言えば、そこくらいなのと、南端付近で東岸からでも接触できそうかな、って気がして。あと中米の地峡辺りとかでも東岸から接触できそうでしょ」


南北に長大な国土を持っていたインカ帝国だけど、国と接触するのに帝都に向かう必然性があるかというと、そこまででもない気もする。


「まぁ、確かに東岸から調べて、その後でもいいか」


「そういうこと」


そう話して、ついでの話もしておくことにした。人工衛星に絡む話だ。


「それで、人工衛星の機能強化に絡む話もあるので軽く触れておくと、ほら、先日見せた天空竜達がいるであろう地域の色塗りをした地図、あれ、未探査地域と探査済地域、それから情報はそこそこ入ってきてる地域では、塗り方に結構違いがあったじゃないですか」


「探査済地域はかなり詳細に、情報だけの地域はそれなりに、未探査地域は大雑把だったね」


ミエさんも思い出して同意してくれた。


「それが何を意味するかというと、人工衛星からの地上観測なんですけど、平面的な探査、海岸線の把握や色合い、夜の街灯から、大まかな植生を把握することはできているけれど、高低差の把握はまだこれからって感じですよね。パノラマ写真の要領で斜めに二方向から撮影すれば立体視である程度の高度分布は確認できると思うんですけど」


実のところ、ざっくりではあるけど、一応色塗りはできていて、南北アメリカ大陸だけど、やっぱりあちらと同じで、南アメリカ大陸は西岸付近は南北に長大な山脈が横たわってるし、北アメリカ大陸のほうは中央辺りから西は山々ばかりで植生も乏しく過酷そうなのが色合いからも見て取れるから、全然情報がないって訳じゃないけどさ。


っと、リア姉が手をあげた。


「こっちにはまだコンピュータがないからね。だいたい地球あちらだって、コンピュータの性能が低かった時代には、地理の平面把握が主だった筈だよ」


 う、ちょい不満げだ。


「うん、そうだね。えっと、なので現地に足を伸ばす前に高低差を含めた地理の把握ができると、探査チームを送り出すにしても、高山向け装備を持っていくとか工夫もできて便利だね、ってとこです。あともう少し粒度が細かくなってくれると、弧状列島より何倍も長さがある大河の流れを把握することで、河川を通じた交流の範囲や量を推測できそうとかあるんですけど。それらは人工衛星の能力向上に期待ってとこです」


大陸を流れる大河だと、大型帆船でそのまま河を遡ってある程度までいけるくらい、河口付近だと対岸が見えないとかもざらだ、と話すと皆さん、衛星探査能力の向上は必要そうと納得してくれた。





「あぁ、すみません。抜けていた説明がありました。南アメリカ大陸の南端、ホーン岬を超えて西岸に向かう、と話したとこですけど、アフリカ大陸南端と同様、そこも海の難所なんですよね。それもお勧めできないポイントになります。ちなみに緯度的には「狂う50度」と呼ばれる暴風と高波が荒れ狂う海域帯です。同緯度帯を見て貰うとわかりますが、ぐるっと一周、遮る陸地が何一つありません。その分「吠える40度」よりも凶悪度が増してます」


おや、マリさんが手をあげた。


「その分だと、60度にも何か名称があるのかしら?」


「あります。「絶叫する60度」と呼ばれる魔の海域帯で更に勢いを増した暴風と壁のような高波が襲いかかってきます。しかも天候が荒れやすいオマケ付です。寒環流のせいで上昇気流が発生しやすくて、そのせいで嵐になりやすいんです」


「寒環流? それもまた惑星ほし規模の現象ね?」


「はい。地理学や気象学の範囲なので、後で纏めて話すのでいまはざっくり説明すると、南極大陸で大気が冷やされることで下降気流が発生します。すると上空の空気を埋めるために空気が周囲から集められることになるんですね。その空気が上昇して南極へと向かうのがこの60度辺りになります」


水分を含んだ大気が上昇すると上空で冷えて雨が降る、そのせいで南極に到着した大気は水気がなくてカラカラだ。なので南極点付近はもの凄く寒くて氷に閉ざされた世界だけど、世界で一番乾燥している場でもある、なんて説明をすると、皆さん、一応、理解を示してくれた。


ん、リア姉が手をあげた。


「アキ、一応、補足しておくと、研究職でもない限り、マイナス50℃とか60℃みたいな温度帯なんて馴染はないからね」


「それはそうですね。あと僕も写真や動画で南極調査隊の活動とか状況を知ってるだけで行った事もないし、そんな寒い環境を体験したこともありません。まぁ、弧状列島では体験できないような極低温の世界があると認識して貰えれば今は十分です。後で地理学を紹介する際に補足します」


「アキ、70度になるとそうした呼称は確か存在しなかったよね」


 ん。


「そこまで行くと南極大陸沿岸に入るからね。えっと、もの凄く寒いけれど風も海もだいぶ穏やかになります。その代わり分厚い氷だらけで、船が氷に閉じ込められちゃったりするので、もし70度に行くなら、海氷に船体を乗り上げて重みで割って進むとか、船体を左右に揺らして氷の束縛から脱出するといった特別な事ができる頑丈な船が必要になってくるのでご注意ください。海氷を割りながら進んだりするので外洋とはまた違った力強い推進力も必要です。風が当てにできないので帆走しにくく、その緯度までくると日差しがかなり弱々しくなるので、こちらだと魔力生成も大変になるかもしれません」


そう補足したけど、うん、誰もそんな手間を掛けて、しかも船ごと氷に閉ざされるとか、極低温の氷の世界に行きたい、って熱心な表情を浮かべる人はいなかった。


んー、横目で見たけど、お爺ちゃんも乗り気じゃないみたい。


「お爺ちゃん、一部の限られた探検家とか研究者以外、立ち寄ることの許されない極地、世界最期のフロンティアと呼ばれる南極大陸だよ!? もっとこう、自分も行ってみたいとか思わないの?」


そう振ってみたけど、やっぱり反応は鈍かった。


「儂は異世界に住む人々や自然を楽しむ気はあっても、氷漬けになる危険を冒してまで、氷の大陸を拝みたいとは思えんのぉ。誰かが撮影してきた写真なら観てみたいとは思うが、その程度じゃ」


「じゃ、ロングヒルから見える山々の四倍近く高い、やっぱり極低温と暴風、薄い空気が阻む世界最高峰とかも興味ない?」


「浮島より遥か上じゃのぉ。高いところなら竜の誰かといっしょに飛んで眺めればそれで十分じゃ。皆と違って歩いて高い山に登りたい、という気もさして無いからのぉ」


 ふむ。


っとリア姉が手をあげた。


「アキ、そもそもこちらでは、高い山々は天空竜達の縄張り。そこに登ってみたいなんて、あちらの登山家だっけ? 登る事自体に情熱を燃やすような人はこちらにはいないよ。ほら、この前、山に登って「死の大地」を眺めた事があったよね」


「うん、あった、あった」


「あの報告書だって、山の上から眺めた「死の大地」についてはあれこれ書いてあったけど、高所からの眺めが絶景だったとか、観光気分の記述なんて無かったよ」


 あー。


確かに、登山に参加した若雄竜達と話をした時も、エピソードとして一緒に登った事への苦労とか、興味を持った反応とかの話はあっても、高所からの眺めを楽しんでいた、みたいな話は無かったか。


「「死の大地」を観た事の衝撃インパクトが大きかったという以前に、山に登る時点で常に襲撃に備えて気を張り詰めてるんだから、観光気分になんてなれる訳もない、と」


「そういうこと」


最初の頃、ケイティさんに登山経験があると話した時も、熟練の探索者でないとできない難行みたいに認識されたからね。魔獣も竜もいない世界だったと気付いて、すぐに評価は底辺に戻ったけど。





 さて。



「では、意見のうち、僕の方にだけある観点をお話しますね。こちらは地理学の説明を終えて、その視点を皆さんと共有できてからのほうが理解が深まると思うので、今は軽く触れるに留めます」


「それで、アキの観点、二つの側面ということは先程までの視点とはまるで別なのよね?」


ユカリさんが期待マシマシな眼差しを向けてきた。


 くっ。


耐えるんだ、頑張れ。ほら、リア姉がまた呆れた目を向けてきてるし。


「で、では、もう一つの側面について。これは僕の研究にも絡む話ですけど、竜族や魔獣、それに信仰される神々との所縁(ゆかり)の品を手に入れて、彼らの視点、意識から世界を捉える。これが僕からの提案です。ほら、弧状列島においてもそれまで竜族は外から観察して分析していただけだったでしょう? ソレに比べると、昨年から実際に心話を行ったり、直接言葉を交わしたりすることで、竜達の内面や文化を知ることができました。そして外と内、両面からの情報が揃ったことで、僕達の竜族への理解はとても広く深くなりました。ソレと同じです」


ついでに世界樹の分布も把握しておきたい、世界樹は「世界の外」にまで根を伸ばすことで常識外の巨大さまで成長できるという点で、この世界の普通の植物とは在り方が違い大精霊と言っていい別格扱いすべき相手だから、とも補足した。


なんか、皆さんが静かなので、ついでに海竜達の回遊ルートや泳ぎ方、深度なんかを直接聞いたり、陸地の生き物をどういう意識で捉えているのか、彼ら目線での世界はどう認識されているのかなんてとこを把握できれば、この惑星ほしの広大な海も遥かに詳細に知ることができる、とも持論を展開してみた。


まだ静かなので、ついでに我らが海(メアノストルム)にいて地の種族との間で険悪になってる海竜達に話を聞くことで、どうしてそう話が拗れたのか、その歴史的な経緯とか解決策なんてのも見えてくるかもしれないとか、天空竜達は高魔力地域を縄張りにして専有しているのではなく、狭くて点在している高魔力地域に囚われているだけなのだ、と現状認識を正しく改めさせることで、地の種族と共存していくという意識を彼らと争うことなく広めてもいけるんじゃないか、とか語ってみたんだけど。


そこで、ジョウさんの手があがった。


「つまり、アキ独自の案とは、神と称される存在サイドから見た世界を識るべきだ、ということか?」


 ん。


「そういうことです。次元門研究も今いるメンバーでは行き詰るかもしれませんからね。そうなる前に、他の高位存在の方々への伝手を揃えておければ安心かな、って。……えっと、どうしました?」


ジョウさんがなんか眉間を揉みながら、答えはわかってると確信してる目線を向けながら、それでも聞いてきた。


「研究の伝手を得るのと、世界を識る事の割合はどれくらいだろうか?」


それは勿論……と即答しようとしたところで、ギリギリ踏み止まった。お姉様達以外、サポートメンバーも含めて、聞くまでもないと達観したような目線で僕を見てるけど、お姉様方はまだ普通に話を聞いてますって程度の雰囲気だ。


直感で浮かんだのは、伝手が九、世界を識ること一、って割合だけど、案外、海底に地上とは比較にならないほど強い地脈の流れがあったりするかもしれないから海竜との接触は有意義かもしれないし、雲取様の縄張りにいる世界樹さんは育ちが悪く、「死の大地」に横取りされている地脈からの魔力を欲してるくらいだから、もっとしっかり育った世界樹さんなら、より「世界の外」への理解が深いかもしれない。


「伝手七、世界を識ることが三ってとこですね」


僕としては皆さんの希望に沿うよう譲歩したつもりだったけど、お姉様方は「世界を識るのはオマケなのね」とかため息まじりに呟いてるし、ジョウさんも「考えてソレか」などと諦め顔を向けてくる始末だった。

ブックマーク、いいね、ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。


さて、今回はアキの示した二つの案のうちの一つ「①世界を二つの側面から理解して立ち位置を明確にしよう」について、お姉様方との共通点、違いに触れながら、纏めて説明した方がいい内容(地理学、気象学)は後回しということで、軽く流した説明となりました。


「何でもできる街エルフ」、この看板もだいぶ綻びが見えてきましたね(笑)


大航海時代、世界に未知が溢れていた時代、西欧の人々は北半球の自分達の知る地理(基本、ユーラシア大陸と北アフリカ)の陸地と海の割合から言って、地球全体でバランスが取れる為には、南半球にも同程度の陸地があるのだろう、なんて考えてました。


だからこそ、世界を調べ終えた時、海が七、陸が三なんて割合になったことに驚きました。


本作世界では街エルフ以外には世界儀に大陸分布図を描くなんて真似はできてない(現在知られている範囲では)ので、まだ見ぬ未知の世界に胸躍らせる冒険家達もまだまだ大勢いることでしょう。


まぁ、こちらだと竜族が我が物顔で世界を席巻してるので、地球(あちら)ほど無邪気に未知を楽しめる感覚は持てないかもしれませんが。


<アキの示した探索ルート案3種類>

既知の情報として、地球(あちら)で言うところの東南アジアは、大きな国もありますけど、支配地域も限定的であちこち部族社会が乱立している有様なので、交易相手としての旨みはあまりありません。その先、オーストラリア大陸、更にずっと先のニュージーランドは未知ですけど、アキは東南アジアでイマイチだ、と皆が興味が薄い時点でスルーしました。


スルーしてもいいか、と判断した理由は地理学説明のところでやります。


そもそも、ニュージーランドって人類が到達した最後の大陸なんですよね。あそこ、島っぽく見えるし六大大陸にも入ってないですけど、地質学的な観点だと大部分が海に沈んでいるジーランディア大陸、その標高の高い部分が飛び出てる、という場所だったりします。海底図見てみると三角形の巨大な大陸棚?というか大陸ががっつり存在してます。

人類が到達したのが九世紀とめっちゃ遅い地域ですからね。最寄りに見えるオーストラリアとですら、2000kmも距離があって途中に島もありません。昔の航海術でここを往復するのは無茶ってもんでした。


さて、ルート3案の話戻ると、実は大西洋横断ルートが帆船ベースだと微妙なんですよね。興味のある方は海洋の海流図を見てみるとわかるんですが、アフリカ南端より少し北、というと大きな潮流がない海域を突っ切る感じになります。それをするくらいなら、大航海時代の人々がしたように、赤道辺りまで北上して、ギニア海辺りから南赤道海流に乗って南米、ブラジル辺りに到着、そこから南下するブラジル海流に乗って南端を目指す、とかが妥当なのです。


残念ながら、今回の歓談の場には、というか弧状列島には、大西洋の海流を知る者がいないし、アキもミアと話した頃は覚えていても、言われたら思い出す程度の薄れた記憶なので、知る人が見れば、眉を顰めるような大西洋横断ルートを描いてます。


あと、南アフリカ、喜望峰沖の海流も実はかなり複雑なんですよ。まずアフリカ大陸東岸を南下してくる暖流のアガラス海流があります。で、アフリカ大陸西側はというと南極から北上してくる寒流のベンゲラ寒流があります。はい、御察しの良い方はピンときたかもしれませんね。

夏は暖流の勢いがパワーアップで海流は東から西へ、冬は寒流の勢いがパワーアップして西から東へ、その間はパワーが天候も相まって不安定になる、という変化の激しい海域なのです。


街エルフの大型外洋帆船は魔導推進という動力推進を持ってるからまだいいけれど、帆走Onlyだったら、悪夢のような海域、まさに海の難所でしょう。


幸い、この辺りは、地球(あちら)ベースですけど、世界の潮流の図はマコトが学校で習った時に、自慢げにミアに描いて語っていて、ちゃんとマコト文書の非公開部分に記載されています。なので、実際に未探査領域に探査船団を向かわせる前には、こうした潮流の存在や季節による流れの変化なんてのも把握してから船旅となるでしょう。


<中南米の大国について>

インカ帝国なんですけど、Wikipediaを見ると大西洋岸まで領土が伸びてないんですよね。まぁ資料によっては、普通に南太平洋やカリブ海を勢力圏にしているのもあるのと、そもそもこちらだとどんな国家が成立しているかすら不明なので、まぁこれくらい雑でも問題ないでしょう。

中米のマヤ、アステカ文明とかどうなってますかね。その辺りも地理学で語っていきます。


<ヨーロッパ地域や地中海がNGだからとアフリカ西岸もパスするのは?>

まぁ、南赤道海流を利用するなら、いずれにせよギニア海辺りまでは北上するので、その近辺で成立していたゾンガイ帝国相当の国家に挨拶していくのも悪くはない選択かもしれません。ただ、地理学的視点でアフリカ大陸を見ていくと、広さの割に分断具合が酷いんですよね。そのせいで各地域が独自に発展していくしかなく、そうなれば、発展速度は遅くなります。その辺りも地理学の説明部分で触れていきますね。


次回の投稿は、一月二十八日(日)二十一時五分です。


<補足>

南アメリカ大陸南端のホーン岬と、南極大陸の北に伸びている南極半島の間には、幅650km、世界最大幅の海峡であるドレーク海峡が存在しています。「狂う50度」の中でも海峡として狭まってる唯一の部分なので、そりゃーもう怖いとこです。最大で高さ12mの波が押し寄せたりするとか。南極半島は南極の中では一番まともな地域なので、南極観測基地がぼこぼこ立ってます。南極の中で唯一、氷雪気候ではなくツンドラ気候とのこと。まだ人が住める圏内ですね。


飛行機での遊覧ツアーとか、豪華客船でのシーニッククルーズとかもあるそうです。というか南米&南極半島のクルーズとか普通にあるんですよね。いやぁ、人類って逞しいわ。

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